嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

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17歳

884 作戦実行

「今日は特別に綿毛ちゃん貸してあげる」
「はい。ありがとうございます」

 苦笑しながらお礼を言ったティアン。やっぱりそんなに綿毛ちゃんに興味ないのかも。ニマニマしている毛玉は、悪い顔。そんな顔をしてたら、作戦がティアンに勘付かれるかもしれないからやめるんだ。

 必死に目線で訴えるけど、鈍い毛玉は首を傾げるだけ。綿毛ちゃんに任せてもいいのか。ちょっと心配になってきた。

 しかし文句を言っても仕方がない。

 この作戦はすべてが綿毛ちゃんにかかっているのだ。失敗するんじゃないぞ。

 こうしてニマニマと怪しく笑う毛玉を送り出した俺は、エリスちゃんと共に寝室に引っ込んだ。もう寝るからと言ってジャンも追い出す。あとは時間になるまで起きておくだけ。

「エリスちゃん。今日は寝たらダメだよ? わかった?」

 無言のエリスちゃんは、俺のお願いを聞き流してしまう。既に眠そうな顔だ。こりゃダメだ。

「エリスちゃん。寝ちゃダメだよ!」

 ベッドの真ん中を陣取ったエリスちゃんは、目を閉じてしまう。寝たらダメなのに。

 エリスちゃんのことは諦めて、やれやれと肩をすくめる。

 ベッドに寝転んだらそのまま寝てしまいそうなので、頑張って座っておく。

「エリスちゃん。起きてよ」

 全然起きてくれないエリスちゃん。やがて本当に寝てしまった。どうして。

 そうして眠気と戦っているうちに、綿毛ちゃんと約束した時間になった。いそいそと上着を羽織った俺は、静かに部屋を出る。エリスちゃんをひとりにするのは可哀想なので、抱っこして連れて行く。

 ティアンの部屋は、すぐ隣。あんまり音を立てるとティアンが起きてしまう。ノックするわけにもいかないので、ドアの前で待ち構える。

 すると中から鍵の開く音がした。

「坊ちゃん。どうぞ」
「綿毛ちゃん、よくやった」
「どうもぉ」

 人間姿になった綿毛ちゃんが、にこにこしながらドアを開けてくれた。

「ティアンは?」
「寝てるよぉ」

 小声で会話しながら、部屋に侵入する。
 途端に犬姿に戻った綿毛ちゃんは『あー、疲れたぁ』と大きく欠伸をした。

 ティアンの部屋には、なかなか入る機会がない。
 明かりをつけるわけにはいかないので、暗闇の中をそろそろ歩く。だがアロンの部屋と違ってきちんと片付いている。暗くても問題はない。

 寝室で寝ていると言うので、俺は静かにドアノブを回した。なんか緊張してきたのだが、ここで引き返すことはできない。

 そうして意を決して寝室のドアを開けた俺。けれども立ちふさがるティアンを見て、足元の毛玉を睨みつけた。

「……綿毛ちゃんの嘘つき!」
『あれぇ?』

 さっきまで寝てたよぉと首を傾げる綿毛ちゃんは、やっぱりあんまり役に立たなかった。

「なにをしているんですか。ルイス様」

 呆れたような声を出すティアンは、完全に俺を待ち構えていた。俺たちの計画が完全にバレている。

 しかしティアンの部屋に侵入できたのは大きい。こうなったら強引に居座ってやると、ベッド目掛けて走り出す。

「行け! エリスちゃん」
『なんでエリスちゃん連れて来たのぉ?』

 置いてくればよかったのにと酷いことを言う綿毛ちゃんは、のんびりベッドに向かってくる。

「ちょっと、ルイス様」

 ティアンが手を伸ばしてくるけど、俺に触れる直前でためらうように動きを止めた。

「ご自分の部屋で寝てくださいよ」
「嫌だ」

 困ったように言うティアンは、つい先程まで寝ていたに違いない。ちょっと髪が乱れている。

「じゃあ朝まで起きておこうよ」

 ふとユリスの雑なアドバイスを思い出して、そう提案してみる。ベッドに寄って来たティアンは、「いや、起きててどうするんですか」と小さく苦笑する。

 ベッドに腰掛けた俺は、エリスちゃんを枕の上に置いてあげた。気にせず寝ているエリスちゃんは、マイペースなのだ。

「ティアン。ここ座っていいよ」
『わーい!』
「綿毛ちゃんには言ってないから」

 隣をぽんぽんと叩くと、なぜか綿毛ちゃんが飛び乗ってくる。ふざけた毛玉をベッドの奥に押しやってから、俺は再びティアンを呼ぶ。

「……ちょっとだけですよ」

 しばらく黙り込んでいたティアンだが、やがて折れてくれた。ベッドに並んで腰掛けると、ちょっと楽しくなってきた。

 ティアンが俺の隣に座ってくれるなんて珍しい。
 これだけで嬉しくなっちゃうから、困ったものだな。
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