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16歳
469 ケーキ
「ティアンも食べる?」
「ダメですよ」
アロンが作ったというケーキを部屋に持ち帰って、さっそく食べようとした時である。
突っ立っていたティアンにも声をかければ、彼が口を開くよりもはやくアロンが拒否してきた。大人気ないな。
そうはいっても、到底俺ひとりで食べきれる量ではない。アリアが、ブルース兄様のところへ少し持って行ったくらいで、まだ大量にある。
「ルイス様のために作ったんですから。ティアンはダメですよ」
「そんなこと言わずに」
みんなで食べたほうが楽しいよ、と提案してみるが、アロンは唇を尖らせる。不満たらたらだ。わかりやすいな。
「いいですよ、僕は」
ついには、ティアンが遠慮した。アロンの頑なな態度に折れてあげたのだ。大人の対応だ。
感心していると、なぜかアロンが半眼になる。そのままティアンを睨みつける彼は、小さく舌打ちをする。
「いいよ、食べても」
突然譲歩したアロンに、俺とティアンは思わず顔を見合わせる。壁際で気配を消していたジャンも、なんだか驚いたように目を見開いている。
「ほら、食べましょう」
俺の背中に手を添えて、椅子を引いてくれるアロン。反射的に座って、ジャンが用意してくれたフォークを持つ。
ちゃっかり俺の隣を陣取るアロンは、どうやら一緒に食べるつもりらしい。ほとんどアリアが作ったとはいえ、アロンがこういった行動をするのは珍しい。
少し遠慮がちにしているティアンも手招きする。空いている席を勧めるが、ティアンは軽く首を左右に振るだけで座らない。アロンは何の遠慮もなく座っているのに。
以前のティアンだったら、勧めるまでもなく勝手に腰を下ろしていたと思う。それどころか、自分にもケーキを寄越せと主張したはずである。ティアンは図々しいお子様だったので。
こういう時、ティアンの成長を感じるような気もするが、同時にちょっぴり悲しい気分にもなる。俺としては、前の図々しいティアンの方が楽しいと思う。
しゅんと肩を落としていれば、頬杖をついていたアロンが眉を寄せた。その目は、ティアンに向けられている。
「座ればいいのに」
恨めしいような視線を向けるアロンに、ティアンが何かを言いたそうな顔をした。だが、それよりもはやくアロンが立ち上がった。
ずかずかと大股でティアンに寄った彼は、相変わらず不機嫌な表情でティアンの肩を掴むと空いている席に無理矢理座らせた。抵抗するティアンだが、アロンには敵わないと思ったのか。案外あっさりと諦めた。
大きくため息を吐いたティアンは、俺と視線が合うなり少しだけ気まずそうに顔を逸らした。
だが、すぐに顔を戻すとぎこちない笑みを浮かべた。ちょっぴり遠慮を感じる笑みだが、久しぶりに同じ目線にいることが嬉しくて、俺の頬も緩んでしまう。
「はい! 食べましょう。せっかく俺が作ったんですから」
「うん!」
にこっと微笑むアロンは、ケーキを食べる俺のことを凝視してくる。ちょっと食べにくい。
『オレにもちょうだい』
短い前足で必死にアピールしてくる綿毛ちゃんにも、ケーキをわけてあげる。今度は、アロンもダメとは言わなかった。綿毛ちゃんが犬だから、きっとどうでもいいと思っているのだろう。
「美味しい」
「本当ですか?」
「うん。美味しい」
何度も確認してくるアロンに、うんうん頷いておく。甘い物は好き。フルーツも好き。
本当は夢中で食べたい俺だが、アロンの視線が気になって仕方がない。一体どういうつもりなのだろうか。
「美味しいよ」
もっと褒めてほしいのかと思って、再度アロンに笑いかけるが、微笑が返ってくるだけだ。
なんだ。どうするのが正解なんだ。
「……食べないの?」
みんなで食べようと言った割には、食べているのは俺と綿毛ちゃんだけ。アロンは頬杖ついて俺を見ているし、ティアンもそんな俺たちを眺めている。ジャンは、極力関わりたくないと言わんばかりに気配を消している。
アロンの肩をちょいと突いてみるが、少し首を傾げるだけで明確な答えは返ってこない。
「……」
なにこの空気。
なんにも気にせず呑気にもぐもぐしている綿毛ちゃんだけが場違いだった。
