842 / 964
17歳
843 どっか行ってて
ユリスに直接注意をする度胸のない気弱なオーガス兄様は、言いたいことだけ言うと「じゃあ僕は忙しいから」と帰ってしまった。
どうにもユリスのことが苦手で仕方がないらしい。あんなお子様のどこが怖いのだろうか。たしかに最近ブルース兄様に似て眉間に皺が寄りがちだけどさ。中身は単なるお子様である。そんなに怖がる必要はない。
まぁ、オーガス兄様のことはどうでもいい。
ティアンが戻ってきたら一緒にお菓子を食べる予定である。やはりグリシャが持っていたらしい。ティアンが無事に回収してきてくれた。
「俺はティアンとおやつ食べるから」
『わーい! おやつ!』
「綿毛ちゃんはどこかに行ってて!」
『え……!? そんなぁ。どうしてそんな酷いことを』
しゅんと肩を落とす綿毛ちゃんは、その場に伏せてしまう。意地でも動いてやるものかという揺るぎない決意を感じさせた。けれども今日の俺はティアンと楽しくお茶したい気分なのだ。ティアンとも約束したし。そこに空気の読めない毛玉がいたら普通に邪魔だろう。
抵抗する綿毛ちゃんを抱えて、ドアを開ける。ジタバタと地味に暴れる毛玉は『誰かぁ、助けてぇ』とか細い悲鳴をあげている。そんなことしても誰も助けになんて来ないけどね。
『エリスちゃんもいるけど!? オレもよくない?』
「エリスちゃんは猫だからいいの。俺、猫派だから」
『そんなの認められないよぉ。横暴だよぉ。オレだって考え方によっては猫だもん』
「そんなわけないだろ」
突然にゃーにゃーと下手くそな猫の鳴き真似をする綿毛ちゃんには、犬としてのプライドなんて微塵もなかった。
どうにか綿毛ちゃんを廊下に押しやって、「どっか行ってて!」と廊下の先を指さしておく。
『行くところないもん。オレ、友達いないから』
「じゃあユリスの部屋にいて。ついでにオーガス兄様が言ってたことユリスにも伝えておいて」
『嫌だよぉ。オレもおやつ食べたいもーん』
我儘な綿毛ちゃんは、ジタバタ暴れ始める。
そんな風に騒いでいると、窓際で静かにお昼寝していたはずのエリスちゃんが「にゃあ」と鳴いた。
いつの間にか近くに寄ってきていたエリスちゃんは、綿毛ちゃんの前に立った。それを見た綿毛ちゃんが『エリスちゃん! まさかオレを助けにきてくれたの?』とひとりで感動している。
エリスちゃんが綿毛ちゃんを助けるなんて、ちょっと考えられない。
戸惑う俺がエリスちゃんを見守っていると、『ありがとう』と呑気にお礼を言った綿毛ちゃんの頭に猫パンチが炸裂した。
思わず笑っちゃう俺。対する綿毛ちゃんは『ひどい裏切りだぁ』と顔をむぎゅっとさせた。
どうやらエリスちゃん、綿毛ちゃんのことをうるさいと思っていたらしい。エリスちゃんは、やっぱりしゃべる毛玉のことが気に食わないのかもしれない。
ふんっと満足そうに鼻を鳴らしたエリスちゃんは、スタスタと定位置である窓際に戻って行った。日当たりが良くてお昼寝に最高の場所らしい。
綿毛ちゃんが困惑しているうちに、俺は素早くドアを閉めた。綿毛ちゃんが廊下で『ひどいよ』と騒いでいる。
それを無視してティアンのことを待っていると、ドアが開いた。もうティアンが戻ってきたのかと振り返ると、そこには人間姿になった綿毛ちゃんがいた。毛玉め。犬姿だとドアノブに手が届かないから、わざわざ人間に化けたらしい。どんだけおやつが食べたいのだ。食い意地張りすぎじゃないか?
