嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

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17歳

840 脱走したわけでは

「おまえ! 一体どこに行ってた!」
「……」

 屋敷に戻ると、なぜかブルース兄様が待ち構えていた。玄関先で仁王立ちする兄様は、眉間に皺を寄せている。いつにも増して怖い顔だった。

 どうやら俺とユリスが屋敷を抜け出したことに気がついたらしい。いや、騒ぎになっていないところからすると、俺たちの帰宅にたまたま気がついたという感じなのだろうか。

 どちらにせよ、今帰ってきましたと言わんばかりの俺たちである。どこにも行っていないよ、という嘘は通用しないように思えた。

「嫌な予感がして見にきてみれば。なんでこんな時間に外へ行く。屋敷を脱走するのはやめろ」

 いや別に脱走したわけでは。
 ブルース兄様は俺とユリスをなんだと思っているのだろうか。

 そういえば、俺たちは屋敷を出る前ブルース兄様の部屋を訪れていた。そこで「ティアンがいない。どこに行ったのか知らない?」と尋ねたのである。俺たちがわざわざそんなことを訊きにきたことに、兄様は違和感を覚えたらしい。しばらくしてから、どうも嫌な予感がして俺たちの部屋を覗いてみたのだとか。

 当然そこに俺とユリスはいない。慌てた兄様は、とりあえず屋敷内を探そうと玄関にやってきて、そこで俺たちと鉢合わせたというわけだ。

 なんというタイミングの悪さ。もう少し早く帰宅していればバレずに済んだというのに。

 首をすくめる俺の横で、ユリスは欠伸をした。ブルース兄様のことなんてまったく気にしていないその態度に、俺は素直に感心した。ここはユリスに任せよう。そう思ってユリスの腕を掴むと、ユリスが器用に片眉を持ち上げてみせた。

 けれども俺の意図を察したらしいユリスは、怠そうな面持ちでブルース兄様と向き合った。

「別にどこだっていいだろ」
「いいわけないだろ。今何時だと思っているんだ」
「生憎、僕にはこまめに時間を確認するような癖はない」
「そういう話をしているわけじゃない」

 ブルース兄様の説教に、とぼけた返答をするユリス。兄様の眉間の皺がますます深くなってしまった。

 見かねたらしいティアンが「申し訳ありません」と前に出た。こういう時、迷いなく前に出てきてくれるティアンはすごい。ティアンよりも先輩であるはずのアロンたちは知らんふりを貫いている。

「僕がルイス様に余計な心配をかけてしまったので」
「ティアンは悪くないよ!」

 なぜか全責任を負う勢いのティアンを慌てて制止する。ティアンは単に仕事終わりに外出しただけだ。なにも悪くない。悪いのは、勝手にティアンを探した俺たちである。

 でもブルース兄様の顔が怖い。寝起きだからか。いつにも増して怖い。もしや兄様も眠くて不機嫌なのかもしれない。

 険しい表情の兄様を前にして、俺が全部悪いんだと言える度胸はなかった。なので俺は、先程から俺の周りをちょろちょろ駆け回っていた毛玉を指さした。

「全部綿毛ちゃんが悪いんだよ!」
『なんでぇ?』

 疲れたという理由で、道中犬姿に戻っていた綿毛ちゃんである。もふもふの毛玉は、目をぱちぱちさせてから『え、オレのせいぃ? なんでぇ』と不満そうに短い前足をペシペシしている。

『オレは悪くないもんね! 可愛い毛玉だもんね』

 今、可愛いかどうかは関係ないだろう。
 綿毛ちゃんを捕まえて、ぎゅっと抱きしめておく。

 呆れたように額を押さえた兄様は「どうしてそうなる」と息を吐いた。

「あとなんでエドウィンも一緒なんだ」

 ちらっと一番後ろにいたエドウィンに視線をやったブルース兄様。それを受けて、エドウィンが大袈裟に姿勢を正した。

「たまたま街でお会いしまして」

 短く簡潔に状況を説明したエドウィンに、兄様が「頭痛い」とこぼした。どうやら俺とユリスの愚行に呆れているらしい。

「兄様。でも俺たちずっとグリシャと一緒だったから大丈夫だよ。それとエドウィンは彼女に振られたばっかりだから。そっとしておいてあげて」

 俺の発言に、エドウィンが「うわっ!」と焦ったような声を上げた。それを横目で見ていたティアンが「ルイス様! そういう余計なことは言わなくていいんですよ」と俺の肩に手を置いてきた。

 たしかに。ちょっと余計な情報だったかもしれない。エドウィンが振られた事実がブルース兄様に伝わってしまった。

「ごめんね、兄様。勝手に出かけて」
「まったく」

 仕方がないと言わんばかりの態度でため息を吐く兄様は、俺とユリスのことを心配してくれたのだ。心配かけてしまって、本当に悪いことをした。

 もう一度ごめんなさいと謝ると、兄様が俺の頭を撫でてきた。次いでユリスの頭も撫でようとするが、こちらは素早く避けられてしまった。

「あまり無茶なことはするな」
「うん。わかった」

 ブルース兄様に言われて、俺はもう兄様に心配かけるわけにはいかないと何度も頷いた。
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