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本編

26.追憶っ

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 月日は流れ、冬季休暇となった。
 今年の冬は、四人揃ってこの間泊まった別荘で過ごそうと言うことになった。ノーラ様と二人、別荘で過ごすための買い物をしたり、何をしようか計画したり、とても楽しみにしていたのだ。
 当日はシエル様が迎えにきてくれて、馬車に乗って別荘へ向かった。
 すでに到着していたノーラ様とマルド様が迎えてくれて、わたしの心はさらに弾んでいた。けれどみんなちょっと複雑そうな感じの表情をしていて。
 訳のわからないわたしは小首を傾げていた。



「ルシア。前に連れて行くと言っていた場所に行こうと思うんだ」
「あっ、わたしの記憶に関係するところですか?」
「うん。その場所には、僕とルシアの二人だけで行くね。念のため近くに兵はいるけれど」
「わかった」
 神妙そうな顔で話す彼の感情は全く読めない。どんな感情なんだろうか……
 そうして彼に連れられて、わたしは森の中を歩いて行った。珍しく無言の彼に少し不安になる。なんだろう……


 ついたのは綺麗な湖のほとり、休憩用だろうか大きな丸太で作られた椅子が置かれているところだった。
 そこで二人で座る。
 なんだろう。ここ、知ってる気がする。いつだっけ。あ、確か八歳の頃。
 頭痛がしてくるけれど、彼はぎゅっとわたしを抱きしめてくれる。頭の痛みは少し良くなるけれど、思い出そうとするたびに強くなっていった。
 そしてまた、あの真っ白な世界に引き込まれた。



『あら、あなた……こんなところでどうしたの?』
 小さなわたしが小さな男の子に話しかける。俯いていて顔がわからないけれど、金色の髪がサラサラ揺れている。
『一人になりたかったんだ』
 男の子はポツリと呟く。
『あらそうだったの。ごめんなさい』
 わたしはその場をさろうとした。けれど男の子に手をつかまれる。
『君なら、大丈夫な気がする。だからここにいて?』
 わたしはにこにこして男の子の隣に座った。
『あなた、お名前は?』
『僕の名前はシエル。君は?』
『わたしはルシア。よろしくね』
『うん、仲良くしよう』
 顔を上げてわたしに笑顔を向けてくれる男の子。
 そこから二人で仲良く色々なことを話した。お互いのことやお友達のこと。自分の悩み。一瞬にして仲良くなれた。
 それになんだか彼からとても安心するいい匂いがする。二人並んで座って、コテンと彼の肩に頭を預ける。
 なんだかとても落ち着くの。それになんだかドキドキする。ああ、きっとこれは恋なんだわ。


 二人仲良く話していたら突然大きな大人に囲まれる。びくびくしているわたしを守ろうとした男の子は、首を叩かれて気を失ってしまった。わたしが守らなくちゃ。
 ぎゅっと彼を抱きしめる。そんなわたし達を一人の大人が抱えていく。声を出そうにも口を塞がれていて、助けを呼べない。それにお茶会の場所はここから遠い。
 諦めて大人しくしよう。こう言うのは抵抗したほうが酷くなる。

 そしてとある部屋へ連れられた。
 後から同じくらいの歳の女の子が入ってくる。ヒロインことマリア様。
 わたしが彼を抱きしめていることに怒って何度も何度も打たれた。けれど、我慢した。彼に危害を加えられたくないもの。
 しばらくは手で叩かれて、そのうち蹴られて、それから木の棒で叩かれて。
 それでもわたしは泣かなかった。
 そのうち疲れたのか叩くことをやめた彼女は、薬を差し出した……




 ――やっと、やっと思い出してくれた。ありがとう。とてもとても心が苦しかった、痛かった。素直に彼に恋をすることができなくて、辛かった。ありがとう。もう、あなたを縛るものは何もないの。心の思うがままに、大好きな彼と……



 ふと目が覚めた。まだ日は明るくて、気を失ってからそれほど経っていないことがわかる。
 彼は涙を流していた。どうして泣いてるのかしら。わたしはやっと、あなたへの恋心を取り戻したと言うのに。何がそんなに悲しいの?
 わたしは手を伸ばして彼の頭を撫でる。彼がいつもわたしにしてくれていたみたいに。ぴたりと彼の動きが止まってわたしを見つめる。
 ああ、大好き。それにとってもいい匂い。
「ただいま」
「……おかえり」
 ぎゅーって二人で抱きしめ合う。好きが溢れて、溢れて、勿体無い。
「ねぇ、シエル様。大好き」
「僕もずっと君が大好きだ」
 二人で見つめあって、彼がわたしの頬に手を添えて、そっと口づけをした。
 ドキドキが止まらなくて、もっとって思ってしまって、彼の首に腕を回してもう一度、キスをせがんだ。



「全部、思い出した……?」
「うん。全部。ここでいっぱいお話ししたこともあの子にいろいろされたことも。全部」
「……ごめんね。君を守れなかった」
「ううん。あの時は小さなこどもだったもの。それにわたしだってあなたを守りたい一心だったの。泣かなかったわっ」
「ははっ。やっぱり君は変わらないね」
 それから二人ベンチに座り、お昼ご飯を食べるのも忘れて、いろいろ話した。
 彼のこと、わたしのこと、それから再び出会ってからの日々のこと。
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