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17歳
868 お迎えにいく
「ところでエリスちゃんは?」
「あっ」
真顔になって行方の知れない猫の話題に戻すと、ティアンが思わずといった感じで声をあげた。
「おそらく客室に」
「エリスちゃん……」
俺には記憶がないのだが、昨日俺はそのままテオドールの客室で寝てしまったらしい。テオドールたちに「おやすみ」と言った記憶はある。その後、困ったカミールが誰かいないかと屋敷をうろうろしている時にティアンと会ったのだとか。
俺が客室で寝ていると聞いたティアンは、急いで俺を迎えにきたということらしい。なんか大変なことになっていた。びっくりだ。
どうやらティアンは、エリスちゃんのことを置き去りにしてしまったようだ。
「エリスちゃんを迎えに行かないと」
『えー? 朝ごはんは?』
食べてからにしようと食い意地の張っている綿毛ちゃんが酷いことを言う。
「エリスちゃんを早く迎えに行かないと。寂しくて泣いてたらどうするの」
『エリスちゃんはそれくらいで泣かないよ。強いから。今頃普通に寝てるよ』
「なに言ってるんだ。エリスちゃんはか弱くて繊細な猫だから」
いつもと違う人が部屋にいて、びっくりしちゃうに違いない。
『違うもーん。強気で図太い猫ちゃんだよ』
「エリスちゃんの悪口言わないで」
一体エリスちゃんに何の恨みがあるというのだ。
不満そうに床を短い前足で叩く綿毛ちゃんは、『坊ちゃんは何もわかってない』と小声で文句を言った。何もわかっていないのは綿毛ちゃんのほうである。
綿毛ちゃんから視線を外して、ティアンに向き直る。エリスちゃんを迎えに行こうと誘えば、ティアンはすぐに頷いてくれるのだ。
「あ、そういえば。ありがとね」
「ネクタイですか?」
「ううん。昨日、俺のこと運んでくれたんでしょ? ありがとう」
「いえ」
一歩後ろを歩くティアン。
歩調を合わせようと、俺は一歩後ろに下がってやった。隣に並んで、ティアンと腕を組む。ティアンが「ルイス様」と困ったように俺の名前を呼ぶけど、振り払われはしなかった。
それが嬉しくて、ティアンにぴたりと寄り添う。
「歩きにくいんですけど」
「いいじゃーん」
へへっと笑うと、ティアンもつられたように笑みを浮かべた。なんだか優しい表情に、朝から嬉しくなってしまう。
「……珍し。どうしたの、ティアン。朝から浮かれてんね」
「……」
ふたりで笑い合いながら歩いていたのだが、ここで思わぬ邪魔が入った。
突然俺たちの視界に入ってきたニックが、ティアンを見て揶揄うような声を上げたのだ。これにティアンが、表情を消した。
「浮かれてなんていませんよ」
「そう?」
硬い声で返したティアンは、「早く仕事に行ったらどうですか」とニックを追い払いにかかる。いいぞ、ティアン。
「ね、なんで浮かれてんの。いいことあった? あ、おはようございます。ルイス様」
「うん。おはよう」
話の途中で俺への挨拶を挟んだニック。浮かれティアンに釘付けになって、俺のことがあんまり見えていなかったらしい。まぁでも。たしかにティアンが浮かれている姿は珍しいと思う。
舌打ちしそうな顔になるティアンは、ニックから顔を背けてしまった。あっちに行けと言わんばかりに手を振るティアンは、いつも通り先輩に対して失礼である。
「おまえなぁ。なんで俺に対してそんな冷たいの? 俺これでも一応先輩なんだけど」
「すみません。僕も心の底から尊敬できる先輩がほしかったんですけど」
「おまえ、ほんと可愛くない」
「どうも」
「褒めてねぇから」
眉を寄せるニックは、どうでもいいと首を左右に振る。
「俺は忙しいので」
「そんなに忙しくないでしょう。どうせ団長を追いかけるだけじゃないですか」
すぐに嫌味を返すティアンは、すっかりいつも通りのテンションになってしまった。
ティアンと腕を組んだまま、俺はニックに「ばいばーい」と別れの挨拶をした。俺は今、エリスちゃんを早く迎えに行ってやらなければならないのだ。
「いいや、忙しいね。今から団長の好きな子が誰なのか探りにいかないといけないから」
「やっぱり団長を追いかけ、え?」
途中で目を見開いたティアン。俺もぽかんと口を開けた。
「じゃあ、これで」
「ちょっと待った!」
ティアンの腕を離して、俺はニックを引き止める。
「団長ってセドリックだよね? え、セドリックの好きな子って? セドリックって人のこと好きになったりするの!?」
勢いで疑問を投げると、隣で聞いていたティアンが「ルイス様」と少し慌てた。
「それはあまりにも団長に対して失礼ですよ」
「そ、そうだね」
