嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

文字の大きさ
907 / 966
17歳

900 ほんとだね

 ほらもう寝ますよと俺を急かすティアンは、ちょっと焦りすぎだと思う。まだお茶飲んでないけど?

 ヤカンを指さすと、ティアンも動きを止める。そうして咳払いで全部誤魔化そうとするティアンは、無言でティーカップを用意し始める。その様子を綿毛ちゃんと一緒になってニヤニヤと見守る。

「これ飲んだら寝てくださいよ」
「うん」

 差し出されたティーカップを受け取って、口をつける。

「おいしい」
「そうですか。よかったです」
「ここ座って」

 隣の椅子を示すと、ティアンがちょっとだけためらう。ティアンがこういう時に遠慮するのは、もはやいつもの流れである。一体なにを遠慮する必要があるのか。もう仕事も終わっている時間である。ちょっとくらい相手をしてくれてもいいだろう。

「ねー、ティアン。座って」
「……夜更かしはダメですよ」

 なぜか文句を言いながら座ってくれたティアンに、俺は満面の笑みを浮かべる。綿毛ちゃんのニヤッとした視線を感じるけど、今は毛玉に構っている暇はないのだ。

「……」
「ちょっとルイス様」

 距離を感じたので、椅子を近付ける。
 なぜか制止に入ってくるティアンは、真面目すぎ。恋人同士なんだから、これくらいよくない?

「冷めますよ」
「うん。飲むよ」

 せっかくティアンが用意してくれたお茶である。温かいうちに飲んでしまう。

 その間、ティアンを逃さないようにと片手でティアンの袖を掴んでおく。固まるティアンは、ちょっと居心地悪そうだけど。

「……ねー、ティアン」
「なんですか?」
「ちょっとキスして」
「っ、はぁ!?」

 急に大声を出すティアンは、すぐに「ダメですよ」と続ける。なんでダメなのか理由を説明してほしい。

「キスしてー」
「なに言ってるんですか。こんな時間に」

 こんな時間ってなに?
 ティアンは何時に訊いても、どうせダメって言うだろ。むしろ何時ならいいんだ。

 足元で綿毛ちゃんが『ティアンさん。がんばれぇ』と応援している。いいぞ、綿毛ちゃん。綿毛ちゃんは俺の味方だ。そのままティアンの背中を押すんだ。

 ティーカップを置いて、ティアンに向き直る。ティアンの膝に手を置いて、「いいでしょー?」とお願いしてみる。

「いや、ダメですよ」
「なんでぇ」
「眠れなくなるので」
「どういうこと?」

 ティアンは真顔でこういうことを言うので、冗談だとわかりにくい。え、冗談だよね??

 じっとティアンの顔を見つめる。

 こちらを見据えるティアンは、眉間に皺が寄っている。恋人を前にして、どうしてそんな険しい顔をするんだよ。もうちょい肩の力を抜くべきだ。

「ティアン」
「ダメです」
「じゃあ一緒に寝よ」
「それもダメです」
「ダメばっかりじゃん。嫌だ。どっちか選んで」

 あれもダメ、これもダメ。
 ちょっと我儘だぞ。

「キスして。それか一緒に寝て」
「一緒に寝るのはダメなんですって」
「なんでなの?」

 がんばれーと小声で応援してくる綿毛ちゃんに頷いて、俺は一歩も引き下がらない決意をした。

「キスしてくれないとやだ。眠れないもん」
「……」

 上目遣いでティアンを見る。
 まだ髪がしっとりしているティアンの頬にそっと手を伸ばしてみる。

 うーん。なんかいける気がする。

 えいっとティアンに顔を近付ける。けれども唇を合わせる前に、ティアンが手のひらを俺の口に押し付けてきた。

「……」

 これはひどい。ティアンを睨むと、ふいっと顔を背けた彼が俺の口から手を離す。

「もう。なんでダメなの」

 ひどいと顔をしかめていると、こちらに顔を戻したティアンがグッと近付いてきた。そのまま唇を奪われて、目を見開く。

「……うわぁ」

 ティアンにキスされちゃった。
 さっと元の距離に戻ったティアンが、自分の前髪を払ってから「はい、もう寝ましょうね」と言う。ちょっぴり早口の彼は、確実に照れている。

「……キスされちゃった」

 赤くなった頬を両手で包んで、俺はへへっと笑う。

 えー、どうしよ。キスされちゃった。
 ニマニマが止まらない。ほんとどうしよう。これじゃ眠れそうにないや。

 なんか一気に目が覚めた気がする。

「ティアン、眠れなくなっちゃったかも。どうしてくれるんだ」

 責任取れとティアンの膝をペシペシ叩いてやる。

「だから眠れなくなるって言ったじゃないですか」

 呆れを含んだ、けれども照れたように言うティアン。

 ほんとだね。冗談じゃなかった。

 もう眠れなくなっちゃった。どうすればいいんだろうか、これ。

 困った俺は、ティアンと静かに顔を見合わせる。

「もう少しだけ、お喋りでもしますか?」

 今日だけですよと夜更かしを許してくれるティアンに小さく頷いて、俺は幸せでニマニマしちゃう頬をひたすら押さえていた。
感想 731

あなたにおすすめの小説

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」

星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。 ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。 番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。 あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、 平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。 そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。 ――何でいまさら。オメガだった、なんて。 オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。 2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。 どうして、いまさら。 すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。 ハピエン確定です。(全10話) 2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話

あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」 トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。 お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。 攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。 兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。 攻め:水瀬真広 受け:神崎彼方 ⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。 途中でモブおじが出てきます。 義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。 初投稿です。 初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 内容も時々サイレント修正するかもです。 定期的にタグ整理します。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

あなたの愛したご令嬢は俺なんです

久野字
BL
「愛しい令息と結ばれたい。お前の家を金銭援助するからなんとかしろ」 没落寸前の家を救うため、強制的な契約を結ばれたアディル。一年限りで自分の体が令嬢に変わる秘薬を飲まされた彼は、無事に令息と思いを通じ合わせることに成功するが……

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
【完結/番外編準備中】 目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです! ---------- 追記:読んでくださった皆さま、本当にどうもありがとうございました!! 完結しましたが回収しきれていないエピソードが私の中でいくつかあるので笑、後日番外編をアップしたいなと現在準備中です。 詳しい更新日まだ未定ですが、もしよろしかったらゼヒまた覗いてやってくださいねー!