嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

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17歳

825 また来てね

「マーティー。そろそろ帰るぞ」
「兄上」

 ふらっと俺の部屋に顔を出したエリックは、マーティーにそう声をかけた。それを受けて、マーティーがドアを振り返る。その無防備になった背中目掛けて、俺は手にしていた羊のぬいぐるみで殴りかかった。

「痛っ、ちょっ! なにをするんだ!」

 そんなに痛くないはずなのに、大袈裟に顔をしかめたマーティーは「やめろ」と睨んできた。ふわふわのぬいぐるみだぞ? 絶対にそんなに痛くないと思う。

「もう帰るの? マーティーは泊まっていけば? どうせ暇でしょ。夜中に肝試ししようよ!」
「暇ではない。なんだよ、肝試しって。僕も忙しいんだ」

 なぜか見栄を張ったマーティーは、腰に手をやって偉そうな態度である。

『マーティーくん、帰っちゃうのぉ? オレと遊ばない?』

 悲しそうに顔を俯けてしまう綿毛ちゃんは、ため息を吐いた。どうやらまだ遊び足りないらしい。そのすごく悲しそうな姿に、マーティーがオロオロしてしまった。

「また来るから」
『そう? じゃあいいや。ばいばい!』
「……」

 先程までの悲痛な顔はどこへやら。
 にこにこ笑顔で尻尾を振る綿毛ちゃんに、マーティーが微妙な顔になってしまった。

 綿毛ちゃんは、切り替えが早い。
 一方のマーティーは、綿毛ちゃんの切り替えについていけていない。ひとりで立ち尽くしている。

 その隙だらけの背中を、羊でペシペシしておく。

「だからなにをするんだ。やめろ」
「この羊かわいいだろ」
「本当にそう思っているのか?」

 マーティーからの問いに、俺は曖昧に笑っておく。なんだか可愛くない顔なんだよな。どうしてだろうか。ラッセルは、これが可愛いと本当に思ったのだろうか。謎だ。

「エリック、もう帰っちゃうの?」
「あぁ。少し寄っただけだからな」
「えー」

 泊まっていけばいいのにと言うが、エリックは楽しそうに笑うだけ。腕を組んで壁に背中を預けている。相変わらず見た目的には完璧な王子様なのだが、細かい動作は雑だな。

 おしゃべりする犬を気に入っているエリックは、おもむろに屈んで綿毛ちゃんの頭を撫でた。

『ふわふわでしょ?』
「あぁ」

 得意そうに言う綿毛ちゃんは『オレ、おしゃれでしょ?』とエリックにすり寄っていく。頭の花をまだ自慢したいらしい。

 羊をジャンに渡して、俺も綿毛ちゃんを撫でる。マーティーが「兄上の邪魔をするな」と苦い顔になるが、エリックは気にしていない。

「エリック、元気?」
「うん? 元気だぞ」

 急にどうしたと優しく尋ねてくるエリックに、俺は彼の顔を見上げた。

「うーん。どうもしてないけど」

 目を瞬いてから、再び綿毛ちゃんに視線を落とした。別に挨拶代わりに「元気?」と訊いただけなのだが。

 その理由を問いかけてくるあたり、実は元気じゃなかったりするのだろうか。

 そもそもなんでうちに来たのだろうか。兄様たちに相談でもあったのかな。エリック、元気ないの?

 途端に心配になった俺は、エリックの顔を見つめる。「うん?」と首を傾げるエリックは、多分俺が尋ねても詳しくは答えてくれない気がする。

 ま、兄様たちが相談に乗ったのであれば大丈夫だろう。俺が心配するようなことではないと思う。

 帰ると言うので、お見送りしようと思う。ユリスにも声をかけてみたけど面倒くさそうに断られてしまった。

 ティアンを引き連れて、部屋を出る。綿毛ちゃんも急いで追いかけてくる。

「マーティー。また遊びに来てもいいよ」
「気が向いたらな」
「別に無理して来なくてもいいよ」

 生意気な受け答えをするマーティーに、俺もちょっと意地悪な返しをしてみる。ぎゅっと眉間に皺を寄せたマーティーは「ルイスがこっちに来ればいいだろ」と言った。

 まぁたしかに。最近はあんまり王宮に行ってないな。久しぶりに遊びに行くのもいいかもしれない。

 エリックの娘であるフローラにも会ってみたいしね。

『その時はオレも一緒に行くねぇ』
「あぁ、楽しみにしてる」

 マーティーの言葉に、綿毛ちゃんが嬉しそうにへへっと笑った。
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