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17歳
909 もふもふ
揺れる馬車の中、なんだか楽しい気分の俺は意味もなく視線を彷徨わせていた。出発したばかりなので、窓の外は見慣れた光景だ。
俺の隣に大人しく座っているジェフリーは、緊張の面持ちで固まっている。単なる遊びの旅行なのだから、もっと肩の力を抜いていいのに。
ジェフリーの向かいにはティアンが座っている。ティアンは、膝の上でぎゅっと拳を握っているジェフリーのことを心配そうに見守っている。アーキア公爵家の使用人も同行しているのだが、ジェフリーにとっては慣れない空間らしく顔が強張っている。
変な緊張感が漂う車内であるが、俺の向かいにいるユリスは腕を組んで居眠りしている。まだ出発したばかりでもう寝るのか。はやくない?
しんとした車内はちょっと居心地が悪い。
ジェフリーの緊張も気になった俺は、控えめにジェフリーの肩を触る。
「昨日は眠れた?」
「い、え。あ、はい」
「え? どっちなの?」
曖昧に笑うジェフリーは、多分眠れなかったんだと思う。わかるよ。遠足前に眠れないあの状況だよね。
まぁ、俺は普通に寝たけど。
「眠いなら寝ててもいいよ。ユリスも寝てるし」
「寝てない。起きてる」
「おわ、びっくりしたぁ」
てっきり寝ていると思い込んでいたユリスが急に声を発したので、普通に驚いてしまった。心臓のあたりをそっと押さえる俺の姿に、ジェフリーがちょっとだけ気の抜けたように笑ってくれたので結果的によしとしよう。
「なんで起きてるの?」
「僕が起きていたら何か不都合でも?」
偉そうに腕を組んだままのユリスは、窓の外に視線をやる。ガタガタと揺れる馬車の前後には荷馬車や馬に乗った騎士たちがいる。
「犬と猫、置いてきちゃった」
ぽつりと呟いてから、エリスちゃんのことを思い浮かべる。エリスちゃんは繊細な猫である。俺がいなくて寂しい思いをしていないだろうか。綿毛ちゃんにいじめられたりしていないだろうか。
きゅっと眉を寄せていると、ジェフリーが「心配なんですか?」とそっと声をかけてくれた。
「うん、ちょっとね。でもオーガス兄様が面倒見てくれるはずだから」
たぶん大丈夫だと思う。
うん。どうだろうか。
オーガス兄様は情けないから、エリスちゃんに負けるかもしれない。猫を相手に悲鳴をあげるオーガス兄様の姿は簡単に想像できてしまう。
「連れてくればよかっただろ」
ユリスが不思議そうに言うけど、そんなに簡単な話じゃない。綿毛ちゃんはいいかもしれないけど、エリスちゃんに長旅はすごくストレスだと思う。だから連れてくるのは無理だ。近場へのお出かけなら一緒に行けるんだけどね。
「あー、もふもふに触りたい」
思い出したらエリスちゃんに触りたくなってしまった。膝に乗せてもふもふしたい。
急な欲求に襲われた俺は、一番身近にあったジェフリーの頭に手を伸ばす。ジェフリーが固まっているうちに、その頭をわしゃわしゃ撫でる。ユリスが「なにをやっているんだ」と呆れ気味に言うけど、無視しておく。
「うーん。なんか違う」
もふもふじゃない。
綿毛ちゃんとエリスちゃんはもっともふもふしている。しょんぼりする俺に、ティアンが「ジェフリー様がお困りですよ」と眉をひそめた。固まって動かないジェフリーは、ティアンの言うように困っているのかもしれない。
ごめんねと慌てて手を離す。
「い、いえ。ちょっとびっくりしました」
「うん。ごめん」
ボソボソ応じるジェフリーは、俺のせいで髪が乱れていた。申し訳ない気持ちになった俺は、再びジェフリーの髪に手を伸ばす。今度は手櫛で整えてあげたのだが、またもやジェフリーは動きを止めてしまった。なんかごめんね。
「猫を触っている気分になりたかっただけなの」
「すみません。僕の髪がもふもふじゃなくて」
「ううん」
そんなの気にする必要はないよ。
真面目なジェフリーが面白くて、ふふっと笑う。頬を掻くジェフリーは、ようやく緊張が解けたように小さく微笑んだ。
「僕、今日は誘ってもらえて嬉しいです。がんばります」
「うん? 別に頑張らなくていいよ」
一体なにを頑張るというのか。頑張るのではなくて、もう少し肩の力を抜いてほしいんだけどな。
俺の隣に大人しく座っているジェフリーは、緊張の面持ちで固まっている。単なる遊びの旅行なのだから、もっと肩の力を抜いていいのに。
ジェフリーの向かいにはティアンが座っている。ティアンは、膝の上でぎゅっと拳を握っているジェフリーのことを心配そうに見守っている。アーキア公爵家の使用人も同行しているのだが、ジェフリーにとっては慣れない空間らしく顔が強張っている。
変な緊張感が漂う車内であるが、俺の向かいにいるユリスは腕を組んで居眠りしている。まだ出発したばかりでもう寝るのか。はやくない?
