四季物語 冬の山~ララとカイヤックブール~

ホーク・ハイ

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書斎の住人

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次の日、ララは清々しく起きると、自分でカーテンを勢いよく開けた。
「はあぁ! ――あぁ……」
太陽の光りが目一杯入って気持ちよく起きれると思いきや、今日もしんしんと降る雪景色だった。犬ですら、こんな日が続けば、元気よく駆けまわることはないだろう。こうも毎日雪が降ると、夏の邪魔くさい太陽の光りが恋しくなる――夏になれば、邪魔になるのだが。
ララは、生まれてから一回も冬の太陽を見たことがなかった。ララだけじゃない、ララの学校の友達や親たち、教師たちも見たことがない。
ララは、なぜ太陽が昇らないのか両親に訊いたことある。他の子たちも、当然訊いたことがあるみたいだが、親たちは肩をすくめるだけで答えは聞けない……というか、知らないのだ。だがララの両親は、二人で顔を見合わせばつが悪そうに肩をすくめたり、突然陽気に話題を変えたりして答えようとしない――自分の両親は何かを知っている。このときから、ララは家族に秘密があるのではないかと考えていた。その答えが、今日暴けるかもしれない。そう思うだけで、ララの胸が高鳴った。
今日のギシギシきしむ階段のメロディーは、軽やかにいつもより高い音を奏でた。
「おはよう!」
ララは、元気よく挨拶をした。あまりの元気の良さに、レジュリーが驚いていた。
「おはよう、ララ。今日は元気いいわね!」
レジュリーは、テーブルを拭きながらララに言った。ララは、「そうかしら?」と言いながらスキップで居間に入った。
その奥に、ボロソファーに座る真咲の姿が見えた。新聞を読んでいるように見えるが、よく見ると、目は開いていないように見える。
「おはよ!」
ララは、真咲の新聞を取り上げ、真咲の顔の前に顔を出して驚かせた。
「うわ! ララ……」
真咲は、開いていなかった目を大きく見開いて驚いた。あまりの驚きに、メガネがずれて傾いた。
「起きた?」
驚いた真咲の顔を見られたのが嬉しく、ララの顔は満面の笑みだった。
「今日は、早いね……」
真咲は、ずれたメガネを直しながら寝ぐせを掻き、あまり感情のこもっていない物言いで話しながら新聞を広げた。
「そう?」
ララはそう訊くと、真咲からメガネを取り上げ、顔の前でメガネをちらつかせた。
「あ、コラ! 何をするんだ?!」
真咲は、メガネを盗ったララを追いかけて立ち上がり、朝から騒がしく走り回る。
「コラ、返しなさい! ――あ、痛い!」
ララを追い回す真咲は、ボロソファーの角に足の小指をぶつけた。足を上げて飛び跳ねながら痛がる真咲を見て、ララは指を指しながら大笑いした。
「もう何やってるの、朝っぱらから……。ララ! 料理運ぶの手伝って」
レジュリーは、朝から走り回るララと真咲を見て、頭を抱えて呆れていた。
「はぁい」
ララは素っ気なく返事すると、真咲のメガネを放り投げ、レジュリーのもとに駆け寄った。メガネは、片足で飛び跳ねて不安定な真咲の足元に落ちた。
「あ、あ、あ、危ない!」
真咲が声を上げたあと、バキッという音がララたちに聞こえた。振り返ると、真咲がメガネを持って、呆然と立ち尽くしている。
「折れた……」
真咲のメガネの蔓が折れている。
「あとで直しに行きましょう」
レジュリーは、呆れたように言った。真咲は、メガネを見たまま、寝ぐせを掻いて大きくうなずいた。
そんなポカーンと口を開けてメガネを見ている真咲を見て、ララは口を押さえながら笑いをこらえた。
「あんたが悪いんでしょ! 謝りなさい!」
レジュリーが、ララの頭に軽くゲンコツをして怒った。殴られたララは、頭を押さえムスッとした顔で真咲に謝ったが、真咲の顔を見てまた吹き出してしまった。レジュリーが恐い顔でまたげんこつを構えるのが見えたララは、そそくさとキッチンに行き食事を運ぶのを手伝った――だが、確信したことがある。真咲の寝ぐせは直らない。

