嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

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17歳

閑話45 相談(sideホレイシオ)

「……僕のこと、どう思う?」
「は?」

 いつものようにティアンと飯を食っていたところ、なにやら真面目な顔をしたティアンがそう尋ねてきた。

 どう思うってなんだよ。
 なにその曖昧な問いかけ。

 意図が掴めないままに、俺はとりあえず「普通にかっこいいよ」と褒めておく。事実、ティアンは顔がいい。学園時代も何かと女子から注目されていた。とはいえ肝心のティアン本人はまったく女子に興味なかったみたいだけど。

 しかし俺の答えは不満だったらしい。僅かに眉を寄せたティアンが「そういうのはいいから」と苦い声を出す。

 流れでティアンと定期的に会うことになった俺は、ほぼ毎回ティアンから愚痴めいたことを聞かされていた。

 元々人付き合いが苦手なのか。それとも意図的に避けているのかは不明だが、ティアンはとにかく同期との交流がない。

 ヴィアン家で働いていることも、それに拍車をかけている。

 学園時代の同期たちは、俺を含めてほぼほぼ騎士として働いている。俺みたいに王立騎士団所属であれば、学園時代の同期や先輩後輩と顔を合わせる機会も多い。

 しかしティアンの場合は、ずっとヴィアン家のルイス様に付きっきり。おまけにルイス様は、積極的に外に出るタイプでもない。それゆえに、ティアンは同期の中でもレアな存在になりつつあった。みんなティアンのことが気になっているらしいが、そう気軽に会えるチャンスもない。そんな中、唯一ティアンと交流の続いている俺は、最近よく同期に囲まれている。

 みんなティアンのことが気になるなら、直接会いに行けばいいのに。なんで俺から様子を聞き出そうとするんだよ。

 一応、もっと他の人間とも会ってやれとティアンに伝えているのだが、「なんで?」と真顔で聞き返された。

 どうやらティアンは、懐かしい友達と顔を合わせて思い出を語り合う的な行動に価値を感じないらしい。ティアンって、ほんとそういうところが冷たい。

 けれども俺の方から足を伸ばせば、割と会ってくれるようになった。これは何度もティアンに声をかけ続けた俺の苦労が実を結んだ結果だろう。

 今日もそんな感じでティアンを半ば強引に呼び出した俺は、いつもの店で夕飯を共にしていた。

「僕って面倒くさい人間だと思う?」
「急にどうした? なにか嫌なことでもあったのか?」

 常に自信満々のティアンが、そんなことを言い出すのは珍しい。もしやアロン子爵あたりにでも何か嫌なことを言われたのだろうかと心配になる。

 ティアンから毎度聞かされる愚痴は、決まってアロン子爵やその周辺の話であった。

「嫌なことと言うか」

 これまた珍しく言葉を濁したティアンは、残っていた肉を口に入れた。しばらくして飲み込んだ彼は、迷うような目で俺を見る。

「前に話したよね。恋人の話」
「あぁ、え? 振られたの?」

 ティアンに恋人ができたと聞かされたのは、つい先日のこと。相手が誰なのかは教えてもらえなかったけど、その時のティアンは幸せそうだった。

 もう振られたのか? それで落ち込んで、自分に自信をなくしたのだろうか?

「まぁ、そんなこともあるさ。俺も付き合ってた彼女に振られたぞ。しかもその理由が、なんか違うからってさ。なんか違うってなんだよ。もっとちゃんとした理由で振ってほしいんだけど」

 その時のことを思い出して頭を抱えると、向かいで水を飲んでいたティアンが「いや。僕は振られてないから」とさらりと言った。

 おまえ、ふざけるなよ。振られてないのかよ。
 俺はなんのために失恋を暴露したんだ。

 頬を引きつらせていると、ティアンが目を細めた。

「振られたんだ。まぁ、元気出しなよ」
「いや、別に引きずってねぇから」

 ティアンを励まそうと思って披露しただけのこと。そんな真面目な調子で励ますな。なんか憐れな気分になるから。

「振られた原因がわからなくて悩んでるんだ? 相手に直接訊いてみたら?」
「いや、俺の話はいいから」

 頼むから掘り下げないでくれ。
 今は俺よりもティアンだ。

 振られたんじゃないのであれば、一体何に悩んでいるというのか。

 静かに促すと、ティアンが腕を組んだ。
 こいつ、なんでそんなに偉そうな態度なんだよ。

「なんかさ。最近余裕がないっていうか」
「仕事忙しいの? アロン子爵のせいで?」
「いや、仕事はそんなに。アロン殿の相手が大変なのは認めるけど」
「やっぱり大変なんだ」

 アロン子爵は色々と噂の絶えない人である。あの人と一緒に働くのは苦労が多いだろう。

「仕事じゃなくて。その、恋人の言動がいちいち気になってしまうというか……」
「……へぇ」

 え、恋愛相談なの?
 なんで俺に?

 やべぇ、彼女に振られたとか言うんじゃなかった。こんな振られた奴に恋愛相談なんて、ティアンも気が乗らないだろう。

 目を伏せていると、ティアンが「僕は心が狭いのかもしれない」と唐突に言った。急にどうしたよ。

「恋人が、他の男とベタベタしてるとちょっとモヤモヤする」
「へー」

 なんか意外と普通の恋愛相談でびっくりする。
 ティアンの恋人がどんな人なのかは知らないが、愛されているんだろうな。勝手にティアンは恋人に尽くされるタイプだと思っていたのだが、どうやらティアンの方が尽くしているらしい。

 こんなに他人に興味のないティアンを虜にするなんて、お相手さんは一体何者なんだよ。

 内心で驚きつつも、ティアンの相談には答えなければならない。

 恋人が他の男とベタベタしてたら普通に嫌な気分にもなるだろう。だから別にティアンの心が狭いわけではないと伝えると、ティアンが「そう」と小さく呟く。

「でもさ。アロン殿は僕が嫌がるってわかってて、あえてベタベタしに行ってる感じなんだけど」
「おまえ、アロン子爵に振り回されてんね」

 仕事だけじゃなくてプライベートでも絡まれてるのかよ。
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