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4 もう限界
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「隊長! なにをしているんですか!」
絶体絶命であった俺だが、予想外の救世主が現れた。
颯爽とこちらに寄ってくるのは、今のところ俺の命の恩人に認定されている例の黒髪男である。
仕事に行ったんじゃなかったの?
黒髪男を確認するなり、俺を襲っていた赤髪男が忌々しげに舌打ちした。そうしてようやく離れた手に、ゴホゴホと咳き込んでしまう。壁に背中を預けたまま、ずるずるとへたり込む俺をよそに、赤髪男が「行けばいいんだろ、行けば!」と怒鳴り声をあげた。
「おい、レオ」
肩で息をする俺を見下ろして、赤髪男がグッと眉間に皺を寄せた。
「今夜は逃げるんじゃねぇぞ」
「え」
その低い声に、助かったと安堵する間もなく心臓が跳ねた。今夜も俺に手を出すつもりか? 冗談じゃない。
最後にもう一度俺を睨みつけてどこかへ去って行く赤髪男。その大きな背中を見送って、力の抜けた俺は動けない。代わりに寄ってきた黒髪男が、俺を見下ろすようにして足を止めた。ズボンのポケットに手を突っ込んで、呆れたような怒っているような。そんな微妙な声音で「レオ」と呼ばれた。
おそるおそる顔を上げれば、凍てつくような視線とかち合った。
「朝っぱらからやめろ。ここに出入りするのは構わないが、必要以上にみんなを揶揄うな」
「……は、ぁ?」
え、なにその俺が悪いみたいな言い方。
今の見てた? 完全に俺があの赤髪男に襲われてただろ。
なにその軽蔑するような目。
咄嗟に反応できずにいると、黒髪男がガシガシと己の頭を掻いた。「面倒なことしやがって」と吐き捨てる彼は、確実に怒っていた。それも俺に対して。
「あ、その。俺は」
「男誘惑して楽しいかよ」
「は?」
降ってきた発言に耳を疑う。
誘惑? 俺が? は?
言葉を失っていれば、黒髪男が容赦なしに俺を睨みつけてくる。
「おまえのせいで迷惑してんだよ。男漁りたいならどっか他所でやれよ」
いや、なにその言い方。
あんまりな物言いに、じわっと涙が滲んでくる。
慌てて目元を拭うけど、もう止まらない。ポロポロ溢れてくる涙に、ぎゅっと膝を抱えて下を向く。それでも誤魔化しきれない涙に、ついには肩を震わせてしゃくり上げた。
「お、おい」
なんだか黒髪男の焦ったような声が聞こえてくる。まさか俺が泣くとは思ってもいなかったらしい。でもあんな暴言吐かれたら、繊細な俺は普通に泣く。
「なんなんだよぉ。みんなして。俺がなにしたって言うんだよぉ」
みっともなく涙を流す俺に、黒髪男が「ちょっと。やめろ」と困ったようにかがみ込んだ。
「わかったから。悪かったって。とりあえず部屋に戻るぞ」
な? と肩を叩かれて、渋々立ち上がった。
他に行くとこないし。先程は暴言吐かれたけど、この狼狽え方をみるに俺がこんなに泣くなんて予想外だったのだろう。
黒髪男に手を引かれて、彼の自室に戻る。目元を擦る俺に、男がタオルを投げて寄越した。
遠慮なくそれで涙を拭っていれば、黒髪男が「どうしたんだ。隊長に何かされたのか」と遠慮がちに訊いてきた。
「隊長って?」
話の流れ的にあの赤髪男のことなんだろうけど。首を捻れば、黒髪男が頬を引きつらせた。
「ドミニク隊長。今一緒にいただろうが」
「あ、うん」
あの赤髪男、ドミニクというのか。でも隊長ってなに。
立ち尽くす俺。それを見て、黒髪男はショックのあまり動けないと判断したらしい。「嫌なら嫌と言えばいいだろ」と雑に頭を掻いている。
だから。なんだその俺が悪いみたいな言い方は。
再び涙が滲んでくる俺に、黒髪男がぎょっとした。
「どうした。体調でも悪いのか?」
水でも飲むか? と問いかけてくる男に、ふるふると首を左右に振っておく。そのまま促されて、ベッドに腰掛ける。足元をじっと見つめて顔を上げない俺に、黒髪男が「なにがあった」と苛立ったように声をかけてきた。
「黙っててもわからないだろ。レオ」
その少し強い口調に、タオルで顔を覆った。
「だから。記憶がないってさっきから言ってるだろ!」
声を荒げてから、またしてもしゃくりあげる。
ベッドに倒れて泣き喚く俺に、黒髪男が「あれ真面目な話だったのか?」と若干引き気味に応じた。
正確には違うけど。
だが、俺にレオくんの記憶がないのは確かだ。ついでに自分の前世(?)に関する記憶も曖昧。いきなり知らない世界で知らない人たちに囲まれて、おまけにドミニクとかいう知らない男に襲われた俺はもう限界だった。
わんわん泣く俺を見下ろして、黒髪男が「えぇ? どうすればいいんだよ、これ」と小声で呟いていた。
絶体絶命であった俺だが、予想外の救世主が現れた。
颯爽とこちらに寄ってくるのは、今のところ俺の命の恩人に認定されている例の黒髪男である。
仕事に行ったんじゃなかったの?