家族との朝食をすませたあと、ララはレジュリーの横で洗い物の手伝いを嫌々やらされた。こんなときにオルバがいれば、「私がやるから、遊んでおいで」と言ってくれるのに、オルバは洗濯をしていていなかった――こういうときにいないんだから、ララはふて腐れながら皿を洗った。
だが洗い物を始めると、食器を洗う洗剤の泡がいろんな形になり面白かった。レジュリーは、意外に真面目にやるララを見て、安心したかのように、居間に掃除機をかけに行った。
ララは、レジュリーが掃除機をかけに行ったのを確認すると、食器を洗うのを止め泡で遊び始めた。スポンジを握ると、指の隙間から大量の泡が出てくる。またスポンジに洗剤をつけて少量の水をかけて握ると、さらに泡が大量に出てくる。その泡で、いろんなものを作り始めた。
「ソフトクリームに……、ウサギでしょ……」
オルバの家に来てから、一番楽しい時間かもとララは思った。水道の水を出しっ放しで、苦労の末、手の中でやっとウサギが出来上がろうとしていた。
「ウサギのラビちゃん、ウサギの――」
ララは、試行錯誤しながら泡で耳の短いウサギが完成し、出来栄えを見ながら名前を付けて呼んだ。何ともブサイクなウサギだったが、出来栄えより、遊べたことが楽しかった。が次の瞬間、思わず言葉が止まり表情が固まった。
「……ラビちゃん?」
耳の短い泡のウサギの目がパチッと開いてまばたきをし、ララの手の中であたりを見渡した――よく見ると、そんなに可愛くない。ララが名前を呼ぶと、ララの方もしっかり見る。鼻がピクピク動いて、少し気持ち悪かった。
「こんにちは、ララ」
耳の短い泡のウサギは、少し高めの声で挨拶した。目をパチクリさせて、鼻をヒクヒクさせている――なんか、顔のパーツの忙しいウサギだった。
「しゃべった……」
ララは、しゃべる泡のウサギを見て止まった。自分の両手の中であたりを見渡している耳の短い泡のウサギをしばらく見る。そして、後ろ髪引かれることなく、無表情でしゃべる泡のウサギを水に流した。
「もう少し、遊びいぃぃ……」
耳の短い泡のウサギの声が、排水溝に流れていくにつれて小さくなっていく。
ララは、その光景を無表情で見ている。信じられないというよりは、不思議なこともあるもんだという気持ちにも似ているが少し違う。どう表情で表現していいのかわからないララだった。
「ララ! 終わったの?」
掃除機をかけ終わったレジュリーが、居間から叫んで訊いた。ララは、自分の手を水で流し、水道の水を止めると、自分のスカートで手を拭きながら居間に向かった。
「ちょっと! スカートで拭かないの!」

一通り掃除が終わると、今度は慌ただしく出かける準備に取り掛かった。その光景を、ララはボロソファーに座りながら、横目で見ている。
「ララ、行かないの?」
真咲は、似合わないダウンジャケットに袖を通していた。
「行かない。だって、今日おじいちゃんの書斎に入れるんでしょ?」
ララは、いつになったら入れてもらえるのか、ずっと待っていた。早くしないと、暴れ出してしまいそうなぐらい待ちきれない。目がだんだん細く涙目になり、口が絵に描いたようにへの字に曲がり始めている。ここまでならまだしも、クッションを抱きながら揺れ始めた――真咲はわかっていた。この後、ララがとんでもない声でくぐり始めるのを。
「そうだったね」
オルバは、洗面所から出て来ると、思い出したかのように微笑みながら言った。
「ララや、そんなに入りたいかい?」
オルバは、ララの意思を確認するかのように再度訊いた。
「もちろん! だって、昨日から楽しみにしてたんだから!」
ララは、首を伸ばして微笑んだ。この家に来て一番の笑顔だ。
オルバも、もうこれ以上は聞くまいと言った顔で茶箪笥に近寄ると、引き出しから鍵を取り出す。ララは、ボロソファーに座りながら、体を前後に忙しなく動かし、ワクワクしてオルバを見ていた。
「お義母さん!」
真咲は、血相を変えてオルバに近づき、ララに聞こえないように耳打ちした。
――本当に大丈夫なんですか? お義父さんの書斎に入れても……
真咲は耳打ちしながらも、ララの様子をうかがっている。ララは、また自分が除け者にされているみたいで嫌な気分になったが、そんなことも気にせず、真咲の耳打ちは続いた。
――あの部屋には……
「大丈夫。誰もララを襲って喰いはしないよ」
オルバは、真咲を煙たそうに手で払った。
「でも……」
真咲は、まだ納得いっていないみたいだ。そこに、レジュリーが慌ただしく髪を櫛で梳かしながら現れた。
「どうしたの?」
「いや、ララがお義父さんの書斎に入るって……」
「本当に入るの!?」
レジュリーは、髪を梳かしている手を止めて、オルバを見た。その顔は、母親に向かって「何考えてるの?」と訴えている顔だった。
「じゃあ、ララや。行こうか」
オルバは、二人の視線を無視して、ララを書斎へと連れ出した。やっとかと、ララは重い腰を上げオルバについて行く。チラッと二人を振り返ると、二人は納得していない気持ちと我が子が心配な気持ちが入り混じった顔でララを見ていた。そんな二人を、ララはどこか心地良く見て手を振った。
これで障害を乗り越え、ララは一人留守番をすることになり、いよいよおじいちゃんの書斎に入れる。

