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6 回避したい
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ベッドに寝転んでいた俺は、ドアの開く音で上半身を起こした。
仕事が終わって部屋に戻ってきたウォルトに視線を向ける。なんとなく俺はベッドに腰掛ける体勢をとった。家主が戻ってきたのに、のんびり寝転んでいるのは悪い気がしたのだ。俺は一応、最低限の常識は弁えているので。
騎士団の仕事というものが一体どういうものなのか。貧相な知識しか持ち合わせていない俺には、いまいち理解できない。けれども疲れた表情で帰宅したウォルトである。なんか大変そうというのは理解できた。俺には向かない仕事だと思う。
そんな彼に、またさらなる面倒事を押し付けるのは俺としても本意ではない。
だがしかし。
これは俺にとっての死活問題である。ウォルトが可哀想という理由で、諦めるわけにはいかないのだ。
黒いジャケットを脱いで無造作にソファへと放ったウォルトは、ガシガシと頭を掻いてソファに腰をおろした。
二人がけサイズのソファが、ひとつ置いてあるだけである。彼の隣に腰掛けるのも気が引けて、俺はベッドを陣取ったままウォルトに顔を向けた。
「あのさ」
「なんだ」
素っ気なく応じたウォルトは、本当に疲れているように見える。先程よりも声が低い。
眉間を揉むウォルトの迫力に負けるわけにはいかない。この世界に関する知識のない俺の味方は、今のところウォルトしかいないのだ。絶対に彼を逃すわけにはいかない。
こっそり決意を固めた俺は、目下の問題に取り組むことにした。
「ドミニク隊長はどうすればいい?」
「……あ?」
面食らったような声を出したウォルトは、ようやく俺を視界に入れた。
「どうって、なにがだ」
「いや、だからさ」
言いながら、そういえばウォルトは俺とドミニクのやり取りを知らないんだったと思い直す。
今朝のことである。
ドミニクに絡まれた(というか襲われた)俺は、ウォルトのおかげで命拾いした。けれども去り際に、ドミニクから「今夜は逃げるなよ」的なことを言われたのである。普通に怖い。
これってようするに、今夜の相手をしろってことだろう。ウォルトから聞いたレオの私生活から察するに、そういうことだろう。普通に嫌。
けれども俺があの隊長を相手に腕力で勝てるとは思えない。だからどうすればいいのかとウォルトに尋ねてみたのだが、ウォルトは眉間の皺を深くするだけでアイデアをくれない。
妙な沈黙がおりた室内にて、俺はウォルトの顔を凝視していた。我慢のできなくなった俺は、自分から話を再開させた。
「ドミニク隊長のこと、どうすればいい?」
「会わなければいいんじゃないのか」
ウォルトの口から出てきた提案に、俺は「なるほど!」と手を打った。実に単純なことである。ドミニクに会わなければ、襲われることもない。名案じゃん。
「じゃあ今夜もここに泊めて」
「……好きにしろ」
なんだか諦めたような言い方である。そこでふと疑問が生じた。
「俺の家ってどこ?」
「おまえ、家なんてあるのか?」
「えっ」
質問に質問で返されて面食らう。え、レオって家ないの?
驚いていると、ウォルトが「いつも男の家をふらふら行き来してただろ」と衝撃の事実を告げてきた。
レオくん! マジかよ。
いくらなんでも遊びすぎでは?
幼馴染でも家が不明ってどういうことだよ。
ウォルトいわく、レオの実家はここから離れた田舎町にあるらしい。レオはウォルトと共に王都へと出てきたんだとか。
ウォルトは騎士団の寮で生活しているのだが、レオの住処は知らないという。ウォルトの知る限りだと、ここ最近はずっとこの寮に入り浸っていたらしい。
関係者以外が我が物顔で居座るのは、あまりよろしくない。一度ドミニクが注意したそうだが、なんとレオは逆にドミニクを落としたらしい。以来、ドミニクはすっかりレオに夢中なのだとか。どうしてそうなるんだ。
これにより堂々と寮に居座ることに成功したレオは、呑気に生活していた。しかしそんなレオを最初に寮へと引き入れたウォルトは酷く後悔していたようである。そりゃそうだろう。ウォルトに会うためレオがうっかり寮へと足を踏み入れたばかりに、すっかり寮の雰囲気が変わってしまったのだから。
「なんというか、どんまい」
もうそれしか言えない。心の底から同情したのだが、ウォルトは半眼になってしまう。おまえのせいだろと言わんばかりの視線が飛んできて、反射で顔を背けた。そういえば、今は俺がレオだった。
「……おまえ、本当になにも覚えてないのか?」
「うん。なんも覚えてない」
覚えていないというより、知らないというのが正しいんだけど。一応、記憶喪失には納得してくれたらしいウォルトだが、まさか「異世界から来た別人なんです!」なんて突拍子もない話は信じてもらえないだろう。俺がウォルトの立場だったら、絶対に信じないもん。
「俺、今日から真面目に生きようと思う」
急にレオの性格が激変したら怪しまれるだろう。けれどもドミニクに絡まれて懸命に逃げている今の状況であれば、レオの言動に変化が起きても納得してもらえるかもしれない。記憶喪失設定もあるし、なんか上手いこと誤魔化せるだろう。
元の世界に戻れる可能性がよくわからない以上、俺はここでの生活を少しでも快適にしたい。せめてよくわからない貞操の危機が降りかかるような事態だけは回避したい。
俺は、この乱れに乱れまくったレオの私生活を改善してみせる! だって俺にはビッチキャラなんて荷が重すぎるから!
