四季物語 冬の山~ララとカイヤックブール~

ホーク・ハイ

文字の大きさ
9 / 14

洞窟に響く声

しおりを挟む
「ここは?」
「ここは、〟サンマル渓谷〟。この上に、〟滝跡の洞窟〟がある」
「ここを……登るの?」
「そうだ。では行こう。足元に気を付けて」
ノーツと旅ができるようになって、浮かれていたララに待っていたのは、楽しくない、険しい山登りだった。ノーツの案内で来たのは、雲を突き抜けるごつごつした岩肌の山だった。ララが見渡すと、道という道がない。この山を今から登るのかと思うと、何も言葉が出なかった。

集落を出てから、そう何時間も経っていないが、もう足が棒になっている。足場がなく、道も舗装されていない岩道をララたちは歩いていた。岩山に吹き付ける風は、冷たく強い。途中で休むような開けた場所はなく、草も生えていない。雲の中に入ったのか、あたりがよく見えない。たまに歩いていると、足場の岩が、見えない下界に落ちていく。
ララは、ノーツに遅れないように必死について行くのがやっとだった。街暮らしのララには、学校で行く登山とは比べることのできないぐらいきつかった。ノーツは、平然と歩いている。ララは、来年から学校の登山遠足で山に行っても文句を言わないと決意した。
「ベラはいいなあ……。魔力があって」
コリンは、先に洞窟の入り口の様子を見に行ったベラを羨んでいた。
「どの口が言ってるんだか……」
自分の肩に乗って歩かないコリンを、ララは息を切らして恨んでいた。
「ララ、早く~」
ぐずるコリンに一言言おう顔をコリンに向けたとき、足を滑らせ足場の岩が崩れた。
「キャァァッ!」
ララは、思わず叫んだ。体勢を崩し、体が一瞬宙に浮いた感覚になった。さっきまで踏んでいた岩が、どんどん下に広がる雲の中に消えていくのが見え、落ちるとララが思ったとき、シュワルツがララのコートの襟に噛みつき、寸前のところで助けられた。
「大丈夫か?!」
ノーツが、駆け寄りララの手を掴んだ。
「大丈夫……」
ララは、ノーツの手を握り返し、岩場をよじ登った。
「助かった……。もうダメかと思った……」
ララは、岩壁にもたれて座った。
「気をつけて。もうすぐ洞窟が見えるはずだから」
ノーツは、岩山の先を見て話すが、ララが見てももうすぐ着くようには見えなかった。
「うん……。ありがとう。助かった……」
ララは起き上がると、服についた埃を払った。
「シュワルツもありが――」
ララは、シュワルツにお礼を言おうと視線を向けると、シュワルツの頭の上にコリンが何気ない顔で座っていた。
「コリン、何してんの?」
「だって、ララの肩の上、不安定なんだもん」
コリンは、腕組みをして態度大きく話した。
「あら、そう。それはすみませんね……」
「いいえ」
ララの皮肉にも、顔色一つ変えずコリンは笑っていた。ララは、コリンがこんなに無神経な奴だと思わなかった。今、自分の手にコリンがいたら握り潰していただろうと、自分の手を強く握った。
「行こう、シュワルツ!」
コリンは、探険隊の隊長のような振る舞いで、シュワルツを誘導した。
「私たちも行きましょう」
「……うん」
ノーツの言葉に、我を取り戻したララは、ノーツのあとをついて行った。

