351 / 925
15歳
405 警戒
しおりを挟む
「なんですか! それ!」
「犬だもん。俺が拾ったんだから、ティアンにはあげない」
綿毛ちゃんを隠すように抱え込む。
あの後、俺のことを追いかけてユリスの部屋へと駆け込んできたティアンは、綿毛ちゃんのことをすごい勢いで指さしてくる。『落ち着こうよぉ』と、綿毛ちゃんが他人事のようにごにょごにょ言っている。
「出て行けよ。朝からうるさい」
苦い顔をするユリスは、タイラーに「こいつらを追い出せ」と冷たい指示を出している。
俺から綿毛ちゃんを取り上げようとしてくるティアンから必死に逃げまわる。『やめてよぉ。落ち着こうよ』と、毛玉がうるさい。
正式にヴィアン家騎士団所属となったらしいティアンは、朝から早速うちの騎士服を着こなしていた。前に一度だけ見たことがある学園の制服はあんまり似合っていなかったのに。身長が伸びて、おまけに鍛えたおかげだろうか。ピシッと着こなす姿は、どこからどう見ても立派な騎士だ。
「これは綿毛ちゃん! お喋りする普通の犬! もふもふで可愛い!」
綿毛ちゃんを頭上に掲げて、大声で宣言する。ティアンがひくりと頬を引き攣らせる。褒められた綿毛ちゃんが『どうもどうも』と嬉しそうに尻尾を振っている。
「ブルース兄様が飼っていいって言った」
『そうそう。よろしくねぇ、ティアンさん』
「意味がわかりません」
わかれよ。
こんなに丁寧に説明してあげたのに。
綿毛ちゃんは、魔法で生み出された不思議な生き物である。ティアンだって、魔法のせいで一時期俺がユリスに成り代わっていたことを知っている。
こういう不思議な生き物なのだと説明してやれば、「信じられません」との失礼な答え。
別に信じてくれなくていいもん。
ティアンには綿毛ちゃん貸してあげないから。
手を伸ばしてくるティアンから、綿毛ちゃんを守ってあげる。どうやら本気で俺の護衛をやるつもりらしい。レナルドにしてと騒いでやるが、誰も真剣に聞いてくれない。
レナルドはそれでいいのか。ティアンに立場を奪われているぞ。
とりあえず、ティアンには「綿毛ちゃん、いじめないでね」と念押ししておく。
ユリスが出て行けとうるさいので、渋々自室に戻る。当然のような顔でついてくるティアンに、そわそわとした気分になる。
何度見ても、俺の知っているティアンとは違う。違うのに、むこうは馴々しく接してくるからざわざわする。
いつの間にか部屋に居たらしいジャンにも綿毛ちゃんを見せて、犬と猫にごはんをあげる。
「猫ちゃん。大きくなりましたね」
「……」
「毎日なにをしているんですか?」
「……」
「ルイス様?」
無視ですか? と低い声を出すティアンは不機嫌顔だった。
ティアンに背中を向けて、ひたすら綿毛ちゃんとエリスちゃんを交互に撫でる。
『坊ちゃん、ティアンさんと会うの楽しみにしてたんじゃないの?』
「綿毛ちゃん、うるさいぞ」
余計なことを口走る毛玉を捕獲する。
案の定、ティアンが「楽しみにしててくれたんですか?」と調子に乗った発言をしてくる。
「僕のこと、待っていてくれたのであれば、すごく嬉しいです。待たせてしまって、すみません」
申し訳なさそうに目を伏せるティアンから、慌てて視線を逸らす。なのに、ティアンはまったく気にせず会話を続けてくる。
「父から聞きました。乗馬できるようになったんですね」
「……うん」
「頑張りましたね。さすがルイス様です」
「うん」
突然褒められて、顔を上げる。頑張って練習したと伝えれば、ティアンは「すごいです」と微笑む。
「……俺、ティアンが居ない間。ちゃんと頑張った」
そうだ。ティアンが帰ってきたら言いたいことがたくさんあったんだった。
綿毛ちゃんを放り出して、ティアンに向き直る。そうしていかに俺が頑張ったのか伝えようとするのだが、いざティアンを前にすると不思議なくらいに言葉が出てこない。
やっぱりこれは、ティアンじゃないような気がする。俺の知っているティアンじゃない。
放り出した綿毛ちゃんを、再び捕まえる。角を握って頭をわしゃわしゃすると、『やめてよぉ』と文句が聞こえてくる。
ティアンは、四年の間に間違いなく落ち着いたと思う。以前であれば、すぐに声を荒げていたし、俺のことも適当にあしらっていた。
それが、なんだか物腰が柔らかくなったうえに、俺の話を聞いてくれるようになっている。俺が無視さえしなければ、ティアンはいつまでも俺の話に付き合ってくれそうな気がする。
とにかく、大人になったのだ。
そんな成長したティアンを前にして、俺は警戒心のようなものを抱いている。中身はティアンと理解はしているのだが、その中身も十二歳の彼とは随分違っている。もはや、俺の知らない人間だと思う。
でも、ティアンと昔みたいに遊びたいという気持ちもある。レナルドは、腰が痛いと言ってまともに俺と遊んでくれない。ティアンは、腰痛いとか言わないだろう。
