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 ヒロインちゃんことルージェは市井で育った。母親と二人で貧しい暮らしをしていたのだという。そして母が過労で倒れ亡くなってしまい、一人で生活していたのだという。ところがある日トリトン男爵が引き取りに来たそうだ。
 実はルージェはトリトン男爵の子供だったのだという。そこで引き取られたはいいが、そこには実の娘がいたのだという。まあ、妾のこと実施では相性が悪いというのはこの世界ではよくあることで。
 よく虐げられていたのだという。トリトン男爵本人はというと、娘の言動は見ないふりをしていたものの、優しくしてくれていたのだという。
 そのうち、トリトン男爵の別荘だと言われて案内されたところにはたくさんの令嬢や小さな子供まで各部屋にいたらしい。そこでそこの世話係を命じられた。一切口を聞かないようにと言われていたのだとか。
 ある日ふと疑問に思った。一、二週間すると人が入れ替わるのだ。
 何かおかしいと思っていたけど、知ってしまったら戻れないと思ったのだそう。

 そんな時分岐点が訪れる。
 そう、ウィルの攻略ルートの分岐点。謎の馬車がくるのだ。それに乗るか乗らないかの選択が強いられて、乗ると外に脱出できる。
 そして途中でこっそり飛び降りて抜け出し、たどり着くのがあの高級娼館なんだとか。

「恐らく人身売買だろうな。その別荘の場所はわかるか?」
「確実にはわからないけど大体なら。それと度々誰かが訪ねてきていて、その時のお父様の様子がおかしかったのです。多分親子だと思うんですけど、恐らく身分が高い人だと思います」
「やっと掴めてきたな。多分そこに繋がるのがアントニー・ボイルなんだろう。多分黒幕はボイル侯爵家だな」


 なんだかルージュちゃんとんでもないことに巻き込まれていたみたい。そりゃ拗ねるよね……
 ゲームの知識に縋りたくもなるよね。きっと誰かに助けて欲しかったんだ。


「だがどうする?トリトン男爵は恐らく彼女の情報でしょっぴくことはできるが、大元には逃げられるぞ」
「それなんだよ。尻尾を出してくれればいいんだが……」
 王太子殿下とウィルは考え込む。この国では人身売買が禁止されている。元を潰さないとまた出てくるだろう。
 どうしたらいいのかしら。
「彼の気をひける女性とかいたらいいのだけれど……彼そんな浮ついた話は聞いたことないわ」
 ……気をひける女性。
 カトリーナ公爵令嬢の言葉に引っかかった。わたし接触できるのでは……?
「ダメだよ。ローズを危険に晒すなら俺は降りるぞ」
 何も言ってないのにウィルにバレてしまった……なんでわかるの。


「そうだね、人身売買に手を出してるんだ。何をしてくるかわからない。それにウィルに抜けられるのは困る」
 王太子殿下にも却下されてしまった……
 わたし何もできないじゃない。
「ローズは俺の精神安定剤なんだから笑って過ごして暮れればそれでいい」
 はい……
 あまり考えないことにしよう。なんだか人前でそんなこと言われるの恥ずかしい。
 俯いてやり過ごすことにする。


 結局その場では結論は出なくて、解散となった。
 まぁでもルージュちゃんの肩の荷が降りたのだろう、終始ニコニコしていて可愛い。そんなルージュちゃんの世話をせってと約束マクルトに思わず笑ってしまった。
 思った以上に良くしてくれてるみたい。
 マクルトは一度懐に入れるととことん世話をする。もちろんちゃんと相手に合わせて適度な距離を持ちながらだけど。
 だからわたしも安心してなんでも相談できるのだ。いい幼馴染を持ったなぁなんて微笑ましく二人を眺めていた。
 そんなわたしを鋭い眼差しで睨みつけている彼に気づきもしないで…… 


 家に戻ろうかと言われたけど、せっかく集まったんだしと思って、みんなでカフェへ行くことに。
 何故か終始不機嫌なウィルを無視してみんなで仲良くおしゃべりする。
 ルージュちゃんは以前とは人が変わったみたいに人懐っこい笑顔で話している。本来はこんな感じの女の子なのだろう。
「それでねー、マクルトが助けてくれてねーっ」
 どうやらルージュちゃん、ちょこちょこ危ない目に遭うらしい。ヒロインだからなのかただのドジっ子なのか、わたしにはわからないけど。
 それを毎回気付いたマクルトがヒーローよろしく助けてくれるようだ。
 マクルトの話をしているルージュちゃんは本当に嬉しそうで。
 マクルトも口では「やめろよ」って言ってるけどほんのり頬に赤みがあってどうやら照れているようだ。
 マクルトが照れているなんて珍しい……
 あれ、これってもしかするともしかする……?
 そう気付いたわたしはニヤニヤしながら二人を見守る。
 そう、こんな出会いではあったけど、ルージュちゃんはめちゃくちゃ可愛い。
 ヒロインブーストなのかわからないが容姿はとても整っている。
 それに加えてこの人懐っこい性格だ。
 落ちない男はいないだろう。

 そんなことを考えながら彼らを見守っていた。横から冷たい視線を密かに感じていたけど、気づかないふりをしながら。



 
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