1 / 23
1
しおりを挟む
「ご主人様、ご主人様。朝です。起きてください」
なかなか目を覚まさないご主人様の肩を揺すると、漆黒の綺麗な髪を枕に敷いた彼は眉を顰めた。
「もう、起きてくださいな」
焦れたわたしは布団をガバリと剥がす。朝の冷気にさらされて、彼の深紅の目がパチリと開いた。
むくりと起き上がり、わたしに近づく。そのままわたしの首筋に顔を埋めて呟く。
「おはようアメリア。ご飯ちょうだい」
そのまま彼はその八重歯でわたしの首にかぶりつく。鋭い八重歯がわたしの皮膚を突き破り刺さる。
「いたっ」
痛みがあったのは一瞬で、その後はなんともいえない気持ちよさが体を襲う。唇で首筋を座れ、舌でこぼれた血液をなめとられる。
「……っ、ご主人様っ。もう、時間、ですっ」
息も絶え絶えに彼に告げる。ゆっくり牙を抜かれ、傷口をなめとられると、すっと傷口が塞がった。
何度経験しても不思議なこの光景は、一日二回必ず行われるのだ。
「仕事してくる」
薄く笑った彼の唇の隙間からは鋭い八重歯が覗いていた。
なぜこんなことになっているのかというと、それは数年前に遡る。
「アメリアおねぇちゃーん!これ、明日には食べれるかな?」
わたし、アメリアは、気がついた時から孤児院で生活していた。初めはびっくりしたよ。だってわたしは死んだと思ってたんだもん。というか多分死んでいた。転生ってやつなのかな?
周りのことも達と一緒に食べ物を作りながら、寄り添って生活している。この国には貴族という偉い人たちがいて、その人たちの寄付で運営を賄ってるんだって。だから身寄りのないわたし達でも、三食ご飯を食べられて生きることができている。
わたしも十歳になり、孤児院ではお姉さんだ。小さな子供達に色々教えてあげていた。
「そうねぇ、もう少しかな? さ、今日は絵本読んであげるから、中に入ろう」
子供達を促して孤児院の中の談話室へ連れて行く。わたしは孤児院で育ったけれど、なぜか文字の読み書きができた。誰に教えてもらったわけでもないのに不思議だなって思ってる。
「今日は吸血鬼のお話ね」
「やったぁ!このお話大好きっ」
「ふふ。じゃあいくね?」
昔々、吸血鬼が住んでいました。吸血鬼は太陽の光に弱くて、夜しか外を出歩けません。
彼は一人、あまり日が差さない森の奥に住んでいました。でも彼の食事は人間の血です。生きるためにも食事をしなければなりません。
そこで吸血鬼は夜に出歩きます。人間から血をもらいやすいように彼は見目麗しいのです。
ふらりと歩いては少しずつ血をもらって生活していました。
そんなある日、一人の少女が森に迷い込んできました。少女は身寄りもなく、帰るところもないと話します。
なので吸血鬼は、その少女を家に泊めてあげることにしました。
食事は人間から血をもらうときにこっそり分けてもらって。
そうして少女と吸血鬼は一緒に生活をし、仲良く暮らしました。
ツッコミどころが満載だけど、子供達は目をキラキラさせている。実在しないものって興味を惹かれるよね。わかるよ、わかる。
それにしても吸血鬼なんて前世で読んだ本にも出てきていた気がする。どの本だったかな?
そうしてわたしは小さな子達を寝かしつけた。
風の音とともに雨音も響いてる。今夜は荒れるのだろうか……
ふと畑のことを思い出してしまったわたしはこっそりと外に出ることにした。本当はこの孤児院のシスターに禁止にされているんだけど、どうしても気になってしまったのだ。
もう少しで収穫できそうな野菜があったはず。この雨風でダメになってしまったら、みんな悲しむわ。
大丈夫、ちょっと見に行くだけ。
そう思ってボロボロの雨具を着て外に出たのだった。
外は真っ暗で明かりがないと何も見えない。けれどこの院からは歩いてすぐだ。
あまり雨具は意味をなさなくて、服もびしょびしょだ。畑のある方向へ歩いていたはずなのに一向に見えてこない。不安に思って戻ろうとしたそのとき、暗闇に人影が浮かぶ。
「ひゃっ、だれ?」
「……君は」
「あ、あの」
おどおどするわたしをじっと見下ろす人影。よくよく見ると黒い髪に赤い目。絵本の中の吸血鬼みたい。
「どこの子? そこの孤児院?」
「あ、そ、そうです……戻れなくなっちゃって」
その人はわたしの手をそっと握ってくれて、歩き出す。
「あ、戻ってこれたっ。ありがとう」
にっこり笑ってお礼を言う。ありがとうやごめんなさいはちゃんと言いなさいって言われてた。だからその人にもお礼を言ったら目を大きく見開いてとっても驚いていた。
そんなに変なこと言ったかな?