若干引き気味の俺を前にして、綿毛ちゃんは偉そうに腕を組んだ。
「オレはそう簡単に諦めないもんね」
「毛玉のくせにしつこいぞ」
「毛玉じゃありません。今のオレはかっこいいお兄さんです」
「自分でかっこいいとか言うな」
背の高い綿毛ちゃんは、得意な顔で俺を見下ろしてくる。なんか腹立つ。
どうにか部屋から追い出してやろうと、綿毛ちゃんの背中をぐいぐい押す。しかし「そんなんじゃオレは追い出せません」と強気な綿毛ちゃんは、ニマニマしている。毛玉のくせに。
「犬に戻って!」
「嫌でーす」
我儘を貫き通そうとする綿毛ちゃんはタチが悪い。
普段は俺に勝てないくせに。ちょっと背が高いからって調子に乗るんじゃない。助けを求めてエリスちゃんを見るが、あんまり興味はなさそうだ。人間姿の綿毛ちゃんはどうでもいいらしい。
そうこうしているうちに、ティアンが戻ってきた。人間姿の綿毛ちゃんを見て不思議そうにしている。綿毛ちゃんは滅多に人間姿にならないからね。
「ティアン! 綿毛ちゃん追い出すの手伝って」
急いで追い出すんだと指示する俺に、ティアンが困惑している。突然そんなこと言われても、普通に困るよね。でも俺は真剣である。ティアンとのお茶会を綿毛ちゃんに邪魔されるわけにはいかない。
こんなことなら犬姿の方が存在感薄くてマシだった。考えた俺は、妥協することにした。
「犬に戻ったら、いてもいいよ」
「ほんと?」
パッと目を輝かせた綿毛ちゃんが素早く犬姿に戻った。そのまま『わーい! わーい!』と部屋を駆け回る綿毛ちゃんは正直鬱陶しいと思う。
どうにもユリスのことが苦手で仕方がないらしい。あんなお子様のどこが怖いのだろうか。たしかに最近ブルース兄様に似て眉間に皺が寄りがちだけどさ。中身は単なるお子様である。そんなに怖がる必要はない。
まぁ、オーガス兄様のことはどうでもいい。
ティアンが戻ってきたら一緒にお菓子を食べる予定である。やはりグリシャが持っていたらしい。ティアンが無事に回収してきてくれた。
「俺はティアンとおやつ食べるから」
『わーい! おやつ!』
「綿毛ちゃんはどこかに行ってて!」
『え……!? そんなぁ。どうしてそんな酷いことを』
しゅんと肩を落とす綿毛ちゃんは、その場に伏せてしまう。意地でも動いてやるものかという揺るぎない決意を感じさせた。けれども今日の俺はティアンと楽しくお茶したい気分なのだ。ティアンとも約束したし。そこに空気の読めない毛玉がいたら普通に邪魔だろう。
抵抗する綿毛ちゃんを抱えて、ドアを開ける。ジタバタと地味に暴れる毛玉は『誰かぁ、助けてぇ』とか細い悲鳴をあげている。そんなことしても誰も助けになんて来ないけどね。
『エリスちゃんもいるけど!? オレもよくない?』
「エリスちゃんは猫だからいいの。俺、猫派だから」
『そんなの認められないよぉ。横暴だよぉ。オレだって考え方によっては猫だもん』
「そんなわけないだろ」
突然にゃーにゃーと下手くそな猫の鳴き真似をする綿毛ちゃんには、犬としてのプライドなんて微塵もなかった。
どうにか綿毛ちゃんを廊下に押しやって、「どっか行ってて!」と廊下の先を指さしておく。
『行くところないもん。オレ、友達いないから』
「じゃあユリスの部屋にいて。ついでにオーガス兄様が言ってたことユリスにも伝えておいて」
『嫌だよぉ。オレもおやつ食べたいもーん』
我儘な綿毛ちゃんは、ジタバタ暴れ始める。
そんな風に騒いでいると、窓際で静かにお昼寝していたはずのエリスちゃんが「にゃあ」と鳴いた。
いつの間にか近くに寄ってきていたエリスちゃんは、綿毛ちゃんの前に立った。それを見た綿毛ちゃんが『エリスちゃん! まさかオレを助けにきてくれたの?』とひとりで感動している。
エリスちゃんが綿毛ちゃんを助けるなんて、ちょっと考えられない。
戸惑う俺がエリスちゃんを見守っていると、『ありがとう』と呑気にお礼を言った綿毛ちゃんの頭に猫パンチが炸裂した。
思わず笑っちゃう俺。対する綿毛ちゃんは『ひどい裏切りだぁ』と顔をむぎゅっとさせた。
どうやらエリスちゃん、綿毛ちゃんのことをうるさいと思っていたらしい。エリスちゃんは、やっぱりしゃべる毛玉のことが気に食わないのかもしれない。
ふんっと満足そうに鼻を鳴らしたエリスちゃんは、スタスタと定位置である窓際に戻って行った。日当たりが良くてお昼寝に最高の場所らしい。
綿毛ちゃんが困惑しているうちに、俺は素早くドアを閉めた。綿毛ちゃんが廊下で『ひどいよ』と騒いでいる。
それを無視してティアンのことを待っていると、ドアが開いた。もうティアンが戻ってきたのかと振り返ると、そこには人間姿になった綿毛ちゃんがいた。毛玉め。犬姿だとドアノブに手が届かないから、わざわざ人間に化けたらしい。どんだけおやつが食べたいのだ。食い意地張りすぎじゃないか?
