嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

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17歳

710 釣り

「今日は湖に行ってくるね。ユリスも行く?」
「なんのために?」

 今日は朝からいい天気である。
 物置小屋からバケツを引っ張り出した俺は、朝食後、部屋でのんびりしていたユリスに声をかけていた。ユリスは面倒な性格なので、俺がどこかへ出かける際にはひと声かけておかないと文句を言うのだ。

「魚を捕まえてくる」
「は?」

 右手には、ジャンに用意してもらった釣り竿がある。どう見ても釣りの準備バッチリな俺を見て、ユリスが訝しむ。

「ルイス、釣りなんてできるのか?」
「できないとかあるの?」

 釣りは初めてだけど。別にそんなに難しいものでもないだろう。湖に、釣り針を垂らせばいいんだろう? 俺にもできる。

「お弁当を作ってもらった。ピクニックみたいで楽しそうでしょ? ユリスも行く?」

 暇なので、のんびり釣りしてこようと思う。ティアンとアロンも一緒に行くのだ。それにジャンと綿毛ちゃんも一緒。みんなでお弁当を食べる予定である。

「……僕は行かない」

 少し迷った末に、ユリスはそう答えた。
 面倒という気持ちが勝ったようだ。

「そう。じゃあお土産に魚持ってくるね」
「そもそもあの湖に魚なんているのか?」
「さぁ? それは行ってみないとわからない」

 綿毛ちゃんに聞いてみたのだが、『魚? えっとねぇ。わかんないや』という曖昧な答えしか返ってこなかった。役に立たない毛玉である。

「オーガス兄様も誘ったんだけどね。忙しいって断られた」
「なぜ僕より先にオーガスに声をかけるんだ」

 意味のわからないところに食いついてきたユリスは「僕よりオーガスを優先するのか?」と面倒なことを言い始める。誘う順番とか、どうでもよくない?

 はいはい聞き流そうとするが、偉そうに腕を組んだユリスは「まさかブルースにも声をかけたのか?」と、話を広げようとしてくる。そんなにお誘いする順番が大事なのか?

「ブルース兄様にも言ったよ。そしたらアロンが一緒に行くって言い出して」
「なぜ僕が一番最後なんだ」
「なぜって言われても」

 湖に行くには、ブルース兄様の許可を取らないと。なので必然的にブルース兄様が一番になってしまう。この話題、そんなに大事か?

「まぁ、お土産楽しみにしておいてよ」
「ルイスに釣りができるとは思えない」
「失礼だぞ。俺だって魚くらい捕まえられるもんね」

 いざとなったら綿毛ちゃんに捕まえてもらう予定である。綿毛ちゃんは犬なので。多分どうにかなる。「どうにもならないだろ」と、呆れた目を向けてくるユリスは、「湖に落ちるなよ」と嫌な注意をしてきた。いくらなんでも、そんなドジはしないぞ。


※※※


「アロンはいつ見ても暇そうでいいね」
「暇ではないですよ」

 料理人に頼んで用意してもらったお弁当。中身はサンドイッチだった。デザートの焼き菓子もある。準備は完璧。ジャンとティアンに荷物を任せて、俺は意気揚々と先頭を歩く。綿毛ちゃんが小走りでついてくる。

「アロンは釣り得意?」

 隣に並んでくるアロンを見れば、「さぁ?」という曖昧な苦笑が返ってきた。どうやらアロンも釣りはやったことがないらしい。手にしていた釣り竿をまじまじ眺める。ジャンに釣り竿用意してとお願いしたら、割とあっさり用意してもらえた。長い木の棒に紐を結んだだけの簡単な作りだけど。遊びでやるので、これで十分。

「餌はなにを用意したんですか?」

 俺の持つ釣り竿をチラッと確認してから、アロンが首を傾げた。その言葉に、俺はぴたりと足を止める。

「……餌?」

 あ。
 目を瞬く俺に、アロンが「え、まさか」と頬を引きつらせる。

「ルイス様。餌を用意してないなんて言いませんよね?」
「……」

 そのまさかである。
 ふふっと笑えば、アロンが肩をすくめた。後ろを追いかけてきていたティアンの耳にも入ったらしい。「え! 用意してないんですか!?」と焦ったような声がかけられる。

「仕方がない。サンドイッチを餌にしよう」

 中の具材を適当に使えば大丈夫。ひとりで解決した俺に、綿毛ちゃんが『魚ってなにを食べるの?』と興味津々に尋ねてくる。俺に訊かれてもわからないよ。魚の正しい餌ってなに。

 そうしてたどり着いた湖にて、俺は早速お弁当を開けてみる。美味しそうなサンドイッチに、頬が緩む。

『オレにもひとつちょうだい』
「ダメ。これはお昼に食べるの」
『えー、魚にはあげるのに? オレにはくれないのぉ?』
「うるさいぞ」

 サンドイッチを横取りしようと目論む悪い毛玉に背を向けて、ひとつ手に取る。とりあえず適当に具材を抜いて、針につけてみる。

「よし! 行くよ、ティアン」

 湖に駆け出せば、ティアンが「危ないですよ」と眉を寄せながら追いかけてくる。アロンはジャンが用意した敷物に腰を下ろして、こちらを眺めている。

「ちょっと、ルイス様。一旦止まってください」

 こちらに手を伸ばしてくるティアンをかわして、えいっと力いっぱい釣り竿を振りかぶる。けれども釣り針は、水面に触れることなく、手前の草むらにぽすっと落ちた。

「……」
『坊ちゃんって、やっぱり投げるの下手くそだよね』

 うるさい毛玉を無視していれば、ティアンが「なにやってるんですか」と、釣り針を回収に行く。どこかに引っかかっているらしく、地味に苦戦している。

「ルイス様、頑張ってください」

 面白がるような声が聞こえてきて、そちらに顔をやれば、ひらひらと手を振るアロンがいた。それに大きく頷きを返してから、俺は再び釣り竿を振りかぶった。
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