吸血鬼なご主人様の侍女になりました。

しおの

文字の大きさ
16 / 23

16

しおりを挟む
「アメリア。起きた?」
「あ、はい……」
「一体何があった。ミーシャからは聞いたが全く掴めない」
「わたしも何が何だか……ミーシャ様が先生に呼ばれてその場にいるように言われたんですけど……お手洗いが我慢できなくて、行って戻ろうと思ったらなんだか匂いがして、そのまま気を失って、気がついたらあの場所にいたんです」
 クロウ様は何か考え込んでいるようだった。
「どんな匂いだった?」
「なんだか甘い香りで、頭がぼーっとしてしまって」
「麻酔の一種だね。でも一般的に医療に使われるもので医師以外には販売していなかったはずなんだけど……」
 ああ、そういえば、わたしも手術の時に嗅いだことのある匂いだった気がする。確かに同じような匂いだったような。
 でもそんなもの、学園で使うなんて……
「もう少し休んで。念のため血液検査させてるし、結果が出ないとなんともいえないから」
 そう言って彼はわたしの瞼を閉じさせる。そのまますっとわたしは眠った。



 あの日以来、クロウ様は学園を休むことが多くなった。レオン様とミーシャ様がそばにいてくれるから、特におかしなことも起こっていない。それに夜になればクロウ様が必ず帰ってきてくれるから、不安もあまりなかった。
 夜は必ずキスをして抱きしめてくれる。それだけで心が落ち着くのはなんでだろう。ミーシャ様も良く撫でてくれるけど、それよりも心地いい。
 もっともっとって、手を伸ばすけど、苦笑した彼に止められてしまって、ハッとする。わたし、いつからこんなにわがままになったんだろう。迷惑、だよね……?
「これ以上は俺が我慢できなくなるからダメ。早く、俺の元に堕ちておいで」
 彼の言葉にドキドキする。すごく心臓がうるさくて、でも嫌じゃない。なんだろう、この気持ち。




「お出かけ、ですか……?」
「そう。みんなで行こうか」
 どうやら四人でお出かけのようです。楽しみで、朝早くから起きたわたしをクロウ様は苦笑いしてた。そしてレオン様と一緒に部屋にきたミーシャ様にクロウ様はなぜか追い出される。「ここ、俺の部屋なんだけど……」って呟いててちょっとおかしかった。
 ミーシャ様が服や髪結いをしてくれて、いつもとは違う仕上がりになった。わたしもびっくりするくらいお人形さんみたいになってて、ちょっとはしゃいだ。
 今日のお出かけはウィッグとコンタクト、メガネはなしで久々に長時間本当の自分でいられる。あれをつけてると結構肩が凝ってしまうから解放感がすごいのだ。
「きゃあ! アメリアとっても可愛いわっ。隠したくなるクロウの気持ちわかるわぁ。でも、わたくし達にまで隠すことないのにっ」
 いろんな角度からわたしを見て褒めてくれるミーシャ様にちょっとだけ照れてしまった。
 そのまま扉を開けて、外で待っていたレオン様とクロウ様はわたしを見て目を見開いている。
 え、なんか変だった……?
「これはこれは。ずいぶん可愛いお人形さんを隠していたな、クロウ。これじゃあお前の気持ちもわかるわ……」
「だろう? だからずっと隠してたんだよ」
 わたしの手をとって歩くクロウ様について行って、みんなで馬車に乗り込んだ。廊下にいた寮生たちにこそこそ噂されてたけど、気にしないことにした。というかクロウ様が歩くの早すぎてついていくのに必死だっただけなんだけど……
 そのまま馬車に乗ってわたし達は学園を後にした。



 ついた先は大きな建物。ドーム状になっていて中にはたくさんの人がいた。
 きょろきょろ周りを見渡すわたしをくすくす笑って「ここでは劇が行われるんだよ」って教えてくれた。演劇、なのかな。
 連れられたのは周りとは区切られている席で、どうやら王族やその貴賓が来た時に使われる席のようだった。よく見えるところで、ソファも大きくて飲み物も出してくれるみたい。
 きっとレオン様が用意してくれたんだろうなって思ってお礼を言ったら彼は苦笑して「用意したのはクロウだよ」って教えてくれた。
 驚いているわたしを見た彼は笑っていた。
 え、王族も使うここ、どうやってクロウ様がって思ったけど、ちょうど演劇が始まってしまい、わたしはそちらに意識を向けた。
 今回の演劇は王道の恋愛ものみたい。ずっと一緒にいた男の子にちょっとずつ恋心を自覚して、色々な困難に立ち向かいながら愛を育むというもので。
 その女の子の気持ちが痛いほどよくわかって、不思議な気分だった。愛とか恋とかよくわからないけど、どうしてこんなにも引き込まれるんだろうって思っていた。
 これ、わたしがクロウ様に抱いている気持ちと、一緒……?
 これって、もしかして、わたしはクロウ様に恋をしてしまっているの……?