そうしてわたしは孤児院へ戻れたのだった。
なかなか目を覚まさないご主人様の肩を揺すると、漆黒の綺麗な髪を枕に敷いた彼は眉を顰めた。
「もう、起きてくださいな」
焦れたわたしは布団をガバリと剥がす。朝の冷気にさらされて、彼の深紅の目がパチリと開いた。
むくりと起き上がり、わたしに近づく。そのままわたしの首筋に顔を埋めて呟く。
「おはようアメリア。ご飯ちょうだい」
そのまま彼はその八重歯でわたしの首にかぶりつく。鋭い八重歯がわたしの皮膚を突き破り刺さる。
「いたっ」
痛みがあったのは一瞬で、その後はなんともいえない気持ちよさが体を襲う。唇で首筋を座れ、舌でこぼれた血液をなめとられる。
「……っ、ご主人様っ。もう、時間、ですっ」
息も絶え絶えに彼に告げる。ゆっくり牙を抜かれ、傷口をなめとられると、すっと傷口が塞がった。
何度経験しても不思議なこの光景は、一日二回必ず行われるのだ。
「仕事してくる」
薄く笑った彼の唇の隙間からは鋭い八重歯が覗いていた。
なぜこんなことになっているのかというと、それは数年前に遡る。
「アメリアおねぇちゃーん!これ、明日には食べれるかな?」
わたし、アメリアは、気がついた時から孤児院で生活していた。初めはびっくりしたよ。だってわたしは死んだと思ってたんだもん。というか多分死んでいた。転生ってやつなのかな?
周りのことも達と一緒に食べ物を作りながら、寄り添って生活している。この国には貴族という偉い人たちがいて、その人たちの寄付で運営を賄ってるんだって。だから身寄りのないわたし達でも、三食ご飯を食べられて生きることができている。
わたしも十歳になり、孤児院ではお姉さんだ。小さな子供達に色々教えてあげていた。
「そうねぇ、もう少しかな? さ、今日は絵本読んであげるから、中に入ろう」
子供達を促して孤児院の中の談話室へ連れて行く。わたしは孤児院で育ったけれど、なぜか文字の読み書きができた。誰に教えてもらったわけでもないのに不思議だなって思ってる。
「今日は吸血鬼のお話ね」
「やったぁ!このお話大好きっ」
「ふふ。じゃあいくね?」
昔々、吸血鬼が住んでいました。吸血鬼は太陽の光に弱くて、夜しか外を出歩けません。
彼は一人、あまり日が差さない森の奥に住んでいました。でも彼の食事は人間の血です。生きるためにも食事をしなければなりません。
そこで吸血鬼は夜に出歩きます。人間から血をもらいやすいように彼は見目麗しいのです。
ふらりと歩いては少しずつ血をもらって生活していました。
そんなある日、一人の少女が森に迷い込んできました。少女は身寄りもなく、帰るところもないと話します。
なので吸血鬼は、その少女を家に泊めてあげることにしました。
食事は人間から血をもらうときにこっそり分けてもらって。
そうして少女と吸血鬼は一緒に生活をし、仲良く暮らしました。
ツッコミどころが満載だけど、子供達は目をキラキラさせている。実在しないものって興味を惹かれるよね。わかるよ、わかる。
それにしても吸血鬼なんて前世で読んだ本にも出てきていた気がする。どの本だったかな?
そうしてわたしは小さな子達を寝かしつけた。
風の音とともに雨音も響いてる。今夜は荒れるのだろうか……
ふと畑のことを思い出してしまったわたしはこっそりと外に出ることにした。本当はこの孤児院のシスターに禁止にされているんだけど、どうしても気になってしまったのだ。
もう少しで収穫できそうな野菜があったはず。この雨風でダメになってしまったら、みんな悲しむわ。
大丈夫、ちょっと見に行くだけ。
そう思ってボロボロの雨具を着て外に出たのだった。
外は真っ暗で明かりがないと何も見えない。けれどこの院からは歩いてすぐだ。
あまり雨具は意味をなさなくて、服もびしょびしょだ。畑のある方向へ歩いていたはずなのに一向に見えてこない。不安に思って戻ろうとしたそのとき、暗闇に人影が浮かぶ。
「ひゃっ、だれ?」
「……君は」
「あ、あの」
おどおどするわたしをじっと見下ろす人影。よくよく見ると黒い髪に赤い目。絵本の中の吸血鬼みたい。
「どこの子? そこの孤児院?」
「あ、そ、そうです……戻れなくなっちゃって」
その人はわたしの手をそっと握ってくれて、歩き出す。
「あ、戻ってこれたっ。ありがとう」
にっこり笑ってお礼を言う。ありがとうやごめんなさいはちゃんと言いなさいって言われてた。だからその人にもお礼を言ったら目を大きく見開いてとっても驚いていた。
そんなに変なこと言ったかな?
そうしてわたしは孤児院へ戻れたのだった。
5
あなたにおすすめの小説
婚約破棄ブームに乗ってみた結果、婚約者様が本性を現しました
ラム猫
恋愛
『最新のトレンドは、婚約破棄!
フィアンセに婚約破棄を提示して、相手の反応で本心を知ってみましょう。これにより、仲が深まったと答えたカップルは大勢います!