「ララや」
ギシギシなる階段を二人で上がっていると、オルバが振り返り、ララの肩に手を回し横に並ばせた。
「いいかい、おじいちゃんの書斎はちょっと変わった場所なんだよ」
「変わった場所?」
「とても神聖な場所なの」
「よくわかんない」ララの眉間のしわが、いつもより深くなった。
「まあ、入ればわかるよ。でもその前に、おばあちゃんと約束をしてくれないかい?」
「約束?」
ララをまっすぐ見るオルバの目は、とても意味深で、ちょっと恐いぐらい真面目な目をしていた。その目を見たララは、生唾を飲んでオルバを見つめていた。
「いいかい?」

一、書斎の窓は絶対に開けない事
二、誰が来ても開けない事
三、書斎を汚さない事
四、火をけして使わない事
五、誰も怒らせてはいけない事

「誰も怒らせないって、どういうこと?」
ララは、オルバと一緒に書斎に向かいながら訊いた。よくわからない約束事の中で、最後の約束がとくにわからなかった。
「入ればわかる。その前に、ララに見えるかが問題だけど――」
オルバの笑顔が、ララには不敵に見えた。そして、意味深な言葉だけが、ララの頭に残った。

おじいちゃんの書斎の部屋のドアに、白い陽が当たって少し寒そうに見えた。太陽が出ていないわりには、とても神秘的にドアを演出している。二人が近づくと、またドアの下が凍っているように見えた。
いよいよ、入ることができる。何でだろう?こんなにワクワクするのは、幼稚園の年長のとき、家族で夏休みに初めて水族館に行った時以来だ。それも、もう四年前になる。魚たちが、大きな水槽の中で泳いでいたり、ララより大きなトドに餌をあげたり、それは楽しい思い出だ。
しかし、これから入るおじいちゃんの書斎には、それと同じぐらい、いや、それ以上のスリルが待っていそうな気がした。ララは、期待に胸躍らせながら部屋の前に立つ――床が若干湿っていたが、凍ってはいなかった。
ララは、部屋の前でオルバと向かい合うと、ついに念願の書斎の鍵をもらう。
「このまま入るもいいが、一回下に行ってココアでも飲むのもいいよ。中はかなり寒いはずだから」
オルバはドアを眺めながら、入ってもいないのに部屋の中の様子がわかるような言い方でララに言った。そのオルバの遠い目は、ララに好奇心と恐怖心の二つをあおった。ララは、ギュッと鍵を握りしめた。
「大丈夫よ。でも、その前にみんなを見送りするわ!」
本当はすぐにでも入りたいのだが、ここでいい子を演じていた方が、後々いろんなことがやりやすいはず。この家にいる時間は限られている。それなら、ことがスムーズに運んだ方がいいと、ララは考えた。ララの作戦だ。
ララがいい子を演じながら微笑むと、オルバの優しい目がララを映した。
「ほほほ。いい子だね。それじゃ、留守番をよろしく」
ララは、階段をオルバと一緒に降りた。
でもララの心は、もうおじいちゃんの書斎に関心がいっていた。階段を降りながら、オルバにバレないように、おじいちゃんの書斎を振り返る。おじいちゃんの書斎のドアが、窓から差し込む曇り空の怪しい白光りを浴びて黒光り、まるで早く来てほしいとララを手招きしているように見える。ララは、後ろ髪を引かれる思いで階段を下りた。ギシギシとなる階段が、ララの逸る気持ちを反映するかのように、テンポの速い音を奏でた。