 演劇が終わって、わたし達は一階に向かっていた。どうやらここは三階みたい。二階は貴族の人が多いみたいで、人が多いんだそう。だから別階段が用意されていて、そこから降りられるようになってるみたい。
 四人で仲良く降りているとそこにまたあのこが現れた。
「あれ、クロウ様っ。こんなところで偶然ですねっ」
 休みの日にまで会うなんて……
 あ、でも今のわたしは学園では違うから、向こうも気づかないかな……?
 って思ってたんだけど、ぎろりと睨まれる。そして小さな声で「また邪魔するの?」ってわたしにしか聞こえないように言ってきて、どきりとする。
 え、わたしだってことがバレてるの……?
 なんで……
 クロウ様はわたし達に「先に行ってて。すぐ追いかけるから」って言ってあのこを連れてどこかに行ってしまった。レオン様は苦笑して「行こうか」ってわたし達の背中を押す。ミーシャ様はそんなクロウ様をみてなんだか怒ってた。
 クロウ様を待っている間、お手洗いに行きたくなってミーシャ様についてきてもらった。
 なんだか怖そうな二人の男性がわたし達に近づいてくる。目を合わせないように俯いていたんだけど……
「あれ、こんな可愛い子初めてみたね。どう? この後一緒にどっか行かない?」
 ああ、やっぱり関わったら面倒な感じだ……
「お断りします。そこを退いていてだけます?」
 ミーシャ様は毅然とした態度で男性達を相手にしている。けれど相手の男性達はニヤニヤと嫌な笑みを浮かべて、わたし達のそばに近づいてくる。
 そのうちの一人が腰に手を回してきて体がぞ割と震える。やだ、やだ、やだ。怖い……
 まだミーシャ様ともう一人の男が話しているけどどんどん遠のいていく。わたしは口を塞がれ、近くにある部屋へ連れ込まれてしまった。
 恐怖で動けないわたしをニヤリと笑う。
「こんな可愛い子がいたなんてラッキーだったな。さ、お兄さんと楽しいことしよう」
 ジリジリと近づいてくる男性に動けないわたし。
 やだ、やだ、助けて……
 助けて、クロウ様っ。
 もう体は触れていて距離がない。どうしよう、どうしよう……
 キュッと目をつむった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄ブームに乗ってみた結果、婚約者様が本性を現しました

ラム猫
恋愛
『最新のトレンドは、婚約破棄!  フィアンセに婚約破棄を提示して、相手の反応で本心を知ってみましょう。これにより、仲が深まったと答えたカップルは大勢います!  ※結果がどうなろうと、我々は責任を負いません』  ……という特設ページを親友から見せられたエレアノールは、なかなか距離の縮まらない婚約者が自分のことをどう思っているのかを知るためにも、この流行に乗ってみることにした。  彼が他の女性と仲良くしているところを目撃した今、彼と婚約破棄して身を引くのが正しいのかもしれないと、そう思いながら。  しかし実際に婚約破棄を提示してみると、彼は豹変して……!? ※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも投稿しています

燻らせた想いは口付けで蕩かして~睦言は蜜毒のように甘く~

二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中
恋愛
北西の国オルデランタの王妃アリーズは、国王ローデンヴェイクに愛されたいがために、本心を隠して日々を過ごしていた。 しかしある晩、情事の最中「猫かぶりはいい加減にしろ」と彼に言われてしまう。 夫に嫌われたくないが、自分に自信が持てないため涙するアリーズ。だがローデンヴェイクもまた、言いたいことを上手く伝えられないもどかしさを密かに抱えていた。 気持ちを伝え合った二人は、本音しか口にしない、隠し立てをしないという約束を交わし、身体を重ねるが……? 「こんな本性どこに隠してたんだか」 「構って欲しい人だったなんて、思いませんでしたわ」 さてさて、互いの本性を知った夫婦の行く末やいかに。 +ムーンライトノベルズにも掲載しております。

