嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

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17歳

858 喧嘩するほど

 デニスが「もう帰るよ」とジェフリーのことを呼びに来た。途端に動きを止めたジェフリーは、不満そうな顔だ。ジェフリーがここまで不満を顔に出すのは珍しい。

「なに。なにか文句でもあるの?」

 強気に腕を組むデニスは、動かないジェフリーのことを睨みつけている。ジェフリーは、基本的にデニスに対しては弱気である。そもそもデニスは、誰に対しても強気だからね。ジェフリーが躊躇する気持ちもわからなくはない。

 しばらく黙り込んでいたジェフリーだが、やがてぽつりと「まだ帰りません」と言った。小声だが、はっきりとした口調であった。

 これに目を丸くしたのはデニスである。

「はぁ? 変なこと言わないで。はやく帰るよ」

 むすっと頬を膨らませるジェフリーは、不満を隠しもしない。ふたりの間に挟まれた俺は、双方を見比べるのに忙しい。

「やめて! 喧嘩しないで!」

 とりあえず間に入っておく。
 けれども俺のことをガン無視したデニスとジェフリーは、帰る帰らないで揉めてしまう。やめて。俺を挟んで兄弟喧嘩しないで。

 ユリスはどこに行ったんだ。
 デニスはユリスの言葉であれば素直に聞く。ユリスに止めてもらおうと思ったのだが、肝心の姿が見えない。どうせ部屋でまったりしているのだろう。ユリスはマイペースだ。お見送りなんてしないのだ。

 ティアンに「どうにかして」と目配せするけど、困ったような顔が返ってくる。そうだよね。ティアンも困るよね。

 こうなったら俺が強引に行くしかない。
 ジェフリーの両肩に手を置いて、デニスから引き離しておく。物理的に距離を取れば落ち着くと思ったのだ。

「喧嘩しないで!」

 改めて声を張ると、デニスが「うるさいよ」と半眼になってしまった。なんでだよ。俺が悪いって言いたいのか?

 けれどもここは前向きに考えよう。
 今までギクシャクしていた兄弟仲が、喧嘩できるくらいには仲良くなったと。本当にそうなのかは知らないけど。

「ジェフリー。またいつでも遊びに来ていいから。俺も遊びに行くし」

 ね? とジェフリーの肩をぽんぽん叩く。それでもまだ不満そうなジェフリーは、なぜかティアンに視線をやった。

 俺もつられてティアンに視線をやる。なぜかみんなの視線を集めることになったティアンが少々困惑したのがわかった。

 そういえば、ジェフリーとティアンの間に何かあったのだろうか。先程俺が部屋に戻ってきた際に、ジェフリーがティアンのことを警戒していた。カーテン裏に隠れていたエリスちゃんを追っていただけかと納得したのだが、やはり違ったのだろうか。

 しかしここで問い詰めても、ティアンは答えないだろう。

 よくわからないが、今はジェフリーだ。

「またすぐに会えるよ」
「はい、そうなんですけど」

 なぜか言葉を濁すジェフリーは、控えめに俺のことを見上げてきた。そして今度はティアンに視線を向けると、ぎゅっと目を閉じた。

「えっと、あそこにあるので!!」
「え、なにが?」

 突然の大声にびっくりしていると、ジェフリーがぺこっと頭を下げる。そのまま「じゃあ僕は帰ります!」と勢いよく宣言して駆け出した。

 残された俺は、呆然と立ち尽くす。

 ジェフリーが「あそこ」と言って指さしたのは、先程彼が隠れていたカーテン裏である。あそこに何かあるのだろうか。気にはなったが、走り出したジェフリーを追いかけるのが先だろう。

「なんか懐かれてるよね」

 デニスと共に玄関に向かうと、彼が呆れたように言った。

「そう? 友達だからね」
「ふーん」

 自分で始めたくせに、興味なさそうな頷きをするデニス。

「デニスは? ジェフリーと仲良くなったのか?」
「普通だけど」

 別に仲良くなる必要なんてないでしょ、と冷たいことを言い放つデニスであるが、その表情は普段よりも柔らかい。

 こういう表情を見ると、デニスもちゃんとお兄ちゃんやってるんだなと安心する。

「ところでルイスくん」
「なに」
「うちのジェフリーに変なこと教えるのやめてくれる?」
「変なこと?」

 なにを言い出すんだ。
 心当たりが一切ない。

 けれどもデニスは横目で俺を睨みつけてくる。

「最近ジェフリーが魚を持ち運ぶにはどうすればいいのかってうるさいんだけど」
「……」

 あー、それね。俺のせいだね。

 俺が池の魚を欲しいと散々言ったからだろう。まさかジェフリーが本気で考えているなんて。いや、魚くれるなら嬉しいけどさ。だが無茶なことを言っている自覚はあった。

「なんかごめんね」

 へへっと笑っておくと、デニスが盛大にため息を吐いた。どうにかしろと言わんばかりの深いため息であった。
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