嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

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16歳

562 反抗期

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「もうブルース兄様に変なこと教えたらダメだよ。わかった?」
「教えてませんよ」

 変な顔するアロンのことをバシバシ叩けば、ちょっぴり距離を取られてしまう。だが、すぐに笑ってこちらに手を伸ばしてきたアロンは、俺の額を指でつんと軽く押してきた。

「やめろ!」

 さっと両手で額を隠せば、アロンが悪戯っぽく笑う。へらへらするな。

 グリシャがアロンのことを呆れたように見ている。グリシャは真面目な男なので、仕事をサボるアロンとは馬が合わないらしい。

「では私はこれで」

 礼儀正しく立ち去るグリシャの背中に、アロンが舌打ちしている。それを聞きつけたグリシャが、さっと振り返って「仕事したらどうですか」とやや挑発的な言葉を返した。

「してますよ! ね、ルイス様?」
「え」

 アロンから自信に満ちた表情を向けられて、咄嗟に頷けない。仕事してるのか? 少なくとも胸を張って仕事してるとはいえないくらいにはサボってるだろ。

 アロンが半眼になって「なんで黙るんですか」と詰め寄ってくる。なんでと言われても。

 眉尻を下げる俺に、グリシャがアロンを呼んだ。

「ルイス様がお困りですよ。はやくブルース様のところへ戻ったらどうですか」
「は? なんで君に指図されないといけないんだよ」

 途端に不機嫌になったアロンは、「仕事しろって。なんでそんなことしないといけないんだよ」と開き直り発言を始める。

 これには俺もグリシャも呆れてしまう。綿毛ちゃんでさえ『清々しいねぇ』と引いている。

「犬だって仕事してるんだぞ」

 ね、と足元を見下ろせば、『そうだよ』と得意な顔をする綿毛ちゃん。適当言っただけなのに。おまえ、働いてるのか?

『オレ、毎日子守してる。オレ、えらーい』
「ケイシーには毎日会ってないだろ」
『オレが子守してるのはルイス坊ちゃんだよ』
「ふざけるな!」

 調子に乗る毛玉を追いかける。
 すごい勢いで逃げ回る毛玉は、アロンとグリシャの周りをぐるぐるする。

「アロン! そのふざけた毛玉捕まえて!」
「嫌ですよ。動物あんまり触りたくないんで」
『ひっど』

 オレはきれいだよと文句をいう綿毛ちゃんをグリシャがひょいと持ち上げた。

『あー、捕まってしまったぁ』
「観念しろ!」

 グリシャから毛玉を受け取って、高く掲げる。『あー』と悲鳴をあげる綿毛ちゃんに、ニヤッと笑う。

「ブルース兄様に見せてこよう。わる毛玉捕まえたって」
『やめて』
「ばいばい、グリシャ!」

 そのまま勢いよくブルース兄様の部屋に駆け込めば、アロンもついてきた。おまえは仕事サボるんじゃなかったのか。

「ブルース兄様! わる毛玉捕まえた!」
「意味がわからない」

 着替えていたブルース兄様は、姿見の前でシャツのボタンをとめながら雑な対応をしてくる。
 そんな兄様の前に毛玉を突き出した。

「邪魔だ」

 鏡が見えないと文句を言う兄様。仕方がないので退いてあげる。

「なんで帰ってきたばかりでそんなに走りまわるんだ。その元気はどこから出てくる」
「ブルース兄様は二日酔い?」
「うるさい」

 疲れた顔の兄様は、ソファーに腰を下ろす。
 なんとなくその膝に綿毛ちゃんを乗せてあげれば「邪魔だ」と顔を顰める兄様。綿毛ちゃんがちょっぴり悲しい顔をしている。

「綿毛ちゃんをいじめないで」
「いじめてはない」

 喉が渇いたと水を飲み始める兄様の向かいに座る。アロンは暇そうに室内を見渡している。

「お母様がね。あんまりいかがわしいお店に行ったらダメよ、だって」
「っ、は?」

 盛大に咳き込むブルース兄様は、驚愕の表情で「なんの話だ!」と大声を出す。

「ブルース兄様が夜な夜なアロンと一緒にいかがわしいお店に行ってるから心配なんだって」
「行ってない!」

 荒々しい動作でグラスを置くブルース兄様。その横では、アロンが声を出して笑っている。

「本当になんの話だ。行くわけないだろ、そんな店」
「あと反抗期もそろそろ終わりにしてほしいって言ってたよ」
「誰が反抗期だ! 誰が!」

 もう無理と天を仰ぐ兄様は、なんだか絶望していた。

 対照的に、アロンは「ブルース様って反抗期だったんですか?」とニヤニヤしている。綿毛ちゃんも『反抗期! 反抗期!』とはしゃいでいる。

「なんで母上は……!」

 途中で言葉を飲み込んだ兄様は、お母様に文句があるらしい。「なんで毎回ルイスを経由して伝えてくるんだ」と頭を抱えている。

「いいか、ルイス。母上の言うことは聞き流せ」
「はーい」
『はーい』

 なぜか綿毛ちゃんも返事をしている。

 だが、お母様の言ういかがわしいお店ってなんだろう。ちょっと気になる。

「ブルース兄様」
「なんだ」
「今度俺も連れて行って。いかがわしいお店」
「連れて行かないし、俺も行ったことはない」
「嘘だぁ」

 ニヤッと笑うが、ブルース兄様は眉間に皺を寄せて険しい顔だ。そんな中、今まで笑っていたアロンが俺の肩に手を置いてきた。

「ルイス様には俺がいるからダメです」

 え、なんで?
 拗ねたようなアロンの顔に、ハッと伯爵との取引を思い出した。

「あ、えっと。お、俺まだ子供だから。大人になったらの話だよ」

 慌てて冗談だよと笑うが、アロンは「大人になってからでもダメですよ」と口角を上げた。その無邪気な笑みに、さっと視線を逸らしておいた。
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