クズ令息、魔法で犬になったら恋人ができました

岩永みやび

文字の大きさ
16 / 41

16 謝れ

『俺に謝罪しろ! 謝れ!』

 カルロッタ嬢が退出した後、勢いよくダリス殿下に突進する。俺に冤罪を押し付けたことを謝罪させたい。

 殿下の足元をぐるぐる回ってやれば、殿下が深くため息を吐いた。なんだその被害者面。完全なる被害者は俺だぞ。

『謝れぇ! 俺に謝罪しろぉ』
「悪かった」

 嫌々といった様子で謝罪してきた殿下は、屈んで俺の頭を撫でてくる。腹いせに噛みついてやろうと奮闘するが、殿下が軽々と避けてくる。そのうち額を人差し指で押さえられて思うように攻撃できなくなる。ちくしょう。

『ちゃんと謝れ』
「悪かったと思っている。すまなかった」
『ふーん』

 意外と素直に頭を下げる殿下は俺を抱えてソファにのせた。ぽふぽふとソファを踏みしめていれば、目の前に美味しそうなクッキーが置かれた。

『クッキー』

 いい匂いにきらきらと目を輝かせる。

「食べていいぞ」
『やった!』

 殿下の素敵な言葉に早速クッキーを頬張る。
 もぐもぐ咀嚼していれば、そっと寄ってきたロッドが頭を撫でてきた。俺に触る機会を窺っていたらしい。犬好きという言葉は本当だったのか。

「本当に悪かった。ウィルは、その。普段の言動がちょっとアレだから。てっきりカルロッタに手を出したのだと」
『失礼だな』

 なんだその決めつけ。非常に腹が立つ。
 ふんとそっぽを向きながらも頑張ってクッキーを頬張る。

「それで」
『ぐぇ!』

 なぜか俺の小さい頭を掴んできたダリス殿下。なにその不意打ち。ジタバタ暴れるが、殿下は俺を雑に持ち上げると半眼になった。

「なぜカルロッタにキスをした。あとどさくさに紛れて彼女の胸を触っただろ」
『えー? そうだっけぇ』

 記憶にないと笑うが、殿下は冷たい態度で俺を見下ろす。これは確実に怒っていた。

『でもカルロッタ嬢とキスすれば人間に戻れるって。試しただけ』

 だからそう怒るなと殿下を宥めれば、殿下は「戻らないじゃないか!」と声を大きくする。その怒声に、今まで沈黙を貫いていたフロイドが駆け寄ってくる。

「申し訳ありません!」

 俺の代わりに頭を下げるフロイドは、「でもなぜでしょうか?」と首を捻る。

 好きな人とキスしたはずなのに人間に戻らない。ふむふむ考えた俺は、ひとつの結論を導き出した。

『俺。カルロッタ嬢のことそんなに好きではないかも』
「は?」

 顔こっわ。
 俺を睨みつけてくる物騒な殿下に、へにゃっと眉を下げておく。精一杯困った顔を作るのだが、殿下の表情が優しくなることはない。

『なんかぁ。殿下の婚約者だから好きって言ってみただけだし。もちろん優しいお姉さんは好きだけど。逆にいえば優しいお姉さんなら誰でもいいわけでぇ。多分聖女が言ってた好きな人ってそういうのじゃないかも?』
「おまえ……!」

 眉間に深い皺を刻む殿下は「だったら誰の事が好きなんだ!」と無茶な質問をしてくる。カルロッタ嬢とキスしたのに、空振りだったのでキレている。そんなに怒らなくても。今の俺は可愛い犬だぞ。嫉妬深いにも程がある。

『誰だろうね、わかんないや』

 へらへらしていれば、殿下が俺を掴んだままズカズカ歩き出す。ひぇ、なんかピンチだ。ジタバタ足を動かしていれば、殿下が俺をロッドへと押し付けた。無言で受け取るロッドは、すかさず俺の頭を撫でてくる。こいつは、俺が公爵家の次男であることを理解しているのだろうか。あまりにも失礼な態度に威嚇してやるが、ロッドの表情は変わらない。

「とにかく。カルロッタにバレる前に、おまえは早急に人間に戻れ!」
『自分が怒られたくないからって横暴だぞ』

 カルロッタ嬢に全部告げ口してやると騒いでやれば、殿下が偉そうに腕を組んだ。

「ウィル。たとえあの晩なにもなかったとしても、おまえがあわよくばカルロッタに手を出そうとしていた事実は変わらないからな」
『……てへ』

 そこ気付いちゃうかぁ。
 なんなら俺は帰宅するまで相手がカルロッタ嬢であることに気が付かなかった。

 へらへら笑って曖昧にしてしまおうと目論むが、殿下は「その点に関してはゆっくり話を聞かせてもらおうか」と強気に出てくる。

 今更話すことなんてない。俺好みの美人なお姉さんについて行ったというだけの話である。

 どうやらあの日のカルロッタ嬢は、殿下や家族から押し付けられる王太子の婚約者というイメージと、自身の本当の性格との間で苛立ちが溜まっていたらしい。四六時中お淑やかな女を演じなければならない彼女の鬱憤は相当なものだったのだろう。そんな中で、たまたま声をかけた俺相手に愚痴を言いたかったのかもしれない。

