嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

文字の大きさ
483 / 893
16歳

523 しっかりしてほしい

しおりを挟む
 俺に魔石を押し付けたユリスは、早々に部屋へと戻っていった。自由すぎるユリスにタイラーがすごく振り回されている。

 なんとなくオーガス兄様の部屋に残った俺とティアンは、ユリスが散らかした戸棚の中身をもとに戻す。「あ、いいのに。ニックがあとで片付けるよ」と、オーガス兄様はここにいないニックにすべてを押し付けようとしている。

 ニックはおそらくセドリックのところだろう。いつものようにセドリックを追いかけ回しているに違いない。あいつも飽きないものだな。セドリックを追いかけて一体何が楽しいのか。セドリックもいい加減文句を言えばいいのに。

 片付けはティアンに任せて、オーガス兄様の座る執務机へとなんとなく寄っていく。頭を抱えて難しい顔の兄様は、「もう何もかもやめたい」と情けない発言をしている。

 ブルース兄様に聞かれたら絶対に怒られる発言だ。

「俺も手伝おうか?」

 昔はきっぱり断られていたが、今の俺は十六歳。すごく成長したので兄様も安心して仕事を任せてくれると思う。

 だが、そんな期待に反してオーガス兄様は「大丈夫だよ。僕がやるから」と素っ気ない。

「なんで? 俺もできるよ」
「無理だよ」
「無理じゃない!」
「いやいや。無理だって」

 無理と決めつける兄様は、「僕忙しいから」と突然仕事に没頭し始める。露骨にこの話題を終わらせようとしている。

「大丈夫! できるよ!」
「声が大きいよ」
「オーガス兄様!」
「いやだから。声が大きいって」

 へにゃっと眉尻を下げる兄様は、ティアンに助けを求めるかのような視線を送っている。

 ティアンに邪魔される前にと、兄様の机にのっていた書類のひとつを適当に掴んだ。「あ、ちょっと」という声が飛んだが、無視して書類に目を落とす。

「……なにこれ?」

 ざっと読んでみたのだが、仕事というよりパーティーの招待状だった。差出人はエリック。

「行くの?」

 雑に放られていたので、まさかと思い尋ねてみると兄様は「いやぁ」と誤魔化すように頬を掻いた。

「行った方がいいんじゃない? 絶対に来いって書いてあるよ」
「あいつからの手紙にはいつもそういう文言が入ってるんだよ。絶対に急ぎじゃないのに急いで返事を寄越せとか」
「ふうん?」

 エリックはちょっと強引なところがあるからな。そういう強気な性格がオーガス兄様とはつくづく合わないのだ。

 エリックのことが嫌いなオーガス兄様は、この招待状を無視するつもりだったらしい。でもなんだか正式なパーティーっぽい。それを無視するのは大人としてどうだろうか。

「行った方がいいよ。個人的にエリックのことが嫌いだから行かないってのはちょっとダメだと思うよ。ブルース兄様に怒られるよ」
「ブルースには内緒にしておくから大丈夫」

 なにも大丈夫ではない。
 頼りない長男に、眉を寄せる。

「なんで行きたくないの?」

 何か切実な事情でもあるのだろうか。しかし、兄様は「だって」と唇を尖らせる。

「僕そういうパーティーとか苦手なんだって。どうせひとりで壁際に突っ立っておくだけだろ。だから行かなくてもいいと思う」

 なんて情けない兄だろうか。
 招待状を読む限りだと大規模なパーティーだ。身内だけの集まりならともかく。国中から貴族が招待されている場において、大公家のオーガス兄様がみんなから無視されるなんてあり得ない。一体どんなネガティブな妄想をしているのだろうか。

 権力を振りかざさないオーガス兄様のこういう性格は好きだけど。ちょっと情けないと思うところもある。これは思慮深いとかではなく単に臆病なだけだ。ちょっと前にあったティアンの叙任式でも「僕には無理」と言い張ってお父様やティアンに迷惑をかけていた。

「しっかりしてよ、兄様!」
「してるよ。今まさにしっかり仕事してます」

 背筋を伸ばす兄様に、そうじゃないと拳を握る。だが、感情に任せて詰め寄ったところでオーガス兄様は動かないに違いない。臆病なくせして、変に頑固なところもあるのだ。面倒ごとを回避するためには変な粘り強さを発揮する。