若干引き気味の俺を前にして、綿毛ちゃんは偉そうに腕を組んだ。
「オレはそう簡単に諦めないもんね」
「毛玉のくせにしつこいぞ」
「毛玉じゃありません。今のオレはかっこいいお兄さんです」
「自分でかっこいいとか言うな」
背の高い綿毛ちゃんは、得意な顔で俺を見下ろしてくる。なんか腹立つ。
どうにか部屋から追い出してやろうと、綿毛ちゃんの背中をぐいぐい押す。しかし「そんなんじゃオレは追い出せません」と強気な綿毛ちゃんは、ニマニマしている。毛玉のくせに。
「犬に戻って!」
「嫌でーす」
我儘を貫き通そうとする綿毛ちゃんはタチが悪い。
普段は俺に勝てないくせに。ちょっと背が高いからって調子に乗るんじゃない。助けを求めてエリスちゃんを見るが、あんまり興味はなさそうだ。人間姿の綿毛ちゃんはどうでもいいらしい。
そうこうしているうちに、ティアンが戻ってきた。人間姿の綿毛ちゃんを見て不思議そうにしている。綿毛ちゃんは滅多に人間姿にならないからね。
「ティアン! 綿毛ちゃん追い出すの手伝って」
急いで追い出すんだと指示する俺に、ティアンが困惑している。突然そんなこと言われても、普通に困るよね。でも俺は真剣である。ティアンとのお茶会を綿毛ちゃんに邪魔されるわけにはいかない。
こんなことなら犬姿の方が存在感薄くてマシだった。考えた俺は、妥協することにした。
「犬に戻ったら、いてもいいよ」
「ほんと?」
パッと目を輝かせた綿毛ちゃんが素早く犬姿に戻った。そのまま『わーい! わーい!』と部屋を駆け回る綿毛ちゃんは正直鬱陶しいと思う。
あなたにおすすめの小説
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
妖精です、囲われてます
うあゆ
BL
僕は妖精
森で気ままに暮らしていました。
ふと気づいたら人間に囲まれてました。
でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。
__________
妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精
なんやかんやお互い幸せに暮らします。
【完結】第三王子、ただいま輸送中。理由は多分、大臣です
ナポ
BL
ラクス王子、目覚めたら馬車の中。
理由は不明、手紙一通とパン一個。
どうやら「王宮の空気を乱したため、左遷」だそうです。
そんな理由でいいのか!?
でもなぜか辺境での暮らしが思いのほか快適!
自由だし、食事は美味しいし、うるさい兄たちもいない!
……と思いきや、襲撃事件に巻き込まれたり、何かの教祖にされたり、ドタバタと騒がしい!!
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された
楽矢
BL
【完結/番外編準備中】
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。
何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。
記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。
----------
※注)
かっこいい攻はいません。
タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意!
貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。
ハッピーエンドです。
激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします!
全16話 完結済み
他サイトにも同作品を投稿しています。
様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。
初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!
----------
追記:読んでくださった皆さま、本当にどうもありがとうございました!!
完結しましたが回収しきれていないエピソードが私の中でいくつかあるので笑、後日番外編をアップしたいなと現在準備中です。
詳しい更新日まだ未定ですが、もしよろしかったらゼヒまた覗いてやってくださいねー!