嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

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17歳

閑話43 アップルパイ

「アップルパイ作るよ!」
「なんだって?」

 ユリスの部屋に突入してから元気に宣言すると、怪訝な顔が返ってきた。なのでもう一度「アップルパイ作るよ!」と声を大きくしてから言ってみる。

 しかしユリスの反応は鈍い。

「なんだって?」
「だからぁ」

 繰り返し首を傾げるユリスは、面倒くさいと言わんばかりの表情で手元の本に視線を落とした。興味をなくすのが早過ぎるぞ。話は最後まで聞くんだ。

 椅子に座ったまま動かないユリスの肩を揺さぶって「一緒に作ろうよー」とお誘いする。小さく舌打ちしたユリスに、すぐに振り払われてしまったけど。

「そんなの作ってどうする」
「食べるんだよ」

 逆に食べる以外のアップルパイの使い道ってなに。
 一緒に作ろうよとユリスの肩をペシペシ叩く。眉を寄せるユリスは、「嫌だ」とはっきり断ってきた。なぜ。

「ユリス。俺の誘いを断るなんて正気か?」
「おまえこそ正気か?」

 なぜ僕がルイスの言うことを聞かなければならないと、ユリスは不機嫌になってしまう。やる気のないお子様め。

 だが、ここで押し問答している暇はない。
 強引にユリスの腕を引っ張って、椅子から立たせておく。

「おい、やめろ」
「一緒に作ろうよ!」
『オレも手伝うよぉ』

 急に会話に割り込んできた綿毛ちゃんを睨みつける。

「毛が入ったら嫌だから。綿毛ちゃんはダメ」
『そんなぁ。ひどいよぉ』

 綿毛ちゃんは部屋で留守番ね! と言い置いて、俺はユリスの手を引いてから廊下に出た。毛玉が追いかけてくる前に、ドアをきっちり閉めておく。手足の短い毛玉は、自分ではドアを開けられないのだ。

「ティアンはどうした」
「さぁ? 騎士棟じゃない?」

 なぜかティアンの行方を心配するユリス。タイラーも不在だったので、みんなで騎士棟にでも集まっているのだろう。

 厨房には、それなりに人がいた。
 昼食後の時間帯である。片付けでもしているのだろうか。

 気にせず突入してから、作業台の一角を確保した。すると料理人のひとりが困惑気味に寄ってくる。

「あの、ルイス様? おやつはまだですよ」
「知ってる」

 どうやら俺がおやつをあさりに来たと思ったらしい。だが、今日の俺はひと味違う。

「今日のおやつは俺が作るよ」
「え」

 驚いた顔になる料理人さんたちを遠ざけて、俺は袖を捲った。

「ユリスも手伝ってね」
「それは構わないが。おまえ、アップルパイの作り方なんてわかるのか?」
「……」

 作り方?
 ユリスの問いかけに、俺は固まった。

「わ、わかるもん!」

 けれどもユリスに馬鹿にされるのが嫌で、咄嗟にそう答えてしまった。これにユリスがニヤッと笑う。確実に俺を馬鹿にしている表情だ。

「とりあえず、りんごをどうにかしよう」
「どうにかって?」
「切る?」

 よくわからないが、とりあえずりんごは切るべきだろう。

「そのりんごはどこにあるんだ」
「……」

 どこにあるんだろうか。
 きょろきょろする俺に、ユリスがため息を吐く。

「もうやめないか。作り方も知らないんだろ」
「そんな。こんな序盤で諦めるなんて」

 なんか負けた気分になる。
 どうにか作り方を考えてとユリスにお願いするけど、ユリスは「無茶なこと言うな」と怒ってしまう。

「僕はもう部屋に戻る」
「そんな冷たいこと言わないでよ」

 慌ててユリスを引き止める。
 ポケットに手を突っ込んでやる気のない様子をみせる彼は、頼りにならない。

 考えた俺は、せめてりんごを切ろうと決意する。

「りんごある?」
「ありますけど」

 様子を見ていた料理人のひとりに声をかけると、早速りんごを出してくれた。ついでに包丁も貸してもらって、気合を入れる。

「よし。切るぞ」
「怖い。やめろ。その包丁を置け」

 やる気満々な俺とは違って、ユリスは後ろ向きな発言を繰り返す。

「ルイス。おまえに包丁はまだはやい」
「そんなわけないだろ」

 俺のこといくつだと思っているんだ。



※※※



「ティアン。これ食べていいよー」
「え? りんごですか?」

 おやつの時間。
 戻ってきたティアンにりんごを渡すと「なぜ」と怪訝な顔をされてしまった。

「それね。俺が切ったの」
「え」

 なぜか固まるティアン。横からユリスが「嘘を吐くな」と余計な突っ込みを入れてくる。ユリスは黙ってて。

 あの後、俺はすごく頑張ってりんごを切ろうとした。けれども直前で邪魔が入ったのだ。

 傍でずっと俺たちの様子を見ていた料理人のひとりが、自分が切ると言って俺の手から包丁を取り上げてしまったのだ。俺の手つきが危なっかしいという理由で。たしかに、包丁なんて握ったのは何年振りだろうか。

「なんかりんごって丸いから。切るの難しいよね」

 ユリスに同意を求めてみるけど、興味なさそうに肩をすくめられてしまう。

「ルイス様は食べないんですか?」

 皿にのったりんごを不思議そうに眺めるティアン。そうだね。でも俺にはおやつのクッキーがあるから。りんごよりクッキーのほうがいい。

 俺、本当はアップルパイを作りたかったのだ。りんごが食べたかったわけではない。

 切り分けたりんごをひとつ取って、綿毛ちゃんにも分けてあげる。勢いよく食べる毛玉は満足そうだ。

「今度はプリンでも作ろうかな」
「今度はって。まだ何も作ってないだろ」
「ユリス、うるさいぞ」

 いちいち揚げ足をとってくるユリスの肩を押して、俺は余ったりんごをひたすら綿毛ちゃんに食べさせた。
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