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17歳
850 馬鹿な男(sideカミール)
「なぁ、カミール」
「なんだよ」
テオドールに半ば無理矢理に外へと連れ出されていた俺は、不機嫌さを隠す努力もしていなかった。
揺れる馬車の中、向かいに座るテオドールは俺の機嫌なんてまったく気にしていないけど。それがまた腹立つ。
授業が休みの日であった。突然テオドールから「ちょっと一緒に外行かないか?」と軽い感じで声をかけられたのだ。ちょうど暇だった俺は、特に考えることもなく了承した。今思えば、この馬鹿みたいな男を信じた俺が愚かだった。
テオドールに誘導されるまま馬車に乗ったところで、何かがおかしいと気がつくべきだった。
いや、おかしいとは思った。いつの間に馬車を用意したのかとか、その手にある大荷物はなんなのかとか。何かひとつでも疑問を口にするべきだったのだ。
しかし休みということもあり気を抜いていた俺は、多少不審に思いつつも馬車に乗ってしまった。
そこから俺は、五日に渡って拘束されている。長期休みというわけではない。ただただ授業をサボっている形になっているのだ。本当に腹が立つ。
「なんか怒ってんのか?」
「はぁ?」
これまで俺の機嫌に無関心だったテオドールが、急に話を向けてきた。いや怒るに決まっているだろう。
「なんで俺が授業をサボらないといけないんだ」
「おまえが一緒に来るって言ったんだろ」
「こんな遠くに来るとは聞いてない!」
思わず大声を発すれば、テオドールが目を丸くした。こいつ、マジで殴りてぇ。
普通「ちょっと外行こう」と言われたら、近所を想像するだろう。一体誰が数日を要する旅を想像するんだよ。
拳を握る俺。テオドールは、とある商家に用があったらしい。彼にとっては授業よりも大事な用件だったのだろう。だが俺は違う。なんで巻き込まれているのだろうか。おそらくテオドールは、道中の話し相手が欲しかったのだろう。なんて自分勝手な奴なんだ。これ、一発くらい殴っても許されるのでは?
しかしテオドールの用件とやらも無事に終わったらしい。やっとこの長旅から解放される。あとは学園に戻るだけ。もうこの男を信用するのはやめよう。固く決意した俺であったが、呑気に窓の外を眺めているテオドールの姿が視界に入ってまた苛々してくる。
舌打ちを堪えていると、テオドールが突然あっと声をあげた。
「ここってヴィアン家の近くじゃないか? ちょっと寄って行く?」
「……は?」
なにを言っているんだ、こいつは。
驚きのあまり固まる俺をよそに、テオドールは御者席へと声をかける。行き先をヴィアン家に変更してほしいと告げるその声をぼんやり聞きながら、俺は開いた口が塞がらない。
いやいやいや。
ちょっと待てい。相手はルイス様だぞ。そんな気軽に会えるような相手じゃないだろ。なに考えてんだ、この馬鹿は。
しかしテオドールの中では、もうルイス様に会うことが決定しているらしい。普通に追い返されると思うけど。
もう文句を言う気力もない俺は、目を閉じた。
なるようになればいい。俺は知らないからな。
しかし俺の心配をよそに、ルイス様はあっさりと面会を許可してくれた。どうしてそうなる。もしやルイス様は本当に俺たちのことを友達だと思ってくれているのだろうか。それは嬉しいが、困惑もする。だって普通であれば接点もない人である。
ルイス様に会えると知って上機嫌なテオドールは、さっさと馬車を降りてしまう。案内された応接室にてしばらく待機していると、ノックもなしにドアが開け放たれた。その豪快な登場に、ちょっと心臓が跳ねた。
「テオドール! わぁ! カミールもいる」
にこにこと笑顔のルイス様は、相変わらずのお美しさである。若干、見た目と言動にズレがあるけど。
黙っていれば天使と見紛う美しさなのに、動きがいちいち豪快なのはなんでだろう。こちらに駆け寄ってきたルイス様は、ふわりと微笑む。その綺麗な笑顔を見られただけで、俺はもう満足だ。
それなのに、ルイス様は俺の手を一方的にとって握手してくださる。見た目は儚い美少年なのに、握った手をぶんぶんと上下に勢いよく振ってくる。なんでだろう。握手ってもっと穏やかなものだと思うんだけど。
苦笑いで応じていると、ルイス様が艶やかな黒髪を耳にかけた。前に会った時よりも、髪が伸びている気がする。
「俺に会いに来てくれたの? 嬉しい。ありがとう」
「あ、いえ。こちらこそ。お会いできて光栄です」
慌てて頭を下げると、ルイス様がくすくす笑う。その悪戯っぽい微笑みに、なんか心臓のあたりが痛くなってくる。
なんでこんなに可愛いんだよ!