「わかった」

 ここは方法を変えよう。ブルース兄様に告げ口してもいいけど、それだとユリスが面白がって無駄に引っかき回すと思う。

「俺も一緒に行ってあげるから」
「え?」

 ふんと胸を張れば、兄様が椅子からちょっと立ち上がった。

「え? ルイスも行くの?」
「うん。要するにオーガス兄様はパーティーの場でひとりになるのが嫌なんでしょ? だったら俺が隣に居てあげる」
「え!?」

 驚いたように目を見張る兄様は、「いやでも」と口ごもる。

「なに!? 何かダメなの? ひとりになりたくないって話でしょ? じゃあこれで解決だよね。他にも何かあるの!?」
「い、いや。そういうわけではないんだけど」

 もごもごと口を動かす兄様を強気に睨んでおく。
 流石にこれ以上の我儘は無理だと察したのだろう。背中を丸めて「えー」と苦い声を発している。

「僕はそれでもいいけど。ルイスはいいの? こういうパーティー嫌いなんじゃ」
「え? 嫌いじゃないけど」
「そうなの? でもいつも行かないよね」

 行かないというか。
 驚いたように目を丸くする兄様に、今度はこちらが困ってしまう。別に賑やかな場が嫌いなわけではない。でもなんとなくユリスとセット扱いされている俺である。普段はユリスが早々に「僕は行かない」と断るものだから、なんとなく俺も行かないという風に話が流れてしまうだけである。

 それに、俺は世間的には突然その存在が公表された。好奇の目を向けられることを恐れて、ちょっと尻込みしていたというのもある。

 しかしあれからもう六年近い。流石に俺の存在は知れ渡っているし、そこまで好奇の目も向けられないだろう。

「大丈夫。俺も行くよ」

 はっきりと告げれば、オーガス兄様とティアンがちょっと面食らったように視線を交わしていた。
しおりを挟む
感想 717

あなたにおすすめの小説

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

分厚いメガネ令息の非日常

餅粉
BL
「こいつは俺の女だ。手を出したらどうなるかわかるよな」 「シノ様……素敵!」 おかしい。おかしすぎる!恥ずかしくないのか?高位貴族が平民の女学生に俺の女ってしかもお前は婚約者いるだろうが!! その女学生の周りにはお慕いしているであろう貴族数名が立っていた。 「ジュリーが一番素敵だよ」 「そうだよ!ジュリーが一番可愛いし美人だし素敵だよ!!」 「……うん。ジュリーの方が…素敵」 ほんと何この状況、怖い!怖いすぎるぞ!あと妙にキモい 「先輩、私もおかしいと思います」 「だよな!」 これは真面目に学生生活を送ろうとする俺の日常のお話

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

【完結】Restartー僕は異世界で人生をやり直すー

エウラ
BL
───僕の人生、最悪だった。 生まれた家は名家で資産家。でも跡取りが僕だけだったから厳しく育てられ、教育係という名の監視がついて一日中気が休まることはない。 それでも唯々諾々と家のために従った。 そんなある日、母が病気で亡くなって直ぐに父が後妻と子供を連れて来た。僕より一つ下の少年だった。 父はその子を跡取りに決め、僕は捨てられた。 ヤケになって家を飛び出した先に知らない森が見えて・・・。 僕はこの世界で人生を再始動(リスタート)する事にした。 不定期更新です。 以前少し投稿したものを設定変更しました。 ジャンルを恋愛からBLに変更しました。 また後で変更とかあるかも。 完結しました。

牙を以て牙を制す

makase
BL
王位継承権すら持てず、孤独に生きてきた王子は、ある日兄の罪を擦り付けられ、異国に貢物として献上されてしまう。ところが受け取りを拒否され、下働きを始めることに。一方、日夜執務に追われていた一人の男はは、夜食を求め食堂へと足を運んでいた――

第2王子は断罪役を放棄します!

木月月
BL
ある日前世の記憶が蘇った主人公。 前世で読んだ、悪役令嬢が主人公の、冤罪断罪からの巻き返し痛快ライフ漫画(アニメ化もされた)。 それの冒頭で主人公の悪役令嬢を断罪する第2王子、それが俺。内容はよくある設定で貴族の子供が通う学園の卒業式後のパーティーにて悪役令嬢を断罪して追放した第2王子と男爵令嬢は身勝手な行いで身分剥奪ののち追放、そのあとは物語に一切現れない、と言うキャラ。 記憶が蘇った今は、物語の主人公の令嬢をはじめ、自分の臣下や婚約者を選定するためのお茶会が始まる前日!5歳児万歳!まだ何も起こらない!フラグはバキバキに折りまくって折りまくって!なんなら5つ上の兄王子の臣下とかも!面倒いから!王弟として大公になるのはいい!だがしかし自由になる! ここは剣と魔法となんならダンジョンもあって冒険者にもなれる! スローライフもいい!なんでも選べる!だから俺は!物語の第2王子の役割を放棄します! この話は小説家になろうにも投稿しています。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。