嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

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17歳

騎士団の日常4(sideロニー)

 仕事が終わって執務室の戸締まりをしていると、ノックもなしにドアが開け放たれた。

「副団長! ちょっとあれどうにかしてくださいよ!」
「……はい?」

 勢いよく駆け込んできたアロンさんが、廊下を指さしてから何事かを訴える。

 なにかあったのだろうかと首を傾げつつ廊下に出てみるが、なにもない。一体なにをどうしろと。困惑する私に、アロンさんが「ほら、あれ」と廊下の先にある開け放たれたドアを示した。

 あそこは物置きとして使用している空き部屋である。そこで何かがあったらしい。

「なにがあったんですか?」
「どうにかしてくださいよ、副団長」

 問いかけても、アロンさんは明確な返答をしない。それどころか揶揄うように副団長とわざとらしく繰り返している。正直に言って、嫌な予感しかしない。

 けれども無視をしたらしたで面倒なことになるのは目に見えていた。仕方がないので、さっさと済ませてしまおう。早足に物置きまで歩いて中を一瞥するが、異変はない。一体なんのつもりだとアロンさんを問い詰めようと振り返ったその時。

「えっ?」

 肩を押されて、二、三歩後ろによろけてしまう。その拍子に物置きへと踏み入れてしまった。なにをするのかと文句を言ってやろうとしたのだが、その前にドアの閉められる音が聞こえてきた。

「……え?」

 あまりの出来事に、面食らう。

 しばし立ち尽くしていたのだが、無駄だと思いつつも念の為ドアノブを回そうとしてみる。しかし鍵がかけられたらしく案の定、ノブは回らない。

 あの人、今いくつだ。
 いい歳だろうに。どうしてこんな子供じみた嫌がらせを。怒りの感情など湧いてこず、ただただ呆れる。

 ここからどうするつもりなのだろうか。
 まさか放置するつもりなのか。そこまで嫌われるようなことをしただろうか。

 一体どこまでやるつもりなのだろうと純粋な興味が湧いた。ドアの前で待ってみると、外からアロンさんの「やったけど?」という大声が聞こえてきた。どうやら他にも誰かいるらしいとわかる。

「おまえ、なにしてんの!?」

 あ、これはニックさんの声だな。
 驚いている様子からして、この件にニックさんは関わっていなかったのだろうか。慌てたような足音が聞こえてきて、直後にアロンさんの「邪魔しないで」という苦い声が続く。

「いやいや! なんでこうなるんだよ!」

 ニックさんの呆れたような大声に、アロンさんが「はぁ?」と不服な様子を見せている。

 どうやらニックさんは、アロンさんと結託しているわけではないようだ。

 じっと会話に聞き耳をたてていると、ドアの向こうでアロンさんが「今のうちに終わらせて」と言い放った。

 終わらせる? なにを?

 首を傾げていると、ニックさんが「おまえ、なんでそんな面倒なことするんだよ」と吐き捨てる。心底呆れたといった様子である。

 またなにか変なことをするつもりに違いない。思わず額を押さえる。立ち去らないニックさんに焦れたのか。唐突にアロンさんが「はやく行けよ」と苛立ったように言った。

「今のうちに仕事を片付けろ。俺はロニーが出てこないように見張っておくから」
「いや。おまえも手伝ってくれればもっと早く終わると思うんだけど」

 ……仕事?

 聞こえてきた会話に、ぽかんとしたのは一瞬で。そういえば、ニックさんに明日までに終わらせてほしい仕事をお願いしていたことを思い出した。どうやら団長を追いかけ回すのに忙しくて、まだ手をつけていないらしい。

 いや、そんなことよりも。

「ちょっと! まだ終わってないなら私も手伝いますけど!?」

 思わず叫びように提案すると、少し間を置いてからニックさんがドアを開けてくれた。

「……別にサボっていたわけではなく」
「言い訳はいいですから。まず仕事を終わらせましょう」

 腰に手をやって宣言したところ、アロンさんが「じゃあ頑張って」と爽やかな笑顔を残して立ち去ろうとする。それを引きとめて、さっさと執務室へと向かう。

 どうやら仕事が終わらないとニックさんがアロンさんに溢したらしい。そこでアロンさんが提案したのは、私を閉じ込めて時間稼ぎをし、その間に急いで仕事を片付けるという手段。

 どうしてそうなるのか。
 絶対に違うだろと文句を言いたくなるのを堪えて、黙々と仕事を片付ける。

 私を物置きに留めてどうなるというのか。しかもアロンさんまで監視役として使えば、ニックさんがひとりで片付ける羽目になる。絶対に三人でやった方が早く終わる。

 あと少しで終わると言い張るニックさんの言葉とは裏腹に、仕事はほとんど手付かずの状態であった。この人、日中なにをしていたのだろうか。まさかずっと団長を追いかけていたのか?

 思わず小言を言いたくなるのをグッと堪えてから手を動かす。今は文句を言っている場合ではない。とにかく早くしないと終わらない。

 黙々と手を動かす私の背後で、アロンさんが「俺、帰っていい?」とダラダラ不満を垂らしている。それを「手伝えよ」と宥めるニックさんは、先程からほとんど手が動いていない。

 そうしてたいして役に立たないふたりと共に、ようやく終わらせることができた。なんでこんな苦労をしなければいけないのか。

 疲れに眉間を揉む私の肩をポンと叩いたアロンさんが「今からロニーの奢りで飲み行こう」と軽い調子で提案した。

 なんでこんな余計な苦労をした上に、奢らなければいけないのか。

「もう寝ます。明日も早いので」
「そう? 君も大変だね」

 この大変な状況を作り出すのに加担したアロンさんが、へらへら笑いながら言う。

「俺は明日休みだから」
「そうですか」
「じゃあ俺とニックで飲み行くから財布貸して」
「おやすみなさい」

 にこりと無理矢理に笑みを浮かべて、早足に退出する。すっかり暗くなってしまった窓の外を眺めながら自室に向かうその途中。

「……いや、休みじゃないですよね!?」

 慌てて執務室へ戻ると、まだ居座っていたアロンさんが「あ、バレた?」と口角を持ち上げる。

「どさくさに紛れて休みもぎ取ろうと思ったのに」
「やめてもらえませんか?」
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