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7 俺の決意は固い
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ウォルトの部屋という安全圏を手に入れた俺は、概ね平和な日々を過ごしていた。
この世界に来てレオという青年に成り代わったのが二日前のこと。もうしばらくはこの安全な場所で今後の策を練ろうと思っていたのだが、いつまでも出ていく気配のない俺に部屋の主であるウォルトが苦い顔になってしまった。
「おまえ、いつまで俺の部屋に居座るつもりだ」
「え。一生ここにいるつもりだけど」
「ダメに決まってるだろ。家賃も払わずに図々しい」
舌打ちしたウォルトに、俺は「そんな」と目を伏せる。
ウォルトは顔も怖いし言葉も乱暴だが、それなりに優しいことを俺は知っている。なんせ二日も一緒にいるからな。
口では文句を言いつつも、俺を力尽くで追い出したりはしないのだ。
記憶喪失ということになっている俺は、自分の家がわからないと言い張ってウォルトの部屋に居座っていた。これは別に嘘でもない。レオの自宅がどこなのか。俺には本当にわからないのだから。
ウォルトに何か知らないかと尋ねてみたものの、彼の方にも心当たりはないようだ。代わりにレオの乱れた私生活が出るわ出るわ。
レオを巡って男たちが派手に揉めた事件や、レオに彼氏をとられた女の子が乗り込んできた事件とか、レオがタチの悪い男に手を出してウォルトが後始末する羽目になった事件とか。
すごく不機嫌な顔で語るウォルトは、本当に覚えていないのかと言わんばかりに俺を睨みつけてくるのだ。一応レオとして生きている俺は、ひたすらウォルト相手に「なんかごめんね」と平謝りして乗り切った。
どうやらレオは、俺の想像していた以上に破天荒な奴だったらしい。幼馴染という理由だけで、彼の尻拭いを押し付けられているウォルトは苦労人だ。
「でも確かにね。俺もそろそろ自立しないと」
いつまでもウォルトの部屋に引きこもっているわけにはいかない。そろそろ外に出てみるかと一大決心した俺に、ウォルトがなんとも言えない視線を向けてくる。
「自立って。ちなみにどんな手段で?」
「は? 普通に働くけど」
「……」
それ以外にないだろう。けれどもウォルトは、驚愕に目を見開いた。
「え、働くってあれだぞ。仕事だぞ。遊びじゃないんだが?」
「なに言ってんの?」
ウォルトの困惑の意味がわからない。だが、なんかすごく馬鹿にされていることは雰囲気でわかった。半眼になる俺に、ウォルトが額に手をやった。けれどもすぐに顔をあげた彼はベッドに腰掛ける俺の前まで歩いてくると、俺の両肩に手を置いた。そうして俺の顔を上から覗き込むようにして「レオ」と真剣な声音で言った。
「おまえが働くのは無理だ」
「なんでだよ」
さらっと失礼なことを言われた。
そりゃあ、ここ最近はずっとウォルトの部屋でだらだらしているからね。ウォルトが心配するのも無理はないかも。おまけに俺はこの世界がどういう世界なのかまだ把握していない。俺が知っていることといえば、あまり科学技術が発展していなくて、騎士という職業があること。
おまけにウォルトは剣を持っている。
部屋の壁に無造作に立て掛けてあったのだが、俺が興味本位で手を伸ばそうとしたところマジ切れされた。以来、ウォルトは剣を部屋に持ち込まなくなった。
この世界の知識が欠ける俺が働くのは、確かに難しいことだろう。けれども金がないと普通に生きていけない。今のところウォルトが面倒を見てくれているけど、いつ放り出されてもおかしくはない。
「俺でもできそうな仕事教えて」
「そんなものはない」
「なんでだよ」
先程から失礼なウォルトは、なぜか眉間に皺を寄せて腕を組んだ。ベッドに座る俺を見下ろすような体勢である。変な圧に、俺は彼からそっと顔を背ける。
けれども機嫌の悪いウォルトは、俺の顎を少々雑に掴むと無理矢理に視線を合わせてきた。
「おまえがこれまで、どれだけのトラブルを起こしてきたのか教えてやろうか?」
「あ、いえ。大丈夫です」
低い声で言われて、俺は両手をあげた。
レオはとんでもないトラブルメーカーだったらしい。ウォルトは、レオが職場でいらん騒動を巻き起こす心配をしているらしい。
でもそれは以前のレオの話である。今のレオの中身は、平凡な男だから大丈夫。とはいえ、そんなことウォルトには説明できない。
視線を彷徨わせた俺は、とりあえず立ち上がる。
「大丈夫! ウォルトには迷惑かけないからさ」
「……」
「なんだよ、その目は」
到底俺を信じていないウォルトは、腕を組んだまま険しい顔だ。
だが俺の決意は固いぞ。だっていつまでもウォルトの世話になるわけにはいかない。
今は優しいウォルトだが、急に気が変わることだってあるだろう。こんな知らない世界で放り出されたら、俺は生きていける自信がないぞ。
なのでウォルトの世話になっているうちに、自立する手段を見つけ出したい。
