嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

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17歳

870 察しが悪い(sideカミール)

 朝から元気なルイス様は、昨日のことをどこまでティアンさんからお聞きになったのだろうか。

 嬉々として猫ちゃんを迎えにきたらしいルイス様は、テオドールから猫ちゃんを受け取って「エリスちゃん。寂しくなかった?」と優しく問いかけている。

 よっぽど猫ちゃんのことが大切なのだろう。

「よし! 朝ごはん食べよう」

 勢いよく宣言したルイス様に、俺は小さく頷く。しかしルイス様は、その綺麗な瞳を腕の中の猫ちゃんへと向けていた。

「ね、エリスちゃん!」

 猫ちゃんに言ったのかよ。紛らわしいな。
 よかった。声を出さなくて。

 こっそり胸を撫で下ろしていると、今度こそルイス様の目がこちらを向いた。

「カミールとテオドールも一緒に食べるでしょ?」
「ぜひ!」

 間髪入れずに答えるテオドールは、すでに上着を羽織って準備万端であった。それを横目で眺めつつ、俺は今度こそしっかり頷く。途端に笑顔になるルイス様はやっぱり可愛い。朝食を共にするだけで、普通はそこまで喜べないだろう。無邪気なルイス様は、猫ちゃんを抱え直すと踵を返した。

「じゃあユリスの部屋に来てね!」
「え」

 また後でね! と。
 一方的に言い放ったルイス様は、颯爽と部屋を出て行った。

 残された俺は、呆然と立ち尽くす。

 ユリス様の部屋に来いと言われても。いや、いつ?
 これってもう行ってもいいものなのか。なぜルイス様の部屋ではなくユリス様。ユリス様に話は伝わっているのか?

 一瞬の間に、いろんなことを考えた。

 突然ユリス様の部屋を訪れるなんて俺には無理なんだが。立ち尽くしていると、横でテオドールが無言で肩をすくめる様子が確認できた。

 優しいルイス様とは異なり、ユリス様はちょっと冷たい感じがしてしまう。もともとユリス様はその冷酷さで有名だった。俺みたいな子爵家には縁遠い人だったのだが、噂だけはよく耳にした。

 それがいつの頃からか。そういう噂をまったく聞かなくなった。なので過去の話だとわかっていても、つい身構えてしまう。

 ルイス様の自由な振る舞いに困惑していると、部屋に残っていたティアンさんが「ご案内しますよ」とありがたい申し出をしてくれた。

 どうやら俺たちの心情を察して残っていてくれたらしい。

 ティアンさんに続いて廊下に出ると、テオドールがそそくさとティアンさんに寄っていく。

「ところでティアンさん」
「はい?」

 小首を傾げたティアンさんの隣で、テオドールがニヤリと笑う。嫌な予感がした俺は、背後から「おい」とテオドールの腕を掴むが、こいつはこれくらいでは止まらない。

 俺を一瞥しただけでまたティアンさんに視線を戻したテオドールは、内緒話でもするみたいに声をひそめた。

「ルイス様に恋人ができたらしいんですけど。お相手が誰だか知りませんか?」
「……」

 この馬鹿。
 思わず喉元まで上がってきた言葉をなんとか飲み込んだ。そんなこと聞かなくてもわかるだろう。そもそも聞くな。

 けれどもテオドールの察しの悪さは俺も知っていた。

 俺は昨日のティアンさんの態度でなんとなく想像できてしまったのだが、どうやらテオドールはそうでもなかったらしい。こいつは一体なにを見ていたんだ。おそらくティアンさんには興味がないので、あまり気にしていなかったのだろう。

 テオドールは、とにかく美人が大好きである。
 ティアンさんも顔立ちはいいけど、美人とか可愛いという言葉が似合うような感じではない。テオドールの好みからは完全に外れている。

 けれども俺もティアンさんの答えが気になってしまった。

 無言で成り行きを見守っていると、ティアンさんが前を向いたまま「さぁ?」と苦笑する。

「え、ご存知ない? またまたぁ。こっそり教えてくださいよ。内緒にしておきますから」
「いえ、そう言われましても」

 明らかに濁そうとしているティアンさんは、困った顔をしている。俺はテオドールの肩を掴んで「どうでもいいだろ」と止めに入る。

「相手が誰であろうと、おまえに脈がないことはわかりきっている」
「真顔でそういうこと言うなよ」

 じゃあどんな顔で言えば満足なんだ。
 テオドールの肩をぽんぽん叩くと、ようやく彼は諦めたように首を左右に振ってみせた。

「じゃあルイス様がその恋人と別れたら教えてください」
「馬鹿!」

 その恋人とやらは、おまえの目の前にいるティアンさんなんだよ。本人に向かってなんて頼み事をしているんだ。

 思わずテオドールの頭を強めに叩いてしまった俺は悪くないはずだ。
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