嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

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11歳

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「あ、ユリスいた」
「なんだ。なんでおまえがここに来る。子供はさっさと部屋に戻れ」
「同い年だろ」

 正確には、俺の方が精神年齢的に上である。そこは譲れない。

 湖のほとりに、ユリスはいた。

 ポケットに手を突っ込んで、ぼんやりと水面を眺めていたユリスは、俺たちに気がつくと露骨に顔を顰めてみせた。なんだその嫌そうな顔は。

「みんな探してるよ」
「なぜ」

 なぜって。そんな急に姿が消えたら普通に探すだろうよ。とぼけた発言をするユリスは、ラッセルの姿を捉えて眉を寄せた。口には出さないが、この場にラッセルがいることを不思議に思っているらしい。オーガス兄様と喧嘩しに来たらしいことを教えてやると、途端に口角を上げるあたり嫌なお子様である。

「喧嘩をしに来たわけでは」

 ラッセルはそう否定するが、オーガス兄様と言い争っていたのは事実である。ラッセルが勝っていた。結果も教えてやると、ユリスがにやにやする。どうやらオーガス兄様が言い負かされたことが楽しいようだ。

「よくやった」

 偉そうにラッセルを褒めるユリス。すかさず「ありがとうございます!」と、ラッセルが頭を下げるという謎のやり取りを見せられる。

「それで? こんなところでなにを?」

 怠そうに問いかけるアロンは、さりげなくユリスの側へと寄っていく。どうやらユリスが湖に落ちないよう気にかけているらしい。こっそり立入り禁止の森に俺を連れてきたことに後ろめたさを感じているのだろうか。いつも以上に気遣いを発揮している。

「湖見てたの? 泳ぎたいのか」
「そんなわけ」

 俺の言葉を否定したユリスは「なんでもない」と誤魔化してしまう。引きこもりの彼が、朝早くからひとりで湖を訪れるなんて。なんでもないわけがない。

 じっと凝視していると、ユリスが大袈裟にため息をついた。

「別に。ちょっと確認しておきたかっただけだ」
「確認?」

 ユリスにつられて、湖へと視線を遣る。特に変わったところはない。

「それでいい。魔導書を持ち去ったことでなにか変化があるかと思ったんだが。なにもないな」

 拍子抜けした、と湖に背を向けるユリス。どうやら魔導書と湖になにか繋がりがあるのではと考えていたらしい。魔導書を持ち去ったことで、湖に変なことが起きていないか気がかりだったらしい。

「なんでこんな時間にひとりで確認するの?」

 そのせいで屋敷が大騒ぎになっている。もうちょい時間を考えろと注意するが、ユリスは鼻で笑って流してしまう。

「行くと言ってもダメと言われるのが目に見えている」
「たしかに」

 湖(というより森)には立ち入るなと、普段から言われている。先日だって、ここに来るまでにブルース兄様を説得するのにすごく苦労した。

 どうやらタイラーを撒くために、彼がまだ姿を現さない早朝に部屋を出たらしい。なにその行動力。普段は面倒くさがりの引きこもりなのに、魔法が絡むと途端に変な行動力を発揮する。

「ご無事でなによりです。お兄様方も心配しておられますよ」

 そろそろ戻りましょう、と眉尻を下げるラッセルは、わかりやすく安堵していた。オーガス兄様に任せろと大口叩いて出てきた手前、何の成果もなしに帰る羽目にならなくて安心したようだ。


※※※


「では、私はオーガス様に報告してきますね」

 無事にユリスを連れ帰り。
 俺の部屋で、どこから持ってきたのかわからないクッキーを頬張って、オーガス兄様のところに戻ると言うラッセルに手を振っておく。

 アロンがしれっと差し出してきたクッキーだが、おそらく厨房からくすねてきたのだろう。いまだにお菓子泥棒をやっているとは。呆れた大人である。

 ジャンが淹れてくれた紅茶を飲みつつ、おやつタイムを満喫する。朝食を口にしていないユリスも、黙々とクッキーを食べている。

「アロンは仕事しなくていいの?」
「してるじゃないですか」

 どうやら俺とユリスのお世話が仕事と言いたいらしい。そうだな。

 自分にもおやつ寄越せと鳴いている白猫の頭を撫でて、もふもふしておく。

 欠伸をするユリスは、早起きして眠いらしい。

「というか、おまえは朝食済ませたんだろ。これは僕のクッキーだ」
「なんで?」

 突然、クッキーは全部自分のものだと主張しだすユリスの相手は、すごく大変だった。
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