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黒髪男は、ウォルトという名前らしい。
俺の記憶喪失設定を半信半疑で聞いてくれたウォルトは、王立騎士団所属の騎士だという。レオとは幼馴染だそうだ。
泣く俺を見かねたのか。先程までの軽蔑した視線を引っ込めて、ウォルトは簡単にレオについて説明してくれた。ウォルトの驚き方を見るに、どうやらレオは人前で泣くような性格ではないらしい。
騎士とか王国とか、ゲームや漫画でしか馴染みのない単語の羅列に俺は頭を抱えた。やはりここは俺の知る世界ではない。異世界だ。
どうやらレオの身体を俺が乗っ取ったことになるらしい。レオには悪い気もするが、巻き込まれた俺だって被害者なのだ。
ここはウォルトの部屋で、騎士団の寮なのだとか。道理で似たようなドアがずらりと並んでいたわけである。
「ということは、俺も騎士?」
正直、レオは華奢である。あまり騎士には見えないが、騎士団の寮に出入りしているくらいだ。レオも騎士なのだろう。現代っ子の俺は、運動が苦手だ。ここで騎士としてやっていける自信が皆無。はやくも絶望する俺であったが、ウォルトは呆れたように眉を寄せた。
「レオが騎士? 冗談だろ」
「え? 違うの?」
騎士団の寮に出入りしているし、隊長であるドミニクともなんかただならぬ関係に見えた。だからてっきりレオも騎士なんだと理解したのに。
呆然とする俺に、ウォルトがカップに淹れてくれたお茶を差し出してきた。それをありがたく受け取って、口をつける。温かいお茶に、ちょっと気持ちが落ち着いた。
「……おまえは、騎士でもないのに寮に入り浸っている」
「は?」
ウォルトの発言に、目を見張った。あ、騎士じゃないのか。それはよかった。
しかし安堵したのも束の間。ウォルトがなんとも言えない目を向けてきた。
「そしていろんな男共に手を出しては、騎士団内の秩序を乱していた。本当に覚えていないのか?」
「……覚えて、ないですね」
なにやってんだよ、レオくん!
衝撃の事実を受け止めきれない。男に手を出すってなに!? え、そういうこと? そういうことなのか、レオくん!?
だが、これでドミニク隊長とやらの態度も納得できる。要するに、レオは男にちょっかいかけて遊んでいたのだろう。
そしてドミニク隊長もそのターゲットだったと。
たしかにレオくん、可愛い顔してるけどさ。なんでそんな意味不明なことを。俺は生憎と可愛い女の子にしか興味がない。むさ苦しい男にはこれっぽっちも興味がないのだ。
「今はドミニク隊長で遊んでいたらしいな。あの人で遊んで楽しいのか?」
純粋な疑問という感じで問いかけられるも、俺もそれは知らない。本物のレオに訊いてくれ。
ベッドに腰掛けたまま項垂れることしかできない俺。しかしこれが夢ではないことは、もうはっきりしている。
とすれば、俺はこのレオのお綺麗な顔で生きていくしかないわけで。
まさか会う人会う人にいちいち「記憶喪失なんです!」と説明してまわるわけにもいかない。ウォルトひとりに説明するのでさえ、ここまで手間取ったのだ。そうすると、レオに成りきるしかない。
成りき、成りきれるのかこれ。
え、無理だろ。
だってウォルトから軽く話を聞いた限りでも、レオはとんでもない奴である。可愛い顔を存分に活用して男共を揶揄って遊んでいたらしい。ビッチってこと?
「え、むり」
俺がこのビッチキャラを演じるのか? 嘘だろ。
普通に無理だって。
俺の手からカップを取り上げたウォルトは「本当に記憶がないのか? 記憶を失うと性格まで変わるのか?」と不思議そうに俺の顔を覗き込んできた。
「っ!」
先程ドミニク隊長にされたことが頭をよぎって、反射的に身体が固まってしまった。それに気がついたウォルトは、「あぁ、悪い」と呟いて距離をとってくれた。
「なんか、ウォルトって優しいよね」
「はぁ?」
ぼそっと口からこぼれた言葉に、ウォルトが眉を寄せた。俺はいまだにウォルトの笑顔を見ていない。なぜかずっと険しい顔なのだ。けれどもこうやって俺の話を聞いてくれるあたり、根は優しい男なのだろう。
「おまえがそういうこと言うの違和感しかないんだけど」
「なぜ」
レオは、ウォルトのことをどう扱っていたのだろうか。慣れないと言わんばかりに視線を逸らしたウォルトは、「そろそろ仕事に戻らねぇと」と言った。そういえば、ドミニク隊長の件ですっかり忘れていたのだが、ウォルトは仕事中であった。
「あ、ごめん。行ってきていいよ」
俺のことはご心配なくとタオルで目元を拭いながら言ったものだから、あまり説得力がなかったのかもしれない。ウォルトが「本当に大丈夫なのか?」と視線を投げてきた。
「うん。大丈夫」
もうだいぶ落ち着いた。仕事中であれば、ドミニク隊長だってここには来ないだろう。今度は、うろうろせずにウォルトの部屋でおとなしくしておく。
だから大丈夫だと告げると、ウォルトが「そうか」と納得してくれた。
今はまだ頭が混乱しているのだ。
しかしウォルトに拾ってもらえて助かった。ウォルトは俺の命の恩人だと思う。
