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16 謝れ
『俺に謝罪しろ! 謝れ!』
カルロッタ嬢が退出した後、勢いよくダリス殿下に突進する。俺に冤罪を押し付けたことを謝罪させたい。
殿下の足元をぐるぐる回ってやれば、殿下が深くため息を吐いた。なんだその被害者面。完全なる被害者は俺だぞ。
『謝れぇ! 俺に謝罪しろぉ』
「悪かった」
嫌々といった様子で謝罪してきた殿下は、屈んで俺の頭を撫でてくる。腹いせに噛みついてやろうと奮闘するが、殿下が軽々と避けてくる。そのうち額を人差し指で押さえられて思うように攻撃できなくなる。ちくしょう。
『ちゃんと謝れ』
「悪かったと思っている。すまなかった」
『ふーん』
意外と素直に頭を下げる殿下は俺を抱えてソファにのせた。ぽふぽふとソファを踏みしめていれば、目の前に美味しそうなクッキーが置かれた。
『クッキー』
いい匂いにきらきらと目を輝かせる。
「食べていいぞ」
『やった!』
殿下の素敵な言葉に早速クッキーを頬張る。
もぐもぐ咀嚼していれば、そっと寄ってきたロッドが頭を撫でてきた。俺に触る機会を窺っていたらしい。犬好きという言葉は本当だったのか。
「本当に悪かった。ウィルは、その。普段の言動がちょっとアレだから。てっきりカルロッタに手を出したのだと」
『失礼だな』
なんだその決めつけ。非常に腹が立つ。
ふんとそっぽを向きながらも頑張ってクッキーを頬張る。
「それで」
『ぐぇ!』
なぜか俺の小さい頭を掴んできたダリス殿下。なにその不意打ち。ジタバタ暴れるが、殿下は俺を雑に持ち上げると半眼になった。
「なぜカルロッタにキスをした。あとどさくさに紛れて彼女の胸を触っただろ」
『えー? そうだっけぇ』
記憶にないと笑うが、殿下は冷たい態度で俺を見下ろす。これは確実に怒っていた。
『でもカルロッタ嬢とキスすれば人間に戻れるって。試しただけ』
だからそう怒るなと殿下を宥めれば、殿下は「戻らないじゃないか!」と声を大きくする。その怒声に、今まで沈黙を貫いていたフロイドが駆け寄ってくる。
「申し訳ありません!」
俺の代わりに頭を下げるフロイドは、「でもなぜでしょうか?」と首を捻る。
好きな人とキスしたはずなのに人間に戻らない。ふむふむ考えた俺は、ひとつの結論を導き出した。
『俺。カルロッタ嬢のことそんなに好きではないかも』
「は?」
顔こっわ。
俺を睨みつけてくる物騒な殿下に、へにゃっと眉を下げておく。精一杯困った顔を作るのだが、殿下の表情が優しくなることはない。
『なんかぁ。殿下の婚約者だから好きって言ってみただけだし。もちろん優しいお姉さんは好きだけど。逆にいえば優しいお姉さんなら誰でもいいわけでぇ。多分聖女が言ってた好きな人ってそういうのじゃないかも?』
「おまえ……!」
眉間に深い皺を刻む殿下は「だったら誰の事が好きなんだ!」と無茶な質問をしてくる。カルロッタ嬢とキスしたのに、空振りだったのでキレている。そんなに怒らなくても。今の俺は可愛い犬だぞ。嫉妬深いにも程がある。
『誰だろうね、わかんないや』
へらへらしていれば、殿下が俺を掴んだままズカズカ歩き出す。ひぇ、なんかピンチだ。ジタバタ足を動かしていれば、殿下が俺をロッドへと押し付けた。無言で受け取るロッドは、すかさず俺の頭を撫でてくる。こいつは、俺が公爵家の次男であることを理解しているのだろうか。あまりにも失礼な態度に威嚇してやるが、ロッドの表情は変わらない。
「とにかく。カルロッタにバレる前に、おまえは早急に人間に戻れ!」
『自分が怒られたくないからって横暴だぞ』
カルロッタ嬢に全部告げ口してやると騒いでやれば、殿下が偉そうに腕を組んだ。
「ウィル。たとえあの晩なにもなかったとしても、おまえがあわよくばカルロッタに手を出そうとしていた事実は変わらないからな」
『……てへ』
そこ気付いちゃうかぁ。
なんなら俺は帰宅するまで相手がカルロッタ嬢であることに気が付かなかった。
へらへら笑って曖昧にしてしまおうと目論むが、殿下は「その点に関してはゆっくり話を聞かせてもらおうか」と強気に出てくる。
今更話すことなんてない。俺好みの美人なお姉さんについて行ったというだけの話である。
どうやらあの日のカルロッタ嬢は、殿下や家族から押し付けられる王太子の婚約者というイメージと、自身の本当の性格との間で苛立ちが溜まっていたらしい。四六時中お淑やかな女を演じなければならない彼女の鬱憤は相当なものだったのだろう。そんな中で、たまたま声をかけた俺相手に愚痴を言いたかったのかもしれない。
俺は公爵家の次男だけど、殿下とは幼い頃から交流があるし、カルロッタ嬢の目には俺が殿下に可愛がられている弟的な存在に映ったらしい。なにかと俺に対して苦言を呈してくる殿下である。傍目から見れば、頻繁に俺を王宮へと呼び出して気にかけているように映るらしい。全然違うけどね。俺は殿下に可愛がられてなどいない。余計なことをしでかすのではないかと警戒されているだけだ。