玄関前で、真咲とレジュリーがちょうど靴を履いているところだった。ララは、二人の前に立つ――早く出掛けてくれないかな。
「鍵しっかりかけてね。あと――」
レジュリーはブーツを履きながら、止めどなくララに注意を言い聞かせ、ララのこと心配していた。
「大丈夫!もう、子供じゃない!」
「もし荷物が来ても出なくていいからね。それから――」
「わかったって……」
「火を使うときは――」
「ママ!!」
ララは呆れたように玄関に立ち、レジュリーを睨んだ。
レジュリーは、まだ心配そうな目をしていたが、ララは表情を変え、いじらしいほどの満面の笑みで返した。やがてレジュリーはあきらめた真咲に促され、納得いかない表情でララの頬にキスをして、「行ってきます」と玄関を出た。ララは、微笑みながら手を振り三人を見送った。

ドアが閉まると、ララはすぐに玄関のドアに耳をつけ、三人の会話を聞いた。真冬の木でできた家のドアが、ひんやり耳に冷たかった。

――大丈夫なの? 〟あいつ〟が目覚めたかもしれないのよ?
――大丈夫よ。〟あいつ〟は、家の中には入れないから
――でも、お母さん……
――もう心配したってしょうがないよ。ララだってバカじゃないんだから。ちょっと、書斎を見て驚くだけさ。さあさあ、二人とも車に乗って! 早く行こう

その声を最後に、車のエンジンが言葉を遮り、遠くの彼方に消えていった。

「よし!」
ララは、玄関の鍵を閉めてひと呼吸おくと、勢いよく階段を駆け上った。
急ブレーキで氷道を止まる車のように、ララは書斎の前を毛糸の靴下で滑りながら止まり、書斎のドアの鍵穴を覗いた。当然、何も見えるはずがない。自分のやっていることのバカさ加減に、ララは顔を両手で覆いながら笑った。
すると、ララの頭上の屋根裏を何かが走る音が聞こえた。ララは驚き、すばやく走る音の方に顔を向けた。音をたどると、音はおじいちゃんの書斎の中に消えていった。ララはきっとネズミだと思い、気にも留めなかった――かなり古い家だし……。
それよりも、これから始まるまだ見ぬ世界への冒険に胸を躍らせていた。自分の家族の秘密が、このおじいちゃんの書斎にあるはずだ。ララはそう考えていた。こんなボロい家で、こんなに何回も胸を躍らせるなんて、夢に思わなかった。
あらためて、ララは書斎の鍵を見た。鉄がヒヤリと冷たい鍵は、今までに見たことない鍵の形をしていた。鍵先は発条のようなうずまき状に巻いた形をしていて、そこら繋がっている鍵棒に花の彫刻がしてある。
何の花の彫刻かわからないララは、首をかしげながらとりあえず鍵穴に鍵を差し込んだ。そして、鍵を回そうとしたとき、指に何かの感触があった。ララは、感触のしたところを見た。文字が彫ってある。

「〟I am waⅰtⅰng for sprⅰng(春を待ち焦がれる)〟

「何、これ……」
ララには、まったくわからない言葉だった。
だいたい、ララはおじいちゃんが何の仕事をしていたのか知らない。でも、家族はいつも楽しそうにおじいちゃんの話している顔だけは思い出した――でも、内容はまったく思い出せない。

〝春には緑の婦人が歌で花の妖精フローラたちを眠りから起こし、夏にはパリゼットがトゥーマンティンの悪戯から人間を助け、秋にはロリアレットが月の詩を詠い――〝

真咲とレジュリーは、おじいちゃんの話をしてくれるとき、きまってこの話がメインになり、何回も同じ話をするので、この部分のことだけは覚えていた。だが、意味がわからないララは、そこまで深くこのことを考えたことがなかった。思い出すのは、昔話で盛り上がる両親の顔だけ。いつもララを差し置いて、楽しそうに話す両親の顔が無性に腹立たしかった。
ララは思い出しながら天井を見つめ、激しく頭を振り、顔をしかめる。ララには全然楽しくない話だが、両親にはとても懐かしく楽しい話のように見えた。なぜなら、ララと話しているときよりも、格段に楽しそうな顔をしているのだ。そんな除け者にされているときの楽しい表情など、思い出しても楽しくない。ララは、両親の楽しい顔を忘れようと目を閉じて別のことを考えようとした。だけど、両親の笑顔が、生ゴミの臭いのようにまとわりついて離れない――そういえば、冬のところだけどうしても思い出せない。何かとても怖かったことだけが頭の中で蘇り、背筋がゾクッっとして震え上がった。
思い出し恐怖を頭を振って押しやると、気を取り直し、姿勢を正してララは書斎の鍵を回した。
ひねるたびに、発条の回るような音がする。今まで見たこともない鍵の鍵穴が、どんなカラクリになっているのか、ララは想像もできなかった。鍵全体から、振動が伝わる。まるで、鍵穴の中で、鍵から出た小人が一つ一つ鍵のからくりを解いているかのような感覚が、ララの手に伝わった。そして、カチッと宝箱の鍵が開くような音がしてドアの鍵が開いた。ララは鍵をポケットにしまい、予想よりも重いドアを押してゆっくりとまわりを注意しながら部屋の中に入った。