仕事が終わって部屋に戻ってきたウォルトに視線を向ける。なんとなく俺はベッドに腰掛ける体勢をとった。家主が戻ってきたのに、のんびり寝転んでいるのは悪い気がしたのだ。俺は一応、最低限の常識は弁えているので。
騎士団の仕事というものが一体どういうものなのか。貧相な知識しか持ち合わせていない俺には、いまいち理解できない。けれども疲れた表情で帰宅したウォルトである。なんか大変そうというのは理解できた。俺には向かない仕事だと思う。
そんな彼に、またさらなる面倒事を押し付けるのは俺としても本意ではない。
だがしかし。
これは俺にとっての死活問題である。ウォルトが可哀想という理由で、諦めるわけにはいかないのだ。
黒いジャケットを脱いで無造作にソファへと放ったウォルトは、ガシガシと頭を掻いてソファに腰をおろした。
二人がけサイズのソファが、ひとつ置いてあるだけである。彼の隣に腰掛けるのも気が引けて、俺はベッドを陣取ったままウォルトに顔を向けた。
「あのさ」
「なんだ」
素っ気なく応じたウォルトは、本当に疲れているように見える。先程よりも声が低い。
眉間を揉むウォルトの迫力に負けるわけにはいかない。この世界に関する知識のない俺の味方は、今のところウォルトしかいないのだ。絶対に彼を逃すわけにはいかない。
こっそり決意を固めた俺は、目下の問題に取り組むことにした。
「ドミニク隊長はどうすればいい?」
「……あ?」
面食らったような声を出したウォルトは、ようやく俺を視界に入れた。
「どうって、なにがだ」
「いや、だからさ」
言いながら、そういえばウォルトは俺とドミニクのやり取りを知らないんだったと思い直す。
今朝のことである。
ドミニクに絡まれた(というか襲われた)俺は、ウォルトのおかげで命拾いした。けれども去り際に、ドミニクから「今夜は逃げるなよ」的なことを言われたのである。普通に怖い。
これってようするに、今夜の相手をしろってことだろう。ウォルトから聞いたレオの私生活から察するに、そういうことだろう。普通に嫌。
けれども俺があの隊長を相手に腕力で勝てるとは思えない。だからどうすればいいのかとウォルトに尋ねてみたのだが、ウォルトは眉間の皺を深くするだけでアイデアをくれない。
妙な沈黙がおりた室内にて、俺はウォルトの顔を凝視していた。我慢のできなくなった俺は、自分から話を再開させた。
「ドミニク隊長のこと、どうすればいい?」
「会わなければいいんじゃないのか」
ウォルトの口から出てきた提案に、俺は「なるほど!」と手を打った。実に単純なことである。ドミニクに会わなければ、襲われることもない。名案じゃん。
「じゃあ今夜もここに泊めて」
「……好きにしろ」
なんだか諦めたような言い方である。そこでふと疑問が生じた。
「俺の家ってどこ?」
「おまえ、家なんてあるのか?」
「えっ」
質問に質問で返されて面食らう。え、レオって家ないの?
驚いていると、ウォルトが「いつも男の家をふらふら行き来してただろ」と衝撃の事実を告げてきた。
レオくん! マジかよ。
いくらなんでも遊びすぎでは?
幼馴染でも家が不明ってどういうことだよ。
ウォルトいわく、レオの実家はここから離れた田舎町にあるらしい。レオはウォルトと共に王都へと出てきたんだとか。
ウォルトは騎士団の寮で生活しているのだが、レオの住処は知らないという。ウォルトの知る限りだと、ここ最近はずっとこの寮に入り浸っていたらしい。
関係者以外が我が物顔で居座るのは、あまりよろしくない。一度ドミニクが注意したそうだが、なんとレオは逆にドミニクを落としたらしい。以来、ドミニクはすっかりレオに夢中なのだとか。どうしてそうなるんだ。
これにより堂々と寮に居座ることに成功したレオは、呑気に生活していた。しかしそんなレオを最初に寮へと引き入れたウォルトは酷く後悔していたようである。そりゃそうだろう。ウォルトに会うためレオがうっかり寮へと足を踏み入れたばかりに、すっかり寮の雰囲気が変わってしまったのだから。
「なんというか、どんまい」
もうそれしか言えない。心の底から同情したのだが、ウォルトは半眼になってしまう。おまえのせいだろと言わんばかりの視線が飛んできて、反射で顔を背けた。そういえば、今は俺がレオだった。
「……おまえ、本当になにも覚えてないのか?」
「うん。なんも覚えてない」
覚えていないというより、知らないというのが正しいんだけど。一応、記憶喪失には納得してくれたらしいウォルトだが、まさか「異世界から来た別人なんです!」なんて突拍子もない話は信じてもらえないだろう。俺がウォルトの立場だったら、絶対に信じないもん。
「俺、今日から真面目に生きようと思う」
急にレオの性格が激変したら怪しまれるだろう。けれどもドミニクに絡まれて懸命に逃げている今の状況であれば、レオの言動に変化が起きても納得してもらえるかもしれない。記憶喪失設定もあるし、なんか上手いこと誤魔化せるだろう。
元の世界に戻れる可能性がよくわからない以上、俺はここでの生活を少しでも快適にしたい。せめてよくわからない貞操の危機が降りかかるような事態だけは回避したい。
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