カルロッタ嬢が退出した後、勢いよくダリス殿下に突進する。俺に冤罪を押し付けたことを謝罪させたい。
殿下の足元をぐるぐる回ってやれば、殿下が深くため息を吐いた。なんだその被害者面。完全なる被害者は俺だぞ。
『謝れぇ! 俺に謝罪しろぉ』
「悪かった」
嫌々といった様子で謝罪してきた殿下は、屈んで俺の頭を撫でてくる。腹いせに噛みついてやろうと奮闘するが、殿下が軽々と避けてくる。そのうち額を人差し指で押さえられて思うように攻撃できなくなる。ちくしょう。
『ちゃんと謝れ』
「悪かったと思っている。すまなかった」
『ふーん』
意外と素直に頭を下げる殿下は俺を抱えてソファにのせた。ぽふぽふとソファを踏みしめていれば、目の前に美味しそうなクッキーが置かれた。
『クッキー』
いい匂いにきらきらと目を輝かせる。
「食べていいぞ」
『やった!』
殿下の素敵な言葉に早速クッキーを頬張る。
もぐもぐ咀嚼していれば、そっと寄ってきたロッドが頭を撫でてきた。俺に触る機会を窺っていたらしい。犬好きという言葉は本当だったのか。
「本当に悪かった。ウィルは、その。普段の言動がちょっとアレだから。てっきりカルロッタに手を出したのだと」
『失礼だな』
なんだその決めつけ。非常に腹が立つ。
ふんとそっぽを向きながらも頑張ってクッキーを頬張る。
「それで」
『ぐぇ!』
なぜか俺の小さい頭を掴んできたダリス殿下。なにその不意打ち。ジタバタ暴れるが、殿下は俺を雑に持ち上げると半眼になった。
「なぜカルロッタにキスをした。あとどさくさに紛れて彼女の胸を触っただろ」
『えー? そうだっけぇ』
記憶にないと笑うが、殿下は冷たい態度で俺を見下ろす。これは確実に怒っていた。
『でもカルロッタ嬢とキスすれば人間に戻れるって。試しただけ』
だからそう怒るなと殿下を宥めれば、殿下は「戻らないじゃないか!」と声を大きくする。その怒声に、今まで沈黙を貫いていたフロイドが駆け寄ってくる。
「申し訳ありません!」
俺の代わりに頭を下げるフロイドは、「でもなぜでしょうか?」と首を捻る。
好きな人とキスしたはずなのに人間に戻らない。ふむふむ考えた俺は、ひとつの結論を導き出した。
『俺。カルロッタ嬢のことそんなに好きではないかも』
「は?」
顔こっわ。
俺を睨みつけてくる物騒な殿下に、へにゃっと眉を下げておく。精一杯困った顔を作るのだが、殿下の表情が優しくなることはない。
『なんかぁ。殿下の婚約者だから好きって言ってみただけだし。もちろん優しいお姉さんは好きだけど。逆にいえば優しいお姉さんなら誰でもいいわけでぇ。多分聖女が言ってた好きな人ってそういうのじゃないかも?』
「おまえ……!」
眉間に深い皺を刻む殿下は「だったら誰の事が好きなんだ!」と無茶な質問をしてくる。カルロッタ嬢とキスしたのに、空振りだったのでキレている。そんなに怒らなくても。今の俺は可愛い犬だぞ。嫉妬深いにも程がある。
『誰だろうね、わかんないや』
へらへらしていれば、殿下が俺を掴んだままズカズカ歩き出す。ひぇ、なんかピンチだ。ジタバタ足を動かしていれば、殿下が俺をロッドへと押し付けた。無言で受け取るロッドは、すかさず俺の頭を撫でてくる。こいつは、俺が公爵家の次男であることを理解しているのだろうか。あまりにも失礼な態度に威嚇してやるが、ロッドの表情は変わらない。
「とにかく。カルロッタにバレる前に、おまえは早急に人間に戻れ!」
『自分が怒られたくないからって横暴だぞ』
カルロッタ嬢に全部告げ口してやると騒いでやれば、殿下が偉そうに腕を組んだ。
「ウィル。たとえあの晩なにもなかったとしても、おまえがあわよくばカルロッタに手を出そうとしていた事実は変わらないからな」
『……てへ』
そこ気付いちゃうかぁ。
なんなら俺は帰宅するまで相手がカルロッタ嬢であることに気が付かなかった。
へらへら笑って曖昧にしてしまおうと目論むが、殿下は「その点に関してはゆっくり話を聞かせてもらおうか」と強気に出てくる。
今更話すことなんてない。俺好みの美人なお姉さんについて行ったというだけの話である。
どうやらあの日のカルロッタ嬢は、殿下や家族から押し付けられる王太子の婚約者というイメージと、自身の本当の性格との間で苛立ちが溜まっていたらしい。四六時中お淑やかな女を演じなければならない彼女の鬱憤は相当なものだったのだろう。そんな中で、たまたま声をかけた俺相手に愚痴を言いたかったのかもしれない。
俺は公爵家の次男だけど、殿下とは幼い頃から交流があるし、カルロッタ嬢の目には俺が殿下に可愛がられている弟的な存在に映ったらしい。なにかと俺に対して苦言を呈してくる殿下である。傍目から見れば、頻繁に俺を王宮へと呼び出して気にかけているように映るらしい。全然違うけどね。俺は殿下に可愛がられてなどいない。余計なことをしでかすのではないかと警戒されているだけだ。
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