ぎゅっと拳を握って気合を入れる。そんな俺に胡乱な目を向けてくるウォルト。どうやらレオは、過去に相当とんでもないトラブルを起こしてきたようだ。幼馴染であるウォルトからの信頼が皆無である。
この世界に来てレオという青年に成り代わったのが二日前のこと。もうしばらくはこの安全な場所で今後の策を練ろうと思っていたのだが、いつまでも出ていく気配のない俺に部屋の主であるウォルトが苦い顔になってしまった。
「おまえ、いつまで俺の部屋に居座るつもりだ」
「え。一生ここにいるつもりだけど」
「ダメに決まってるだろ。家賃も払わずに図々しい」
舌打ちしたウォルトに、俺は「そんな」と目を伏せる。
ウォルトは顔も怖いし言葉も乱暴だが、それなりに優しいことを俺は知っている。なんせ二日も一緒にいるからな。
口では文句を言いつつも、俺を力尽くで追い出したりはしないのだ。
記憶喪失ということになっている俺は、自分の家がわからないと言い張ってウォルトの部屋に居座っていた。これは別に嘘でもない。レオの自宅がどこなのか。俺には本当にわからないのだから。
ウォルトに何か知らないかと尋ねてみたものの、彼の方にも心当たりはないようだ。代わりにレオの乱れた私生活が出るわ出るわ。
レオを巡って男たちが派手に揉めた事件や、レオに彼氏をとられた女の子が乗り込んできた事件とか、レオがタチの悪い男に手を出してウォルトが後始末する羽目になった事件とか。
すごく不機嫌な顔で語るウォルトは、本当に覚えていないのかと言わんばかりに俺を睨みつけてくるのだ。一応レオとして生きている俺は、ひたすらウォルト相手に「なんかごめんね」と平謝りして乗り切った。
どうやらレオは、俺の想像していた以上に破天荒な奴だったらしい。幼馴染という理由だけで、彼の尻拭いを押し付けられているウォルトは苦労人だ。
「でも確かにね。俺もそろそろ自立しないと」
いつまでもウォルトの部屋に引きこもっているわけにはいかない。そろそろ外に出てみるかと一大決心した俺に、ウォルトがなんとも言えない視線を向けてくる。
「自立って。ちなみにどんな手段で?」
「は? 普通に働くけど」
「……」
それ以外にないだろう。けれどもウォルトは、驚愕に目を見開いた。
「え、働くってあれだぞ。仕事だぞ。遊びじゃないんだが?」
「なに言ってんの?」
ウォルトの困惑の意味がわからない。だが、なんかすごく馬鹿にされていることは雰囲気でわかった。半眼になる俺に、ウォルトが額に手をやった。けれどもすぐに顔をあげた彼はベッドに腰掛ける俺の前まで歩いてくると、俺の両肩に手を置いた。そうして俺の顔を上から覗き込むようにして「レオ」と真剣な声音で言った。
「おまえが働くのは無理だ」
「なんでだよ」
さらっと失礼なことを言われた。
そりゃあ、ここ最近はずっとウォルトの部屋でだらだらしているからね。ウォルトが心配するのも無理はないかも。おまけに俺はこの世界がどういう世界なのかまだ把握していない。俺が知っていることといえば、あまり科学技術が発展していなくて、騎士という職業があること。
おまけにウォルトは剣を持っている。
部屋の壁に無造作に立て掛けてあったのだが、俺が興味本位で手を伸ばそうとしたところマジ切れされた。以来、ウォルトは剣を部屋に持ち込まなくなった。
この世界の知識が欠ける俺が働くのは、確かに難しいことだろう。けれども金がないと普通に生きていけない。今のところウォルトが面倒を見てくれているけど、いつ放り出されてもおかしくはない。
「俺でもできそうな仕事教えて」
「そんなものはない」
「なんでだよ」
先程から失礼なウォルトは、なぜか眉間に皺を寄せて腕を組んだ。ベッドに座る俺を見下ろすような体勢である。変な圧に、俺は彼からそっと顔を背ける。
けれども機嫌の悪いウォルトは、俺の顎を少々雑に掴むと無理矢理に視線を合わせてきた。
「おまえがこれまで、どれだけのトラブルを起こしてきたのか教えてやろうか?」
「あ、いえ。大丈夫です」
低い声で言われて、俺は両手をあげた。
レオはとんでもないトラブルメーカーだったらしい。ウォルトは、レオが職場でいらん騒動を巻き起こす心配をしているらしい。
でもそれは以前のレオの話である。今のレオの中身は、平凡な男だから大丈夫。とはいえ、そんなことウォルトには説明できない。
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「大丈夫! ウォルトには迷惑かけないからさ」
「……」
「なんだよ、その目は」
到底俺を信じていないウォルトは、腕を組んだまま険しい顔だ。
だが俺の決意は固いぞ。だっていつまでもウォルトの世話になるわけにはいかない。
今は優しいウォルトだが、急に気が変わることだってあるだろう。こんな知らない世界で放り出されたら、俺は生きていける自信がないぞ。
なのでウォルトの世話になっているうちに、自立する手段を見つけ出したい。
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