よくわからない感情に唇を噛み締めていると、隣にいたテオドールが跪いた。
嫌な予感がした次の瞬間。
「ルイス様! 俺と結婚してください!」
この馬鹿が。
案の定な発言をしたテオドールに、頬が引きつる。ついでに空気も引きつったような気がする。
自信に目を輝かせるテオドールは、片膝を床につけたままルイス様を見上げている。その自信は一体どこから湧いてくるんだ? おまえ、もう何度もルイス様に振られただろうが。
目を丸くしていたルイス様であるが、すぐに照れたように口元を緩める。
なんだその可愛い表情!
へへっと笑って小首を傾げたルイス様は、パンッと勢いよく手を叩いた。びっくりしたぁ。
「あのね! 今日は俺の友達が来てるんだ。ふたりにも紹介するね」
あ、スルーした。
ついにテオドールの告白をスルーしたぞ。
何事もなかったかのように微笑むルイス様は「俺の部屋に行こう」と踵を返した。
自由過ぎないか?
てか俺の部屋って言った? え、俺たちを自室に入れるのか?
なんかもう感情が追いつかない。立ち尽くしていると、入口で振り返ったルイス様が「早く早く!」と小さく手招きする。
だからその可愛い仕草はなんなんだよ!
すっかりルイス様に絆されていた俺は、天を仰いだ。
「なんだよ」
テオドールに半ば無理矢理に外へと連れ出されていた俺は、不機嫌さを隠す努力もしていなかった。
揺れる馬車の中、向かいに座るテオドールは俺の機嫌なんてまったく気にしていないけど。それがまた腹立つ。
授業が休みの日であった。突然テオドールから「ちょっと一緒に外行かないか?」と軽い感じで声をかけられたのだ。ちょうど暇だった俺は、特に考えることもなく了承した。今思えば、この馬鹿みたいな男を信じた俺が愚かだった。
テオドールに誘導されるまま馬車に乗ったところで、何かがおかしいと気がつくべきだった。
いや、おかしいとは思った。いつの間に馬車を用意したのかとか、その手にある大荷物はなんなのかとか。何かひとつでも疑問を口にするべきだったのだ。
しかし休みということもあり気を抜いていた俺は、多少不審に思いつつも馬車に乗ってしまった。
そこから俺は、五日に渡って拘束されている。長期休みというわけではない。ただただ授業をサボっている形になっているのだ。本当に腹が立つ。
「なんか怒ってんのか?」
「はぁ?」
これまで俺の機嫌に無関心だったテオドールが、急に話を向けてきた。いや怒るに決まっているだろう。
「なんで俺が授業をサボらないといけないんだ」
「おまえが一緒に来るって言ったんだろ」
「こんな遠くに来るとは聞いてない!」
思わず大声を発すれば、テオドールが目を丸くした。こいつ、マジで殴りてぇ。
普通「ちょっと外行こう」と言われたら、近所を想像するだろう。一体誰が数日を要する旅を想像するんだよ。
拳を握る俺。テオドールは、とある商家に用があったらしい。彼にとっては授業よりも大事な用件だったのだろう。だが俺は違う。なんで巻き込まれているのだろうか。おそらくテオドールは、道中の話し相手が欲しかったのだろう。なんて自分勝手な奴なんだ。これ、一発くらい殴っても許されるのでは?