綿毛ちゃんを引き寄せて、迷った末にティアンを見上げる。
「綿毛ちゃん。ちょっとなら貸してあげてもいいよ」
本当にちょっとだけだよ、と念押しすれば、ティアンが静かに目を見開く。
『オレの意思は?』
いいんですか? と小さく呟くティアンに、綿毛ちゃんを触らせてあげる。ゆっくりともふもふの毛を撫でるティアンと視線があっても、今度は顔を背けないでおく。随分と久しぶりに隣に並んだティアンは、記憶の中のティアンよりも大きくて、なんだか頼りになるような気がした。
「犬だもん。俺が拾ったんだから、ティアンにはあげない」
綿毛ちゃんを隠すように抱え込む。
あの後、俺のことを追いかけてユリスの部屋へと駆け込んできたティアンは、綿毛ちゃんのことをすごい勢いで指さしてくる。『落ち着こうよぉ』と、綿毛ちゃんが他人事のようにごにょごにょ言っている。
「出て行けよ。朝からうるさい」
苦い顔をするユリスは、タイラーに「こいつらを追い出せ」と冷たい指示を出している。
俺から綿毛ちゃんを取り上げようとしてくるティアンから必死に逃げまわる。『やめてよぉ。落ち着こうよ』と、毛玉がうるさい。
正式にヴィアン家騎士団所属となったらしいティアンは、朝から早速うちの騎士服を着こなしていた。前に一度だけ見たことがある学園の制服はあんまり似合っていなかったのに。身長が伸びて、おまけに鍛えたおかげだろうか。ピシッと着こなす姿は、どこからどう見ても立派な騎士だ。
「これは綿毛ちゃん! お喋りする普通の犬! もふもふで可愛い!」
綿毛ちゃんを頭上に掲げて、大声で宣言する。ティアンがひくりと頬を引き攣らせる。褒められた綿毛ちゃんが『どうもどうも』と嬉しそうに尻尾を振っている。
「ブルース兄様が飼っていいって言った」
『そうそう。よろしくねぇ、ティアンさん』
「意味がわかりません」
わかれよ。
こんなに丁寧に説明してあげたのに。
綿毛ちゃんは、魔法で生み出された不思議な生き物である。ティアンだって、魔法のせいで一時期俺がユリスに成り代わっていたことを知っている。
こういう不思議な生き物なのだと説明してやれば、「信じられません」との失礼な答え。
別に信じてくれなくていいもん。
ティアンには綿毛ちゃん貸してあげないから。
手を伸ばしてくるティアンから、綿毛ちゃんを守ってあげる。どうやら本気で俺の護衛をやるつもりらしい。レナルドにしてと騒いでやるが、誰も真剣に聞いてくれない。
レナルドはそれでいいのか。ティアンに立場を奪われているぞ。
とりあえず、ティアンには「綿毛ちゃん、いじめないでね」と念押ししておく。
ユリスが出て行けとうるさいので、渋々自室に戻る。当然のような顔でついてくるティアンに、そわそわとした気分になる。
何度見ても、俺の知っているティアンとは違う。違うのに、むこうは馴々しく接してくるからざわざわする。
いつの間にか部屋に居たらしいジャンにも綿毛ちゃんを見せて、犬と猫にごはんをあげる。
「猫ちゃん。大きくなりましたね」
「……」
「毎日なにをしているんですか?」
「……」
「ルイス様?」
無視ですか? と低い声を出すティアンは不機嫌顔だった。
ティアンに背中を向けて、ひたすら綿毛ちゃんとエリスちゃんを交互に撫でる。
『坊ちゃん、ティアンさんと会うの楽しみにしてたんじゃないの?』
「綿毛ちゃん、うるさいぞ」
余計なことを口走る毛玉を捕獲する。
案の定、ティアンが「楽しみにしててくれたんですか?」と調子に乗った発言をしてくる。
「僕のこと、待っていてくれたのであれば、すごく嬉しいです。待たせてしまって、すみません」
申し訳なさそうに目を伏せるティアンから、慌てて視線を逸らす。なのに、ティアンはまったく気にせず会話を続けてくる。
「父から聞きました。乗馬できるようになったんですね」
「……うん」
「頑張りましたね。さすがルイス様です」
「うん」
突然褒められて、顔を上げる。頑張って練習したと伝えれば、ティアンは「すごいです」と微笑む。
「……俺、ティアンが居ない間。ちゃんと頑張った」
そうだ。ティアンが帰ってきたら言いたいことがたくさんあったんだった。
綿毛ちゃんを放り出して、ティアンに向き直る。そうしていかに俺が頑張ったのか伝えようとするのだが、いざティアンを前にすると不思議なくらいに言葉が出てこない。
やっぱりこれは、ティアンじゃないような気がする。俺の知っているティアンじゃない。
放り出した綿毛ちゃんを、再び捕まえる。角を握って頭をわしゃわしゃすると、『やめてよぉ』と文句が聞こえてくる。
ティアンは、四年の間に間違いなく落ち着いたと思う。以前であれば、すぐに声を荒げていたし、俺のことも適当にあしらっていた。
それが、なんだか物腰が柔らかくなったうえに、俺の話を聞いてくれるようになっている。俺が無視さえしなければ、ティアンはいつまでも俺の話に付き合ってくれそうな気がする。