「ダメですよ」
アロンが作ったというケーキを部屋に持ち帰って、さっそく食べようとした時である。
突っ立っていたティアンにも声をかければ、彼が口を開くよりもはやくアロンが拒否してきた。大人気ないな。
そうはいっても、到底俺ひとりで食べきれる量ではない。アリアが、ブルース兄様のところへ少し持って行ったくらいで、まだ大量にある。
「ルイス様のために作ったんですから。ティアンはダメですよ」
「そんなこと言わずに」
みんなで食べたほうが楽しいよ、と提案してみるが、アロンは唇を尖らせる。不満たらたらだ。わかりやすいな。
「いいですよ、僕は」
ついには、ティアンが遠慮した。アロンの頑なな態度に折れてあげたのだ。大人の対応だ。
感心していると、なぜかアロンが半眼になる。そのままティアンを睨みつける彼は、小さく舌打ちをする。
「いいよ、食べても」
突然譲歩したアロンに、俺とティアンは思わず顔を見合わせる。壁際で気配を消していたジャンも、なんだか驚いたように目を見開いている。
「ほら、食べましょう」
俺の背中に手を添えて、椅子を引いてくれるアロン。反射的に座って、ジャンが用意してくれたフォークを持つ。
ちゃっかり俺の隣を陣取るアロンは、どうやら一緒に食べるつもりらしい。ほとんどアリアが作ったとはいえ、アロンがこういった行動をするのは珍しい。
少し遠慮がちにしているティアンも手招きする。空いている席を勧めるが、ティアンは軽く首を左右に振るだけで座らない。アロンは何の遠慮もなく座っているのに。
以前のティアンだったら、勧めるまでもなく勝手に腰を下ろしていたと思う。それどころか、自分にもケーキを寄越せと主張したはずである。ティアンは図々しいお子様だったので。
こういう時、ティアンの成長を感じるような気もするが、同時にちょっぴり悲しい気分にもなる。俺としては、前の図々しいティアンの方が楽しいと思う。
しゅんと肩を落としていれば、頬杖をついていたアロンが眉を寄せた。その目は、ティアンに向けられている。
「座ればいいのに」
恨めしいような視線を向けるアロンに、ティアンが何かを言いたそうな顔をした。だが、それよりもはやくアロンが立ち上がった。
ずかずかと大股でティアンに寄った彼は、相変わらず不機嫌な表情でティアンの肩を掴むと空いている席に無理矢理座らせた。抵抗するティアンだが、アロンには敵わないと思ったのか。案外あっさりと諦めた。
大きくため息を吐いたティアンは、俺と視線が合うなり少しだけ気まずそうに顔を逸らした。
だが、すぐに顔を戻すとぎこちない笑みを浮かべた。ちょっぴり遠慮を感じる笑みだが、久しぶりに同じ目線にいることが嬉しくて、俺の頬も緩んでしまう。
「はい! 食べましょう。せっかく俺が作ったんですから」
「うん!」
にこっと微笑むアロンは、ケーキを食べる俺のことを凝視してくる。ちょっと食べにくい。
『オレにもちょうだい』
短い前足で必死にアピールしてくる綿毛ちゃんにも、ケーキをわけてあげる。今度は、アロンもダメとは言わなかった。綿毛ちゃんが犬だから、きっとどうでもいいと思っているのだろう。
「美味しい」
「本当ですか?」
「うん。美味しい」
何度も確認してくるアロンに、うんうん頷いておく。甘い物は好き。フルーツも好き。
本当は夢中で食べたい俺だが、アロンの視線が気になって仕方がない。一体どういうつもりなのだろうか。
「美味しいよ」
もっと褒めてほしいのかと思って、再度アロンに笑いかけるが、微笑が返ってくるだけだ。
なんだ。どうするのが正解なんだ。
「……食べないの?」
みんなで食べようと言った割には、食べているのは俺と綿毛ちゃんだけ。アロンは頬杖ついて俺を見ているし、ティアンもそんな俺たちを眺めている。ジャンは、極力関わりたくないと言わんばかりに気配を消している。
アロンの肩をちょいと突いてみるが、少し首を傾げるだけで明確な答えは返ってこない。
「……」
なにこの空気。
なんにも気にせず呑気にもぐもぐしている綿毛ちゃんだけが場違いだった。
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