863 / 965
17歳
861 怒ってるよ(sideカミール)
「俺、そろそろ本当に帰りたいんだけど。それに泊まるなんて聞いてない」
ヴィアン家の客室にて。
のんびり寛いでいるテオドールに文句を言えば、彼は訝しそうに眉を寄せた。
「なんで? なに怒ってんの?」
「……」
こいつ、そろそろ殴ってもいいだろうか。
騙し討ちのような感じで連れてきておいて「怒ってんの?」はないだろう。普通に怒っていますが?
苛々が我慢できなくなった俺は、舌打ちした。
それに目を瞬くテオドールは「おまえってルイス様のこと嫌いだっけ?」ととぼけたことを言う。
俺が怒ってんのはテオドールの無神経さが原因なんだよ。なにをルイス様のせいにしてんだ。馬鹿かよ。
腕を組んでテオドールを睨みつける。
けれども首を傾げるテオドールは、「泊めてもらえてよかったな」と能天気に微笑んだ。こいつは人の話を聞いていないのか?
たしかにヴィアン家とのつながりという点では、ありがたい話ではある。でも俺はもう何日も授業をサボっているような状態なのだ。
おまけにいくらルイス様がいいと言っても、やはり飛び込みでヴィアン家を訪れるなんて恐怖でしかない。おまけにそのまま泊めてもらうなんて、もう恐怖で心臓がどうにかなりそうだ。
平然とソファに座るテオドールは、肝が据わっているというよりも単に馬鹿なだけだと思う。
自分の行動が原因で、今後どのような展開になるのかまったく考えていないのだろう。それに巻き込まれる俺はいい迷惑だ。
「ジェフリー様にも睨まれた。おまえのせいだぞ」
「あぁ、デニス様の弟」
会うのは初めてだったのだが、絶対に嫌われた。敵意剥き出しって感じだった。
どうやらジェフリー様は、ルイス様にべったりのようだ。それを邪魔されて腹が立ったのだろう。
デニス様がジェフリー様を可愛がっているという話は聞かないが、仮にも弟である。そう考えると、俺はジェフリー様のことも敵に回したくはないのだ。
「夕飯も最悪だった。ずっとユリス様に睨まれてたんだけど」
「ユリス様、冷たい美少年って感じでお美しいよな」
「おまえ、ほんと馬鹿」
能天気なテオドールに、天を仰ぐ。
ルイス様は楽しそうにしていたが、ユリス様は違う。突然やってきて図々しく泊まっていく俺たちのことをどう思っているのか。考えなくてもわかる。
溢れ出るため息。
するとそれを見ていたテオドールが豪快に笑った。
「考えすぎだって!」
「いや、そうでもないだろ」
むしろテオドールは考えなさすぎだろ。もっと色々考えるべきだと思うけど。
俺の悩みを笑い飛ばしたテオドールは、「明日は何時に出発しようか?」と呑気に構えている。
どうしてこうもお気楽なんだろうか。
俺には到底真似できない。
呆れ気味にテオドールを眺めていると、控えめにドアがノックされた。
「ルイス様かな?」
さっと立ち上がるテオドール。
そろそろ俺に割り当てられた客室に戻ろうと思っていたのだが、ルイス様が来たのであればまだ帰るわけにもいかない。
俺も立ち上がってテオドールの背中を追えば、そこには予想外の人物が立っていた。
「どうも。君たち、いつまで居座る気なのかな?」
にこにこしながらも、隠しきれない不満をぶつけてくるのはアロン子爵であった。
げっ! と思わず出そうになった文句を必死に飲み込んだ。
「あぁ、お久しぶりです。以前お会いしたことありますよね?」
動じないテオドールは、アロン子爵に握手を求めにいく。それを無視するアロン子爵は、俺たちを睨みつけてきた。
「ルイス様はお忙しいんだけど」
「それは、はい。すみません」
なんで俺が怒られているのだろうか。
だがアロン子爵を相手に立ち向かう度胸もないので、とりあえず頭を下げておく。こういう時は、とにかく平和に話を終わらせるのが一番だ。
「すみません。明日帰りますので」
「今すぐ帰ってくれていいんだけど」
今すぐ帰れるわけないだろ。
もう外は真っ暗だ。宿のあてもないのに、帰れるわけがない。だが言い返す度胸もない俺は、曖昧に笑っておく。
すると突然アロン子爵の横から飛び出すように出てきたルイス様が「アロン!」と声を張った。
その大声に、俺はすごくびっくりした。
ルイス様は華奢で儚げなのに、割と大きな声を出すから驚いてしまう。見た目と声量が合致していない。
心臓のあたりをそっと押さえていると、猫を抱えたルイス様が「カミールのこといじめないでって言ったでしょ!」とアロン子爵を叱りつけた。
俺、今いじめられていたのだろうか。
改めて言葉にされると、なんか悲しい。
引きつった笑みを浮かべる俺を気にせず、ルイス様は「カミールは綿毛ちゃんみたいに弱いんだから!」と変な力説を始める。
俺って弱そうに見えるのか。そうなのか。衝撃の事実であった。
綿毛ちゃんという名前には聞き覚えがある。
ルイス様が以前学園に連れてきた背の高いお兄さんだ。ルイス様に犬と呼ばれていたあの人である。
あのお兄さん、結局何者だったのだろうか。
ルイス様のまっすぐで優しい性格に絆されてすっかり忘れていたのだが、ルイス様には成人男性をペット扱いするという変な一面がある。あれって結局なんだったんですか? と訊いてみたいのは山々なのだが、そんなこと怖くて聞けない。
「もう! アロン、邪魔するならあっちに行ってて!」
「邪魔なんてしてないですよ」
とりあえず、アロン子爵をぐいぐい押すルイス様は強い。
ヴィアン家の客室にて。
のんびり寛いでいるテオドールに文句を言えば、彼は訝しそうに眉を寄せた。
「なんで? なに怒ってんの?」
「……」
こいつ、そろそろ殴ってもいいだろうか。
騙し討ちのような感じで連れてきておいて「怒ってんの?」はないだろう。普通に怒っていますが?
