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17歳
880 空気読んで
「ユリス。ちょっと来て」
「断る」
「断らないで!」
朝食後。
暇そうなユリスの肩を揺さぶって「こっちに来て」と促してみる。
嫌そうに眉を寄せるユリスは「なぜ」と上から目線で理由を尋ねてくる。
「ちょっと話がある」
「ここで話せばいいだろう」
「空気を読め!」
ここで話せないから必死になっているんだろう。
いまいち通じないユリスの肩を押してやる。やめろと盛大に顔をしかめるユリスは、ちらりと室内に視線を走らせた。
「……ん?」
無言でティアンを指差したユリスに、俺は勢いよく頷いておく。
急に空気を読み始めたユリスは、やれやれと言わんばかりに無言で肩をすくめる。しかし、やはり頼りになる弟だ。急に立ち上がったユリスは、ティアンの前に歩いて行く。
「おい」
「はい。どうしました?」
ちょっと困惑気味に応じるティアン。その横でタイラーが「え、俺じゃなくて?」みたいな顔でユリスを凝視している。ユリスは基本的に雑用をタイラーに押し付けている。ティアンに声をかけるのは稀なことだ。
「ちょっと出て行け」
「え? 僕ですか?」
「他に誰がいるんだ」
……前言撤回。
やっぱりユリスは役に立たない。
なんでそんな真正面から言っちゃうのだ。
俺はティアンに怪しまれないよう自然な感じで彼を追い出してほしかったのだ。直球でいってどうする。
俺の責めるような視線に気がつかないユリスは、「さっさと出て行け」と苛立った声を出す。誰が無理矢理追い出せって言ったよ。
妙な空気を感じ取った綿毛ちゃんが、無駄にそわそわしている。これは首を突っ込みたくて仕方がないのだろう。悪い毛玉め。
綿毛ちゃんが邪魔をしないように、捕まえておく。
『ユリス坊ちゃん。ついにティアンさんのこと嫌いになったのかなぁ?』
「なんでユリスがティアンのこと嫌いにならないといけないんだよ」
変なことを言うんじゃない。
小声でボソボソ言う綿毛ちゃんは、むぎゅっと眉間に皺を寄せている。本人は難しい表情をしているつもりらしいが、見た目がもふもふ毛玉なのでちょっと面白い感じになっている。
「僕のいない間に何をするつもりなんですか」
「おまえには聞かれたくない話をするんだ。ルイスがな」
ユリスめ!
なんて余計なことを口走るんだ。ティアンが俺に窺うような目を向けてくる。
どうしようもないので、俺は大きく頷いておく。
ユリスの言う通りだと無言で主張すると、ティアンが苦笑しながら応じてくれた。
「じゃあ向こうに顔を出してきますね」
「うん。ごめんね」
ティアンの言う向こうとは騎士棟のことだ。
ついでに片付けたい仕事でもあるのだろう。案外あっさりとティアンが退出するなり、タイラーが「変なこと企んでいるわけではないですよね?」と真剣な顔で確認してくる。
「企んでないよ」
「こいつとジャンは追い出さなくてもいいのか?」
タイラーとジャンを指さしたユリス。その腕をおろしてやって、俺は「いいよ、ふたりはいても」と答えておく。
別にティアン以外に聞かれても問題はない。
『オレはぁ?』
「綿毛ちゃんもいいよ。毛玉だし」
『へへっ、どうも』
今なんでお礼を言われたんだろうか。
綿毛ちゃんの感性は謎だ。もしかして毛玉は褒め言葉だと思っているんだろうか。まぁいいや。
「それで。話とは?」
椅子に座り直したユリスが偉そうに口を開く。空気を読んだのか。ジャンがお茶を淹れ始めた。
それを横目で眺めつつ、俺はユリスの向かいに腰を落ち着ける。
「ティアンと何をすればいいと思う?」
「は? 質問の意味がわからない」
「だから、何をすれば恋人っぽくなる?」
「……はぁ?」
盛大に顔をしかめたユリスは、口を閉じてしまう。そのまま考え込むユリスは、やがて「そんなこと僕に聞くなよ」と拗ねたように言い放った。
「なんで?」
「僕に恋人がいないのを知っていて聞いているのか?」
「はぁ? なにそれ。俺が嫌味言ってるって言いたいの?」
俺がそんな意地の悪いことするわけないだろ。というかユリスにそう思われるのが心外。急になにを言い出すんだ。
思わず声の低くなった俺に、抱っこしていた綿毛ちゃんが忙しなく顔を動かした。
『喧嘩しないでぇ。ルイス坊ちゃんに、そんな嫌味言えるような賢さがあるわけないでしょ。落ち着こうよ』
……なんか今すっごい失礼なこと言ったな、この毛玉。
思わず綿毛ちゃんを見下ろすと、へらへらした笑顔が目に入る。だが、綿毛ちゃんの言葉でユリスが「それもそうだな」と落ち着いたのも事実。
揃いも揃って失礼だぞ。
けれどもここで文句を言ってまた話がややこしくなるのも避けたい。結果、俺は黙って綿毛ちゃんの毛を抜くことにした。
『……なんか痛い』
「ハゲてしまえ!」
『え!? なんかひどい。やめてぇ』
ぴょんと俺の膝から飛び降りた綿毛ちゃんは『ジャンさん、助けてぇ』とジャンの足元にすがりつく。ティーポットを持っていたジャンが「え?」と困惑気味に綿毛ちゃんを見下ろしている。