カーテンが閉まっていて、暗く空気の重い部屋だった。おじいちゃんが亡くなってから使われていなかったのか、ドアの埃が舞い上がり手で振り払うと、さらに大量の埃が舞い上がりララはむせ返った。ララは、カーテンを開けようと、暗い部屋を手探りで進んでいく。すると、重いドアが勢いよく音をたてて独りでに閉まった。突然響いた扉の大きな閉まる音にララは驚き、心臓の鼓動が速くなった。戻るにも、この暗い部屋の中では、恐怖で思うように足が動かない。ララは生唾をのんで息を殺し、一歩一歩足元を確認しながら、床にある小さな山を越え、やっとの思いでカーテンを探し出し、勢いよくカーテンを開け、部屋の中に外の陽を入れた。
部屋の全貌が露わになったとき、ヒヤリとした空気の中に漂う知識の香りを、舞い上がる埃とともに感じた。部屋の中のいたる所に、埃を被った本が置かれていた。分厚いのから薄いの、大きなものから小さなもの、知っている言葉から知らない言葉の本が、棚に、机に、床に、壁に、無造作に置かれている。昔のファッション雑誌に日本の歴史の本、昆虫図鑑もあったが、ほとんどの本はララが今まで生きてきた中で、聞いたこともない題名の本ばかりだった――そもそも、ララは本をあまり読まなかった。「水辺にいる妖精たち」、「家に住む小人」、「森に住む悪戯妖精」や「世界妖精図鑑」。一番ぶ厚く大きい本には「本当にいる悪魔図鑑」と書いてある。だが、その本の表紙に埃まみれのメモが張ってあり、「絶対開くな!」と貼られ、鎖で十字に閉められ鍵がかけられていた――ララの目の奥が、キラキラ星のように光った。
しかし、ララは部屋の光景を見て困った。こんな部屋だとは思ってもいなかった。ララが聞いた話では、気品のあるおじいちゃんだっただけに、こんなにも部屋が汚いとは思ってもいなかった。重要なものだけ調べようと思っていたのに、何から手をつけいいのやら、ララはわからなかった。
「どうしよう……」
ララが腕を組んで散らかっている本たちを見ていた。とりあえず、近くにあった場違いな「日本神話」の本を取ろうと手を伸ばす。すると、天井の方から笑い声が聞こえてきた。
「ははは、悩んでるねえ」
ララは、天井を見渡した――誰もいない。
「誰?」
ララの頭が、前後左右と激しく動いた。
「見えないかい?」
声は、ララの後ろの机から聞こえてくる。
「誰よ!」
声は、ララをもてあそぶかのように動いている。
「こっちだよ」左の本棚、「こっち、こっち」右の花瓶、「どこ見てんのさ~」正面の絵画と、いたる所から聞こえてくる。
「どこにいる――」
ララが、もう一度机に向き直ったとき、長くうねりのきついソバージュの髪に、すごい勢いで何かが引っかかった。
「お、おい! なんじゃこりゃ~!」
ララは、髪に絡まったうるさく暴れるものを手でもぎ取った。それは、ララの手の平より少し大きな、目が緑色のおじいちゃんの人形だった。
「やあ、ララ! 初めまして!」
急にしゃべり始めた人形に悲鳴を上げて、ララはそのまま倒れて気絶してしまった。
「あれ、ララ……? おやおや、気を失ってるよ……」
おじいちゃんの人形は心配そうにララを見ていたが、我慢できずに吹き出し、大声で笑い始めた。
 