苛々が我慢できなくなった俺は、舌打ちした。
それに目を瞬くテオドールは「おまえってルイス様のこと嫌いだっけ?」ととぼけたことを言う。
俺が怒ってんのはテオドールの無神経さが原因なんだよ。なにをルイス様のせいにしてんだ。馬鹿かよ。
腕を組んでテオドールを睨みつける。
けれども首を傾げるテオドールは、「泊めてもらえてよかったな」と能天気に微笑んだ。こいつは人の話を聞いていないのか?
たしかにヴィアン家とのつながりという点では、ありがたい話ではある。でも俺はもう何日も授業をサボっているような状態なのだ。
おまけにいくらルイス様がいいと言っても、やはり飛び込みでヴィアン家を訪れるなんて恐怖でしかない。おまけにそのまま泊めてもらうなんて、もう恐怖で心臓がどうにかなりそうだ。
平然とソファに座るテオドールは、肝が据わっているというよりも単に馬鹿なだけだと思う。
自分の行動が原因で、今後どのような展開になるのかまったく考えていないのだろう。それに巻き込まれる俺はいい迷惑だ。
「ジェフリー様にも睨まれた。おまえのせいだぞ」
「あぁ、デニス様の弟」
会うのは初めてだったのだが、絶対に嫌われた。敵意剥き出しって感じだった。
どうやらジェフリー様は、ルイス様にべったりのようだ。それを邪魔されて腹が立ったのだろう。
デニス様がジェフリー様を可愛がっているという話は聞かないが、仮にも弟である。そう考えると、俺はジェフリー様のことも敵に回したくはないのだ。
「夕飯も最悪だった。ずっとユリス様に睨まれてたんだけど」
「ユリス様、冷たい美少年って感じでお美しいよな」
「おまえ、ほんと馬鹿」
能天気なテオドールに、天を仰ぐ。
ルイス様は楽しそうにしていたが、ユリス様は違う。突然やってきて図々しく泊まっていく俺たちのことをどう思っているのか。考えなくてもわかる。
溢れ出るため息。
するとそれを見ていたテオドールが豪快に笑った。
「考えすぎだって!」
「いや、そうでもないだろ」
むしろテオドールは考えなさすぎだろ。もっと色々考えるべきだと思うけど。
俺の悩みを笑い飛ばしたテオドールは、「明日は何時に出発しようか?」と呑気に構えている。
どうしてこうもお気楽なんだろうか。
俺には到底真似できない。
呆れ気味にテオドールを眺めていると、控えめにドアがノックされた。
「ルイス様かな?」
さっと立ち上がるテオドール。
そろそろ俺に割り当てられた客室に戻ろうと思っていたのだが、ルイス様が来たのであればまだ帰るわけにもいかない。
俺も立ち上がってテオドールの背中を追えば、そこには予想外の人物が立っていた。
「どうも。君たち、いつまで居座る気なのかな?」
にこにこしながらも、隠しきれない不満をぶつけてくるのはアロン子爵であった。
げっ! と思わず出そうになった文句を必死に飲み込んだ。
「あぁ、お久しぶりです。以前お会いしたことありますよね?」
動じないテオドールは、アロン子爵に握手を求めにいく。それを無視するアロン子爵は、俺たちを睨みつけてきた。
「ルイス様はお忙しいんだけど」
「それは、はい。すみません」
なんで俺が怒られているのだろうか。
だがアロン子爵を相手に立ち向かう度胸もないので、とりあえず頭を下げておく。こういう時は、とにかく平和に話を終わらせるのが一番だ。
「すみません。明日帰りますので」
「今すぐ帰ってくれていいんだけど」
今すぐ帰れるわけないだろ。
もう外は真っ暗だ。宿のあてもないのに、帰れるわけがない。だが言い返す度胸もない俺は、曖昧に笑っておく。
すると突然アロン子爵の横から飛び出すように出てきたルイス様が「アロン!」と声を張った。
その大声に、俺はすごくびっくりした。
ルイス様は華奢で儚げなのに、割と大きな声を出すから驚いてしまう。見た目と声量が合致していない。
心臓のあたりをそっと押さえていると、猫を抱えたルイス様が「カミールのこといじめないでって言ったでしょ!」とアロン子爵を叱りつけた。
俺、今いじめられていたのだろうか。
改めて言葉にされると、なんか悲しい。
引きつった笑みを浮かべる俺を気にせず、ルイス様は「カミールは綿毛ちゃんみたいに弱いんだから!」と変な力説を始める。
俺って弱そうに見えるのか。そうなのか。衝撃の事実であった。
綿毛ちゃんという名前には聞き覚えがある。
ルイス様が以前学園に連れてきた背の高いお兄さんだ。ルイス様に犬と呼ばれていたあの人である。
あのお兄さん、結局何者だったのだろうか。
ルイス様のまっすぐで優しい性格に絆されてすっかり忘れていたのだが、ルイス様には成人男性をペット扱いするという変な一面がある。あれって結局なんだったんですか? と訊いてみたいのは山々なのだが、そんなこと怖くて聞けない。
「もう! アロン、邪魔するならあっちに行ってて!」
「邪魔なんてしてないですよ」
とりあえず、アロン子爵をぐいぐい押すルイス様は強い。
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。