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17 荷造り
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俺を叱りつけてくる殿下はクソだ。誰にでも手を出すんじゃないとか、夜遊びするなとか。もう聞き飽きた文言を繰り返しては「聞いてるのか!?」と俺を怒鳴りつけてくる。
隙をついて逃げ出そうとしたのだが、なぜか俺を抱きしめるロッドのせいで逃げ出せない。『離せ!』と勢いよく抗議しても、ロッドは涼しい顔で聞き流してしまう。
顔色の悪いフロイドはひとりで何度も頭を下げている。この場で一番責任を感じているのはフロイドだった。まぁ、あの晩フロイドが俺から目を離さなければこんなことにはなっていないので。責任の大半がフロイドにあるのは事実だろう。殿下にもそう伝えたのだが「責任転嫁するんじゃない」と一蹴されてしまった。なぜだ。
『俺はこんなにもふもふなのに』
どうして怒られなきゃならないんだとシクシク泣けば、ロッドが「もふもふで可愛いです」と言ってくれる。なんだ。失礼男の割によくわかってるじゃないか。
『そうだろう。特別に撫でていいぞ』
「ありがとうございます」
素直に俺を撫でるロッドは、頭から顎へと手を動かす。なんか気持ちよくて目を細めていれば、ダリス殿下が「おい」と低い声を発した。
「まだ話は終わってないぞ」
『へへ、俺は可愛い犬だぞ』
「だからなんだ」
無愛想な殿下は、ロッドを睨みつける。話の邪魔をするなと言いたげな視線に、けれどもロッドは堂々と俺を撫で続ける。怖いもの知らずな性格なのだろうか。それとも単に鈍いだけなのか。多分後者だ。
そんなのんびりとした空気に毒気を抜かれたのか。殿下が額を押さえてため息を吐いた。
「とにかく。頼むから早々に人間に戻ってくれ」
『はいはーい』
律儀にお返事したのに、殿下は「なんだその雑な返事は」と文句を言ってくる。俺の行動全てに文句を言いたいお年頃なのだろうか。反抗期かよ。
殿下の気が変わらないうちにと急いで退出する。
廊下に出るなりフロイドが青い顔で「なんで火に油を注ぐようなことを言うんですか!」とキレてきた。
「僕は別に。なにも言ってませんけど」
「あなたではなくウィル様のことです!」
なぜか積極的に叱られにいくロッドは「はぁ」と気の抜ける頷きを返す。どこまでもマイペースな奴だ。ペースを乱されたフロイドが頬を引き攣らせている。
「あなたにはウィル様の側についてもらうことになるんですが」
「構いませんよ。僕はどこでも。あ、でも」
ぴたりと足を止めたロッドは「先輩には言っておかないと」と眉を寄せた。
出た。先輩。
ロッドには世話になっている騎士団の先輩がいるらしい。王宮からアグナス公爵家に移動になった旨を伝えなければならないと、俺を抱えたままのロッドは真剣な表情で説明する。
「それは、はい。いいですけど」
どちらにせよロッドが王立騎士団から移動になることは騎士団に伝えなければならない。あと荷物もあるだろうし。実際にロッドがうちに来るのは数日先になりそうだ。その間に周囲に妙なことを言わなければいいが。
ちょっぴり心配する俺であったが、ひとつ頷いたロッドがフロイドに「ちょっと待っていてください」と言い放つ。
「え」
「荷物まとめてきます。あと先輩に挨拶してきます」
「え? 今から?」
困惑するフロイドの返事を待たずに、ロッドは駆け出した。しかも俺を抱っこしたまま。
「ちょっと!? そんなに急ぐ必要は」
慌てたフロイドが追いかけてくるが、ロッドは足がはやかった。おまけに騎士棟まで妙な裏道を通るのであっという間にフロイドの姿が見えなくなった。ほほぅと感心する俺は、ロッドの顔を見上げる。
『あのフロイドをあっさり撒くとは。素晴らしい。褒めてやる』
「ありがとうございます」
褒めてやれば、ロッドは微かに笑ってみせた。
どうやらロッドは俺たちと一緒にアグナス公爵家に向かうつもりでいるらしい。せっかちだな。だがロッドは少し抜けているので、目を離した隙に俺が犬になった件や、殿下の婚約者に手を出した件を広めてしまいそうな気がする。なるべく手元に置いておいた方がいいかもしれないので、この流れは幸いであった。
ロッドに抱えられたまま向かったのは騎士団の独身寮であった。
公爵家の息子である俺がここに足を踏み入れる機会はまずない。物珍しさからきょろきょろしてしまう。
『狭い部屋だな』
「人数が多いですからね」
狭い感覚で並ぶドアを眺める。古い建物ではあるが、掃除は行き届いているらしい。使用人の類はいないので、騎士たちが自分で清掃しているのだとか。
「僕の部屋はここです」
『ほほう』
立ち並ぶドアの一つを開け放ったロッドは、室内に俺をおろす。狭い部屋だ。なぜかベッドがふたつある。
