935 / 966
17歳
924 ふらふら
広場までの道のりはそう遠くない。
ジェフリーと並んで歩いていた俺だが、物珍しい街並みにふらふらと視線を彷徨わせていたのが悪かったのかもしれない。
前から歩いてきた女の子とぶつかってしまい慌てて手を差し伸べる。
「あっ、ごめん」
咄嗟に謝ると、少しよろけた女の子が顔を上げた。茶髪をひとつ結びにした子だ。近所の子だろうか。ジェフリーと同い年くらいかもしれない。
けれども俺が差し伸べた手は、なぜかティアンがやんわり戻してしまう。さりげなく俺の肩を抱くティアンは、俺を背中へと庇うように押しやった。
代わりに女の子の前に立ったティアンは「大丈夫ですか?」と彼女に声をかけている。
押しやられた俺は、ジェフリーと顔を見合わせる。
なぜか俺に代わって彼女に謝罪するティアン。幸いちょっと肩が当たったくらいで、たいしたことはない。ぺこりと頭を下げた少女は、そのまま足早に去って行こうとする。
けれどもそこに介入してくる者がいた。
「おいおい。見逃すのかよ」
「ちょっと! 離して!」
呆れたように口を挟んできたのは、背の高い男だった。片手をズボンのポケットに突っ込んだ猫背の男は、もう片方の手で少女の首根っこを捕まえている。
意味不明な状況に、ぽかんとする俺。
ティアンも険しい顔で男を見据えている。
「そっちの坊ちゃんたちはともかく。君は護衛だろ。スリを見逃しちゃってどうするんだよ」
「スリ?」
首を傾げる俺であるが、ティアンはハッとして顔で少女を見た。途端に、少女が「ごめんなさい!」と叫ぶように言う。
え? スリなの?
ぱちぱち目を瞬いていると、隣にいたジェフリーが「ルイス様。財布は?」と遠慮気味に指摘してきた。
お金がないと不便だろうからと、俺は今回の旅に財布を持ってきていた。財布もその中身も全部ブルース兄様が用意してくれたものである。
たしか上着のポケットに突っ込んでいたはずと手を伸ばすが、あるはずの財布がない。さっと青ざめる俺に、少女を捕まえた男が「ほらみろ」と言わんばかりにため息を吐く。
よく見れば、男はちょっと長めの髪を器用に結んでいた。これはギリ長髪の部類に入るのだろうか。俺的にはもうちょい伸ばしてほしい気もする。
いや、今は髪の長さに文句をつけている場合ではない。
「えっと、俺の財布とったの?」
おそるおそる少女に問えば、みるみるその目に涙をためた少女が「ごめんなさい!」と必死になって謝ってくる。
「おまえな、ごめんで済むわけないだろ」
低い声で言う男は、少女のことを鋭い目で睨みつけている。怯えたように首をすくめる少女は、「ご、ごめんなさい」と繰り返すばかり。
「すごくとりやすそうだったから、つい」
「そんな……」
小声で白状されて、俺は情けなく眉尻を下げる。
それって俺がぼんやりしているって意味だろうか。なんか悲しい。
「ありがとうございます」
男にお礼を言ったティアンは、「それで」と少女を見下ろす。
「とった財布は?」
返してと少女に手を差し出すティアンだが、それに応じたのは男のほうだった。
「ほらよ、坊ちゃん」
「うわっ」
俺に向かって財布を投げた男。
なんとかキャッチした俺は偉い。「ありがとう」とお礼を言って、財布をポケットに突っ込もうとしたのだが、男が「おい」と再び責めるような声を出した。
「中を確認しろ」
「なるほど」
言われるがままに財布の中を確認してみるが、多分全部入っている。ブルース兄様が用意したものなので、そもそもいくら入っていたのか俺は知らない。
適当に「たぶん大丈夫」と答えると、男が「なんだよ、それ」と呆れた。
財布も無事に戻ってきたし、一件落着。
涙目の少女に「もうとったらダメだよ」と告げてから、ばいばいと手を振っておく。
なぜか目を見開いた少女と男。
「え、それだけ? 怒らないの?」
ビクビクと少女に問われて、首を傾げた。
怒るというより、びっくりした。自分がスリの被害にあうなんて思ってもいなかったし、ましてやスられたことに気が付かないなんて。
俺は相当間抜けだったに違いない。
急に恥ずかしくなって、へへっと笑っておく。
「いやなに笑ってんだ。許すのか?」
今度は怒ったような男に詰め寄られて、戸惑ってしまう。
「え、だって別になにもとられてないし」
「とられただろうが。財布を!」
「返してもらったし」
「俺が! 取り返してやったの!」
大声を出す男は、額を押さえて呻いてしまう。そのまま「嘘だろ……」とこぼした男は、ガシガシと頭を掻いた。
ジェフリーと並んで歩いていた俺だが、物珍しい街並みにふらふらと視線を彷徨わせていたのが悪かったのかもしれない。
前から歩いてきた女の子とぶつかってしまい慌てて手を差し伸べる。
「あっ、ごめん」
咄嗟に謝ると、少しよろけた女の子が顔を上げた。茶髪をひとつ結びにした子だ。近所の子だろうか。ジェフリーと同い年くらいかもしれない。
けれども俺が差し伸べた手は、なぜかティアンがやんわり戻してしまう。さりげなく俺の肩を抱くティアンは、俺を背中へと庇うように押しやった。
代わりに女の子の前に立ったティアンは「大丈夫ですか?」と彼女に声をかけている。
押しやられた俺は、ジェフリーと顔を見合わせる。
なぜか俺に代わって彼女に謝罪するティアン。幸いちょっと肩が当たったくらいで、たいしたことはない。ぺこりと頭を下げた少女は、そのまま足早に去って行こうとする。
けれどもそこに介入してくる者がいた。
「おいおい。見逃すのかよ」
「ちょっと! 離して!」
呆れたように口を挟んできたのは、背の高い男だった。片手をズボンのポケットに突っ込んだ猫背の男は、もう片方の手で少女の首根っこを捕まえている。
意味不明な状況に、ぽかんとする俺。
ティアンも険しい顔で男を見据えている。
「そっちの坊ちゃんたちはともかく。君は護衛だろ。スリを見逃しちゃってどうするんだよ」
「スリ?」
首を傾げる俺であるが、ティアンはハッとして顔で少女を見た。途端に、少女が「ごめんなさい!」と叫ぶように言う。
え? スリなの?
