いたずらっ子な転生者はおっきいもふもふを捕まえたい!

岩永みやび

文字の大きさ
77 / 105

77 さみしい?

しおりを挟む
「……オリビアぁ」
「なんですか?」

 急遽コンちゃんの部屋を用意した後。寝室にてオリビアを呼べば、くるりと振り返ってくれる。

 先にベッドで寝ていた猫のユナを引っ張り出して、床に落としておく。ハッと目を見開いたユナが『なにするんだ!』と大声で抗議してきたけど無視しておく。人のベッドを勝手に占領するユナが圧倒的に悪いと思う。

「オリビアぁ」
「だから。なんですか?」

 ベッドに腰掛ける俺の前に足を運んだオリビアは、膝をついて俺と目線を近付けてくれる。

 綺麗に澄んだ瞳をぼんやり眺めながら、俺はうーんと唸ってしまう。これは訊いてもいいことなのだろうか。しかし遠慮していても仕方がないので、目の前に屈むオリビアの肩をぽんぽんと叩いてみる。

「オリビア。王立騎士団に戻っちゃうの?」
「え?」

 目を見開くオリビアは「戻りませんよ」とあっさり否定してきた。そんな軽く答えちゃっていいのか。

「だって王立騎士団の団長に戻って来いって言われたんでしょ?」

 正直、エヴァンズ公爵家の私営騎士団にいるよりも王立騎士団所属の方がずっと良い立場だと思う。そりゃあオリビアは色々あって王立騎士団を辞めてうちに移ってきた身だけど。実際にうちで働いてみて、やっぱりあちらに戻りたいと思っていたりするのかもしれない。

 だから心配になってオリビアに直接聞いてみたのだが、彼女は目を瞬いて「どうして私があんなところに戻らないといけないんですか」と口の悪いことを言い始める。それ誰かに聞かれたらまずい発言だと思うぞ。この部屋には俺とオリビアしかいないけど。いやユナもいたな。ユナはなにもできない魔獣なので大丈夫だろう。

 オリビアの顔をじっと見つめてみる。
 相変わらず綺麗な顔をしている。なんだかムカついてきた。オリビアが屈んでいるのをいいことに、彼女の頭をペシッと叩いてやった。すぐにオリビアが「なにをするんですか」と眉を吊り上げるが気にしない。へらへら笑っておけば、オリビアは呆れたとばかりに息を吐く。

「オリビアもはやく寝なよ。夜更かししたら兄上に怒られるぞ」
「私は別に怒られませんよ」

 苦笑するオリビアは、ゆったりした動作で立ち上がると俺の頭を軽く撫でてきた。珍しく優しい手つきである。

 オリビアは俺の護衛なので、すぐ近くに部屋をもらっている。先程帰宅したばかりだし、もしかしたら夕食だってまだかもしれない。俺のことは気にせず休んでいいよと伝えれば、オリビアが「はい。ありがとうございます」と柔らかく笑った。

 オリビアが去った後、俺はユナを抱えてベッドにもぐる。しかしどうしてもコンちゃんのことが気になって仕方がない。コンちゃんは、同じ階に部屋を用意してもらっていた。普段は客室として利用されている部屋である。

「コンちゃん、大丈夫かな? ひとりで寂しくて泣いてないかな」
『あいつが泣くわけないだろ』

 眠そうにむにゃむにゃしながら答えるユナは冷たいと思う。たしかにコンちゃんは冷たい目をしたお兄さんだけど。

 あれは人間姿に化けたらああいう見た目になったというだけであり、見た目通り冷たい性格というわけでもないと思う。それにこれまで野生で好き勝手に生きてきた魔獣が、突然人間の屋敷に連れてこられたのだ。慣れない環境で寂しくなっても仕方がない。むしろそれが自然だと思う。