黒髪男を確認するなり、俺を襲っていた赤髪男が忌々しげに舌打ちした。そうしてようやく離れた手に、ゴホゴホと咳き込んでしまう。壁に背中を預けたまま、ずるずるとへたり込む俺をよそに、赤髪男が「行けばいいんだろ、行けば!」と怒鳴り声をあげた。
「おい、レオ」
肩で息をする俺を見下ろして、赤髪男がグッと眉間に皺を寄せた。
「今夜は逃げるんじゃねぇぞ」
「え」
その低い声に、助かったと安堵する間もなく心臓が跳ねた。今夜も俺に手を出すつもりか? 冗談じゃない。
最後にもう一度俺を睨みつけてどこかへ去って行く赤髪男。その大きな背中を見送って、力の抜けた俺は動けない。代わりに寄ってきた黒髪男が、俺を見下ろすようにして足を止めた。ズボンのポケットに手を突っ込んで、呆れたような怒っているような。そんな微妙な声音で「レオ」と呼ばれた。
おそるおそる顔を上げれば、凍てつくような視線とかち合った。
「朝っぱらからやめろ。ここに出入りするのは構わないが、必要以上にみんなを揶揄うな」
「……は、ぁ?」
え、なにその俺が悪いみたいな言い方。
今の見てた? 完全に俺があの赤髪男に襲われてただろ。
なにその軽蔑するような目。
咄嗟に反応できずにいると、黒髪男がガシガシと己の頭を掻いた。「面倒なことしやがって」と吐き捨てる彼は、確実に怒っていた。それも俺に対して。
「あ、その。俺は」
「男誘惑して楽しいかよ」
「は?」
降ってきた発言に耳を疑う。
誘惑? 俺が? は?
言葉を失っていれば、黒髪男が容赦なしに俺を睨みつけてくる。
「おまえのせいで迷惑してんだよ。男漁りたいならどっか他所でやれよ」
いや、なにその言い方。
あんまりな物言いに、じわっと涙が滲んでくる。
慌てて目元を拭うけど、もう止まらない。ポロポロ溢れてくる涙に、ぎゅっと膝を抱えて下を向く。それでも誤魔化しきれない涙に、ついには肩を震わせてしゃくり上げた。
「お、おい」
なんだか黒髪男の焦ったような声が聞こえてくる。まさか俺が泣くとは思ってもいなかったらしい。でもあんな暴言吐かれたら、繊細な俺は普通に泣く。
「なんなんだよぉ。みんなして。俺がなにしたって言うんだよぉ」
みっともなく涙を流す俺に、黒髪男が「ちょっと。やめろ」と困ったようにかがみ込んだ。
「わかったから。悪かったって。とりあえず部屋に戻るぞ」
な? と肩を叩かれて、渋々立ち上がった。
他に行くとこないし。先程は暴言吐かれたけど、この狼狽え方をみるに俺がこんなに泣くなんて予想外だったのだろう。
黒髪男に手を引かれて、彼の自室に戻る。目元を擦る俺に、男がタオルを投げて寄越した。
遠慮なくそれで涙を拭っていれば、黒髪男が「どうしたんだ。隊長に何かされたのか」と遠慮がちに訊いてきた。
「隊長って?」
話の流れ的にあの赤髪男のことなんだろうけど。首を捻れば、黒髪男が頬を引きつらせた。
「ドミニク隊長。今一緒にいただろうが」
「あ、うん」
あの赤髪男、ドミニクというのか。でも隊長ってなに。
立ち尽くす俺。それを見て、黒髪男はショックのあまり動けないと判断したらしい。「嫌なら嫌と言えばいいだろ」と雑に頭を掻いている。
だから。なんだその俺が悪いみたいな言い方は。
再び涙が滲んでくる俺に、黒髪男がぎょっとした。
「どうした。体調でも悪いのか?」
水でも飲むか? と問いかけてくる男に、ふるふると首を左右に振っておく。そのまま促されて、ベッドに腰掛ける。足元をじっと見つめて顔を上げない俺に、黒髪男が「なにがあった」と苛立ったように声をかけてきた。
「黙っててもわからないだろ。レオ」
その少し強い口調に、タオルで顔を覆った。
「だから。記憶がないってさっきから言ってるだろ!」
声を荒げてから、またしてもしゃくりあげる。
ベッドに倒れて泣き喚く俺に、黒髪男が「あれ真面目な話だったのか?」と若干引き気味に応じた。
正確には違うけど。
だが、俺にレオくんの記憶がないのは確かだ。ついでに自分の前世(?)に関する記憶も曖昧。いきなり知らない世界で知らない人たちに囲まれて、おまけにドミニクとかいう知らない男に襲われた俺はもう限界だった。
わんわん泣く俺を見下ろして、黒髪男が「えぇ? どうすればいいんだよ、これ」と小声で呟いていた。
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