ぱちぱち目を瞬いていると、隣にいたジェフリーが「ルイス様。財布は?」と遠慮気味に指摘してきた。
お金がないと不便だろうからと、俺は今回の旅に財布を持ってきていた。財布もその中身も全部ブルース兄様が用意してくれたものである。
たしか上着のポケットに突っ込んでいたはずと手を伸ばすが、あるはずの財布がない。さっと青ざめる俺に、少女を捕まえた男が「ほらみろ」と言わんばかりにため息を吐く。
よく見れば、男はちょっと長めの髪を器用に結んでいた。これはギリ長髪の部類に入るのだろうか。俺的にはもうちょい伸ばしてほしい気もする。
いや、今は髪の長さに文句をつけている場合ではない。
「えっと、俺の財布とったの?」
おそるおそる少女に問えば、みるみるその目に涙をためた少女が「ごめんなさい!」と必死になって謝ってくる。
「おまえな、ごめんで済むわけないだろ」
低い声で言う男は、少女のことを鋭い目で睨みつけている。怯えたように首をすくめる少女は、「ご、ごめんなさい」と繰り返すばかり。
「すごくとりやすそうだったから、つい」
「そんな……」
小声で白状されて、俺は情けなく眉尻を下げる。
それって俺がぼんやりしているって意味だろうか。なんか悲しい。
「ありがとうございます」
男にお礼を言ったティアンは、「それで」と少女を見下ろす。
「とった財布は?」
返してと少女に手を差し出すティアンだが、それに応じたのは男のほうだった。
「ほらよ、坊ちゃん」
「うわっ」
俺に向かって財布を投げた男。
なんとかキャッチした俺は偉い。「ありがとう」とお礼を言って、財布をポケットに突っ込もうとしたのだが、男が「おい」と再び責めるような声を出した。
「中を確認しろ」
「なるほど」
言われるがままに財布の中を確認してみるが、多分全部入っている。ブルース兄様が用意したものなので、そもそもいくら入っていたのか俺は知らない。
適当に「たぶん大丈夫」と答えると、男が「なんだよ、それ」と呆れた。
財布も無事に戻ってきたし、一件落着。
涙目の少女に「もうとったらダメだよ」と告げてから、ばいばいと手を振っておく。
なぜか目を見開いた少女と男。
「え、それだけ? 怒らないの?」
ビクビクと少女に問われて、首を傾げた。
怒るというより、びっくりした。自分がスリの被害にあうなんて思ってもいなかったし、ましてやスられたことに気が付かないなんて。
俺は相当間抜けだったに違いない。
急に恥ずかしくなって、へへっと笑っておく。
「いやなに笑ってんだ。許すのか?」
今度は怒ったような男に詰め寄られて、戸惑ってしまう。
「え、だって別になにもとられてないし」
「とられただろうが。財布を!」
「返してもらったし」
「俺が! 取り返してやったの!」
大声を出す男は、額を押さえて呻いてしまう。そのまま「嘘だろ……」とこぼした男は、ガシガシと頭を掻いた。
あなたにおすすめの小説
妖精です、囲われてます
うあゆ
BL
僕は妖精
森で気ままに暮らしていました。
ふと気づいたら人間に囲まれてました。
でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。
__________
妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精
なんやかんやお互い幸せに暮らします。
声を失った悪役令息は北の砦で覚醒する〜無詠唱結界で最強と呼ばれ、冷酷侯爵に囲われました〜
天気
BL
完結に向けて頑張ります
5月中旬頃完結予定です
その後は、サイドストーリーをちょこちょこ投稿していこうと思ってます
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された
楽矢
BL
【完結/番外編準備中】
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。
何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。
記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。
----------
※注)
かっこいい攻はいません。
タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意!
貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。
ハッピーエンドです。
激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします!
全16話 完結済み
他サイトにも同作品を投稿しています。
様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。
初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!
----------
追記:読んでくださった皆さま、本当にどうもありがとうございました!!
完結しましたが回収しきれていないエピソードが私の中でいくつかあるので笑、後日番外編をアップしたいなと現在準備中です。
詳しい更新日まだ未定ですが、もしよろしかったらゼヒまた覗いてやってくださいねー!
記憶を無くしたら家族に愛されました
レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない…
家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
【完結】それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ずっと憧れていた蓮見馨に勢いで告白してしまう。
するとまさかのOK。夢みたいな日々が始まった……はずだった。
だけど、ある出来事をきっかけに二人の関係はあっけなく終わる。
過去を忘れるために転校した凪は、もう二度と馨と会うことはないと思っていた。
ところが、ひょんなことから再会してしまう。
しかも、久しぶりに会った馨はどこか様子が違っていた。
「今度は、もう離さないから」
「お願いだから、僕にもう近づかないで…」
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。