綿毛ちゃんの毛は、引っ張ってもあんまり抜けなかった。
「断る」
「断らないで!」
朝食後。
暇そうなユリスの肩を揺さぶって「こっちに来て」と促してみる。
嫌そうに眉を寄せるユリスは「なぜ」と上から目線で理由を尋ねてくる。
「ちょっと話がある」
「ここで話せばいいだろう」
「空気を読め!」
ここで話せないから必死になっているんだろう。
いまいち通じないユリスの肩を押してやる。やめろと盛大に顔をしかめるユリスは、ちらりと室内に視線を走らせた。
「……ん?」
無言でティアンを指差したユリスに、俺は勢いよく頷いておく。
急に空気を読み始めたユリスは、やれやれと言わんばかりに無言で肩をすくめる。しかし、やはり頼りになる弟だ。急に立ち上がったユリスは、ティアンの前に歩いて行く。
「おい」
「はい。どうしました?」
ちょっと困惑気味に応じるティアン。その横でタイラーが「え、俺じゃなくて?」みたいな顔でユリスを凝視している。ユリスは基本的に雑用をタイラーに押し付けている。ティアンに声をかけるのは稀なことだ。
「ちょっと出て行け」
「え? 僕ですか?」
「他に誰がいるんだ」
……前言撤回。
やっぱりユリスは役に立たない。
なんでそんな真正面から言っちゃうのだ。
俺はティアンに怪しまれないよう自然な感じで彼を追い出してほしかったのだ。直球でいってどうする。
俺の責めるような視線に気がつかないユリスは、「さっさと出て行け」と苛立った声を出す。誰が無理矢理追い出せって言ったよ。
妙な空気を感じ取った綿毛ちゃんが、無駄にそわそわしている。これは首を突っ込みたくて仕方がないのだろう。悪い毛玉め。
綿毛ちゃんが邪魔をしないように、捕まえておく。
『ユリス坊ちゃん。ついにティアンさんのこと嫌いになったのかなぁ?』
「なんでユリスがティアンのこと嫌いにならないといけないんだよ」
変なことを言うんじゃない。
小声でボソボソ言う綿毛ちゃんは、むぎゅっと眉間に皺を寄せている。本人は難しい表情をしているつもりらしいが、見た目がもふもふ毛玉なのでちょっと面白い感じになっている。
「僕のいない間に何をするつもりなんですか」
「おまえには聞かれたくない話をするんだ。ルイスがな」
ユリスめ!
なんて余計なことを口走るんだ。ティアンが俺に窺うような目を向けてくる。
どうしようもないので、俺は大きく頷いておく。
ユリスの言う通りだと無言で主張すると、ティアンが苦笑しながら応じてくれた。
「じゃあ向こうに顔を出してきますね」
「うん。ごめんね」
ティアンの言う向こうとは騎士棟のことだ。
ついでに片付けたい仕事でもあるのだろう。案外あっさりとティアンが退出するなり、タイラーが「変なこと企んでいるわけではないですよね?」と真剣な顔で確認してくる。
「企んでないよ」
「こいつとジャンは追い出さなくてもいいのか?」
タイラーとジャンを指さしたユリス。その腕をおろしてやって、俺は「いいよ、ふたりはいても」と答えておく。
別にティアン以外に聞かれても問題はない。
『オレはぁ?』
「綿毛ちゃんもいいよ。毛玉だし」
『へへっ、どうも』
今なんでお礼を言われたんだろうか。
綿毛ちゃんの感性は謎だ。もしかして毛玉は褒め言葉だと思っているんだろうか。まぁいいや。
「それで。話とは?」
椅子に座り直したユリスが偉そうに口を開く。空気を読んだのか。ジャンがお茶を淹れ始めた。
それを横目で眺めつつ、俺はユリスの向かいに腰を落ち着ける。
「ティアンと何をすればいいと思う?」
「は? 質問の意味がわからない」
「だから、何をすれば恋人っぽくなる?」
「……はぁ?」
盛大に顔をしかめたユリスは、口を閉じてしまう。そのまま考え込むユリスは、やがて「そんなこと僕に聞くなよ」と拗ねたように言い放った。
「なんで?」
「僕に恋人がいないのを知っていて聞いているのか?」
「はぁ? なにそれ。俺が嫌味言ってるって言いたいの?」
俺がそんな意地の悪いことするわけないだろ。というかユリスにそう思われるのが心外。急になにを言い出すんだ。
思わず声の低くなった俺に、抱っこしていた綿毛ちゃんが忙しなく顔を動かした。
『喧嘩しないでぇ。ルイス坊ちゃんに、そんな嫌味言えるような賢さがあるわけないでしょ。落ち着こうよ』
……なんか今すっごい失礼なこと言ったな、この毛玉。
思わず綿毛ちゃんを見下ろすと、へらへらした笑顔が目に入る。だが、綿毛ちゃんの言葉でユリスが「それもそうだな」と落ち着いたのも事実。
揃いも揃って失礼だぞ。
けれどもここで文句を言ってまた話がややこしくなるのも避けたい。結果、俺は黙って綿毛ちゃんの毛を抜くことにした。
『……なんか痛い』
「ハゲてしまえ!」
『え!? なんかひどい。やめてぇ』
ぴょんと俺の膝から飛び降りた綿毛ちゃんは『ジャンさん、助けてぇ』とジャンの足元にすがりつく。ティーポットを持っていたジャンが「え?」と困惑気味に綿毛ちゃんを見下ろしている。
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