クズ令息、魔法で犬になったら恋人ができました

岩永みやび

文字の大きさ
17 / 41

17 荷造り

 俺を叱りつけてくる殿下はクソだ。誰にでも手を出すんじゃないとか、夜遊びするなとか。もう聞き飽きた文言を繰り返しては「聞いてるのか!?」と俺を怒鳴りつけてくる。

 隙をついて逃げ出そうとしたのだが、なぜか俺を抱きしめるロッドのせいで逃げ出せない。『離せ!』と勢いよく抗議しても、ロッドは涼しい顔で聞き流してしまう。

 顔色の悪いフロイドはひとりで何度も頭を下げている。この場で一番責任を感じているのはフロイドだった。まぁ、あの晩フロイドが俺から目を離さなければこんなことにはなっていないので。責任の大半がフロイドにあるのは事実だろう。殿下にもそう伝えたのだが「責任転嫁するんじゃない」と一蹴されてしまった。なぜだ。

『俺はこんなにもふもふなのに』

 どうして怒られなきゃならないんだとシクシク泣けば、ロッドが「もふもふで可愛いです」と言ってくれる。なんだ。失礼男の割によくわかってるじゃないか。

『そうだろう。特別に撫でていいぞ』
「ありがとうございます」

 素直に俺を撫でるロッドは、頭から顎へと手を動かす。なんか気持ちよくて目を細めていれば、ダリス殿下が「おい」と低い声を発した。

「まだ話は終わってないぞ」
『へへ、俺は可愛い犬だぞ』
「だからなんだ」

 無愛想な殿下は、ロッドを睨みつける。話の邪魔をするなと言いたげな視線に、けれどもロッドは堂々と俺を撫で続ける。怖いもの知らずな性格なのだろうか。それとも単に鈍いだけなのか。多分後者だ。

 そんなのんびりとした空気に毒気を抜かれたのか。殿下が額を押さえてため息を吐いた。

「とにかく。頼むから早々に人間に戻ってくれ」
『はいはーい』

 律儀にお返事したのに、殿下は「なんだその雑な返事は」と文句を言ってくる。俺の行動全てに文句を言いたいお年頃なのだろうか。反抗期かよ。

 殿下の気が変わらないうちにと急いで退出する。
 廊下に出るなりフロイドが青い顔で「なんで火に油を注ぐようなことを言うんですか!」とキレてきた。

「僕は別に。なにも言ってませんけど」
「あなたではなくウィル様のことです!」

 なぜか積極的に叱られにいくロッドは「はぁ」と気の抜ける頷きを返す。どこまでもマイペースな奴だ。ペースを乱されたフロイドが頬を引き攣らせている。

「あなたにはウィル様の側についてもらうことになるんですが」
「構いませんよ。僕はどこでも。あ、でも」

 ぴたりと足を止めたロッドは「先輩には言っておかないと」と眉を寄せた。

 出た。先輩。
 ロッドには世話になっている騎士団の先輩がいるらしい。王宮からアグナス公爵家に移動になった旨を伝えなければならないと、俺を抱えたままのロッドは真剣な表情で説明する。

「それは、はい。いいですけど」

 どちらにせよロッドが王立騎士団から移動になることは騎士団に伝えなければならない。あと荷物もあるだろうし。実際にロッドがうちに来るのは数日先になりそうだ。その間に周囲に妙なことを言わなければいいが。

 ちょっぴり心配する俺であったが、ひとつ頷いたロッドがフロイドに「ちょっと待っていてください」と言い放つ。

「え」
「荷物まとめてきます。あと先輩に挨拶してきます」
「え? 今から?」

 困惑するフロイドの返事を待たずに、ロッドは駆け出した。しかも俺を抱っこしたまま。

「ちょっと!? そんなに急ぐ必要は」

 慌てたフロイドが追いかけてくるが、ロッドは足がはやかった。おまけに騎士棟まで妙な裏道を通るのであっという間にフロイドの姿が見えなくなった。ほほぅと感心する俺は、ロッドの顔を見上げる。