とにかく、大人になったのだ。
そんな成長したティアンを前にして、俺は警戒心のようなものを抱いている。中身はティアンと理解はしているのだが、その中身も十二歳の彼とは随分違っている。もはや、俺の知らない人間だと思う。
でも、ティアンと昔みたいに遊びたいという気持ちもある。レナルドは、腰が痛いと言ってまともに俺と遊んでくれない。ティアンは、腰痛いとか言わないだろう。
綿毛ちゃんを引き寄せて、迷った末にティアンを見上げる。
「綿毛ちゃん。ちょっとなら貸してあげてもいいよ」
本当にちょっとだけだよ、と念押しすれば、ティアンが静かに目を見開く。
『オレの意思は?』
いいんですか? と小さく呟くティアンに、綿毛ちゃんを触らせてあげる。ゆっくりともふもふの毛を撫でるティアンと視線があっても、今度は顔を背けないでおく。随分と久しぶりに隣に並んだティアンは、記憶の中のティアンよりも大きくて、なんだか頼りになるような気がした。
1,767
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。
はぴねこ
BL
高校生の頃、片想いの親友に告白した。
彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。
もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。
彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。
そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。
同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。
あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。
そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。
「俺もそろそろ恋愛したい」
親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。
不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
男前受け
昔「結婚しよう」と言ってくれた幼馴染は今日、僕以外の人と結婚する
子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき
「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。
そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。
背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。
結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。
「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」
誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。
叶わない恋だってわかってる。
それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。
君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
脱落モブ男が人気アイドルに愛されるわけがない
綿毛ぽぽ
BL
アイドルを夢見るも、デビューできずオーディション番組に出演しても脱落ばかりの地味男、亀谷日翔はついに夢を諦めた。そしてひょんなことから事務所にあるカフェで働き始めると、かつて出演していた番組のデビューメンバーと再会する。テレビでも引っ張りだこで相変わらずビジュアルが強い二人は何故か俺に対して距離が近い。
━━━━━━━━━━━
現役人気アイドル×脱落モブ男
表紙はくま様からお借りしました
https://www.pixiv.net/artworks/84182395
転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜
たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話
騎士団長とのじれったい不器用BL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。