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 横抱きにされて、ベッドへ連れていかれる。
 そのまま押し倒されて、唇を食まれる。
 彼の舌が口を割って入ってきて、わたしの舌を捕まえる。
 そのまま引っ張り出されて、彼の口に吸い込まれて。

「んっ」

 じゅって音がして。なんだかいやらしく聞こえて赤面する。
 そんなわたしの頬を優しく撫でながらそのまま下に降りていく。
 下から首筋撫でられて思わず声が漏れてしまって。
 そんなわたしをくすくす彼が笑ってて。

「今日はおしまい。もう仕事行かないと」
 なんだか恥ずかしくて、腕で口元隠してたらそれを外されて、最後は触れるだけのキスをした。



 どうしよう。
 ドキドキが止まらない。だって好きなんだもの。仕方ない。
 もう彼以外、受け入れられない。

 

 地道に返していくしかないのかな。
 ぼーっとしているわたしにアウロさんが声をかけてくれた。
 今日はもう終わりみたい。馬車に乗せてもらって家へ帰った。

 次の日、珍しくマクルトがうちに来た。
 部屋で話そうか?って聞いたけど遠慮された。
 そのまま二人で歩いてカフェに入る。流石に今日は個室じゃなかった。
「昨日あいつ行ったんだろ?まだ続ける気か?」
 こくりと頷くわたしに彼は呆れたようにため息をつく。
「なんでそこまで」
「だって、だって……」
「言ってみろ」

「辺境伯家と子爵家は結婚できないんでしょう」
 涙が溢れてくる。そんなわたしにギョッとしながら慌ててハンカチを差し出してくる。
「頼むから泣くな。あいつに殺される」
 あいつって誰よ。って思いながらもらったハンカチで鼻をかむ。
「あー!鼻噛むなよ。つか言っておくけどそんな法律ねぇよ」


 ーーん?
「今なんて言ったの」
「だから、結婚すんのに爵位がなんだって制限あんのは王族だけだって」
「……えぇっ?」
 思わず大きい声を出してしまい、口を手で覆う。恥ずかしい……
「ハンカチで鼻噛んでたやつが今更恥ずかしがるなよ」
 腹が立つけどごもっともです。
 でもどういうこと?
 わたしヒロインちゃんからそうやって聞いたんだけど。王族と勘違いしてた……?
「もしかしてお前、ずっとそう思ってたのか……?」
 どうだったろう。実はヒロインちゃんも転生者で、影でこっそり手助けしてて、その時聞いたんだけど、そう言われてみればそうだったかも……?
「……これ、やばい?」
「ウィル、カンカンだろうな」
 どうしよう。ものすごい勘違いして勝手に一緒になれないって思い込んでて、ひどいことしちゃった?
 でも、結局借金はそのままなんだよね。まだ問題は残ってる。

「でも、借金が……」
「それはウィルにまかしときゃそのうちどうにかなるだろ」
「どうにかって……?」
「それはウィルに聞け」
 ひどい。教えてくれたっていいのに。でもいくら辺境伯家といえど、そんな大金すぐ出せるわけないし何も返せない。
 それにお金の貸し借りはトラブルの元だ。日本では特にそうだったと思う。

 混乱しているわたしにマルクスは訪ねる。
「ところでお前、誰からその話聞いたんだ?」
 その言葉にわたしは固まる。そういえばヒロインちゃんにはデフォルトの名前があったはずだ。
 あれ?なんだっけ……
「ねぇ、同じクラスにいたピンクの髪に緑の目の女の子覚えてる?」
「んなやついたか?記憶にねぇな」
「あれ、いなかったっけ?王太子殿下と恋仲になってなかった……?」
 マルクスは顎に手を当てていて、どうやら考え込んでいるようだ。

「は?何言ってんだ。王太子殿下の婚約者はカトリーナ公爵令嬢だろ?」

 え……どうなってるの?

 混乱しているわたしをみて首を傾げるマルクス。
「なんだか面倒なことになってるな……」
 そう、カトリーナ公爵令嬢とはゲームの中の悪役令嬢。主人公をいじめて断罪されて追放されるはずだ。
 わたしは部分部分しか見れなくて、最後にどうなったかはわからないけれど確かにイベントをこなしていたのはヒロインちゃんのはず。
 あれ、記憶の中の王太子殿下と一緒にいる人の姿が真っ黒だ。

「とりあえず、お前の家に行こうぜ」
 マクルトと共にわたしは家へ戻った。





 部屋にはいると全く違和感なく彼がくつろいでいる。
 昨日のこともあって気まずくて、顔を見れない。それに今日は衝撃の事実を知ってしまったから余計だ。
 俯いているとおもむろに彼が立ち上がって、隣にいたマクルトの胸ぐらを掴み上げる。
 びっくりして固まっていると彼はじっとマクルトを睨みつけていた。
「お前、泣かせたな」
 胸ぐらを掴み上げられたマクルトは慌てて否定する。
「オレじゃないって、元はといえばお前だ」
 まだ疑っているような表情をしていたが、彼は手を離した。そのままソファへ座るよう促され、なぜかわたしは彼の隣に座らされる。
 どういう態度でいればいのかわからない。頭ん中ぐちゃぐちゃだ。


「で?わざわざお前まで来たんだ。何かあったんだろ?」
 わたしとマクルトは顔を見合わせた。クイっとマクルトにあごで合図され、わたしは観念した。
 
 
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