【完結】私の初恋の人に屈辱と絶望を与えたのは、大好きなお姉様でした

迦陵 れん
恋愛
「俺は君を愛さない。この結婚は政略結婚という名の契約結婚だ」 結婚式後の初夜のベッドで、私の夫となった彼は、開口一番そう告げた。 彼は元々の婚約者であった私の姉、アンジェラを誰よりも愛していたのに、私の姉はそうではなかった……。 見た目、性格、頭脳、運動神経とすべてが完璧なヘマタイト公爵令息に、グラディスは一目惚れをする。 けれど彼は大好きな姉の婚約者であり、容姿からなにから全て姉に敵わないグラディスは、瞬時に恋心を封印した。 筈だったのに、姉がいなくなったせいで彼の新しい婚約者になってしまい──。 人生イージーモードで生きてきた公爵令息が、初めての挫折を経験し、動く人形のようになってしまう。 彼のことが大好きな主人公は、冷たくされても彼一筋で思い続ける。 たとえ彼に好かれなくてもいい。 私は彼が好きだから! 大好きな人と幸せになるべく、メイドと二人三脚で頑張る健気令嬢のお話です。 ざまあされるような悪人は出ないので、ざまあはないです。 と思ったら、微ざまぁありになりました(汗)

コワモテ軍人な旦那様は彼女にゾッコンなのです~新婚若奥様はいきなり大ピンチ~

二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中
恋愛
政治家の令嬢イリーナは社交界の《白薔薇》と称される程の美貌を持ち、不自由無く華やかな生活を送っていた。 彼女は王立陸軍大尉ディートハルトに一目惚れするものの、国内で政治家と軍人は長年対立していた。加えて軍人は質実剛健を良しとしており、彼女の趣味嗜好とはまるで正反対であった。 そのためイリーナは華やかな生活を手放すことを決め、ディートハルトと無事に夫婦として結ばれる。 幸せな結婚生活を謳歌していたものの、ある日彼女は兄と弟から夜会に参加して欲しいと頼まれる。 そして夜会終了後、ディートハルトに華美な装いをしているところを見られてしまって……?

氷の公爵さまが何故か私を追いかけてくる

アキナヌカ
恋愛
私は馬車ごと崖から転落した公爵さまを助けた、そうしたら私は公爵様に俺の嫁だと言って追われることになった。

引きこもり令嬢が完全無欠の氷の王太子に愛されるただひとつの花となるまでの、その顛末

藤原ライラ
恋愛
 夜会が苦手で家に引きこもっている侯爵令嬢 リリアーナは、王太子妃候補が駆け落ちしてしまったことで突如その席に収まってしまう。  氷の王太子の呼び名をほしいままにするシルヴィオ。  取り付く島もなく冷徹だと思っていた彼のやさしさに触れていくうちに、リリアーナは心惹かれていく。けれど、同時に自分なんかでは釣り合わないという気持ちに苛まれてしまい……。  堅物王太子×引きこもり令嬢  「君はまだ、君を知らないだけだ」 ☆「素直になれない高飛車王女様は~」にも出てくるシルヴィオのお話です。そちらを未読でも問題なく読めます。時系列的にはこちらのお話が2年ほど前になります。 ※こちら同じ内容で別タイトルのものをムーンライトノベルズにも掲載しています※

独身皇帝は秘書を独占して溺愛したい

狭山雪菜
恋愛
ナンシー・ヤンは、ヤン侯爵家の令嬢で、行き遅れとして皇帝の専属秘書官として働いていた。 ある時、秘書長に独身の皇帝の花嫁候補を作るようにと言われ、直接令嬢と話すために舞踏会へと出ると、何故か皇帝の怒りを買ってしまい…? この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。

筋書きどおりに婚約破棄したのですが、想定外の事態に巻き込まれています。

一花カナウ
恋愛
第二王子のヨハネスと婚約が決まったとき、私はこの世界が前世で愛読していた物語の世界であることに気づく。 そして、この婚約がのちに解消されることも思い出していた。 ヨハネスは優しくていい人であるが、私にはもったいない人物。 慕ってはいても恋には至らなかった。 やがて、婚約破棄のシーンが訪れる。 私はヨハネスと別れを告げて、新たな人生を歩みだす ――はずだったのに、ちょっと待って、ここはどこですかっ⁉︎ しかも、ベッドに鎖で繋がれているんですけどっ⁉︎ 困惑する私の前に現れたのは、意外な人物で…… えっと、あなたは助けにきたわけじゃなくて、犯人ってことですよね? ※ムーンライトノベルズで公開中の同名の作品に加筆修正(微調整?)したものをこちらで掲載しています。 ※pixivにも掲載。 8/29 15時台HOTランキング 5位、恋愛カテゴリー3位ありがとうございます( ´ ▽ ` )ノノΞ❤︎{活力注入♪)

処理中です...