「ノーツは、平気なの?」
ララは、緊張しながら歩いているのに、平気で歩くノーツに訊いてみた。ノーツは、驚いた顔でララに振り返る。そのときに足場を踏み外してしまった。
「大丈夫!?」
「大丈夫。ありがとう」
ララに体を支えられながら、ノーツは恥ずかしそうに下を向いた。
「な、何が平気なの?」
ノーツは、ララと話すのが恥ずかしいのか、耳を真っ赤にし、言葉を詰まらせて訊いた。
「こういう岩山とか登るの平気なのかなと思って」
「私たちミタ・インディオは、四季によって住む場所を変えるから、これぐらいは平気よ」
「へ~、すごいね」
「あ、えっと……」
ノーツは、何て呼んでいいかわからない様子だった。
「ララって呼んで」
ララは、お茶目にスカートを持ってお辞儀した。
「じゃあ――ララはウェンデルの住人じゃないよね?」
「うん。違うよ」
「ララの住む世界って、どんな世界?」
ノーツは、足場を確認しながらララをエスコートして訊いた。
「う~ん……、ここよりもっといろんなものがあるかな」
ララは、大きな石を飛び越えながら言った。
「いろんなもの?」
「うん。例えばね――あ、山に登るときはロープウエーがある」
「ロープウエー?」
ノーツは、初めて聞いた言葉に、顔をしかめて訊き返した。
「そう。ロープウエー」
「何それ?」
ノーツは、ロープウエーが気になって仕方がなかった。
「乗り物だよ。機械で動くの」
「キカイ?」
ノーツの顔が、さらに険しくなる。
「何て言ったらいいのかな……、鉄でできてて、電気で動く――」
「デンキって何?」
「ダメだこりゃ……」
ララは、一生懸命説明しようとしていたが、ノーツには何も伝わらない。ララは、歩きながら頭を抱えた。
「ゴメン、私が何も知らないから……」
ノーツは、下を向き立ち止ってララに謝った。
「違う、違う! 私の説明が悪いからだよ!」
ララは慌てて、両手を突き出して大きく振りながら話した。
「そうだ! この旅が終わったら、コリンに聞いて、私たちの世界に来れないか訊いてみようよ」
ララは笑顔で話すと、ノーツはララの顔を見て笑顔になった。
「うん、約束よ」
と言うと、ノーツは右手で拳を作り、口に当てると、ラッパのように声を発した。
「な、何……?」
ララは、ノーツの突然の行動に驚いた。
「これは、私たちのミタ・インディオの〟約束の声ラッパ〝そして――」
ノーツは、右手の拳を、ララの胸にナイフを刺すように突き出した。ララは驚いて、一歩後ずさった。
「これで、あなたの心に私の約束を突き刺した。これで忘れられない」
「重いね……」
住む世界、違う種族になると、約束というものの重さがここまで違うのかとララは思った。
「でも、それカッコイイ! 私もやる!」
ララそはう言うとノーツと向かい合い、お互い拳を作りラッパのように声を出すと、その拳をお互いの胸に突き刺した。
「約束よ」ノーツは、笑顔で言った。
「任せて」ララは、笑顔で答えた。
そしてララは、岩道の鼻歌を歌いながら岩道を登り始めた。
「その歌、いいね」
「そう? これね、コリンがオーグルに変身したときに、私が投げつけたオルゴールの音楽なの。なんの曲かわからないけど」
ララは、ノーツの手を借りて大きな岩を乗り越えて答えた。ノーツは、ララの「コリンがオーグルに変身した」と「オルゴール」という言葉の意味はわかっていなかったが、なんとなく雰囲気を感じ取ったのかずっと笑顔だった。
「何か、その歌元気が出る」
「ホント?」
ノーツの言葉が嬉しくて、ララは鼻歌ではなくハミングで歌った。ノーツは、先ほどより軽い足取りで岩道を進んだ。二人は、ピクニックに来ているかのように、楽しそうに岩山を登った。まるで、久しぶりに会った幼馴染のように、二人は楽しんでいた。なんか、久しぶりに楽しい! ララの心は、とてもウキウキしていた。
ララたちが楽しく登っていると、ふと前の方でシュワルツが止まってあたりを見渡していた。
「やっと追い付いた!」
ララは、先に行って置いてけぼりにしたコリンとシュワルツを、腕組みして見た。
「どうした?」
ノーツは、二人が何かを感じ取っているように見え尋ねた。
「いや、なんか山が――何と言うか、楽しそうというか……」
シュワルツの頭に座っているコリンが、説明しづらそうに話した。
「山が……楽しそう?」
「なんか歌っているような……」
コリンもシュワルツも、山を見渡している。だが、曇った景色しかノーツには見えない。
「きっと、私の歌が聞こえたんじゃない」
ララがそう言うと、一斉に笑いが起きた。
「何?」
ララは、みんなを睨みつけた。
「そんなわけないじゃん!」
コリンが、お腹を押さえて笑いながら話した。シュワルツもわかりづらい表情だが、そんなことあり得ないといった表情だった。ノーツも口を押さえて笑っている。
「わかんないじゃん!」
ララは、一回足を踏み鳴らして怒った。ララの足場の岩が崩れ、小さい石がコロコロ音を立てて落ちていった。
「じゃあ、何か歌ってよ」
コリンが、挑発するように言った。
「わかったわよ!」
ララは、意地になってハミングを奏でた。
シーンとした世界に、ララのハミングが響き渡った。意地になっていたララだったが、歌い始めると気持ちよくなり音も弾んだ。
「ほら、何も――」
コリンが笑ってちゃかそうとしたときだった。ララたちを包んでいた雲の靄が晴れて、幻想的なウェンデルの世界が姿を現した。
「雲が晴れた……」
ノーツは、キョロキョロあたりを見渡してつぶやいた。
一面に広がる凍原の静けさは白く、遠くに見えるコドル・ナーゲンは早く冬が去るのを持ちこがれているように見えた。ミタ・インディオの集落からは、黒い煙が立ち昇っている。ララたちは、山から眺める景色に見入った。
「こりゃ~……たまげた……」
コリンも、その光景を見ると、口をあんぐりと開け、驚きながら下界の光景を眺めた。シュワルツも目を見開いて立ち尽くしている。
「山が……、歌ってる」
ノーツは、岩肌に手を当てると、岩を眺めながら話した。