しんとした車内はちょっと居心地が悪い。
ジェフリーの緊張も気になった俺は、控えめにジェフリーの肩を触る。
「昨日は眠れた?」
「い、え。あ、はい」
「え? どっちなの?」
曖昧に笑うジェフリーは、多分眠れなかったんだと思う。わかるよ。遠足前に眠れないあの状況だよね。
まぁ、俺は普通に寝たけど。
「眠いなら寝ててもいいよ。ユリスも寝てるし」
「寝てない。起きてる」
「おわ、びっくりしたぁ」
てっきり寝ていると思い込んでいたユリスが急に声を発したので、普通に驚いてしまった。心臓のあたりをそっと押さえる俺の姿に、ジェフリーがちょっとだけ気の抜けたように笑ってくれたので結果的によしとしよう。
「なんで起きてるの?」
「僕が起きていたら何か不都合でも?」
偉そうに腕を組んだままのユリスは、窓の外に視線をやる。ガタガタと揺れる馬車の前後には荷馬車や馬に乗った騎士たちがいる。
「犬と猫、置いてきちゃった」
ぽつりと呟いてから、エリスちゃんのことを思い浮かべる。エリスちゃんは繊細な猫である。俺がいなくて寂しい思いをしていないだろうか。綿毛ちゃんにいじめられたりしていないだろうか。
きゅっと眉を寄せていると、ジェフリーが「心配なんですか?」とそっと声をかけてくれた。
「うん、ちょっとね。でもオーガス兄様が面倒見てくれるはずだから」
たぶん大丈夫だと思う。
うん。どうだろうか。
オーガス兄様は情けないから、エリスちゃんに負けるかもしれない。猫を相手に悲鳴をあげるオーガス兄様の姿は簡単に想像できてしまう。
「連れてくればよかっただろ」
ユリスが不思議そうに言うけど、そんなに簡単な話じゃない。綿毛ちゃんはいいかもしれないけど、エリスちゃんに長旅はすごくストレスだと思う。だから連れてくるのは無理だ。近場へのお出かけなら一緒に行けるんだけどね。
「あー、もふもふに触りたい」
思い出したらエリスちゃんに触りたくなってしまった。膝に乗せてもふもふしたい。
急な欲求に襲われた俺は、一番身近にあったジェフリーの頭に手を伸ばす。ジェフリーが固まっているうちに、その頭をわしゃわしゃ撫でる。ユリスが「なにをやっているんだ」と呆れ気味に言うけど、無視しておく。
「うーん。なんか違う」
もふもふじゃない。
綿毛ちゃんとエリスちゃんはもっともふもふしている。しょんぼりする俺に、ティアンが「ジェフリー様がお困りですよ」と眉をひそめた。固まって動かないジェフリーは、ティアンの言うように困っているのかもしれない。
ごめんねと慌てて手を離す。
「い、いえ。ちょっとびっくりしました」
「うん。ごめん」
ボソボソ応じるジェフリーは、俺のせいで髪が乱れていた。申し訳ない気持ちになった俺は、再びジェフリーの髪に手を伸ばす。今度は手櫛で整えてあげたのだが、またもやジェフリーは動きを止めてしまった。なんかごめんね。
「猫を触っている気分になりたかっただけなの」
「すみません。僕の髪がもふもふじゃなくて」
「ううん」
そんなの気にする必要はないよ。
真面目なジェフリーが面白くて、ふふっと笑う。頬を掻くジェフリーは、ようやく緊張が解けたように小さく微笑んだ。
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