しかしテオドールの用件とやらも無事に終わったらしい。やっとこの長旅から解放される。あとは学園に戻るだけ。もうこの男を信用するのはやめよう。固く決意した俺であったが、呑気に窓の外を眺めているテオドールの姿が視界に入ってまた苛々してくる。
舌打ちを堪えていると、テオドールが突然あっと声をあげた。
「ここってヴィアン家の近くじゃないか? ちょっと寄って行く?」
「……は?」
なにを言っているんだ、こいつは。
驚きのあまり固まる俺をよそに、テオドールは御者席へと声をかける。行き先をヴィアン家に変更してほしいと告げるその声をぼんやり聞きながら、俺は開いた口が塞がらない。
いやいやいや。
ちょっと待てい。相手はルイス様だぞ。そんな気軽に会えるような相手じゃないだろ。なに考えてんだ、この馬鹿は。
しかしテオドールの中では、もうルイス様に会うことが決定しているらしい。普通に追い返されると思うけど。
もう文句を言う気力もない俺は、目を閉じた。
なるようになればいい。俺は知らないからな。
しかし俺の心配をよそに、ルイス様はあっさりと面会を許可してくれた。どうしてそうなる。もしやルイス様は本当に俺たちのことを友達だと思ってくれているのだろうか。それは嬉しいが、困惑もする。だって普通であれば接点もない人である。
ルイス様に会えると知って上機嫌なテオドールは、さっさと馬車を降りてしまう。案内された応接室にてしばらく待機していると、ノックもなしにドアが開け放たれた。その豪快な登場に、ちょっと心臓が跳ねた。
「テオドール! わぁ! カミールもいる」
にこにこと笑顔のルイス様は、相変わらずのお美しさである。若干、見た目と言動にズレがあるけど。
黙っていれば天使と見紛う美しさなのに、動きがいちいち豪快なのはなんでだろう。こちらに駆け寄ってきたルイス様は、ふわりと微笑む。その綺麗な笑顔を見られただけで、俺はもう満足だ。
それなのに、ルイス様は俺の手を一方的にとって握手してくださる。見た目は儚い美少年なのに、握った手をぶんぶんと上下に勢いよく振ってくる。なんでだろう。握手ってもっと穏やかなものだと思うんだけど。
苦笑いで応じていると、ルイス様が艶やかな黒髪を耳にかけた。前に会った時よりも、髪が伸びている気がする。
「俺に会いに来てくれたの? 嬉しい。ありがとう」
「あ、いえ。こちらこそ。お会いできて光栄です」
慌てて頭を下げると、ルイス様がくすくす笑う。その悪戯っぽい微笑みに、なんか心臓のあたりが痛くなってくる。
なんでこんなに可愛いんだよ!
よくわからない感情に唇を噛み締めていると、隣にいたテオドールが跪いた。
嫌な予感がした次の瞬間。
「ルイス様! 俺と結婚してください!」
この馬鹿が。
案の定な発言をしたテオドールに、頬が引きつる。ついでに空気も引きつったような気がする。
自信に目を輝かせるテオドールは、片膝を床につけたままルイス様を見上げている。その自信は一体どこから湧いてくるんだ? おまえ、もう何度もルイス様に振られただろうが。
目を丸くしていたルイス様であるが、すぐに照れたように口元を緩める。
なんだその可愛い表情!
へへっと笑って小首を傾げたルイス様は、パンッと勢いよく手を叩いた。びっくりしたぁ。
「あのね! 今日は俺の友達が来てるんだ。ふたりにも紹介するね」
あ、スルーした。
ついにテオドールの告白をスルーしたぞ。
何事もなかったかのように微笑むルイス様は「俺の部屋に行こう」と踵を返した。
自由過ぎないか?
てか俺の部屋って言った? え、俺たちを自室に入れるのか?
なんかもう感情が追いつかない。立ち尽くしていると、入口で振り返ったルイス様が「早く早く!」と小さく手招きする。
だからその可愛い仕草はなんなんだよ!
すっかりルイス様に絆されていた俺は、天を仰いだ。
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追記:読んでくださった皆さま、本当にどうもありがとうございました!!
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