嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

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17歳

872 どこから持ってきたんだ

 サンドイッチの残りを包んでもらって、テオドールに手渡した。ちゃんとカミールの分もある。馬車の中でのお弁当にすると言っていた。

 にこにこ笑顔で何度もお礼を言うテオドールは、よほど気に入ったらしい。そんなに気に入ってくれると俺も嬉しい。

「またいつでも遊びに来てね!」
「ありがとうございます。また近くを通りかかった時には寄らせてもらいますね」
「うん!」

 テオドールはフットワークが軽いのだろう。考えるよりも先に動いちゃうタイプのような気がする。対するカミールは、あれこれ悩んで行動を起こすのが遅いタイプだと思う。対照的なふたりだけど、なぜだかいつも一緒にいる。仲良しなのだ。

 ばいばいと手を振って、ふたりを見送った。

「楽しかったね」

 一緒にお見送りをしていたティアンを見上げると、優しい笑顔が返ってきた。

 ふたりがいなくなると急に屋敷が静かになった気がする。ちょっと寂しい。

 その足でユリスの部屋に向かうと、怠そうに本を読んでいたユリスが顔を上げた。

「帰ったのか?」
「うん」
「そうか。それはよかった。これでようやく静かになる」
「ユリスはずっと部屋に引きこもってただろ」

 なんだその疲れた顔は。
 ユリスの頭を小突いてから、椅子に座る。

 マイペースなユリスは、もう俺から視線を外して読書に戻ってしまう。ユリスの視線の先を追って、俺は「あれ?」と首を傾げる。てっきり本を読んでいるのだと思っていたのだが、違ったらしい。手書きのノートだ。

「なに読んでるの?」
「オーガスの日記みたいなものだ」
「え!?」

 オーガス兄様の日記って言ったか?
 急いでユリスからノートを奪う。パラパラ捲ってみると、たしかにオーガス兄様の文字で何かが書きつけてある。

「おい、なにをする。返せ」
「どこで見つけたの?」
「……」
「ねぇ!」

 なぜか黙り込むユリスは、立ち上がって俺の手からノートを奪おうとしてきた。その手から逃げるように、ノートを抱えて部屋を走り回る。タイラーが「やめなさい!」と注意してくるけど、それどころではない。

「というか、それってオーガス様の日記だったんですか!?」

 目を丸くするタイラーは、どうやら中身までは知らなかったようだ。ユリスが何か熱心に読んでいるな、くらいの認識だったのだろう。

 バタバタと逃げまわっていると、ティアンに捕まってしまった。「ちょっと、ルイス様」と言いながら俺を抱きしめるようにして捕獲したティアンは「勝手に読んで大丈夫なんですか?」と困った顔だ。

「知らない。読んでいいの? ユリス」
「別にいいだろ。オーガスのだし」
「なるほどね」

 うんうん頷く俺に、タイラーが「何がなるほどなんですか」と横槍を入れてくる。

「どこで見つけたの?」
「……」
「ねぇってば!」

 なぜか答えないユリス。これは何か後ろめたいことでもあるんだな。まさかオーガス兄様の部屋に侵入して盗んできたのだろうか。悪い奴め。

「ダメだよ、勝手に持ってきたら」
「どうでもいいだろ」
「よくないよ」

 俺の手からノートを強引に奪い取ったユリスは、「これは僕が処分しておく」と唐突に言った。いや、勝手に処分するのはダメだろ。

「オーガス兄様に返しなよ!」
「じゃあルイスが返しておけ」
「はぁ?」

 なぜか逆ギレしてくるユリスは、俺の胸にノートを押しつけてきた。反射的に受け取った俺は、思わずティアンを見上げた。

 俺とユリスを静かに見比べたティアンは、明らかに困っていた。椅子に座り直したユリスは、偉そうに俺を見遣る。

「オーガスに言っておけ。もっとマシな場所に隠しておけと」
「これ隠してあったの? どこに?」
「……」
「ねぇ! ユリス!」
「……」
「もう!」

 頑なに口を割らないユリスに、拳を握る。
 もう興味は失せたと言わんばかりに本棚から別の本を引っ張り出すユリス。

 迷ったけど、押しつけられたからには仕方がないだろう。

「行こう、ティアン」
「はい」

 不安そうなティアンを誘って、俺はノートを返すべくオーガス兄様の部屋を目指すことにした。
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