※結果がどうなろうと、我々は責任を負いません』
……という特設ページを親友から見せられたエレアノールは、なかなか距離の縮まらない婚約者が自分のことをどう思っているのかを知るためにも、この流行に乗ってみることにした。
彼が他の女性と仲良くしているところを目撃した今、彼と婚約破棄して身を引くのが正しいのかもしれないと、そう思いながら。
しかし実際に婚約破棄を提示してみると、彼は豹変して……!?
※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも投稿しています
燻らせた想いは口付けで蕩かして~睦言は蜜毒のように甘く~
二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中
恋愛
北西の国オルデランタの王妃アリーズは、国王ローデンヴェイクに愛されたいがために、本心を隠して日々を過ごしていた。 しかしある晩、情事の最中「猫かぶりはいい加減にしろ」と彼に言われてしまう。
夫に嫌われたくないが、自分に自信が持てないため涙するアリーズ。だがローデンヴェイクもまた、言いたいことを上手く伝えられないもどかしさを密かに抱えていた。
気持ちを伝え合った二人は、本音しか口にしない、隠し立てをしないという約束を交わし、身体を重ねるが……?
「こんな本性どこに隠してたんだか」
「構って欲しい人だったなんて、思いませんでしたわ」
さてさて、互いの本性を知った夫婦の行く末やいかに。
+ムーンライトノベルズにも掲載しております。
コワモテ軍人な旦那様は彼女にゾッコンなのです~新婚若奥様はいきなり大ピンチ~
二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中
恋愛
政治家の令嬢イリーナは社交界の《白薔薇》と称される程の美貌を持ち、不自由無く華やかな生活を送っていた。
彼女は王立陸軍大尉ディートハルトに一目惚れするものの、国内で政治家と軍人は長年対立していた。加えて軍人は質実剛健を良しとしており、彼女の趣味嗜好とはまるで正反対であった。
そのためイリーナは華やかな生活を手放すことを決め、ディートハルトと無事に夫婦として結ばれる。
幸せな結婚生活を謳歌していたものの、ある日彼女は兄と弟から夜会に参加して欲しいと頼まれる。
そして夜会終了後、ディートハルトに華美な装いをしているところを見られてしまって……?
引きこもり令嬢が完全無欠の氷の王太子に愛されるただひとつの花となるまでの、その顛末
藤原ライラ
恋愛
夜会が苦手で家に引きこもっている侯爵令嬢 リリアーナは、王太子妃候補が駆け落ちしてしまったことで突如その席に収まってしまう。
氷の王太子の呼び名をほしいままにするシルヴィオ。
取り付く島もなく冷徹だと思っていた彼のやさしさに触れていくうちに、リリアーナは心惹かれていく。けれど、同時に自分なんかでは釣り合わないという気持ちに苛まれてしまい……。
堅物王太子×引きこもり令嬢
「君はまだ、君を知らないだけだ」
☆「素直になれない高飛車王女様は~」にも出てくるシルヴィオのお話です。そちらを未読でも問題なく読めます。時系列的にはこちらのお話が2年ほど前になります。
※こちら同じ内容で別タイトルのものをムーンライトノベルズにも掲載しています※
筋書きどおりに婚約破棄したのですが、想定外の事態に巻き込まれています。
一花カナウ
恋愛
第二王子のヨハネスと婚約が決まったとき、私はこの世界が前世で愛読していた物語の世界であることに気づく。
そして、この婚約がのちに解消されることも思い出していた。
ヨハネスは優しくていい人であるが、私にはもったいない人物。
慕ってはいても恋には至らなかった。
やがて、婚約破棄のシーンが訪れる。
私はヨハネスと別れを告げて、新たな人生を歩みだす
――はずだったのに、ちょっと待って、ここはどこですかっ⁉︎
しかも、ベッドに鎖で繋がれているんですけどっ⁉︎
困惑する私の前に現れたのは、意外な人物で……
えっと、あなたは助けにきたわけじゃなくて、犯人ってことですよね?
※ムーンライトノベルズで公開中の同名の作品に加筆修正(微調整?)したものをこちらで掲載しています。
※pixivにも掲載。
8/29 15時台HOTランキング 5位、恋愛カテゴリー3位ありがとうございます( ´ ▽ ` )ノノΞ❤︎{活力注入♪)
冷酷王子と逃げたいのに逃げられなかった婚約者
月下 雪華
恋愛
我が国の第2王子ヴァサン・ジェミレアスは「氷の冷酷王子」と呼ばれている。彼はその渾名の通り誰に対しても無反応で、冷たかった。それは、彼の婚約者であるカトリーヌ・ブローニュにでさえ同じであった。そんな彼の前に現れた常識のない女に心を乱したカトリーヌは婚約者の席から逃げる事を思いつく。だが、それを阻止したのはカトリーヌに何も思っていなさそうなヴァサンで……
誰に対しても冷たい反応を取る王子とそんな彼がずっと好きになれない令嬢の話
悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。
香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。
皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。
さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。
しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。
それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる