858 / 965
17歳
閑話43 アップルパイ
「アップルパイ作るよ!」
「なんだって?」
ユリスの部屋に突入してから元気に宣言すると、怪訝な顔が返ってきた。なのでもう一度「アップルパイ作るよ!」と声を大きくしてから言ってみる。
しかしユリスの反応は鈍い。
「なんだって?」
「だからぁ」
繰り返し首を傾げるユリスは、面倒くさいと言わんばかりの表情で手元の本に視線を落とした。興味をなくすのが早過ぎるぞ。話は最後まで聞くんだ。
椅子に座ったまま動かないユリスの肩を揺さぶって「一緒に作ろうよー」とお誘いする。小さく舌打ちしたユリスに、すぐに振り払われてしまったけど。
「そんなの作ってどうする」
「食べるんだよ」
逆に食べる以外のアップルパイの使い道ってなに。
一緒に作ろうよとユリスの肩をペシペシ叩く。眉を寄せるユリスは、「嫌だ」とはっきり断ってきた。なぜ。
「ユリス。俺の誘いを断るなんて正気か?」
「おまえこそ正気か?」
なぜ僕がルイスの言うことを聞かなければならないと、ユリスは不機嫌になってしまう。やる気のないお子様め。
だが、ここで押し問答している暇はない。
強引にユリスの腕を引っ張って、椅子から立たせておく。
「おい、やめろ」
「一緒に作ろうよ!」
『オレも手伝うよぉ』
急に会話に割り込んできた綿毛ちゃんを睨みつける。
「毛が入ったら嫌だから。綿毛ちゃんはダメ」
『そんなぁ。ひどいよぉ』
綿毛ちゃんは部屋で留守番ね! と言い置いて、俺はユリスの手を引いてから廊下に出た。毛玉が追いかけてくる前に、ドアをきっちり閉めておく。手足の短い毛玉は、自分ではドアを開けられないのだ。
「ティアンはどうした」
「さぁ? 騎士棟じゃない?」
なぜかティアンの行方を心配するユリス。タイラーも不在だったので、みんなで騎士棟にでも集まっているのだろう。
厨房には、それなりに人がいた。
昼食後の時間帯である。片付けでもしているのだろうか。
気にせず突入してから、作業台の一角を確保した。すると料理人のひとりが困惑気味に寄ってくる。
「あの、ルイス様? おやつはまだですよ」
「知ってる」
どうやら俺がおやつをあさりに来たと思ったらしい。だが、今日の俺はひと味違う。
「今日のおやつは俺が作るよ」
「え」
驚いた顔になる料理人さんたちを遠ざけて、俺は袖を捲った。
「ユリスも手伝ってね」
「それは構わないが。おまえ、アップルパイの作り方なんてわかるのか?」
「……」
作り方?
ユリスの問いかけに、俺は固まった。
「わ、わかるもん!」
けれどもユリスに馬鹿にされるのが嫌で、咄嗟にそう答えてしまった。これにユリスがニヤッと笑う。確実に俺を馬鹿にしている表情だ。
「とりあえず、りんごをどうにかしよう」
「どうにかって?」
「切る?」
よくわからないが、とりあえずりんごは切るべきだろう。
「そのりんごはどこにあるんだ」
「……」
どこにあるんだろうか。
きょろきょろする俺に、ユリスがため息を吐く。
「もうやめないか。作り方も知らないんだろ」
「そんな。こんな序盤で諦めるなんて」
なんか負けた気分になる。
どうにか作り方を考えてとユリスにお願いするけど、ユリスは「無茶なこと言うな」と怒ってしまう。
「僕はもう部屋に戻る」
「そんな冷たいこと言わないでよ」
慌ててユリスを引き止める。
ポケットに手を突っ込んでやる気のない様子をみせる彼は、頼りにならない。
考えた俺は、せめてりんごを切ろうと決意する。
「りんごある?」
「ありますけど」
様子を見ていた料理人のひとりに声をかけると、早速りんごを出してくれた。ついでに包丁も貸してもらって、気合を入れる。
「よし。切るぞ」
「怖い。やめろ。その包丁を置け」
やる気満々な俺とは違って、ユリスは後ろ向きな発言を繰り返す。
「ルイス。おまえに包丁はまだはやい」
「そんなわけないだろ」
俺のこといくつだと思っているんだ。
※※※
「ティアン。これ食べていいよー」
「え? りんごですか?」
おやつの時間。
戻ってきたティアンにりんごを渡すと「なぜ」と怪訝な顔をされてしまった。
「それね。俺が切ったの」
「え」
なぜか固まるティアン。横からユリスが「嘘を吐くな」と余計な突っ込みを入れてくる。ユリスは黙ってて。
あの後、俺はすごく頑張ってりんごを切ろうとした。けれども直前で邪魔が入ったのだ。
傍でずっと俺たちの様子を見ていた料理人のひとりが、自分が切ると言って俺の手から包丁を取り上げてしまったのだ。俺の手つきが危なっかしいという理由で。たしかに、包丁なんて握ったのは何年振りだろうか。
「なんかりんごって丸いから。切るの難しいよね」
ユリスに同意を求めてみるけど、興味なさそうに肩をすくめられてしまう。
「ルイス様は食べないんですか?」
皿にのったりんごを不思議そうに眺めるティアン。そうだね。でも俺にはおやつのクッキーがあるから。りんごよりクッキーのほうがいい。
俺、本当はアップルパイを作りたかったのだ。りんごが食べたかったわけではない。
切り分けたりんごをひとつ取って、綿毛ちゃんにも分けてあげる。勢いよく食べる毛玉は満足そうだ。
「今度はプリンでも作ろうかな」
「今度はって。まだ何も作ってないだろ」
「ユリス、うるさいぞ」
いちいち揚げ足をとってくるユリスの肩を押して、俺は余ったりんごをひたすら綿毛ちゃんに食べさせた。
「なんだって?」
ユリスの部屋に突入してから元気に宣言すると、怪訝な顔が返ってきた。なのでもう一度「アップルパイ作るよ!」と声を大きくしてから言ってみる。
しかしユリスの反応は鈍い。
「なんだって?」
「だからぁ」
繰り返し首を傾げるユリスは、面倒くさいと言わんばかりの表情で手元の本に視線を落とした。興味をなくすのが早過ぎるぞ。話は最後まで聞くんだ。
椅子に座ったまま動かないユリスの肩を揺さぶって「一緒に作ろうよー」とお誘いする。小さく舌打ちしたユリスに、すぐに振り払われてしまったけど。
「そんなの作ってどうする」
「食べるんだよ」
逆に食べる以外のアップルパイの使い道ってなに。
一緒に作ろうよとユリスの肩をペシペシ叩く。眉を寄せるユリスは、「嫌だ」とはっきり断ってきた。なぜ。
「ユリス。俺の誘いを断るなんて正気か?」
「おまえこそ正気か?」
なぜ僕がルイスの言うことを聞かなければならないと、ユリスは不機嫌になってしまう。やる気のないお子様め。
だが、ここで押し問答している暇はない。
強引にユリスの腕を引っ張って、椅子から立たせておく。
「おい、やめろ」
「一緒に作ろうよ!」
『オレも手伝うよぉ』
急に会話に割り込んできた綿毛ちゃんを睨みつける。
「毛が入ったら嫌だから。綿毛ちゃんはダメ」
『そんなぁ。ひどいよぉ』
綿毛ちゃんは部屋で留守番ね! と言い置いて、俺はユリスの手を引いてから廊下に出た。毛玉が追いかけてくる前に、ドアをきっちり閉めておく。手足の短い毛玉は、自分ではドアを開けられないのだ。
「ティアンはどうした」
「さぁ? 騎士棟じゃない?」
なぜかティアンの行方を心配するユリス。タイラーも不在だったので、みんなで騎士棟にでも集まっているのだろう。
厨房には、それなりに人がいた。
昼食後の時間帯である。片付けでもしているのだろうか。
気にせず突入してから、作業台の一角を確保した。すると料理人のひとりが困惑気味に寄ってくる。
「あの、ルイス様? おやつはまだですよ」
「知ってる」
どうやら俺がおやつをあさりに来たと思ったらしい。だが、今日の俺はひと味違う。
「今日のおやつは俺が作るよ」
「え」
驚いた顔になる料理人さんたちを遠ざけて、俺は袖を捲った。
「ユリスも手伝ってね」
「それは構わないが。おまえ、アップルパイの作り方なんてわかるのか?」
「……」
作り方?
