嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

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17歳

924 ふらふら

 広場までの道のりはそう遠くない。
 ジェフリーと並んで歩いていた俺だが、物珍しい街並みにふらふらと視線を彷徨わせていたのが悪かったのかもしれない。

 前から歩いてきた女の子とぶつかってしまい慌てて手を差し伸べる。

「あっ、ごめん」

 咄嗟に謝ると、少しよろけた女の子が顔を上げた。茶髪をひとつ結びにした子だ。近所の子だろうか。ジェフリーと同い年くらいかもしれない。

 けれども俺が差し伸べた手は、なぜかティアンがやんわり戻してしまう。さりげなく俺の肩を抱くティアンは、俺を背中へと庇うように押しやった。

 代わりに女の子の前に立ったティアンは「大丈夫ですか?」と彼女に声をかけている。

 押しやられた俺は、ジェフリーと顔を見合わせる。

 なぜか俺に代わって彼女に謝罪するティアン。幸いちょっと肩が当たったくらいで、たいしたことはない。ぺこりと頭を下げた少女は、そのまま足早に去って行こうとする。

 けれどもそこに介入してくる者がいた。

「おいおい。見逃すのかよ」
「ちょっと! 離して!」

 呆れたように口を挟んできたのは、背の高い男だった。片手をズボンのポケットに突っ込んだ猫背の男は、もう片方の手で少女の首根っこを捕まえている。

 意味不明な状況に、ぽかんとする俺。
 ティアンも険しい顔で男を見据えている。

「そっちの坊ちゃんたちはともかく。君は護衛だろ。スリを見逃しちゃってどうするんだよ」
「スリ?」

 首を傾げる俺であるが、ティアンはハッとして顔で少女を見た。途端に、少女が「ごめんなさい!」と叫ぶように言う。

 え? スリなの?

 ぱちぱち目を瞬いていると、隣にいたジェフリーが「ルイス様。財布は?」と遠慮気味に指摘してきた。

 お金がないと不便だろうからと、俺は今回の旅に財布を持ってきていた。財布もその中身も全部ブルース兄様が用意してくれたものである。

 たしか上着のポケットに突っ込んでいたはずと手を伸ばすが、あるはずの財布がない。さっと青ざめる俺に、少女を捕まえた男が「ほらみろ」と言わんばかりにため息を吐く。

 よく見れば、男はちょっと長めの髪を器用に結んでいた。これはギリ長髪の部類に入るのだろうか。俺的にはもうちょい伸ばしてほしい気もする。

 いや、今は髪の長さに文句をつけている場合ではない。

「えっと、俺の財布とったの?」

 おそるおそる少女に問えば、みるみるその目に涙をためた少女が「ごめんなさい!」と必死になって謝ってくる。

「おまえな、ごめんで済むわけないだろ」

 低い声で言う男は、少女のことを鋭い目で睨みつけている。怯えたように首をすくめる少女は、「ご、ごめんなさい」と繰り返すばかり。

「すごくとりやすそうだったから、つい」
「そんな……」

 小声で白状されて、俺は情けなく眉尻を下げる。
 それって俺がぼんやりしているって意味だろうか。なんか悲しい。

「ありがとうございます」

 男にお礼を言ったティアンは、「それで」と少女を見下ろす。

「とった財布は?」

 返してと少女に手を差し出すティアンだが、それに応じたのは男のほうだった。

「ほらよ、坊ちゃん」
「うわっ」

 俺に向かって財布を投げた男。
 なんとかキャッチした俺は偉い。「ありがとう」とお礼を言って、財布をポケットに突っ込もうとしたのだが、男が「おい」と再び責めるような声を出した。

「中を確認しろ」
「なるほど」

 言われるがままに財布の中を確認してみるが、多分全部入っている。ブルース兄様が用意したものなので、そもそもいくら入っていたのか俺は知らない。

 適当に「たぶん大丈夫」と答えると、男が「なんだよ、それ」と呆れた。

 財布も無事に戻ってきたし、一件落着。
 涙目の少女に「もうとったらダメだよ」と告げてから、ばいばいと手を振っておく。

 なぜか目を見開いた少女と男。

「え、それだけ? 怒らないの?」

 ビクビクと少女に問われて、首を傾げた。
 怒るというより、びっくりした。自分がスリの被害にあうなんて思ってもいなかったし、ましてやスられたことに気が付かないなんて。

 俺は相当間抜けだったに違いない。
 急に恥ずかしくなって、へへっと笑っておく。

「いやなに笑ってんだ。許すのか?」

 今度は怒ったような男に詰め寄られて、戸惑ってしまう。

「え、だって別になにもとられてないし」
「とられただろうが。財布を!」
「返してもらったし」
「俺が! 取り返してやったの!」

 大声を出す男は、額を押さえて呻いてしまう。そのまま「嘘だろ……」とこぼした男は、ガシガシと頭を掻いた。
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