 俺は公爵家の次男だけど、殿下とは幼い頃から交流があるし、カルロッタ嬢の目には俺が殿下に可愛がられている弟的な存在に映ったらしい。なにかと俺に対して苦言を呈してくる殿下である。傍目から見れば、頻繁に俺を王宮へと呼び出して気にかけているように映るらしい。全然違うけどね。俺は殿下に可愛がられてなどいない。余計なことをしでかすのではないかと警戒されているだけだ。
感想 5

あなたにおすすめの小説

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

【完結】星に焦がれて

白(しろ)
BL
気付いたら八年間囲われてた話、する? わんこ執着攻め×鈍感受け 「お、前、いつから…?」 「最初からだよ。初めて見た時から俺はお前のことが好きだった」  僕、アルデバラン・スタクにはどうしても敵わない男がいた。  家柄も、センスも、才能も、全てを持って生まれてきた天才、シリウス・ルーヴだ。  僕たちは十歳の頃王立の魔法学園で出会った。  シリウスは天才だ。だけど性格は無鉄砲で無計画で大雑把でとにかく甘えた、それに加えて我儘と来た。それに比べて僕は冷静で落ち着いていて、体よりも先に頭が働くタイプだったから気が付けば周りの大人たちの策略にはめられてシリウスの世話係を任されることになっていた。  二人組を作る時も、食事の時も、部屋だって同じのまま十八で学園を卒業する年まで僕たちは常に一緒に居て──そしてそれは就職先でも同じだった。  配属された辺境の地でも僕はシリウスの世話を任され、日々を慌ただしく過ごしていたそんなある日、国境の森に魔物が発生した。それを掃討すべく現場に向かうと何やら魔物の様子がおかしいことに気が付く。  その原因を突き止めたシリウスが掃討に当たったのだが、魔物の攻撃を受けてしまい重傷を負ってしまう。  初めて見るシリウスの姿に僕は動揺し、どうしようもなく不安だった。目を覚ますまでの間何をしていていも気になっていた男が三日振りに目を覚ました時、異変が起きた。 「…シリウス?」 「アルはさ、優しいから」  背中はベッドに押し付けられて、目の前には見たことが無い顔をしたシリウスがいた。  いつだって一等星のように煌めいていた瞳が、仄暗い熱で潤んでいた。とても友人に向ける目では、声では無かった。 「──俺のこと拒めないでしょ?」  おりてきた熱を拒む術を、僕は持っていなかった。  その日を境に、僕たちの関係は変わった。でも、僕にはどうしてシリウスがそんなことをしたのかがわからなかった。    これは気付かないうちに八年間囲われて、向けられている愛の大きさに気付かないまますったもんだする二人のお話。

左遷先は、後宮でした。

猫宮乾
BL
 外面は真面目な文官だが、週末は――打つ・飲む・買うが好きだった俺は、ある日、ついうっかり裏金騒動に関わってしまい、表向きは移動……いいや、左遷……される事になった。死刑は回避されたから、まぁ良いか! お妃候補生活を頑張ります。※異世界後宮ものコメディです。(表紙イラストは朝陽天満様に描いて頂きました。本当に有難うございます!)

悪役令嬢の兄、閨の講義をする。

猫宮乾
BL
 ある日前世の記憶がよみがえり、自分が悪役令嬢の兄だと気づいた僕(フェルナ)。断罪してくる王太子にはなるべく近づかないで過ごすと決め、万が一に備えて語学の勉強に励んでいたら、ある日閨の講義を頼まれる。

5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません

くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、 ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。 だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。 今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。

愛され少年と嫌われ少年

BL
美しい容姿と高い魔力を持ち、誰からも愛される公爵令息のアシェル。アシェルは王子の不興を買ったことで、「顔を焼く」という重い刑罰を受けることになってしまった。 顔を焼かれる苦痛と恐怖に絶叫した次の瞬間、アシェルはまったく別の場所で別人になっていた。それは同じクラスの少年、顔に大きな痣がある、醜い嫌われ者のノクスだった。 元に戻る方法はわからない。戻れたとしても焼かれた顔は醜い。さらにアシェルはノクスになったことで、自分が顔しか愛されていなかった現実を知ってしまう…。 【嫌われ少年の幼馴染(騎士団所属)×愛され少年】 ※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。

婚約破棄されたから能力隠すのやめまーすw

ミクリ21
BL
婚約破棄されたエドワードは、実は秘密をもっていた。それを知らない転生ヒロインは見事に王太子をゲットした。しかし、のちにこれが王太子とヒロインのざまぁに繋がる。 軽く説明 ★シンシア…乙女ゲームに転生したヒロイン。自分が主人公だと思っている。 ★エドワード…転生者だけど乙女ゲームの世界だとは知らない。本当の主人公です。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!