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17歳
863 どういう立場(sideカミール)
「どうしたの、カミール。猫触る?」
「えっ、あ。いえ」
ルイス様とアロン子爵のことを見つめていると、ルイス様が訝しげな顔で膝の猫を差し出そうとしてきた。どうやら凝視し過ぎたらしい。慌てて視線を逸らして、猫の受け取りはやんわり辞退させてもらおう。
目を瞬くルイス様は、膝の猫をひたすら撫でている。なんとも美しい光景だ。
またもやぼんやり眺めていると、ルイス様がにこりと微笑んだ。そうしておもむろに立ち上がったルイス様は、「どうぞ」と言いながら俺の膝に猫をのせてきた。
「あ、えっと」
「触りたかったんでしょ?」
いや、猫に触りたくて凝視していたわけではないんだけど。
しかし無下にすることもできないので、言われるがままに猫の背中を触っておく。俺が触れても、猫は呑気に目を細めている。すごくおとなしい猫だ。
満足そうに頷くルイス様は、猫を俺に預けたまま席に戻る。
「犬もいるんだけどね。ちょっと凶暴だから」
「そうなんですね」
先程ちらっと見たのだが、そこまで凶暴な犬には見えなかったけどな。普通の小型犬だった。なんか変な唸り方をしていたけど。
「猫ちゃんの名前はエリスちゃんでしたっけ?」
テオドールの問いかけに、ルイス様が「うん!」と満面の笑みで頷いた。本当に猫が好きなんだということが伝わってくる。
「先程のワンちゃんは?」
「あれね。綿毛ちゃんだよ」
「……ん?」
え、綿毛ちゃん?
それって前に会ったお兄さんの名前では?
静かに困惑していると、テオドールが「へぇ、可愛い名前ですね」と呑気に相槌を打つ。最初からこの馬鹿の記憶力はあてにしていなかったが、あまりにも平然と流すので苛々してしまう。ちょっとは気付けよ。
けれども俺も面と向かって指摘する度胸はない。
もしやペットの犬とあのお兄さんは同じ名前なのだろうか。あのお兄さんがどういう立場にいるのか。ますます気になってしまう。
そういった困惑が顔に出ていたのだろうか。
ルイス様が「カミール?」と心配そうに眉をひそめた。本気で俺を心配してくれていると錯覚してしまうほどの表情である。いや、相手は心優しいルイス様である。もしかしたら本気で心配してくれているのかもしれない。
慌てて背筋を伸ばして、「いえ、大丈夫です」と笑顔を作る。けれどもまだ険しい表情のルイス様は「もしかして、カミールは犬が嫌いなの?」と予想外の問いを発した。
「い、いえ。犬も好きですよ」
「ほんと? ならよかった」
へへっと笑うルイス様の周りにだけ、なんか花が飛んでいる気がする。その気の抜けた柔らかい笑みを前にして、ルイス様であれば何を聞いても答えてくれそうだという気になってきた。
「あの。以前ルイス様が学園にいらっしゃった際に連れていた男性がいたと思うのですが」
意を決して尋ねると、ルイス様が記憶をたぐるように視線を宙にやった。
「カミールたちと初めて会った時だよね? 誰がいたっけ。ロニーのこと?」
「いえ、その方ではなく」
俺の記憶が確かであれば、ロニーさんは騎士だったはず。優しそうな面持ちの人だった。
「銀髪の背の高い方です。たしかその人も綿毛ちゃんと呼ばれていたような気がするんですが」
「……あぁ! 綿毛ちゃん!」
ぽんと手を叩いたルイス様の横で、アロン子爵がさっと顔を背けた。その肩が小刻みに震えている。笑いを堪えているのか?
「綿毛ちゃんね! 綿毛ちゃんは」
なぜか不自然に言葉を切ったルイス様は、さっと顔色が悪くなった。やはり訊いたらまずいことだったのか?
唇を引き結んだルイス様は、「あー、えっとぉ」と視線を彷徨わせる。
けれどもすぐに拳を握ると、俺とテオドールを見据えた。
「あれね、あれはね。綿毛ちゃんはふたりいて! 一匹が犬なの」
「は、はい」
なにやら必死に考えているルイス様は「たまたま同じ名前で」と絶対に嘘とわかることを口走った。
よくある名前ならともかく。綿毛ちゃんという名前がたまたま被ったというのは無理がある。
懸命に言い訳を並べるルイス様を見ていると、すごく申し訳ない気分になってきた。そもそも俺が首を突っ込むようなことでもない。ルイス様に余計な心労をかけてしまった。
急いで話題を切り替えようと、俺は目についたアロン子爵の名前を出した。
「それにしても。お似合いですね。俺はいまだに恋人ができないので羨ましいです」
素直な感想を述べたところ、アロン子爵がドヤ顔を見せた。この人は本当に表情が豊かだ。黙っているのに、ずっと表情だけで会話に加わっている。
けれども肝心のルイス様は、きょとんとした顔で「うん?」と首を傾げた。
「俺、アロンとは付き合ってないよ?」
「……はっ?」
え、付き合ってないんかい!
じゃあなに!? さっきから得意げな顔でずっとルイス様の手を握っていたのはなに!?
