嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

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17歳

874 日記

「オーガス兄様を見習って、俺も日記書いてみようかな」
「勝手に書けばいいだろ」

 オーガス兄様に日記を届けるというミッションを達成した俺は、ユリスの部屋に戻ってそう宣言してみた。

 けれども冷たいユリスは、俺に一瞥もくれない。なんて愛想の悪いお子様だ。

 俺はオーガス兄様の日記を見てしまった。とはいえ中身は日々の出来事を記しただけの面白くないものだったけど。オーガス兄様も、別に見られても問題はないと言っていた。

 しかし日記というのは面白そうな気がした。早速使っていないノートを一冊引っ張り出してきた俺は、ユリスの部屋でペンを握る。「自分の部屋で書けよ」と眉を寄せるユリスを無視して、なにを書こうかと考える。

「……」

 考えてみるが、日記に書くような面白い出来事はまだ何も起きていない気がする。

 ペンを握ったまま、俺は向かいに座って本を読んでいるユリスを見た。

「ねー、ユリス」
「なんだ」
「日記に書けるような面白いことして」

 ゆっくり顔をあげたユリスは、俺を見据えて「ルイス」と口を開く。

「おまえ、自分が無茶なことを言っている自覚はあるのか?」
「ないね」
「そうか。僕じゃなくてブルースにでも頼めばいいだろ」

 適当に返してくるユリスはやる気がない。タイラーに顔を向けてみるが、彼も苦笑するだけで役に立たない。

 やる気のない奴の側に張り付いていても仕方がないので、ここはユリスのアドバイスに従っておくことにする。

『ねぇねぇ、オレのこと書いてもいいよぉ?』
「ティアン! ブルース兄様のとこ行こう」
『ねー、オレのこと日記に書いていいよぉ』

 ティアンを引き連れて、早速ブルース兄様の部屋に向かう。なんだか背後から追いかけてくるもふもふ毛玉がぶつぶつ言っている。テオドールたちが帰ったと聞いて、部屋から出てきたらしい。ジャンが連れてきたのだろうか。

『ひどい。こんなに可愛いオレを無視するなんてぇ』

 ブルース兄様は部屋にいた。
 眉間を揉んで疲れた表情の兄様は、俺を見るなり「今忙しいんだ」と謎アピールをしてくる。

「ねー、兄様ぁ。なんか面白いことして」
「帰れ」

 短く言い放ったブルース兄様は、おそらく仕事が忙しくてイライラしているのだ。

「アロン。アロンも仕事したほうがいいよ」
「え? 仕事……?」

 ソファで寝ていたアロンに声をかけてみたところ、そんな言葉初めて聞いた的な反応が返ってきた。さすがアロン。

 アロンの肩を叩いて起きるように促した。ソファに座り直したアロンは、忙しそうなブルース兄様に「頑張ってくださーい」と半笑いで声をかけた。やめろ。

 案の定、ブルース兄様の眉間の皺が深くなった。

「おい、ルイス」
「なに?」
「そいつを連れてどっか行ってくれないか」
「……」

 ブルース兄様が「そいつ」と言ったのは、もちろんアロンのことである。

 仕事手伝ってもらわなくていいのだろうかと思ったが、ブルース兄様いわく、「どうせ手伝わないのであれば俺の視界から消えてくれた方が数倍マシだ」とのこと。なるほどね。目の前でゴロゴロされると腹が立つってことね。

 了解した俺は、アロンの手を引いて立たせる。

「アロン。俺が遊んであげるから外に行こう」
「いいですよ」

 にこやかに応じるアロンは、ブルース兄様に手を振ってから廊下に出た。そんなアロンのことをティアンがずっと無言で睨んでいる。だらしない先輩に呆れていることが伝わってくる。

『ブルースくん。がんばれぇ』
「静かにするんだ、綿毛ちゃん」

 ブルース兄様の機嫌がこれ以上悪くなってはいけない。へらへら笑っている綿毛ちゃんを抱き上げて、素早く兄様の部屋から離れた。

「アロン。ブルース兄様の邪魔したらダメだよ」
「ルイス様。昨日はあの人たちと何をしていたんですか?」

 俺の注意をガン無視したアロンは、怠そうな声でそんな質問をしてきた。テオドールとカミールのことを聞いているのは明白だ。

 昨夜、アロンもしばらく一緒にいたのだ。途中で俺が追い出す形になったんだけど。どうやらアロンは、自分が客室を出た後に、俺が何をしていたのか知りたいらしい。

「普通にお喋りしてたよ」
「俺と話していた方が楽しいですよ、絶対に」
「あっうん」

 真顔で断言されて、反応に困ってしまう。腕の中の綿毛ちゃんはケラケラ笑っているけど。

「あ! でもティアンとお喋りするよりは、あのお友達と喋る方が楽しいですよね」

 ティアンを横目にそんなことを言うアロン。アロンは、いつだってティアンに対する嫌がらせを忘れない。

 アロンの言葉を聞き流すティアンの方が、よほど大人だと思う。

 苦笑した俺は「ティアンと話すのも楽しいよ」と答えておく。

『オレはぁ? オレとのお喋りも楽しいでしょ?』
「うんうん。綿毛ちゃんと話すのも楽しいよ」
『わーい! やったぁ。オレも坊ちゃんと話すの好きだよ』

 満面の笑みを浮かべる綿毛ちゃんを抱え直して、俺はティアンを窺う。アロンのことを呆れきった目で見ていたティアンは、俺の視線に気がついて小さく微笑んでくれた。

「……」

 なんだろう。ティアンとは、別に会話がなくても楽しいんだよな。
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