嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

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17歳

綿毛ちゃんの日常30

「エリスちゃんをいじめないで!」
『いやいや。どう見てもオレがいじめられてるよねぇ』

 ルイス坊ちゃんは、いつもエリスちゃんの味方である。

 日当たりのいい窓際でお昼寝をしていたところ、突然やってきたエリスちゃんに思い切り頭を叩かれたオレは普通に可哀想だと思う。どうやら日当たりのいい場所を譲れということらしい。オレが先に確保してたのに。

 素直に譲る気分じゃなくて、エリスちゃんに『オレが先にいたのにぃ』と文句を言ったところまたもや強烈な猫パンチを繰り出してきた。

 オレ、猫ちゃんの言葉は理解できないけどエリスちゃんの言いたいことはなんとなく理解できてしまう。

 キッと鋭い目つきでオレを睨んでくるエリスちゃんは、さっさと退けと言っているに違いない。

 するとそこへ割り込んできたルイス坊ちゃんが、なぜかオレに注意をしてきたのである。いやどう見てもオレがいじめられてるよねぇ?

 猫派の坊ちゃんは、いつでもエリスちゃんの味方だ。エリスちゃんもそれを理解しているのか。時折、まるでルイス坊ちゃんに告げ口するみたいに坊ちゃんを呼びに行くことがある。オレ、可哀想。

 ため息を吐いて、エリスちゃんに場所を譲ってあげる。

『あー、せっかくぽかぽかしてたのにぃ』

 ぶつぶつ言うと、坊ちゃんが「寒いの?」と首を傾げた。寒くはないけど、日向ぼっこしたい気分だったのだ。

 すると坊ちゃんが「いい場所があるよ!」と大きな声を出した。

『いい場所?』
「うん! 綿毛ちゃんにだけ教えてあげる」
『ほほう。それはどうも』

 にこにこお礼を言いながらも、オレは半信半疑だった。だってオレはずっと坊ちゃんと一緒にいる。坊ちゃんだけが知っていてオレの知らない場所なんてないと思うけど。

 けれども暖かい場所に案内してくれるらしいので、お任せしよう。

 オレを抱っこした坊ちゃんは、ジャンさんに「ちょっと行ってくるね!」と一方的に声をかけて部屋を飛び出した。ちなみにティアンさんは、ロニーさんに呼ばれて騎士棟に行ってしまった。

 ティアンさんがいない時の坊ちゃんは、割と余計なことをしちゃうんだけど。少しの不安を抱えるオレは、坊ちゃんに運ばれる。

 たどり着いたのは、オーガスくんの部屋だった。てっきり温室にでも向かうのだと思っていたオレは、ちょっとびっくりした。

 びっくりしたのは、オーガスくんもおんなじだったらしい。「え、ルイス?」と執務机から腰を浮かせたオーガスくんが、慌てたように机の上にあった箱を引き出しに突っ込んだ。すごく怪しい動きだったな、今の。

 なにか見られたくないものを隠したに違いない。
 ニマニマするオレを窓際に置いた坊ちゃんは、勝手に部屋のクローゼットを開けてしまう。

「待って、ルイス。なにしてるの!?」
「これでいいや」

 オーガスくんの悲鳴じみた声を無視して、坊ちゃんはクローゼットからマフラーを引っ張り出した。

 それはオーガスくんのマフラーだねぇ。

 マフラーをオレにぐるぐると巻きつけた坊ちゃんは満足そうに「どう?」と尋ねてきた。

『あったかい』
「ほんと? よかったね」
「いや、なんで僕のマフラー」

 オロオロしているオーガスくんは、にっこり笑うオレを見てから諦めたように項垂れてしまう。

『ありがとう。オーガスくん』
「う、うん。僕はなにもしてないけど」

 オレの側まで足を運んだオーガスくんは、「なんで僕の部屋に」と小声で訊いてきた。エリスちゃんに追い出されたのだと説明すると、オーガスくんが同情したように「綿毛ちゃんも大変だね」と言ってくれた。

 そう。オレも結構大変なのだ。

 オーガスくんと微笑みあったその時。
 背後から坊ちゃんの楽しそうな声があがった。

「あ! これ食べていい?」
「あ、ちょっと!」

 振り返ったオーガスくんは、坊ちゃんの手にある小箱に目を丸くしている。それは先程オーガスくんが慌てて引き出しに隠したものだった。

 中身はお菓子だったらしい。
 目を輝かせた坊ちゃんが、返事も待たずにお菓子を二個とった。

「ちょっと、それ僕のだってば」
「ちょうだい」
「いいけど一個にしてよ」
「ダメ。ユリスにもあげるから」
「えー?」

 苦い顔になったオーガスくんだけど、諦めたように息を吐く。ラッセルさんにもらったというお菓子は、オーガスくんの大好物なのだとか。店が遠いらしく滅多に買いに行けないので大事にしていたらしい。

 坊ちゃんに見せると根こそぎ持っていかれそうだもんね。

 いそいそと箱を引き出しに戻すオーガスくんが、「全部持っていかれるかと思った」と小さく呟いていたのをオレは聞き逃さなかった。

『オーガスくんも大変だねぇ』
「え? いや綿毛ちゃんに僕の大変さはわからないよ」
『普通に失礼だねぇ』

 オレのことを一体なんだと思っているのだろうか。
 マフラーのおかげで暖かくなってきたオレは、気持ちよさに目を閉じた。今ならエリスちゃんにも邪魔をされずに、のんびりお昼寝できそうである。
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