「お! 気がついた!」
ゆっくりと目を開けたララの顔の上に、さっきのおじいちゃんの人形がまじまじと、緑色の目でララを見ていた。ララは、悲鳴を上げて驚き、勢いよく体を起こした。その反動で、おじいちゃん人形は机まで吹き飛ばされた。
「コラ! 急に起きるな! はははっ!」
おじいちゃんの人形は、怒りながら笑っている。
「何のあんた、誰? 誰が操ってるの?」
ララは、両手で顔を覆い、左右に顔を激しく振りながら叫んだ。
「誰にも操られてないよ。自分で手足を操縦できます。生きてるからね! おう、イテぇ……」
おじいちゃんの人形は机に頭を打ったらしく、頭をさすりながらララを見ると、ニコリと笑った。それを見たララは、強く手を握りつぶやいた。
「夢だわ……。人形が動いたり、泡で作ったウサギが喋ったり――」
「〟泡の精〟に会ったのか? あまり人前に出ないのに珍しい……」
おじいちゃんの人形は、腕を組み、間抜けな顔をして下あごを掻いている。
「〟泡の精〟?」ララの頭の中に、泡のラビちゃんが微笑んだ。
「あいつに会ったということは――ウサギだったか? 近々、そのしゃべったものに関係したものに会うぞ。ウサギって何だろう……?」
おじいちゃんの人形は、腕組みしたまま考えている。
「夢よ……」
「重い、重い、重~い!」
何かが悲痛の声で叫んだ。ララは声に驚き、自分の手の下の本に気付いて、手をすばやく本からどかした。おじいちゃんの人形は、頭をさすりながら起き上がり、体を払った。ララの顔が、だんだん引きつっていく。
「ララ――」
おじいちゃんの人形は、ララをずっと呼んでいるが、ララは上の空で、まだ「夢だ……」を繰り返しつぶやいている。
「ララ?」
「これは、夢……」
「ララ~」
「夢、夢よ……」
「ララちゃ~ん」
「絶対に、夢よ……」
「ララ!」
「うわっ! ビックリした……」
「オレのメガネ知らないかい?」
おじいちゃんの人形は、あたりを見渡しながら訊いた。怒鳴ったくせに、ひょうひょうと話している。
「そんなの知るわけ――」
ララは、後ろ髪を指で梳かしたときに、何か髪に引っかかっているのを感じた。髪から取ると、それは小さなメガネだった。
「はい……」ララは、不機嫌そうに渡す。
「なんだ、あるじゃん!」
おじいちゃんの人形は、ご機嫌に受け取る。
「おおう! 良く見える! う~ん、ララ、意外とかわいいなあ!」
人形は、頭からなめまわすように見て笑っていた。
「悪夢だわ……」
ララは、現実離れした状況に頭を抱えた。
すると、何かが屋根裏を走る音がする。ララは、顔を上げておじいちゃん人形を見た。おじいちゃんの人形の近くに、屋根裏から降りてきたネズミが寄ってきて、何やら耳打ちをしている――まるで、人間に聞かれたくない話をしているかのようだった。
「チーズがないって? じゃあ、買い物の後に調べてごらん。あると思うよ」
ネズミは、喜んだように屋根の上にある穴に帰って行った。だが、おじいちゃん人形とネズミとの会話は、ララにはわからなかった。
「ねえ、今チーズって――」
ララの言葉をさえぎるように、床の方から声が聞こえた。
「若者よ、勉学に励め、勉学に」
「何言ってんだよ! 歴史なんて勉強したって意味ないんだよ! 物語を読め、物語!」
「女性にとって身だしなみは大切よ」
「身だしなみより、知識が必要だ。勉学、勉学」
「うるせえなあ! 物語だよ!」
「もう少し、エレガントなコーディネートをしなくちゃね」 
「昆虫もいいよ~」
さっきまでララの手で潰されていた本たちが、一斉に話し始めた。
「本が……夢よ!」
ララは、頭が混乱してきた。悲鳴を上げたと思うと、今度は一斉に話し始める本と、笑いながら怒ったり、まるで人間のように動く人形。非現実的な光景に、ララ絶賛混乱中。
「いい加減認めろよ。オレたちは生きてるんだ」
おじいちゃんの人形は、腕組をしながら仁王立ちし、ララに言い聞かせた。
「あなたは、誰?」
ララは、頭を抱えたまま低い声で訊いた。
「あれ、自己紹介がまだだったかい? オレは、〟ボギービースト〟のパブロ・ブリトニー・ゴルマン・デジャール・コインリッヒだ。コリンと呼んでくれ」