「大変だぞ! 猫!」
『……へ? なに?』

 半分寝ていたユナがきょろきょろしている。しかしこれは一刻を争う事態であった。

「コンちゃんが泣いているかもしれない! 助けに行かないと!」
『……え? なに。なんの話をしてるのさ』
「いくぞ!」
『行かないよ? もう寝ろや。何時だと思ってんの』

 突然口が悪くなるユナをぎゅっと抱きしめたまま部屋を飛び出す。ユナの『やめろ、くるしい』という悲鳴のような声が聞こえてきて慌てて力を緩めた。

 そうしてコンちゃんに割り当てられた部屋に突撃すれば、コンちゃんはベッドに横たわることなくソファに腰掛けて偉そうにふんぞり返っていた。

「なんの用だ」

 ちらりと俺を一瞥して、コンちゃんが眉を寄せる。長い足を組んで座るコンちゃんはすごく偉そうな態度。ユナが『え、なにこいつ』と引いている。

 とりあえずコンちゃんの隣に腰を下ろす。一瞬だけ嫌そうな顔を向けてきたコンちゃんは、しかしすぐに前を向くと黙り込んでしまう。

「コンちゃん」
「その名前は気に入らない」
「コンちゃんはコンちゃんだもん」
「違う。私は高貴な魔獣だぞ。そんな愛玩動物につけるような名前は相応しくない」
「コンちゃん。もふもふ。俺のペット」
「おまえのペットになった覚えはない」

 ひどい。契約したもん。
 しかしコンちゃんはペットと使い魔は全然違うと力説してくる。魔力が云々とか難しい話だ。七歳の俺には理解できない。ぽかんとしながらユナを撫でていれば、コンちゃんが舌打ちした。

「おまえ、私の話をなにも理解していないだろう?」
「コンちゃん、よく喋るね。お喋り好きなの? 俺も好き」
「おまえに何を言っても無駄だということはわかった」

 真顔で変な宣言をしてくるコンちゃん。俺は賢い七歳児だぞ。馬鹿にするんじゃない。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

何故か転生?したらしいので【この子】を幸せにしたい。

くらげ
ファンタジー
俺、 鷹中 結糸(たかなか ゆいと) は…36歳 独身のどこにでも居る普通のサラリーマンの筈だった。 しかし…ある日、会社終わりに事故に合ったらしく…目が覚めたら細く小さい少年に転生?憑依?していた! しかも…【この子】は、どうやら家族からも、国からも、嫌われているようで……!? よし!じゃあ!冒険者になって自由にスローライフ目指して生きようと思った矢先…何故か色々な事に巻き込まれてしまい……?! 「これ…スローライフ目指せるのか?」 この物語は、【この子】と俺が…この異世界で幸せスローライフを目指して奮闘する物語!

才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!

にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。 そう、ノエールは転生者だったのだ。 そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

『規格外の薬師、追放されて辺境スローライフを始める。〜作ったポーションが国家機密級なのは秘密です〜』

雛月 らん
ファンタジー
俺、黒田 蓮(くろだ れん)35歳は前世でブラック企業の社畜だった。過労死寸前で倒れ、次に目覚めたとき、そこは剣と魔法の異世界。しかも、幼少期の俺は、とある大貴族の私生児、アレン・クロイツェルとして生まれ変わっていた。 前世の記憶と、この世界では「外れスキル」とされる『万物鑑定』と『薬草栽培(ハイレベル)』。そして、誰にも知られていない規格外の莫大な魔力を持っていた。 しかし、俺は決意する。「今世こそ、誰にも邪魔されない、のんびりしたスローライフを送る!」と。 これは、スローライフを死守したい天才薬師のアレンと、彼の作る規格外の薬に振り回される異世界の物語。 平穏を愛する(自称)凡人薬師の、のんびりだけど実は波乱万丈な辺境スローライフファンタジー。

『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~

チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!? 魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで! 心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく-- 美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!

【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する

ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。 きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。 私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。 この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない? 私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?! 映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。 設定はゆるいです

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

処理中です...