『あのフロイドをあっさり撒くとは。素晴らしい。褒めてやる』
「ありがとうございます」

 褒めてやれば、ロッドは微かに笑ってみせた。

 どうやらロッドは俺たちと一緒にアグナス公爵家に向かうつもりでいるらしい。せっかちだな。だがロッドは少し抜けているので、目を離した隙に俺が犬になった件や、殿下の婚約者に手を出した件を広めてしまいそうな気がする。なるべく手元に置いておいた方がいいかもしれないので、この流れは幸いであった。

 ロッドに抱えられたまま向かったのは騎士団の独身寮であった。

 公爵家の息子である俺がここに足を踏み入れる機会はまずない。物珍しさからきょろきょろしてしまう。

『狭い部屋だな』
「人数が多いですからね」

 狭い感覚で並ぶドアを眺める。古い建物ではあるが、掃除は行き届いているらしい。使用人の類はいないので、騎士たちが自分で清掃しているのだとか。

「僕の部屋はここです」
『ほほう』

 立ち並ぶドアの一つを開け放ったロッドは、室内に俺をおろす。狭い部屋だ。なぜかベッドがふたつある。

『……もしかしてこの狭い部屋にふたりで?』

 おそるおそる問えば、ロッドは「はい」とあっさり頷いた。ひぇ。

『俺の部屋より狭いのに。うちの玄関ホールよりも狭いぞ』

 バタバタ走り回れば、ロッドが「公爵邸と比べられても」と苦笑する。若手のうちは歳の近い先輩と相部屋になるらしい。

 大きめの鞄を引っ張り出して、片っ端から物を詰め込んでいくロッドの手元を覗き込む。

 尻尾をぶんぶん振って、興味津々に荷造り作業を見学する。備え付けの家具を除けば、ロッドの私物といえるものは数が少ない。この分だとすぐに終わりそうだ。
感想 5

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたから能力隠すのやめまーすw

ミクリ21
BL
婚約破棄されたエドワードは、実は秘密をもっていた。それを知らない転生ヒロインは見事に王太子をゲットした。しかし、のちにこれが王太子とヒロインのざまぁに繋がる。 軽く説明 ★シンシア…乙女ゲームに転生したヒロイン。自分が主人公だと思っている。 ★エドワード…転生者だけど乙女ゲームの世界だとは知らない。本当の主人公です。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。

村松砂音(抹茶砂糖)
BL
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました! ありがとうございました!! いつも不機嫌そうな美形の騎士×特異体質の不憫な騎士見習い <あらすじ> 魔力欠乏体質者との性行為は、死ぬほど気持ちがいい。そんな噂が流れている「魔力欠乏体質」であるリュカは、父の命令で第二王子を誘惑するために見習い騎士として騎士団に入る。 見習い騎士には、側仕えとして先輩騎士と宿舎で同室となり、身の回りの世話をするという規則があり、リュカは隊長を務めるアレックスの側仕えとなった。 いつも不機嫌そうな態度とちぐはぐなアレックスのやさしさに触れていくにつれて、アレックスに惹かれていくリュカ。 ある日、リュカの前に第二王子のウィルフリッドが現れ、衝撃の事実を告げてきて……。 親のいいなりで生きてきた不憫な青年が、恋をして、しあわせをもらう物語。 ※性描写が多めの作品になっていますのでご注意ください。 └性描写が含まれる話のサブタイトルには※をつけています。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」さまで作成しました。

左遷先は、後宮でした。

猫宮乾
BL
 外面は真面目な文官だが、週末は――打つ・飲む・買うが好きだった俺は、ある日、ついうっかり裏金騒動に関わってしまい、表向きは移動……いいや、左遷……される事になった。死刑は回避されたから、まぁ良いか! お妃候補生活を頑張ります。※異世界後宮ものコメディです。(表紙イラストは朝陽天満様に描いて頂きました。本当に有難うございます!)