コリンは、お辞儀をしながら紳士に振舞い自己紹介をした。
「夢よ……」
ララは、小声でつぶやいた。
こういうしゃべる人形や本を見たかったわけじゃない。ただちょっと部屋に入って、〟あいつ〝とは誰なのか、〟冬の女王〟の正体を調べたあとに、部屋を探索して、両親の弱みを握れる写真や、おばあちゃんの笑顔を消せるおもちゃ、おじいちゃんの職業なんかを知れればよかったのに、こんなファンタジー映画みたいなシチュエーションはいらない。頭の中はパニック、口から出るのはため息、こんな状況を、ララは考えてもいなかった。
でも、この調子の良さそうな人形のコリンの顔に対して、何か懐かしさ感じがした――何かで見たことのあるような……。
「あっちの本たちは〟ゴーストブック〟たちで、さっきのネズミは――まあ、あいつらはいいか。もういないし」
コリンは、手を差し出しながら一人一人紹介をしていく。
「夢……」
「おお! セチアも起きたかい!」
コリンは、窓に置いてある花瓶を見て、手を広げながら叫んだ。ララが振り向くと、花瓶に植えられたポインセチアの花の中心から、大きなお尻が横に振りながら出てきた。ララが苦い顔をして見ていると、スポッと勢いよく体が現れ尻もちをつくと、太ったローブ姿の女性が現れた。
「騒がしいわね。何の騒ぎ?」
セチアは、立ち上がると服を払い肩を揺らして姿勢を正すと、不機嫌そうにララを見た。
「彼女が、〟ポインセチアの妖精〟セチアだ」
「やめて!」
コリンの紹介が終わると同時に、ララは叫んだ。
「あなたたちは、夢よ! 絶対に信じない!」
「そんなこと言ったって、こうして生きてるじゃん」
コリンは、困り果てたように言う。他の妖精たちも、お互いの顔を見渡して黙ってしまった。
「私の前から消えて! 見てるだけでイライラするわ!」
ララは、立ち上がりながら声を荒げた。
「そんなこと言ったって……」コリンは、肩をすくめた。
「私は信じない。絶対に信じない! あんたたちみたいな生き物、絶対に信じない!」
ララは部屋を出ようと、扉に向かって歩き始めた。
「なんだって?」
ララの発言に、コリンの顔色が変わった。ゴーストブックとセチアが騒ぎ始めた。
「駄目だよ、そんなこと言っちゃ……」
「コリン、落ち着いて! コーディネートしてあげるから……」
「勉学で気を鎮めなさい……」
「やぁ~めぇ~てぇ~!」
セチアのオペラ歌手のような声が部屋中に響く。
すると突然、部屋がガクッと傾いた。ララは立っていられず、壁にもたれる。あたりを見渡すと、小刻みに部屋が揺れている。
「お前のような曲がった心の者には、恐怖を教えてやる……。お前のようにひねくれたものには、悪夢を見せてやる……」
コリンの目が赤く光り、身体が大きくなっていく。
ララは、大きくなり豹変していくコリンを見上げた。そこには部屋を壊してしまいそうなぐらい大きく狂気な目の巨人が現れた。今にも部屋が壊れそうになり、木くずと埃が天井からララの上に雨のように降ってくる。
「最悪! 〟オーグル〟よ!」
ゴーストブックたちが騒ぎ始めた。ララは、オーグルのコリンが暴れ、咆哮するたびに悲鳴を上げた。
「オーグルって何?!」
「頭の悪い凶暴な巨人だ。だから勉学に励めと……」
「今はそんなこと言ってる場合じゃない!」
ララは、ゴーストブックに怒鳴った。ゴーストブックは、ララにも恐怖を感じたのか、何冊かのゴーストブックは閉じてしまった。
「どうすればいいの?!」
ララは、目の前にいる化け物から逃げようと、まわりにあるものを、手当たり次第、オーグルのコリンに投げつけた。オーグルのコリンは、体のまわりを飛ぶ虫を払うかのように、手を振り回した。その都度、部屋の壁や本棚にあたり、大きな音を立てて壊れていった。
「僕たちにもどうもできないよ! だって、僕らただの本だもん!」
ゴーストブックたちも、恐怖に怯えて本を閉じながら難を逃れようと逃げ惑っている。
オーグルのコリンの振り回す手をかわしたとき、ララは近くにいたゴーストブックを一冊投げつける――ゴーストブックは泣きながら、飛んでいった――そして、ララの足元にあった小さな箱も、オーグルのコリンの頭めがけて投げつけた。