俺の記憶喪失設定を半信半疑で聞いてくれたウォルトは、王立騎士団所属の騎士だという。レオとは幼馴染だそうだ。
泣く俺を見かねたのか。先程までの軽蔑した視線を引っ込めて、ウォルトは簡単にレオについて説明してくれた。ウォルトの驚き方を見るに、どうやらレオは人前で泣くような性格ではないらしい。
騎士とか王国とか、ゲームや漫画でしか馴染みのない単語の羅列に俺は頭を抱えた。やはりここは俺の知る世界ではない。異世界だ。
どうやらレオの身体を俺が乗っ取ったことになるらしい。レオには悪い気もするが、巻き込まれた俺だって被害者なのだ。
ここはウォルトの部屋で、騎士団の寮なのだとか。道理で似たようなドアがずらりと並んでいたわけである。
「ということは、俺も騎士?」
正直、レオは華奢である。あまり騎士には見えないが、騎士団の寮に出入りしているくらいだ。レオも騎士なのだろう。現代っ子の俺は、運動が苦手だ。ここで騎士としてやっていける自信が皆無。はやくも絶望する俺であったが、ウォルトは呆れたように眉を寄せた。
「レオが騎士? 冗談だろ」
「え? 違うの?」
騎士団の寮に出入りしているし、隊長であるドミニクともなんかただならぬ関係に見えた。だからてっきりレオも騎士なんだと理解したのに。
呆然とする俺に、ウォルトがカップに淹れてくれたお茶を差し出してきた。それをありがたく受け取って、口をつける。温かいお茶に、ちょっと気持ちが落ち着いた。
「……おまえは、騎士でもないのに寮に入り浸っている」
「は?」
ウォルトの発言に、目を見張った。あ、騎士じゃないのか。それはよかった。
しかし安堵したのも束の間。ウォルトがなんとも言えない目を向けてきた。
「そしていろんな男共に手を出しては、騎士団内の秩序を乱していた。本当に覚えていないのか?」
「……覚えて、ないですね」
なにやってんだよ、レオくん!
衝撃の事実を受け止めきれない。男に手を出すってなに!? え、そういうこと? そういうことなのか、レオくん!?
だが、これでドミニク隊長とやらの態度も納得できる。要するに、レオは男にちょっかいかけて遊んでいたのだろう。
そしてドミニク隊長もそのターゲットだったと。
たしかにレオくん、可愛い顔してるけどさ。なんでそんな意味不明なことを。俺は生憎と可愛い女の子にしか興味がない。むさ苦しい男にはこれっぽっちも興味がないのだ。
「今はドミニク隊長で遊んでいたらしいな。あの人で遊んで楽しいのか?」
純粋な疑問という感じで問いかけられるも、俺もそれは知らない。本物のレオに訊いてくれ。
ベッドに腰掛けたまま項垂れることしかできない俺。しかしこれが夢ではないことは、もうはっきりしている。
とすれば、俺はこのレオのお綺麗な顔で生きていくしかないわけで。
まさか会う人会う人にいちいち「記憶喪失なんです!」と説明してまわるわけにもいかない。ウォルトひとりに説明するのでさえ、ここまで手間取ったのだ。そうすると、レオに成りきるしかない。
成りき、成りきれるのかこれ。
え、無理だろ。
だってウォルトから軽く話を聞いた限りでも、レオはとんでもない奴である。可愛い顔を存分に活用して男共を揶揄って遊んでいたらしい。ビッチってこと?
「え、むり」
俺がこのビッチキャラを演じるのか? 嘘だろ。
普通に無理だって。
俺の手からカップを取り上げたウォルトは「本当に記憶がないのか? 記憶を失うと性格まで変わるのか?」と不思議そうに俺の顔を覗き込んできた。
「っ!」
先程ドミニク隊長にされたことが頭をよぎって、反射的に身体が固まってしまった。それに気がついたウォルトは、「あぁ、悪い」と呟いて距離をとってくれた。
「なんか、ウォルトって優しいよね」
「はぁ?」
ぼそっと口からこぼれた言葉に、ウォルトが眉を寄せた。俺はいまだにウォルトの笑顔を見ていない。なぜかずっと険しい顔なのだ。けれどもこうやって俺の話を聞いてくれるあたり、根は優しい男なのだろう。
「おまえがそういうこと言うの違和感しかないんだけど」
「なぜ」
レオは、ウォルトのことをどう扱っていたのだろうか。慣れないと言わんばかりに視線を逸らしたウォルトは、「そろそろ仕事に戻らねぇと」と言った。そういえば、ドミニク隊長の件ですっかり忘れていたのだが、ウォルトは仕事中であった。
「あ、ごめん。行ってきていいよ」
俺のことはご心配なくとタオルで目元を拭いながら言ったものだから、あまり説得力がなかったのかもしれない。ウォルトが「本当に大丈夫なのか?」と視線を投げてきた。
「うん。大丈夫」
もうだいぶ落ち着いた。仕事中であれば、ドミニク隊長だってここには来ないだろう。今度は、うろうろせずにウォルトの部屋でおとなしくしておく。
だから大丈夫だと告げると、ウォルトが「そうか」と納得してくれた。
今はまだ頭が混乱しているのだ。
しかしウォルトに拾ってもらえて助かった。ウォルトは俺の命の恩人だと思う。
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