嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

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17歳

846 お手伝い

 意味もなく綿毛ちゃんと共に散歩を続けていると、ブルース兄様を見かけた。どうやら騎士棟から屋敷に戻るところだったらしく、早足にこちらへと歩いてくる。兄様も俺に気がついたらしく、こちらに視線を向けてきた。

「仕事?」

 こちらから先に声をかけると、片手に書類らしき物を抱えていたブルース兄様が眉を寄せて肯定する。

「ルイスこそ。こんなところで何をしているんだ」
「綿毛ちゃんと散歩してるんだよ。いい天気だから」
『そうなの。散歩中なの』

 ブルースくんもどう? と果敢にお誘いする綿毛ちゃんだが、ブルース兄様にはあっさりと断られてしまった。だろうね。今のブルース兄様はどう見ても忙しそうであった。呑気に散歩している暇なんてないのだろう。

 なんとなくブルース兄様の後を追う。ちらりと振り返った兄様は怪訝そうな顔になったけどダメとは言わなかった。

「おい、ルイス。もう変なことはするなよ」
「しないよ」

 急に小言をもらすブルース兄様は、俺が勝手に屋敷を抜け出した件をまだ根に持っている。あの時はユリスに言われるがままに俺も軽率な行動をしてしまったと思っている。そんなに心配しなくても、もうやらないから大丈夫だ。

 しかし心配症の兄様である。「本当にわかっているのか?」と疑いの目を向けてくる。それを肩をすくめて聞き流しておいた。

「それよりさ。兄様は毎日なにしてるの?」
「なにって仕事だが」

 なにを当たり前のことを、と訝しむ兄様の前に回り込む。

「俺も手伝おうか!?」
「は?」

 忙しそうな兄様の力になりたいと思う。前のめりに提案してみるが、ブルース兄様は驚愕したように足を止めた。

 ジロジロと俺を眺めるブルース兄様は、「いや。なんで急にそんなこと」と呟いた。別に急ではない。俺はずっと兄様たちのお手伝いがしたいと考えていた。これまでにも何度か提案したけど、兄様たちが突っぱねてきたんじゃないか。

 腰に手を当てて兄様と向かい合う俺。俺と兄様の間で、綿毛ちゃんが忙しなく俺たちの顔を見比べている。

『じゃあオレもお手伝いしようかなぁ』
「綿毛ちゃんは役に立たないからダメ」

 犬のくせに何を言っているのか。生意気な毛玉を睨むと、すぐに綿毛ちゃんが『役に立つもん』と不満そうな顔になった。

「気持ちはありがたいが。ルイスもやりたいことがあるんじゃないのか? 教師になりたいと言っていなかったか」

 心配そうに尋ねてくる兄様は「もう諦めたのか?」と変な質問をしてきた。なんでそうなるのか。俺がすぐに諦めるような人間に見えるのか? 失礼だろ。

「諦めてないから。明日もジェフリーのところに行くし」
「だったらそっちに集中しろ。俺の手伝いなんてしている場合か」
「えー」

 不満な声を出す俺に、ブルース兄様が呆れたように笑ってみせた。

「それにルイスが手伝うようなことはない。アロンが真面目に仕事をすれば済む話だ」

 それはそれで難しくないか?
 もはやサボりすぎて日中なにしているのか不明のアロンである。兄様はアロンのせいで苦労している。

 どう見ても俺を気遣うような兄様に、俺は頬を緩める。

「じゃあ勉強頑張ろうかなぁ」
「今まで頑張ってなかったのか?」
「頑張ってたから!」

 揚げ足を取るような兄様の発言に、慌てて抗議しておく。ふっと笑ったブルース兄様は「そうか。頑張れよ」と俺の頭を軽く叩いてくる。

「……綿毛ちゃんも頑張れよ」

 照れくさくて、足元にいた綿毛ちゃんをなんとなく励ましておく。『えぇー?』と困ったような声をあげる綿毛ちゃんは『なにを頑張ろうかな』と悩み始めてしまった。

 屋敷に引っ込んでいくブルース兄様を見送って、俺はそっと拳を握る。

「よし。頑張るぞ、綿毛ちゃん!」
『頑張るぞぉ! なにを?』

 目を瞬く綿毛ちゃんは、困ったようにうろうろしている。

「綿毛ちゃんは、頑張ってもう少し大きくなって」
『それは無理かもしれない』

 途端に情けない顔になってしまった綿毛ちゃん。
 なんでだよ。もっと大きいもふもふになるんだ。頑張ればできると思う。
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