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198 勉強も
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「マーティーが近々こちらへ遊びにくると言っている」
「やった」
ピクニックの数日後。
朝から俺の部屋にやって来たブルース兄様が、そう言って手紙を渡してきた。差出人は、もちろんマーティーである。
わくわくと受け取ったのも束の間。開封した跡のある封筒に、思わず固まる。ちらりとブルース兄様を窺えば、「なんだ」と高圧的な声が降ってきた。なんでどいつもこいつも人の手紙を勝手に開封するんだ。俺が開けたかったと主張するが、ブルース兄様は無視してしまう。酷い兄だ。
「それで。しばらくマーティーがこちらに滞在すると言っている。構わないな?」
「滞在」
つまりお泊まりってことだ。なにそれ楽しそう。いいよと返事をすれば、「ではそういうことで手配しておく」と兄様は去って行った。
マーティーからの手紙には、兄様の言った通り、数日滞在する旨が記されている。しかし、事前に手紙で持ってこいと念押ししておいた謎の箱とやらについての記載はない。こっちは箱を回収するためにマーティーを呼んだのだ。忘れたら許さない。大丈夫だろうかと心配になるが、黒猫ユリスの手前、どうしようもない。
マーティーに預けた箱を持ってくるよう伝えたことは、黒猫ユリスにも内緒なのだ。どうやら箱の中身とやらについては極秘らしく、俺が尋ねても教えてくれないのだ。きっと魔導書が入っているのではないかと睨んでいる。だって怪しいコレクション蒐集が趣味の本物ユリスが、珍しい魔導書とやらを読み終わったというシンプルな理由で燃やすはずがない。
きっとどこかに隠してあるはずなのだ。黒猫ユリスの余裕な態度を見るに、そう近くにはない。だとしたらマーティーに預かってもらっているという箱が一番怪しい。
「サムは来るかな?」
王宮と聞いて真っ先に思い浮かぶのが、王立騎士団所属の彼である。サムは、うちの騎士であるロニーのことが好きなあまり、ヴィアン家に潜入までしていたのである。一時はロニーに失恋した彼であるが、最近になってロニーが恋人と別れたことが判明している。きっとサムにもまだチャンスはある。
微妙な顔で「どうでしょうか?」と小首を傾げるジャン。ジャンは他人の恋愛話が意外とお好きなのだ。ロニーに恋人できたという情報を持ってきたのも彼である。きっと内心では、サムとロニーの一件について興味津々のはずだ。
「タイラーも、サムのこと応援してあげてね」
「その話は本当なんですか? 信じられないんですけど」
おそらくユリス様の勘違いですよ、と失礼なことを吐き捨てるタイラー。だが仕方ない。タイラーは、あの誘拐事件の現場に居合わせていなかったのだ。サムを見ていればわかる。彼はロニーに本気だ。
それにタイラーは、あんまり恋愛事に詳しくはなさそうである。なんせこの中で一番経験豊富なのが俺だからな。俺には一時期恋人いたし、なんならアロン相手ではあるがキスの経験もある。得意気にふんぞり返ってみれば、「お行儀悪いですよ」とタイラーが眉を寄せた。
※※※
「そろそろ馬に乗れるようにならないとダメですよ」
「絶対に嫌」
午後からやって来たティアンは、早速お小言を口にする。どうやら父親であるクレイグ団長から何か言われたらしい。しきりに乗馬の練習をしろと迫ってくる。急にどうしたよ。
「馬に乗れないと遠出もままなりませんよ」
「遠出しないから大丈夫」
「大丈夫ではありません。それに、ちゃんとお勉強もしてください」
「勉強はやってる。カル先生と一緒にやってるじゃん」
「あんなんじゃ足りません」
ちょっと不機嫌なティアンは、大きくため息をつく。
「本当に。しっかりしてくださいね。僕だっていつまでもユリス様の面倒をみれるわけじゃないんですから」
「なんで? おまえは俺の遊び相手だろ」
あと俺がティアンの面倒を見ているのであって、ティアンが俺の面倒みてるわけではない。毎日のこのこやって来るティアンである。きっと暇人なのだ。しかしティアンは、緩く首を左右に振ってしまう。
「何度も言いますけど。僕は騎士になる予定です。いつまでもユリス様のお側にいるわけにはいきません」
「なんで?」
「なんでって。騎士になるために色々とやらなければならないことがあるので。訓練もそうですし、勉強もです。いつまでも遊んではいられません」
なんでそんなこと言うんだ。不満をあらわにすれば、ティアンが偉そうに腰に手をあてる。
「僕は将来、父上の跡を継ぎます。わかりますか? 伯爵家の跡を継ぐんです。そのためには色々と身につけなければならないことが山ほどあります」
「ふーん」
しかし伯爵家を継ぐのはアロンも一緒である。あいつはそんなに大層な準備をしている気配はない。
「アロン殿は成人しています。ああ見えて諸々の準備は既に済んでいる状態です」
そうなのか。アロンは大人だもんな。比べてティアンは十二歳である。今から色々と勉強するのだろう。
「頼みますから、僕が居るうちに乗馬くらい出来るようになってください。あとお勉強も!」
「はいはい」