【完結】やらかし兄は勇者の腕の中で幸せに。それくらいがちょうど良いのです

鏑木 うりこ
BL
レンとリンは不幸な一生を終え、やっていたゲームと酷似した世界に降りてきた。楽しく幸せに暮らせる世界なのに魔王がいて平和を脅かしている。  聖剣を棍棒的な何かにしてしまった責任を取るためにレンとリンは勇者アランフィールドの一行に加わる。 勘違いしたり、やらかしたり、シチューを食べたりしながら、二人の中は深まって行く。   完結済み、全36話予定5万字程の話です。 お笑い封印失敗しました_:(´ཀ`」 ∠): ⚪︎王子様の勇者アランフィールド×鍛冶師のレン(兄) 後半少しだけ ⚪︎魔王ルーセウス×薬師のリン(弟) で、構成されております。  一気に書いたので誤字脱字があるかと思います。教えて頂けたら嬉しいです。(話数を明記して頂けると探す時凄く助かります!)なお、誤字に見えてわざと効果として使っている場所はそのままになります。 多忙時、お返事を返す事ができない事があります。コメント等全て読ませていただいておりますが、その辺りは申し訳ございません。 後、ないとは思いますがAI学習とかさせないでね!

妹に聖女の座を奪われ極寒の地に追放されましたが、冷酷公爵様の不器用な溺愛と巨大もふもふ精霊王に囲まれ幸せです

黒崎隼人
ファンタジー
枯れ果てた王都の大地に、夜な夜な魔力を注ぎ、命の息吹を与え続けていた伯爵令嬢のルシエル。 しかし彼女は「真の聖女」としての手柄をすべて異母妹のマリアンヌに奪われ、さらには無実の罪を着せられて、一年中雪と氷に閉ざされた極寒の北の公爵領へと永久追放されてしまう。 すべてを失い、死を覚悟してたどり着いた氷の城。 そこで彼女を待っていたのは、「冷酷公爵」と恐れられる若き領主・カリスだった。 しかし彼は、噂とは正反対の、不器用だが誰よりも領民思いで優しい男性だった。 カリスに隠された真の力を見出されたルシエルは、彼と「1年間の契約結婚」を結び、北の大地を救うために立ち上がる。 温かい食事、安全な寝床、そしてカリスの不器用な優しさに触れ、ルシエルの凍りついていた心は少しずつ溶かされていく。 さらに、怪我をしていたところを助けた巨大な銀狼――実は恐ろしい「精霊の王」ブランにもすっかり懐かれてしまい、ルシエルの周りはかつてないほどの温もりともふもふで満たされていく。 一方、真の聖女を失った王都は急激に枯れ果て、崩壊の危機を迎えていた。 焦った王都側はルシエルを連れ戻そうと理不尽な要求を突きつけ、ついには呪いの攻撃まで仕掛けてくる。 だが、今のルシエルはもう一人ではない。愛する人たちと、自らの居場所を守るため、彼女は真の力を解放する――! これは、すべてを奪われた少女が、北の地で不器用な公爵様と愛らしい精霊王に囲まれ、世界一温かい春を咲かせるまでの、奇跡と溺愛の物語。

婚約破棄されたSubですが、新しく伴侶になったDomに溺愛コマンド受けてます。

猫宮乾
BL
 【完結済み】僕(ルイス)は、Subに生まれた侯爵令息だ。許婚である公爵令息のヘルナンドに無茶な命令をされて何度もSub dropしていたが、ある日婚約破棄される。内心ではホッとしていた僕に対し、その時、その場にいたクライヴ第二王子殿下が、新しい婚約者に立候補すると言い出した。以後、Domであるクライヴ殿下に溺愛され、愛に溢れるコマンドを囁かれ、僕の悲惨だったこれまでの境遇が一変する。※異世界婚約破棄×Dom/Subユニバースのお話です。独自設定も含まれます。(☆)挿入無し性描写、(★)挿入有り性描写です。第10回BL大賞応募作です。応援・ご投票していただけましたら嬉しいです! ▼一日2話以上更新。あと、(微弱ですが)ざまぁ要素が含まれます。D/Sお好きな方のほか、D/Sご存じなくとも婚約破棄系好きな方にもお楽しみいただけましたら嬉しいです!(性描写に痛い系は含まれません。ただ、たまに激しい時があります)