嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

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17歳

843 どっか行ってて

 ユリスに直接注意をする度胸のない気弱なオーガス兄様は、言いたいことだけ言うと「じゃあ僕は忙しいから」と帰ってしまった。

 どうにもユリスのことが苦手で仕方がないらしい。あんなお子様のどこが怖いのだろうか。たしかに最近ブルース兄様に似て眉間に皺が寄りがちだけどさ。中身は単なるお子様である。そんなに怖がる必要はない。

 まぁ、オーガス兄様のことはどうでもいい。

 ティアンが戻ってきたら一緒にお菓子を食べる予定である。やはりグリシャが持っていたらしい。ティアンが無事に回収してきてくれた。

「俺はティアンとおやつ食べるから」
『わーい! おやつ!』
「綿毛ちゃんはどこかに行ってて!」
『え……!? そんなぁ。どうしてそんな酷いことを』

 しゅんと肩を落とす綿毛ちゃんは、その場に伏せてしまう。意地でも動いてやるものかという揺るぎない決意を感じさせた。けれども今日の俺はティアンと楽しくお茶したい気分なのだ。ティアンとも約束したし。そこに空気の読めない毛玉がいたら普通に邪魔だろう。

 抵抗する綿毛ちゃんを抱えて、ドアを開ける。ジタバタと地味に暴れる毛玉は『誰かぁ、助けてぇ』とか細い悲鳴をあげている。そんなことしても誰も助けになんて来ないけどね。

『エリスちゃんもいるけど!? オレもよくない?』
「エリスちゃんは猫だからいいの。俺、猫派だから」
『そんなの認められないよぉ。横暴だよぉ。オレだって考え方によっては猫だもん』
「そんなわけないだろ」

 突然にゃーにゃーと下手くそな猫の鳴き真似をする綿毛ちゃんには、犬としてのプライドなんて微塵もなかった。

 どうにか綿毛ちゃんを廊下に押しやって、「どっか行ってて!」と廊下の先を指さしておく。

『行くところないもん。オレ、友達いないから』
「じゃあユリスの部屋にいて。ついでにオーガス兄様が言ってたことユリスにも伝えておいて」
『嫌だよぉ。オレもおやつ食べたいもーん』

 我儘な綿毛ちゃんは、ジタバタ暴れ始める。
 そんな風に騒いでいると、窓際で静かにお昼寝していたはずのエリスちゃんが「にゃあ」と鳴いた。

 いつの間にか近くに寄ってきていたエリスちゃんは、綿毛ちゃんの前に立った。それを見た綿毛ちゃんが『エリスちゃん! まさかオレを助けにきてくれたの?』とひとりで感動している。

 エリスちゃんが綿毛ちゃんを助けるなんて、ちょっと考えられない。

 戸惑う俺がエリスちゃんを見守っていると、『ありがとう』と呑気にお礼を言った綿毛ちゃんの頭に猫パンチが炸裂した。

 思わず笑っちゃう俺。対する綿毛ちゃんは『ひどい裏切りだぁ』と顔をむぎゅっとさせた。

 どうやらエリスちゃん、綿毛ちゃんのことをうるさいと思っていたらしい。エリスちゃんは、やっぱりしゃべる毛玉のことが気に食わないのかもしれない。

 ふんっと満足そうに鼻を鳴らしたエリスちゃんは、スタスタと定位置である窓際に戻って行った。日当たりが良くてお昼寝に最高の場所らしい。

 綿毛ちゃんが困惑しているうちに、俺は素早くドアを閉めた。綿毛ちゃんが廊下で『ひどいよ』と騒いでいる。

 それを無視してティアンのことを待っていると、ドアが開いた。もうティアンが戻ってきたのかと振り返ると、そこには人間姿になった綿毛ちゃんがいた。毛玉め。犬姿だとドアノブに手が届かないから、わざわざ人間に化けたらしい。どんだけおやつが食べたいのだ。食い意地張りすぎじゃないか?

 若干引き気味の俺を前にして、綿毛ちゃんは偉そうに腕を組んだ。

「オレはそう簡単に諦めないもんね」
「毛玉のくせにしつこいぞ」
「毛玉じゃありません。今のオレはかっこいいお兄さんです」
「自分でかっこいいとか言うな」

 背の高い綿毛ちゃんは、得意な顔で俺を見下ろしてくる。なんか腹立つ。

 どうにか部屋から追い出してやろうと、綿毛ちゃんの背中をぐいぐい押す。しかし「そんなんじゃオレは追い出せません」と強気な綿毛ちゃんは、ニマニマしている。毛玉のくせに。

「犬に戻って!」
「嫌でーす」

 我儘を貫き通そうとする綿毛ちゃんはタチが悪い。
 普段は俺に勝てないくせに。ちょっと背が高いからって調子に乗るんじゃない。助けを求めてエリスちゃんを見るが、あんまり興味はなさそうだ。人間姿の綿毛ちゃんはどうでもいいらしい。

 そうこうしているうちに、ティアンが戻ってきた。人間姿の綿毛ちゃんを見て不思議そうにしている。綿毛ちゃんは滅多に人間姿にならないからね。

「ティアン! 綿毛ちゃん追い出すの手伝って」

 急いで追い出すんだと指示する俺に、ティアンが困惑している。突然そんなこと言われても、普通に困るよね。でも俺は真剣である。ティアンとのお茶会を綿毛ちゃんに邪魔されるわけにはいかない。

 こんなことなら犬姿の方が存在感薄くてマシだった。考えた俺は、妥協することにした。

「犬に戻ったら、いてもいいよ」
「ほんと?」

 パッと目を輝かせた綿毛ちゃんが素早く犬姿に戻った。そのまま『わーい! わーい!』と部屋を駆け回る綿毛ちゃんは正直鬱陶しいと思う。
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