ちょっと勢いよく口走ってしまった。
「あっ」
真顔になって行方の知れない猫の話題に戻すと、ティアンが思わずといった感じで声をあげた。
「おそらく客室に」
「エリスちゃん……」
俺には記憶がないのだが、昨日俺はそのままテオドールの客室で寝てしまったらしい。テオドールたちに「おやすみ」と言った記憶はある。その後、困ったカミールが誰かいないかと屋敷をうろうろしている時にティアンと会ったのだとか。
俺が客室で寝ていると聞いたティアンは、急いで俺を迎えにきたということらしい。なんか大変なことになっていた。びっくりだ。
どうやらティアンは、エリスちゃんのことを置き去りにしてしまったようだ。
「エリスちゃんを迎えに行かないと」
『えー? 朝ごはんは?』
食べてからにしようと食い意地の張っている綿毛ちゃんが酷いことを言う。
「エリスちゃんを早く迎えに行かないと。寂しくて泣いてたらどうするの」
『エリスちゃんはそれくらいで泣かないよ。強いから。今頃普通に寝てるよ』
「なに言ってるんだ。エリスちゃんはか弱くて繊細な猫だから」
いつもと違う人が部屋にいて、びっくりしちゃうに違いない。
『違うもーん。強気で図太い猫ちゃんだよ』
「エリスちゃんの悪口言わないで」
一体エリスちゃんに何の恨みがあるというのだ。
不満そうに床を短い前足で叩く綿毛ちゃんは、『坊ちゃんは何もわかってない』と小声で文句を言った。何もわかっていないのは綿毛ちゃんのほうである。
綿毛ちゃんから視線を外して、ティアンに向き直る。エリスちゃんを迎えに行こうと誘えば、ティアンはすぐに頷いてくれるのだ。
「あ、そういえば。ありがとね」
「ネクタイですか?」
「ううん。昨日、俺のこと運んでくれたんでしょ? ありがとう」
「いえ」
一歩後ろを歩くティアン。
歩調を合わせようと、俺は一歩後ろに下がってやった。隣に並んで、ティアンと腕を組む。ティアンが「ルイス様」と困ったように俺の名前を呼ぶけど、振り払われはしなかった。
それが嬉しくて、ティアンにぴたりと寄り添う。
「歩きにくいんですけど」
「いいじゃーん」
へへっと笑うと、ティアンもつられたように笑みを浮かべた。なんだか優しい表情に、朝から嬉しくなってしまう。
「……珍し。どうしたの、ティアン。朝から浮かれてんね」
「……」
ふたりで笑い合いながら歩いていたのだが、ここで思わぬ邪魔が入った。
突然俺たちの視界に入ってきたニックが、ティアンを見て揶揄うような声を上げたのだ。これにティアンが、表情を消した。
「浮かれてなんていませんよ」
「そう?」
硬い声で返したティアンは、「早く仕事に行ったらどうですか」とニックを追い払いにかかる。いいぞ、ティアン。
「ね、なんで浮かれてんの。いいことあった? あ、おはようございます。ルイス様」
「うん。おはよう」
話の途中で俺への挨拶を挟んだニック。浮かれティアンに釘付けになって、俺のことがあんまり見えていなかったらしい。まぁでも。たしかにティアンが浮かれている姿は珍しいと思う。
舌打ちしそうな顔になるティアンは、ニックから顔を背けてしまった。あっちに行けと言わんばかりに手を振るティアンは、いつも通り先輩に対して失礼である。
「おまえなぁ。なんで俺に対してそんな冷たいの? 俺これでも一応先輩なんだけど」
「すみません。僕も心の底から尊敬できる先輩がほしかったんですけど」
「おまえ、ほんと可愛くない」
「どうも」
「褒めてねぇから」
眉を寄せるニックは、どうでもいいと首を左右に振る。
「俺は忙しいので」
「そんなに忙しくないでしょう。どうせ団長を追いかけるだけじゃないですか」
すぐに嫌味を返すティアンは、すっかりいつも通りのテンションになってしまった。
ティアンと腕を組んだまま、俺はニックに「ばいばーい」と別れの挨拶をした。俺は今、エリスちゃんを早く迎えに行ってやらなければならないのだ。
「いいや、忙しいね。今から団長の好きな子が誰なのか探りにいかないといけないから」
「やっぱり団長を追いかけ、え?」
途中で目を見開いたティアン。俺もぽかんと口を開けた。
「じゃあ、これで」
「ちょっと待った!」
ティアンの腕を離して、俺はニックを引き止める。
「団長ってセドリックだよね? え、セドリックの好きな子って? セドリックって人のこと好きになったりするの!?」
勢いで疑問を投げると、隣で聞いていたティアンが「ルイス様」と少し慌てた。
「それはあまりにも団長に対して失礼ですよ」
「そ、そうだね」
ちょっと勢いよく口走ってしまった。
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