雲が晴れたのはどのくらい前だったか
もうそんなことすら覚えていない
あのときは楽しかった
あの事件が起こる前は
みんなが笑顔で話していた
みんなが笑顔で歌っていた
あいつが来てからいい事ない
滝跡の奥にいる
あいつが来てからいい事ない
冬の小さな太陽は
子供を置いて逃げてった
罪をなすりつけていなくなった
オレは草も生えないただの岩山
お前たちも早く山降りろ
死にたくなければ山降りろ

「悲しい歌だ……」
ノーツは歌を聞き終えると、岩肌から手を離しうつむいた。だが、歌を聞いていたのはノーツだけ。ララたちに、岩山の歌は聞こえていなかった。
「どう? やるもんでしょ?」
ララは、コリンに向かって腕組みをして、得意げにあごを上げ、見下すように言った。
「ララが、やったとは限らないじゃん」
コリンは、本気にしているララを見て笑っていた。ララは、舌を鳴らしながらキッとコリンを睨んだ。
「頂上が見える」
ノーツが顔を上げ、進む先の山の頂上を指差して言った。ララたちは、ノーツの指さす方を見た。雲が晴れて道の果てが見えた。
「急ぎましょう」
ノーツの一声で、ララたちは駆け足で岩道を登っていった。

高い山を一生懸命楽しく登って、頂上だと思った場所は頂上ではなく、中腹の開けた場所だった。
「まだ頂上じゃないの……」
ララは、目の前にそびえる高い山を見て、落胆の言葉を発した。
まわりは山の岩で囲まれ、上は冬の曇り空がのぞけた。数本生えている木々は、弱ったように生え、葉は枯れ落ち、少しうつむいているように見える。ララが視線を前に移すと、岩山の下に洞窟が口を開けて待っていた。
「遅いではないか!」
ベラが、洞窟を背に腕を組んで立ち、怒りながら叫んだ。ララたちは、急いで駆け寄る。
「シュワルツ! お前がついていながら――コリン、何でそこにいる?」
シュワルツの頭に乗っているコリンを、ベラは不思議そうに訊いた。
「だって、ララ足元おぼつかないんだもん。まだ赤ちゃんだから」
「もう十歳です!」
コリンは笑っているが、ララは自分がバカにされて怒っていた。
「もうそんなに大きく……」
「時間がない」
笑っているコリンを睨みつけるララとのやりとりを遮るかのように、ベラが間に割って入った。
「敵はすぐそこだ。気を引き締めよ」
ベラは、ララたちを睨みつけて言った。ララはうつむいて黙ったが、コリンはシュワルツの耳で遊んでいた。シュワルツも、怒るに怒れず、困ったように小さく唸った。
「で、これからどうする?」
ノーツだけが、ベラに臆することなく向き合って話していた。ララは、横目でノーツを見て、こんなにたくましい女の子を見たことがないと思った。学校にいる学級委員の子より頼りがいがある。ノーツが学校にいたらどんなに楽しく過ごせるかと、ララは想像していた。
「〟滝跡の洞窟〝を抜けて、山の頂に向かう」
「え、あの洞窟……?」
ララは、ベラの指差した洞窟を見たときに、何か嫌な思い出が甦ったような気分になった。でも、詳しく思い出そうとすると、脳が勝手に遮断してしまう。わかっているのは、とても怖かったということだけだった。
「ララ、大丈夫?」
ノーツが、顔色の悪いララに気付き、ララの肩に優しく手を置いて声をかけた。
「うん……大丈夫……」
