ビッチキャラに成り代わり!セフレとの関係を切ったら幼馴染騎士が急接近してきた件

岩永みやび

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2 恩人?

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 起きたら知らない天井だった。お家に帰りたい。

 どこなんだよ、ここは。
 ゆっくり寝たはずなのにまだちょっと頭が痛い。昨日のあれは夢なんじゃ? 夢じゃないの? じゃあなに。現実だとでも言うのか。

 あの後、黒髪男が俺をベッドまで運んでくれたらしい。なんて優しい人。俺に手を出そうと(?)していた赤髪男とはえらい違いだ。

 だが、問題は何ひとつ解決していない。安心するのはまだはやい。ここは明らかに自宅じゃないし、友達の家でもない。ホテルの類とも違う。知らない人の部屋だと思われる。

 ここからどうしよう。とりあえずまだ本調子ではないので二度寝してしまおう。現実逃避とも言う。もぞもぞとベッドの上で寝返りを打てば、綺麗な黒髪が視界をかすめてぎょっとした。

「うわ!」

 びっくりするあまり大声を出せば、隣で寝ていた黒髪男が「うるさい」と苦い声を発した。

 なんで一緒のベッドで寝てんの!?

 この黒髪男は、一応俺を助けてくれた(?)人ではあるけど。男同士とはいえあまり大きくないベッドにふたりはちょっと。

 急いでベッドを抜け出そうとして、隣の男が裸であることに気がついた俺は再び悲鳴を上げる。

「なんだうるさい」

 目を開けた黒髪男は、俺を睨みつけてくる。

「なんで裸なの!?」
「あぁ?」

 寝起きでかすれた妙に色っぽい声の男は、吐息を漏らしながら上半身を起こした。

「別にいいだろ。俺がどんな格好で寝ようがレオには関係ないだろ」
「あるだろ!?」

 いや普段であればどうでもいいけどさ!
 いま隣に寝てんだよ!? 俺は気にする。見ず知らずの男が裸で隣に寝てたら気にする!

 というかしれっとレオ呼びされたけど、それはなに? 俺はそんな名前ではない。

 俺は、俺は?

 ふと動きを止めた俺に、黒髪男が「なんだ」と頭をガシガシ掻いて欠伸をする。

 妙に色っぽい仕草を横目で見ながら、そっと額を押さえた。

「……俺の名前、なんだっけ?」

 そう。自分の名前がまったく思い出せない。
 いやいや。落ち着け、俺。俺は都内の大学に通う大学生で、それで。それで?

 さっと血の気が引く。自分が知らない場所にいるというだけであれば、まだなんとかなる。だが、自分の素性がわからないというのは流石に笑えないぞ。

 俺の深刻な声音に、黒髪男が「あ?」と物騒な反応を返してくる。

「まだ酔ってんのか?」

 軽蔑するような視線を向けられて、勢いで「違う!」と否定する。酔って記憶をなくした訳ではない。そうだったらどれほど良かっただろう。

「あの、夢みたいな話なんだけど」

 焦りと恐怖のあまり、目の前にいる黒髪男に縋るような視線を向けてしまう。

「ちょっと、記憶が曖昧というか」

 改めて言葉にすると、己の置かれた状況に絶望してしまう。記憶をなくして、知らない場所に知らない男(しかも裸)と一緒というこの地獄みたいな状況。なんだこれ。

 器用に片眉を上げた黒髪男は、「記憶なくすまで飲むのはやめろ」と説教じみた小言をぶつけてくる。

 そうじゃない。そうじゃないんだよ。

 適度に筋肉のある綺麗な体であるが、ところどころに傷が目立つ裸体を隠しもしない黒髪男は、眠そうに目元を擦ってから伸びをする。下半身は布団で隠れているのだが、もしや下も履いてないのか?

 そんなどうでもいいことを考えながら、黒髪男の腕を掴んだ。今はこいつだけが頼りである。なんか口ぶりからして俺の事を知っているっぽいし。俺はレオって名前ではないけどさ。

「記憶が、ないんです。その、全部」
「……全部?」

 怪訝な声で目を見開く黒髪男は「全部ってなんだ」と怒ったような声を出す。

「自分が誰なのかも、あなたが誰なのかも。全部わかんない、です」

 黒髪男の鋭い目線に耐えきれなくなって俯く。
 だよね。んな突拍子もない話、すんなり信じてもらえなくて当然である。

 でも俺には手掛かりとなる記憶が何ひとつない。ここからどうすればいいのかもわからない。帰る場所もわからない。

 しゅんと背中を丸める俺に、「つまり」と低く安定感のある声が降ってくる。

「記憶喪失だと言いたいのか?」
「そ、そう! それ!」

 正確にはちょっと違うと思うけど。
 だってここはなんとなく現代日本じゃない気がする。昨日の赤髪男。日本人離れした彫りの深い顔立ちだったし。もちろん髪を染めているという可能性もあるけどさ。でもなんか雰囲気が妙なのだ。

 こくこく頷く俺に、黒髪男は「そうか」と短く応じた。意外とあっさり信じてくれるんだな。

 黒髪男が動くのに合わせて、ベッドが軋む。
 ベッドを降りた彼は、きちんと下着を身につけていた。流石に全裸ではなかったらしい。ホッと安堵する。「顔洗ってくる」と、ドアの向こうに消えた彼は、少しして戻ってきた。

 肩にかけたタオルで雑に顔を拭いて、クローゼットから服を引っ張り出している。なんかファンタジー作品に出てきそうなかっこいい服だ。騎士とかが着ていそうな黒っぽいデザイン。なんか、うん。とにかくかっこいい服装である。

 ベッドに座ったまま、ぼけっと眺めていれば、黒髪男が「じゃあ俺は仕事に行ってくる」と背中を向けたので慌てて立ち上がった。

「ちょっと!? 話聞いてた? 俺、記憶が」

 ギロッと俺を睨みつけた黒髪男は、大股で俺に詰め寄ってくる。あっという間に壁際に追い詰められた俺は、なんか怖くて首をすくめた。

 こうして並ぶと背の高い男である。
 見上げるようにしてお綺麗な顔を見つめていれば、男が壁に片手をついた。なにこれ。壁ドン?

 固まる俺の顎をすくうように持ち上げて、黒髪男が「悪いけど」と顔を歪める。

「俺は忙しい。おまえのくだらない冗談に付き合っている暇はない」
「……え」

 いや冗談ではないんだけど。
 咄嗟に違うと否定しようとするも、黒髪男は俺を突き放すように荒々しい動作で背を向ける。

「あ、ちょっと」

 バタンと雑に閉められたドアを前にして、ひとり立ち尽くした。

 俺の話、まったく信じてもらえてないじゃん。
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