嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

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17歳

867 嫉妬深い

「エリスちゃんがいない!!」
『へぁ?』
「綿毛ちゃんのせいだな! エリスちゃんをいじめないで!」
『……え、なに?』

 朝起きるとエリスちゃんの姿が見えなかった。
 よくわからないが、たぶん綿毛ちゃんのせいだと思う。

 布団に埋まっていた毛玉を引っ張り出して、床に落とす。続いて俺もベッドをおりる。

「エリスちゃんをどこにやった」
『なんの話ぃ? というか、坊ちゃん。いつ戻ってきたのぉ?』

 ふにゃふにゃ言っている綿毛ちゃんは、変なことを口走る。拳を握った俺であるが、なにかがおかしいことに気がついた。

「あれ? 俺、昨日はテオドールの部屋にいたはず」
『そうだよぉ。お泊まり会するって言って出て行ったよ。思い出した?』

 床をゴロゴロ転げる綿毛ちゃんは、欠伸をしている。『まだ眠い』とうるさい毛玉に、俺はそっと握った拳をおろした。

 思い出した。
 昨日はテオドールとカミールとお泊まり会をやった。そのままみんなで起きてようという話になったのだが、俺はなんか眠かったので先に寝ることにした。

 そのままテオドールの客室で寝たはずなのだが、起きたら自分の部屋である。不思議なこともあるものだ。

「寝ている間に歩いて戻ってきたのかもしれない」
『へー、すごいねぇ』

 床で伸びたまま適当に返事をする綿毛ちゃんは、まだ欠伸をしている。

 ジャンが来る前に着替えを済ませておこう。クローゼットを開けて服を選んでいると、後ろから綿毛ちゃんの『ひらひら。ひらひらしたやつがいいよ』とうるさい声が聞こえてくる。綿毛ちゃんの好みは聞いていない。

「これにしよ!」

 クローゼットの中から適当に一枚引っ張り出す。
 シンプルなシャツに、綿毛ちゃんが『えー、ひらひらじゃない』と文句を言う。うるさいぞ。

 いそいそ着替えてから、ちょっとシンプル過ぎたかもしれないと悩む。床から『ひらひら! ひらひら!』と謎のコールが聞こえてくるけど無視しておこう。

「ネクタイ結ぼう」
『えー、ひらひらはぁ?』

 見えていた青色のネクタイを引っ張り出して結んでみる。

「……これであってる?」
『たぶん違うと思う』

 やっぱり? 俺もそう思う。
 鏡の前で奮闘するけどうまく結べない。頑張っていると、ノックの音が聞こえた。

「ジャン。これ結んで」
「おはようございます。ルイス様」
「うん?」

 ジャンだと思って声をかけたのに、ティアンの声がした。

「なんだ。ティアンか」
「なんだってなんですか。僕じゃダメですか?」
「ううん。ティアンでもいいよ。これ結んで」

 ん、と首元を示すと、俺を鏡に向き直らせたティアンが背後に立ったまま腕を回してくる。そのまま鏡を見ながらネクタイを器用に結んでくれたティアンの腕をそっと触る。

「なんか抱きしめてるみたいだね」
「……」

 感想を述べたところ、ティアンが一瞬動きを止めた。

 しかしすぐに鏡の中のティアンが微笑んだ。
 そのまま流れるような動作で抱きしめられた。バックハグだな。ティアンがこういうことをするのは珍しい。けれども驚きよりも嬉しさが勝った。

 にこりと笑って「どうしたの?」と尋ねてみる。

「ティアンがこういうことするの珍しいね」
「……すみません」

 小声で謝って離れていくティアンは「はい。できましたよ」と俺の両肩に手を置いた。綺麗に結ばれたネクタイに「おぉ!」と感心する。

「ありがと」
「いえ」

 控えめに微笑むティアンと鏡越しに視線があった。
 なんとなくそのままティアンの顔を眺めていると、ティアンの指が俺の髪を梳くように撫でていく。

「すみません」
「うん? なにが?」

 突然の謝罪にティアンを振り返る。鏡越しではないティアンは、少しだけ眉根を寄せていた。間を置いた後、ティアンが再び鏡に目を向けた。俺もつられて鏡を見た。

「……自分がこんなに嫉妬深いなんて、初めて知りました」
「え」

 驚きに目を見開くと、ティアンが居心地悪そうな表情で俺から一歩離れた。それを追いかけるように、くるりと振り返る。

「嫉妬って? 俺がテオドールたちと一緒に夜更かししたから? ティアンも誘ったほうがよかったの?」
「いえ、それもですけど」

 頬をかいたティアンは、乱れてもいない己の襟元を整えると俺を見据えた。

「僕以外の前で、無防備に寝たりしないでください」
「……うん」

 ちょっぴり拗ねたような言い方に、俺はぱちぱちと目を瞬く。しかし不思議と悪い気はしない。

 後ろ手を組んで、床に視線を落とした。
 ちらっとティアンを盗み見ると、彼も俺から微妙に視線を外している。

「なんか、ごめんね」
「いえ。僕のほうこそ」
「ティアンは謝らなくていいよ」
「しかし」
「いいって言ってるでしょ!」

 無理矢理に話を打ち切って、腰に手を当てる。

『……オレの前でいちゃいちゃしないでくださーい』
「してないから! うるさいぞ、毛玉のくせに!」
『可愛い毛玉はお腹が空きましたぁ。朝ご飯まだぁ?』

 へらへら笑う綿毛ちゃんを追い払って、俺はティアンに視線をやる。にこりと笑ってくれたティアンは、なんかいつもよりいい感じであった。
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