ララは、肩に乗っているノーツの手に優しく触れると、何かから気を紛らわすかのようにノーツに訊いた。
「何であの洞窟が〟滝跡の洞窟〝なの?」
「それは、洞窟の上の岩が名前を意味してるんだ」
答えようと口を開けたノーツを、遮るかのようにシュワルツの頭に乗るコリンが答えた。今まで遮られたうっ憤を晴らすかのように、ノーツの方を見て憎たらしい笑顔を見せた。ノーツは、ララを見て肩をすくめる。ララは、ノーツに向かって首をかしげてコリンに訊いた。
「どういう意味?」
「洞窟の上の岩を見てごらん」
コリンは、洞窟の上を指差して言った。ララは、目を凝らして岩を見た。
「何かが流れていた跡……?」
岩が一部分だけくぼんで、削れているように見えた。削れているというより、そこを何かが通ったような跡だ。
「そう! ララ、すごいね」
コリンは、ララに向けて拍手を送った。ララは、恥ずかしそうに両手の人差し指を回して立っていた。
「ここは春になると、山頂の雪が解け、水が流れて滝になる。その滝が洞窟を隠すんだ。そして、今オレたちが立っているここが泉になり、森に落ちる大きな滝となる。ウェンデル最大の滝〟スニナ・フォール(悲鳴の滝)〝だ」
「そうなんだ。でも、そんな大きな滝が流れたら、凍原が沈んじゃうんじゃないの?」
「ここの山はかなり高いから、落ちる前に水蒸気になってしまうから大丈夫なんだよ。ララの世界にもあるだろ?」
「へえ~、知らない」
コリンの説明にうなずきながら訊いていたララは、あることを思い出して岩の滝跡を見た。
「ちょっと待って。もしかして――」
ララは、目を見開いてベラを見ると、ベラは小さくうなずいた。ノーツを見ると、ノーツは顔を伏せた。そして、コリンを見た。コリンは笑顔でララを見ていた。
「滝に……、泉? そして――」
ララは、言葉に発した場所を目で追いながら話した。ララは、自分の中にわき上がった疑問が解けていくと同時に、自分の中に恐怖が芽生えてきたのがわかった。
「やっと気付いたか。そう、この山には、昔、森に向かって川が流れていた」コリンは、森を指差して話した。「今は、天変地異で地形が変わってしまったが」
コリンは、シュワルツの頭から降りると、凍原を見降ろすように見た。
「じゃあ、ここって……」
ララは、コリンをジッと見ていた。コリンが、振り返り話し始めた。
「そう、ここは〟スニナ・フォール〝。別名〟悲鳴の滝〝。その悲鳴を上げたのは他でもない。今から会いに行く、カイヤックブールさ」
コリンは笑顔で話しているが、ララはとても笑う気になれなかった。
「カイヤックブールは、ここで事件を起こした。悲しいかな、奴がいるのは、自分が一番いたくない場所なのだ」
ベラは鋭い目つきだが、どこか悲しげな目をしている。ララは、ベラがカイヤックブールに憎しみの感情を持っているのではないと考えた。
「ま、怖いところに向かっていることには変わらないけどね」
コリンは、シュワルツの頭にまた乗りこみ、またシュワルツの耳で遊び始めた。
「急げ。時間がない」
ベラとコリンを乗せたシュワルツは、洞窟に入っていく。
「私たちも」
ノーツの言葉に、ララは大きくうなずいた。
ララは、嫌な予感が場所のせいだと思い、ベラに早く追いつこうと走って洞窟の中に入っていった。

