嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

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17歳

848 聞かなくてもわかるけど

「やっぱり魚ほしい。綿毛ちゃんもほしいって言ってた」
「言ってませんよ」

 眉を寄せたティアンは、腕まくりする俺をなんとも言えない目で見ている。ジェフリーも俺を止めるべく控えめに腕を掴んできた。

 そんなに必死になって止めなくても。
 授業終わり。今日はカル先生も急いで帰る必要がないので、のんびりできる。

 ジェフリーに誘われるまま庭に出た俺たちは、早速池に向かっていた。カル先生は部屋で休憩しておくと言うので、代わりにティアンを連れてきた。

 素手で魚を捕まえてみようと意気込む俺に、ティアンとジェフリーは心配そうな目を注いでくるのだ。うまくやるから大丈夫。

「ジェフリーもおいでよ」
「え」

 手招きすると、ジェフリーが固まってしまった。仕方がないので、ひとりで準備を進める。
 靴を脱ごうとする俺のことを、ティアンが邪魔してくる。「ダメですよ」と小声で叱りつけてくるティアンは、俺の袖を元に戻してしまう。なにをするんだ。

「捕まえても持って帰れません」
「そこはティアンが頑張って」
「頑張っても無理なものは無理です」

 俺の要求を突っぱねるティアンは、頑なである。邪魔をされて不満な俺は、ティアンのことをちょっと押してやった。けれどもビクともしないティアン。なんだかムキになった俺は、足を踏ん張ってティアンのことを押してやる。両手で頑張ってティアンを押す俺に、ティアンが「やめてくださいよ」と困った顔で言う。ティアンが一歩後ろに下がったところで、俺は満足した。

「俺の勝ちだね」

 仁王立ちする俺に、ティアンが「はいはい」と笑いながら応じた。

 その様子を見ていたジェフリーが、「ルイス様!」とちょっと彼にしては大きな声を出しながら俺とティアンの間に割り込んできた。

 すかさず俺から距離をとったティアン。ジェフリーは、なんだか泣きそうな顔で俺の腕を握ってきた。

「僕もティアンさんに勝ちます!」
「なんで?」

 急な宣言に、俺は面食らう。今のは勝負というほどのものでもない。
 しかし勝負を宣言されたティアンは、緩く笑っているだけであまり動じない。そこはちょっとくらい動じてやれよ。ジェフリーが可哀想だ。

「ジェフリー。ティアンに勝つ必要なんてないよ」
「いえ。勝ちます」

 どうして。
 そもそも何の勝負をするつもりなんだ。というか、以前もジェフリーはティアンに勝ちたいと言っていた。その話は一度終わったはずでは? 終わってなかったんだっけ?

 首を捻る俺をよそに、ジェフリーはティアンのことを睨みつけている。でもなんか弱そう。頑張れ、ジェフリー。

 ジェフリーは、よくわからないけどティアンのことをライバル視している。いつかティアンに勝つつもりでいるらしい。本当に頑張れとしか言えない。

 さりげなく俺を池から引き離したティアンであったが、それを振り切った俺は再び池に走る。

「じゃあ魚に餌をやろう」

 勝負云々の物騒な話を終わらせてやろうという気遣いである。見事に流されてくれたジェフリーは、「持ってきます」と屋敷に走って行ってしまった。どこに餌を保管しているのだろうか。追いかけようか迷った俺だが、やめておく。

 池を無言で覗き込んでみる。
 優雅に泳ぐ魚は、結構大きいと思う。ジェフリーが毎日餌をあげているからだろう。

「ルイス様。落ちないでくださいね」
「俺のことなんだと思ってんの?」

 そこまでドジではないぞ。

「見て、あの魚。大きいよ」
「本当ですね」

 泳いでいた魚の一匹を指さすと、ティアンも同意してくれた。そのままふたりで覗き込む。

「今なら捕まえられるかもしれない」
「無理ですよ」

 手を伸ばすが、ティアンに邪魔をされてしまう。
 それでもティアンをかわして水面をバシャバシャ叩くと、水面が揺れた。

「……楽しいですか?」

 ふとティアンに尋ねられて、そちらを向く。
 なんだか楽しそうに微笑んでいるティアンが目に入る。

「えー? 楽しいよ。ティアンも楽しいでしょ」

 聞かなくてもわかるが、聞いてみた。
 案の定、ティアンは「楽しいですよ」と言ってくれた。だよね。

 そうこうしているうちにジェフリーが戻ってきた。

「毎日餌あげてるの?」
「はい!」

 なぜか前のめりに答えたジェフリーは、餌の入った袋を渡してくれた。ジェフリーと一緒に餌を撒く。途端に水面がバシャバシャ賑やかになる。見ていてすごく楽しい。
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