え、どういう立場で? この人、ほんとにどういう立場で同席してるの!?
「えっ、あ。いえ」
ルイス様とアロン子爵のことを見つめていると、ルイス様が訝しげな顔で膝の猫を差し出そうとしてきた。どうやら凝視し過ぎたらしい。慌てて視線を逸らして、猫の受け取りはやんわり辞退させてもらおう。
目を瞬くルイス様は、膝の猫をひたすら撫でている。なんとも美しい光景だ。
またもやぼんやり眺めていると、ルイス様がにこりと微笑んだ。そうしておもむろに立ち上がったルイス様は、「どうぞ」と言いながら俺の膝に猫をのせてきた。
「あ、えっと」
「触りたかったんでしょ?」
いや、猫に触りたくて凝視していたわけではないんだけど。
しかし無下にすることもできないので、言われるがままに猫の背中を触っておく。俺が触れても、猫は呑気に目を細めている。すごくおとなしい猫だ。
満足そうに頷くルイス様は、猫を俺に預けたまま席に戻る。
「犬もいるんだけどね。ちょっと凶暴だから」
「そうなんですね」
先程ちらっと見たのだが、そこまで凶暴な犬には見えなかったけどな。普通の小型犬だった。なんか変な唸り方をしていたけど。
「猫ちゃんの名前はエリスちゃんでしたっけ?」
テオドールの問いかけに、ルイス様が「うん!」と満面の笑みで頷いた。本当に猫が好きなんだということが伝わってくる。
「先程のワンちゃんは?」
「あれね。綿毛ちゃんだよ」
「……ん?」
え、綿毛ちゃん?
それって前に会ったお兄さんの名前では?
静かに困惑していると、テオドールが「へぇ、可愛い名前ですね」と呑気に相槌を打つ。最初からこの馬鹿の記憶力はあてにしていなかったが、あまりにも平然と流すので苛々してしまう。ちょっとは気付けよ。
けれども俺も面と向かって指摘する度胸はない。
もしやペットの犬とあのお兄さんは同じ名前なのだろうか。あのお兄さんがどういう立場にいるのか。ますます気になってしまう。
そういった困惑が顔に出ていたのだろうか。
ルイス様が「カミール?」と心配そうに眉をひそめた。本気で俺を心配してくれていると錯覚してしまうほどの表情である。いや、相手は心優しいルイス様である。もしかしたら本気で心配してくれているのかもしれない。
慌てて背筋を伸ばして、「いえ、大丈夫です」と笑顔を作る。けれどもまだ険しい表情のルイス様は「もしかして、カミールは犬が嫌いなの?」と予想外の問いを発した。
「い、いえ。犬も好きですよ」
「ほんと? ならよかった」
へへっと笑うルイス様の周りにだけ、なんか花が飛んでいる気がする。その気の抜けた柔らかい笑みを前にして、ルイス様であれば何を聞いても答えてくれそうだという気になってきた。
「あの。以前ルイス様が学園にいらっしゃった際に連れていた男性がいたと思うのですが」
意を決して尋ねると、ルイス様が記憶をたぐるように視線を宙にやった。
「カミールたちと初めて会った時だよね? 誰がいたっけ。ロニーのこと?」
「いえ、その方ではなく」
俺の記憶が確かであれば、ロニーさんは騎士だったはず。優しそうな面持ちの人だった。
「銀髪の背の高い方です。たしかその人も綿毛ちゃんと呼ばれていたような気がするんですが」
「……あぁ! 綿毛ちゃん!」
ぽんと手を叩いたルイス様の横で、アロン子爵がさっと顔を背けた。その肩が小刻みに震えている。笑いを堪えているのか?
「綿毛ちゃんね! 綿毛ちゃんは」
なぜか不自然に言葉を切ったルイス様は、さっと顔色が悪くなった。やはり訊いたらまずいことだったのか?
唇を引き結んだルイス様は、「あー、えっとぉ」と視線を彷徨わせる。
けれどもすぐに拳を握ると、俺とテオドールを見据えた。
「あれね、あれはね。綿毛ちゃんはふたりいて! 一匹が犬なの」
「は、はい」
なにやら必死に考えているルイス様は「たまたま同じ名前で」と絶対に嘘とわかることを口走った。
よくある名前ならともかく。綿毛ちゃんという名前がたまたま被ったというのは無理がある。
懸命に言い訳を並べるルイス様を見ていると、すごく申し訳ない気分になってきた。そもそも俺が首を突っ込むようなことでもない。ルイス様に余計な心労をかけてしまった。
急いで話題を切り替えようと、俺は目についたアロン子爵の名前を出した。
「それにしても。お似合いですね。俺はいまだに恋人ができないので羨ましいです」
素直な感想を述べたところ、アロン子爵がドヤ顔を見せた。この人は本当に表情が豊かだ。黙っているのに、ずっと表情だけで会話に加わっている。
けれども肝心のルイス様は、きょとんとした顔で「うん?」と首を傾げた。
「俺、アロンとは付き合ってないよ?」
「……はっ?」
え、付き合ってないんかい!
じゃあなに!? さっきから得意げな顔でずっとルイス様の手を握っていたのはなに!?
え、どういう立場で? この人、ほんとにどういう立場で同席してるの!?
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