ユリスの問いかけに、俺は固まった。
「わ、わかるもん!」
けれどもユリスに馬鹿にされるのが嫌で、咄嗟にそう答えてしまった。これにユリスがニヤッと笑う。確実に俺を馬鹿にしている表情だ。
「とりあえず、りんごをどうにかしよう」
「どうにかって?」
「切る?」
よくわからないが、とりあえずりんごは切るべきだろう。
「そのりんごはどこにあるんだ」
「……」
どこにあるんだろうか。
きょろきょろする俺に、ユリスがため息を吐く。
「もうやめないか。作り方も知らないんだろ」
「そんな。こんな序盤で諦めるなんて」
なんか負けた気分になる。
どうにか作り方を考えてとユリスにお願いするけど、ユリスは「無茶なこと言うな」と怒ってしまう。
「僕はもう部屋に戻る」
「そんな冷たいこと言わないでよ」
慌ててユリスを引き止める。
ポケットに手を突っ込んでやる気のない様子をみせる彼は、頼りにならない。
考えた俺は、せめてりんごを切ろうと決意する。
「りんごある?」
「ありますけど」
様子を見ていた料理人のひとりに声をかけると、早速りんごを出してくれた。ついでに包丁も貸してもらって、気合を入れる。
「よし。切るぞ」
「怖い。やめろ。その包丁を置け」
やる気満々な俺とは違って、ユリスは後ろ向きな発言を繰り返す。
「ルイス。おまえに包丁はまだはやい」
「そんなわけないだろ」
俺のこといくつだと思っているんだ。
※※※
「ティアン。これ食べていいよー」
「え? りんごですか?」
おやつの時間。
戻ってきたティアンにりんごを渡すと「なぜ」と怪訝な顔をされてしまった。
「それね。俺が切ったの」
「え」
なぜか固まるティアン。横からユリスが「嘘を吐くな」と余計な突っ込みを入れてくる。ユリスは黙ってて。
あの後、俺はすごく頑張ってりんごを切ろうとした。けれども直前で邪魔が入ったのだ。
傍でずっと俺たちの様子を見ていた料理人のひとりが、自分が切ると言って俺の手から包丁を取り上げてしまったのだ。俺の手つきが危なっかしいという理由で。たしかに、包丁なんて握ったのは何年振りだろうか。
「なんかりんごって丸いから。切るの難しいよね」
ユリスに同意を求めてみるけど、興味なさそうに肩をすくめられてしまう。
「ルイス様は食べないんですか?」
皿にのったりんごを不思議そうに眺めるティアン。そうだね。でも俺にはおやつのクッキーがあるから。りんごよりクッキーのほうがいい。
俺、本当はアップルパイを作りたかったのだ。りんごが食べたかったわけではない。
切り分けたりんごをひとつ取って、綿毛ちゃんにも分けてあげる。勢いよく食べる毛玉は満足そうだ。
「今度はプリンでも作ろうかな」
「今度はって。まだ何も作ってないだろ」
「ユリス、うるさいぞ」
いちいち揚げ足をとってくるユリスの肩を押して、俺は余ったりんごをひたすら綿毛ちゃんに食べさせた。
あなたにおすすめの小説
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された
楽矢
BL
【完結/番外編準備中】
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。
何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。
記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。
----------
※注)
かっこいい攻はいません。
タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意!
貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。
ハッピーエンドです。
激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします!
全16話 完結済み
他サイトにも同作品を投稿しています。
様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。
初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!
----------
追記:読んでくださった皆さま、本当にどうもありがとうございました!!
完結しましたが回収しきれていないエピソードが私の中でいくつかあるので笑、後日番外編をアップしたいなと現在準備中です。
詳しい更新日まだ未定ですが、もしよろしかったらゼヒまた覗いてやってくださいねー!