嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

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17歳

838 信じる

 ニックに遠慮なく掴み掛かるお姉さんは、目がすわっていた。どうやらお姉さんは、恋人ができないことに悩んでいるらしい。深刻な悩みなのだとか。

 そんな中、店にやって来たティアンに何気なく尋ねたところ、ティアンに恋人がいることが判明。それにカッとなったお姉さんは、ティアンに怒りの感情を向けたらしい。よくわからないや。

 ニックの言う通り、お酒のせいなのだろう。巻き込まれたティアンが普通に憐れだ。

「ルイス。帰るか?」

 立ち尽くす俺をみかねたのか。ユリスが控えめに問いかけてきた。俺の目的はアロンたちを探すことであった。無事、彼らを発見できたため目的は達成したと言える。けれどもすんなり帰れるような雰囲気でもない。

 俺に申し訳なさそうな顔を向けていたティアンであるが、その表情が急に険しくなった。

「あれ? なんでルイス様がここにいるんですか?」
「……なんでだろうね?」

 冷静さを取り戻したティアンが、嫌な質問をしてくる。誤魔化そうと顔を背けるが、ティアンの顔がみるみる強張っていく。

「え!? なんでここに!?」

 急に大きな声を出すティアン。どうやら完全に正気に戻ったらしい。首をすくめた俺は、とりあえずユリスの背中に隠れておく。どんな時でもブレないユリスは「僕らがいたら何か不都合でも?」と強気に立ち向かう。頑張れ、ユリス。ティアンに負けるな!

 キッと眉を吊り上げたティアンは、俺たちの背後で気配を消していたエドウィンを視界に入れて目を丸くした。

「え、なんでここに隊長殿が?」
「俺たち、ずっとエドウィンと一緒にいたから大丈夫だよ!」

 すかさず横から口を挟めば、ティアンがエドウィンを睨みつけた。これに慌てたエドウィンが「私が連れ出したわけじゃないですからね!?」と弁解を始める。

 ティアンは、俺とユリスが勝手に屋敷を抜け出してきたことに怒っている。しかし俺たちはグリシャと一緒だった。そんなに危険はなかったと思う。

 グリシャの名前が出た途端、ティアンの視線が彼へと向かった。それを笑って受け流すグリシャは強い。

「どうしてそう危ないことをするんですか」

 呆れたような、心配したような。
 そんな感情のこもった声で俺たちを見下ろすティアンに、ユリスが半眼になった。

「おまえが浮気なんてするから。心配になって様子を見に来てやったんだろ」
「だから浮気なんてしてませんよ!」

 頑なに浮気を否定するティアンは、己の額に手をやった。ため息を堪えるティアンに、俺は「ごめんね」ととりあえず謝っておく。ここでごちゃごちゃ言っても、小言が増えるだけである。

「どうして止めてくれなかったんですか?」

 グリシャへと怒りの矛先を変更したティアンであるが、肝心のグリシャは肩をすくめて「私も被害者なんですよ」の一点張りである。

 しかしグリシャの言い分は正しい。ユリスと俺が結託して、ほとんど無理矢理グリシャを引っ張ってきたのだ。あんまりグリシャを責めないであげてほしい。

「そもそもどうして外に?」
「アロンとティアンを捜してたんだよ。あとついでに綿毛ちゃんも」
「オレはついでなのぉ?」

 細かいところに文句を言ってくる綿毛ちゃんは、おもむろに俺の頭をわしゃわしゃ撫でまわしてくる。いつもは俺が綿毛ちゃんを撫でているのに。なんだか変な感じである。

 綿毛ちゃんは、人間姿になると背の高いお兄さんになるのだ。この間は、俺のことを簡単に抱っこしていた。しかし外見が成長しても、綿毛ちゃんは綿毛ちゃんである。あんまり頼りにならない。

 しばらく俺の頭を撫でていた綿毛ちゃんは、「坊ちゃん。なんか小さくなったね?」と、ふざけたことを言い始めた。俺が小さくなったんじゃなくて、綿毛ちゃんが大きくなったんだろ。

 ユリスの頭も撫でようと手を伸ばした綿毛ちゃんであったが、呆気なく払い落とされていた。「ひどいよぉ」と下手くそな泣き真似をする綿毛ちゃんは陽気であった。

 そんな俺たちを眺めていたティアンは、ぎゅっと眉間に皺を寄せる。

「すみません。急に外出したので、ご心配をおかけしてしまって」
「いや、別にいいんだけど」

 そもそも夜にティアンが何をしようが自由である。俺に謝る必要はないんだけど、結果的にティアンに罪悪感を与えるような流れになってしまった。これはよくないぞ。

「いや、えっと。ごめんね。ティアンは悪くないよ」

 慌ててそう言うけど、ティアンは申し訳なさそうな顔のまま。なんだか気まずい空気が流れてしまう。

 居心地の悪さに、思わず顔を背けたその時。退屈そうに突っ立っていたユリスが口を開いた。

「ところで、結局おまえはあの店員と浮気してたってことでいいのか?」
「だから違うって言ってるじゃないですか!」

 ティアンの悲痛な叫びに、俺はちょっと笑ってしまった。俺はティアンのこと信じるよ。
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