「もう。また適当に返事して」
もう知りません、とそっぽを向くティアンは、やっぱりお子様だった。
「やった」
ピクニックの数日後。
朝から俺の部屋にやって来たブルース兄様が、そう言って手紙を渡してきた。差出人は、もちろんマーティーである。
わくわくと受け取ったのも束の間。開封した跡のある封筒に、思わず固まる。ちらりとブルース兄様を窺えば、「なんだ」と高圧的な声が降ってきた。なんでどいつもこいつも人の手紙を勝手に開封するんだ。俺が開けたかったと主張するが、ブルース兄様は無視してしまう。酷い兄だ。
「それで。しばらくマーティーがこちらに滞在すると言っている。構わないな?」
「滞在」
つまりお泊まりってことだ。なにそれ楽しそう。いいよと返事をすれば、「ではそういうことで手配しておく」と兄様は去って行った。
マーティーからの手紙には、兄様の言った通り、数日滞在する旨が記されている。しかし、事前に手紙で持ってこいと念押ししておいた謎の箱とやらについての記載はない。こっちは箱を回収するためにマーティーを呼んだのだ。忘れたら許さない。大丈夫だろうかと心配になるが、黒猫ユリスの手前、どうしようもない。
マーティーに預けた箱を持ってくるよう伝えたことは、黒猫ユリスにも内緒なのだ。どうやら箱の中身とやらについては極秘らしく、俺が尋ねても教えてくれないのだ。きっと魔導書が入っているのではないかと睨んでいる。だって怪しいコレクション蒐集が趣味の本物ユリスが、珍しい魔導書とやらを読み終わったというシンプルな理由で燃やすはずがない。
きっとどこかに隠してあるはずなのだ。黒猫ユリスの余裕な態度を見るに、そう近くにはない。だとしたらマーティーに預かってもらっているという箱が一番怪しい。
「サムは来るかな?」
王宮と聞いて真っ先に思い浮かぶのが、王立騎士団所属の彼である。サムは、うちの騎士であるロニーのことが好きなあまり、ヴィアン家に潜入までしていたのである。一時はロニーに失恋した彼であるが、最近になってロニーが恋人と別れたことが判明している。きっとサムにもまだチャンスはある。
微妙な顔で「どうでしょうか?」と小首を傾げるジャン。ジャンは他人の恋愛話が意外とお好きなのだ。ロニーに恋人できたという情報を持ってきたのも彼である。きっと内心では、サムとロニーの一件について興味津々のはずだ。
「タイラーも、サムのこと応援してあげてね」
「その話は本当なんですか? 信じられないんですけど」
おそらくユリス様の勘違いですよ、と失礼なことを吐き捨てるタイラー。だが仕方ない。タイラーは、あの誘拐事件の現場に居合わせていなかったのだ。サムを見ていればわかる。彼はロニーに本気だ。
それにタイラーは、あんまり恋愛事に詳しくはなさそうである。なんせこの中で一番経験豊富なのが俺だからな。俺には一時期恋人いたし、なんならアロン相手ではあるがキスの経験もある。得意気にふんぞり返ってみれば、「お行儀悪いですよ」とタイラーが眉を寄せた。
※※※
「そろそろ馬に乗れるようにならないとダメですよ」
「絶対に嫌」
午後からやって来たティアンは、早速お小言を口にする。どうやら父親であるクレイグ団長から何か言われたらしい。しきりに乗馬の練習をしろと迫ってくる。急にどうしたよ。
「馬に乗れないと遠出もままなりませんよ」
「遠出しないから大丈夫」
「大丈夫ではありません。それに、ちゃんとお勉強もしてください」
「勉強はやってる。カル先生と一緒にやってるじゃん」
「あんなんじゃ足りません」
ちょっと不機嫌なティアンは、大きくため息をつく。
「本当に。しっかりしてくださいね。僕だっていつまでもユリス様の面倒をみれるわけじゃないんですから」
「なんで? おまえは俺の遊び相手だろ」
あと俺がティアンの面倒を見ているのであって、ティアンが俺の面倒みてるわけではない。毎日のこのこやって来るティアンである。きっと暇人なのだ。しかしティアンは、緩く首を左右に振ってしまう。
「何度も言いますけど。僕は騎士になる予定です。いつまでもユリス様のお側にいるわけにはいきません」
「なんで?」
「なんでって。騎士になるために色々とやらなければならないことがあるので。訓練もそうですし、勉強もです。いつまでも遊んではいられません」
なんでそんなこと言うんだ。不満をあらわにすれば、ティアンが偉そうに腰に手をあてる。
「僕は将来、父上の跡を継ぎます。わかりますか? 伯爵家の跡を継ぐんです。そのためには色々と身につけなければならないことが山ほどあります」
「ふーん」
しかし伯爵家を継ぐのはアロンも一緒である。あいつはそんなに大層な準備をしている気配はない。
「アロン殿は成人しています。ああ見えて諸々の準備は既に済んでいる状態です」
そうなのか。アロンは大人だもんな。比べてティアンは十二歳である。今から色々と勉強するのだろう。
「頼みますから、僕が居るうちに乗馬くらい出来るようになってください。あとお勉強も!」
「はいはい」
「もう。また適当に返事して」
もう知りません、とそっぽを向くティアンは、やっぱりお子様だった。
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