『……もしかしてこの狭い部屋にふたりで?』
おそるおそる問えば、ロッドは「はい」とあっさり頷いた。ひぇ。
『俺の部屋より狭いのに。うちの玄関ホールよりも狭いぞ』
バタバタ走り回れば、ロッドが「公爵邸と比べられても」と苦笑する。若手のうちは歳の近い先輩と相部屋になるらしい。
大きめの鞄を引っ張り出して、片っ端から物を詰め込んでいくロッドの手元を覗き込む。
尻尾をぶんぶん振って、興味津々に荷造り作業を見学する。備え付けの家具を除けば、ロッドの私物といえるものは数が少ない。この分だとすぐに終わりそうだ。
隙をついて逃げ出そうとしたのだが、なぜか俺を抱きしめるロッドのせいで逃げ出せない。『離せ!』と勢いよく抗議しても、ロッドは涼しい顔で聞き流してしまう。
顔色の悪いフロイドはひとりで何度も頭を下げている。この場で一番責任を感じているのはフロイドだった。まぁ、あの晩フロイドが俺から目を離さなければこんなことにはなっていないので。責任の大半がフロイドにあるのは事実だろう。殿下にもそう伝えたのだが「責任転嫁するんじゃない」と一蹴されてしまった。なぜだ。
『俺はこんなにもふもふなのに』
どうして怒られなきゃならないんだとシクシク泣けば、ロッドが「もふもふで可愛いです」と言ってくれる。なんだ。失礼男の割によくわかってるじゃないか。
『そうだろう。特別に撫でていいぞ』
「ありがとうございます」
素直に俺を撫でるロッドは、頭から顎へと手を動かす。なんか気持ちよくて目を細めていれば、ダリス殿下が「おい」と低い声を発した。
「まだ話は終わってないぞ」
『へへ、俺は可愛い犬だぞ』
「だからなんだ」
無愛想な殿下は、ロッドを睨みつける。話の邪魔をするなと言いたげな視線に、けれどもロッドは堂々と俺を撫で続ける。怖いもの知らずな性格なのだろうか。それとも単に鈍いだけなのか。多分後者だ。
そんなのんびりとした空気に毒気を抜かれたのか。殿下が額を押さえてため息を吐いた。
「とにかく。頼むから早々に人間に戻ってくれ」
『はいはーい』
律儀にお返事したのに、殿下は「なんだその雑な返事は」と文句を言ってくる。俺の行動全てに文句を言いたいお年頃なのだろうか。反抗期かよ。
殿下の気が変わらないうちにと急いで退出する。
廊下に出るなりフロイドが青い顔で「なんで火に油を注ぐようなことを言うんですか!」とキレてきた。
「僕は別に。なにも言ってませんけど」
「あなたではなくウィル様のことです!」
なぜか積極的に叱られにいくロッドは「はぁ」と気の抜ける頷きを返す。どこまでもマイペースな奴だ。ペースを乱されたフロイドが頬を引き攣らせている。
「あなたにはウィル様の側についてもらうことになるんですが」
「構いませんよ。僕はどこでも。あ、でも」
ぴたりと足を止めたロッドは「先輩には言っておかないと」と眉を寄せた。
出た。先輩。
ロッドには世話になっている騎士団の先輩がいるらしい。王宮からアグナス公爵家に移動になった旨を伝えなければならないと、俺を抱えたままのロッドは真剣な表情で説明する。
「それは、はい。いいですけど」
どちらにせよロッドが王立騎士団から移動になることは騎士団に伝えなければならない。あと荷物もあるだろうし。実際にロッドがうちに来るのは数日先になりそうだ。その間に周囲に妙なことを言わなければいいが。
ちょっぴり心配する俺であったが、ひとつ頷いたロッドがフロイドに「ちょっと待っていてください」と言い放つ。
「え」
「荷物まとめてきます。あと先輩に挨拶してきます」
「え? 今から?」
困惑するフロイドの返事を待たずに、ロッドは駆け出した。しかも俺を抱っこしたまま。
「ちょっと!? そんなに急ぐ必要は」
慌てたフロイドが追いかけてくるが、ロッドは足がはやかった。おまけに騎士棟まで妙な裏道を通るのであっという間にフロイドの姿が見えなくなった。ほほぅと感心する俺は、ロッドの顔を見上げる。
『あのフロイドをあっさり撒くとは。素晴らしい。褒めてやる』
「ありがとうございます」
褒めてやれば、ロッドは微かに笑ってみせた。
どうやらロッドは俺たちと一緒にアグナス公爵家に向かうつもりでいるらしい。せっかちだな。だがロッドは少し抜けているので、目を離した隙に俺が犬になった件や、殿下の婚約者に手を出した件を広めてしまいそうな気がする。なるべく手元に置いておいた方がいいかもしれないので、この流れは幸いであった。
ロッドに抱えられたまま向かったのは騎士団の独身寮であった。
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『狭い部屋だな』
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