ビッチキャラに成り代わり!セフレとの関係を切ったら幼馴染騎士が急接近してきた件

岩永みやび

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3 再びピンチ

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 おそらくここは黒髪男の自室なのだろう。あいつの私物と思われるものが転がっている。

 ちょっと手狭で、大学生の一人暮らしみたいな部屋である。若干物が少ない気もするが、あの神経質そうな黒髪男のことである。無駄な物は持たない主義なのだろう。知らないけど。

 ひとりで部屋に取り残された俺は、軽く絶望していた。いや、記憶喪失なんて言われてすんなり受け入れる人は少ないと思うけど。思うけどさぁ。なにもあんな悪意のこもった目を向けなくても良くない?

 結局、あの黒髪男は何者なんだ。俺の敵なのか、味方なのか。

 昨日動けなくなっていた俺をベッドに運んで寝かせてくれたのだから悪い人ではないと思うけど。

 すたすたと小さい部屋を歩き回って、深くため息を吐く。体調はマシにはなったけど、それ以上に頭の痛い問題があった。

「これ、俺じゃないよな?」

 いやほんと。何言ってるかわかんないかもしれないけど、これは俺じゃない。

 備え付けられていた姿見を覗き込んで、へにゃっと眉を下げた。

 鏡の中にいるのは、一体どこの王子だよとツッコミたくなるほどのイケメンであった。俺はこんな顔じゃなかったぞ。

 色素の薄いきらきら光る金髪に、薄青のくりっとした瞳。うーん。王子様っぽい。華奢な体付きで、ちょっと背は低めかもしれない。あの黒髪男は長身だった。

「これは、異世界転生というやつか?」

 でも別に死んで生まれ変わったわけでもないし、突然前世の記憶が蘇ったというわけでもない。正確には転生じゃなくて、なんだろう。他人の体を乗っ取った的な? 感覚的にはそんな気がする。

「やべぇな」

 何がやべぇって俺にこの世界についての知識が皆無なことだ。ここはどこ、私は誰? 状態。

 なんか黒髪男は、俺のことをレオと呼んでいた。
 要するに、前世(?)平凡な男子大学生だったはずの俺が、知らん異世界のレオくんという美男子の身体を乗っ取ってしまったのだろう。何がどうなったらそうなるんだよ。くそ。

 しかし、こういう状況になってしまったからには仕方がない。ここは美男子レオくんとして平和な生活を送ろうじゃないか。

 だってそれ以外にベストな方法が見つからない。ここで実は俺が異世界から来た別人なんです! レオくんなんて知りません! と声高に主張したところで、みんな先程の黒髪男のように鼻で笑うに決まっている。そんなの俺のメンタルがもたない。俺はこう見えて繊細なんだ。

 しかしレオくん。実にお綺麗な顔をしている。かっこいい系ではなく可愛い系の顔立ちである。アイドルとかやってそう。

 ひと通りレオくんの顔を眺めて、次に今後のことを考える。

 レオくんと黒髪男は知り合いらしい。その黒髪男は、仕事に行くと言って出て行った。このままあいつが帰ってくるまでここに居座るのが一番安全な気はするんだけど暇で仕方がない。

 それに現状も把握しなければならない。
 迷った末に、俺はドアに手をかけた。そうっとノブを回して細くドアを開いてみれば、廊下が広がっていることを確認できた。

 誰もいないことを確認して、そっと部屋から出てみる。左右に伸びた長い廊下。ずらりと並んだ同じドア。ホテルやアパートのような場所だろうか。

 目についた窓へと駆け寄って、外を確認してみる。眼下に広い運動場のようなものが見えた。

 なにここ。

 首を捻っていれば、「おい!」と怒声が響いてビクッと肩を揺らした。バクバクと音を立てる心臓を押さえて、そっと振り返れば、燃えるような赤髪が確認できた。

 こいつは!
 昨日、俺の貞操をピンチに陥れた張本人!

 ぎゃあと悲鳴を上げる俺に、赤髪男が眉を吊り上げた。

「てめぇ! 人の顔見て悲鳴をあげるとはどういうつもりだ!」

 ズカズカと大股で俺を追い込んだ赤髪男は、背が高かった。なんでみんな当然のように長身なんだよ。

 あとこのシチュエーションには覚えがあるぞ。黒髪男といい、なんでみんな壁ドンしてくるんだよ。流行ってんのか!?

「おい。昨日はなんで逃げた」

 地を這うような低音に、首をすくめる。俺はなんとも情けない表情をしていたに違いない。

 なんでと言われても。あんな貞操の危機に逃げ出さないわけがないだろう。

 なんとかこの場から脱出しようと頭を巡らせるが、「なによそ見してやがる」と赤髪男がグッと顔を近付けてきた。キスでもされそうな近距離に息を呑めば、なぜか赤髪男がニヤッと笑った。

 え? と思ったのも束の間。

「っ!」

 俺の両足の間に膝を突っ込んできた赤髪男が、そのまま股間をまさぐるように膝を押し付けてきた。

「え、ちょ」
「んだよ。そっちが誘ってきたんだろうが。焦らしやがって」

 誘ったってなに!?
 身に覚えのない話だが、赤髪男がぐりぐりと俺の股間を刺激してくるためそれどころではない。

「ちょ、やめ」

 んあ、と身を捩る俺に、男が「うるせぇ」と言いながら大きな手で口を塞いできた。

「ん、」

 壁と男に挟まれて逃げ場がない。
 大きな手が邪魔で呼吸も制限されてしまう。その間も、男が俺の急所に与えてくるもどかしい刺激にビクッと体が震えた。己の意思とは裏腹にガクガクと揺れる腰に、なんだか情けないような怖いような感情が湧き上がってくる。

「ん、ッ」

 じわっと涙が滲んできた。
 俺よりもずっと体格のよろしい赤髪男が相手では、抵抗らしい抵抗もできない。

「なんだよ。その目は」
「っ」

 涙目で精一杯に男を睨みつければ、仕返しと言わんばかりに一際強く刺激を与えられる。力が抜けてへたり込みそうになるが、股に膝を差し込まれたこの状況ではそれもできない。

 片手を壁について覆い被さるように密着してくる赤髪男は、空いた方の手で相変わらず俺の口を塞いでいる。ちょっぴり息が苦しくなってきて、なんとか手を外そうとするのだが、男は意に介さない。

「なぁ、レオ。なんで逃げた」

 だから俺はレオじゃないっての。
 口がきけないと分かっていながら意地悪く問いかけてくる赤髪男は、「俺には飽きたってか?」と不機嫌そうに顔を近付けてきた。

 必死でジタバタ暴れる俺を力で押さえ込む赤髪男。これはもう絶体絶命のピンチであった。
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