見事命中。オーグルのコリンの頭に、コツンという音を立ててぶつかった。そして、小さな箱が地面に落ちたときにふたが開いた。オーグルのコリンが頭を掻きながら地面に落ちた小さな箱を睨んだ。
すると、小さな箱からメロディーが流れてきた。小さな箱は、オルゴールだった。ふたの裏には、夜空に燦然と輝く幾千の星たちが描かれている。ゆっくりと電動モーターで円筒が回り、取り付けられたシリンダーが高く心地よい音を奏でていた。曲は、〟星に願いを〝だった――が、ララは〟星に願いを〝という名曲を知らなかった。なんとなく聞いたことある程度で、曲名まではわからなかった。オーグルのコリンは、途端に静かになり、その場にドスンと座りこむと、その静かに流れるオルゴールを聞き入っていた。
「コリン!」
窓の外に何かを発見したセチアが、オーグルのコリンを呼んだ。オーグルのコリンは、ゆっくりと立ち上がり、のしのしと歩きながらセチアに近づき窓の外を見た。窓に近づいた瞬間、コリンは元の人形に戻って、窓に張り付いていた。
「はは! バブーシュカの奴、もうプレゼントを配ってやがる!」
コリンは、外を指差し大声で笑った。恐怖から解放されたララは、その場にへたり込み大きく息を吐いた。近くにいたゴーストブックに顔を向け、小声で話しかけた。
「あの人形、どうしちゃったの?」
「怒りが静まったみたいね。よかったわ……」
ゴーストブックは、大きく息を吐くようにちょうど半分のページぐらいで大きく息を吐くように開いて閉じた。まるで、本全体が口のように動いていた。
「部屋めちゃくちゃ……。大丈夫、これ?おばあちゃんに怒られるんじゃない?」
「オルバには、バレないよ。この部屋は、この家にあってこの家にない不思議な部屋だから」
「またそういうこと言う……」
もうこんな思いはうんざりといった目で、窓で大騒ぎをするコリンを見た。
「でも、何でさっきみたいになってしまったのよ?」
ララは、ゴーストブックに顔を向け、今度はぺちゃくちゃ話をしている本たちを睨みつける。まるで、さっきの恐怖の当てつけをするかのような目で。
「君がひねくれ者だからさ。ボギービーストは、ひねくれ者、信じる心を持たない者には、ああやって恐怖を与えるんだ。本人は覚えてないんだけどね」
ゴーストブックは、ララを責めるように言った。他のゴーストブックも、ワイワイガヤガヤとララにヤジを飛ばした。
「そうなの……」
ララは、やっとオルバの言っていた意味がわかり、小さくうなずきながらコリンに顔を戻した。
「君の知識が足りないからだぞ」
「物語を知らないからだ」
「もう少し裾を上げて……」
もうララの耳に、ゴーストブックたちのヤジは届いていなかった。そして、ララはこの出来事で、コリンたちの存在を認めざる得なかった――彼らも生きているということを……。
「バブーシュカじゃないわ! あれよ!」
セチアが、窓を激しく指差して叫んでいる。ララは、そっと窓に近づき外をのぞいた。
「あれ……?」
ララは、窓に映る不思議な現象を目の当たりにした。
道路の真ん中を、粉雪を舞い上げながらこちらに進んでくる雪の塊がある。粉雪は渦を巻いて空に向かって舞い上がり、たまたま車の雪を落としていた近所のおじさんが、上着で顔を背けてしまうほど強い。その舞い上がる雪の中を、堂々と歩いている人物がいる。
「あれ誰?」
「〟冬の女王〟だ」
コリンは笑いを止めて静かに言った。
「冬の女王……」
オルバと両親が話していた名前だ。ララは、いよいよ核心に近づいていることに胸を躍らせる。どんな顔をしているのだろうか? オルバや両親が恐がるぐらいの人だ。とても恐い人なのかな? そんなことを考えていると、舞い上がっていた雪が消え、部屋が急に凍えるように寒くなった。
「人間の娘よ――」
凍えるような声が、ララの後ろから聞こえてきた。まるで、ララの背中を凍らせるような、冷たく感情のない声だった。
「人間の娘よ……、ここで何をしておる?」
そこには、顔まで真っ白な女王様が立っていた。
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