「暗いなあ……」
コリンは、シュワルツの頭の上で文句を言っている。洞窟の中に雪はなく、ごつごつした岩がむき出しになっていて、転ぶと危険な洞窟だった。だがノーツは、それ以上に気になることがあった。
「火は焚けん。奴に見つかってしまう。シュワルツ、お前の鼻だけが頼りだ。頼むぞ」
ベラは、シュワルツの横を戸惑うことなく、まっすぐ歩いている。シュワルツは、ベラを一回見ると、その鼻を地面につけ、臭いを嗅ぎわけながら歩いている。
ララは、洞窟の側面に手を当てながら、慎重に歩いていた。
「大丈夫?」
ノーツは、ララに駆け寄り、肩を支えて訊いた。ララは、ごつごつした地面に足をとられ、フラフラしていた。
「なんとか……」
暗闇の中、ぼんやり見えるシュワルツの尻尾を見失わないように、必死でララは追いかけていた。
「顔色が、さっきより悪いよ……」
ノーツがララの顔をのぞくと、ララの顔は真っ青だった。具合が悪いというより、何かに脅えているかのようにぶるぶる震えている。
「できれば、もう少しゆっくり――」
ララが話そうとしたとき、何か声みたいなもの音が聞こえた。ララは立ち止り、あたりを見渡した。
「どうした、ララ?」
振り返りララを見たコリンの言葉に、ベラとシュワルツも振り返った。
「どうした?」
ベラは、早くしろと言わんばかりに顔をしかめていた。
「ララの様子がおかしい――ララ、ララ?」
ノーツはララを呼んだが、ララはずっと辺りを見渡して何かを探していた。
「何? 何なの……この声?」
ララは、怯えるように話した。
「声? 何も聞こえないぞ?」
コリンはあたりを見渡したあとベラたちを見たが、ベラたちにも聞こえていないみたいだ。
「ほら! 何か言ってるよ!」
ララは、後ずさりしながら言った、その顔は、恐怖で目が見開き、口がふさがらずガクガク震えている。
「やめて……。もうやめてよ!」ララは、耳をふさいだまましゃがみ込んだ。
シュワルツがララに駆け寄ったその拍子に、コリンはシュワルツの頭から転げ落ち、ごつごつした地面に叩きつけられた。
「イテテテテ――」コリンは、体中を自分でさすりながら痛がった。
「大げさだ」
ベラは、コリンに冷たい一瞥をくれると、ララを見て顔をしかめた。
「大げさって……今のオレ人形だから、シュワルツの頭でも高いし……」
コリンは、ブツクサ文句を言いながら鼻をほじり、ララに向き直った。ララは、まだしゃがみ込んでいる。
「ララ……」
ノーツが、手を伸ばし歩み寄る。
「やめてぇぇぇ!!」
ララは、洞窟中に響くぐらい大声で叫んだ。
「はい、やめます……」
コリンは、鼻をほじるのを止め、鼻の片穴を押さえて勢いよく息を出し、鼻に入っていた砂利を吹き出してその場に直立した。
「コリン、いい加減にしろ! 遊んでる場合ではないぞ!」
ベラは、イライラしながら強い口調に言い放った。
「オレどうすりゃいいんだよ……」
コリンは、肩を落としてつぶやいた。
すると、ララが急に頭を激しく横に振り、何かをつぶやき始めた。
「ララ!」
コリンは、慌ててララに向かって走った。ベラとシュワルツも、ララに駆け寄る。ノーツは、激しく頭を振るララの体をしっかり押さえている。
「ララ! しっかりして!」
叫ぶノーツの声は、ララには聞こえていなかった。全員が、ララに駆け寄ってララを囲んだ。
「どうしよう……」
ノーツは、心配そうな顔でベラに尋ねた。
「どうしたというのだ!」
ベラは、ノーツを押し退け、ララの体を揺さぶりながら叫んだ。シュワルツも、心配そうに見ている。その足元を、腕組みしながらコリンがララに近づいた。
「そうだ!」コリンは、拳で手の平を叩き何かを思いついた。
「何? 何かいい手でもあるの?」
ノーツは、コリンに四つん這いになって近づいた。
「しばらく経過を見よう」
コリンは、腰に手を当て威張り腐った態度で言った。
「貴様!」
ベラは、コリンを握り潰すかのように掴み上げると、コリンに怖い顔を近づけた。
「い、い、痛い……」
「貴様、自分の実の――」
「いやあぁぁ!」
ベラがコリンを握り潰そうと力を入れていると、横でララが叫び始めた。
「何? もう、やめてよ――私、知らないよ! 何よ、〟光りの詩〝って……」
ララは、泣きながら頭を振り、声を嗄らしながら叫んでいた。
「〟光りの詩〝!?」
その言葉に、ベラとコリンは同時に反応し顔を見合わせた。二人とも顔が険しくなった。
「ララ! 〟光りの詩〝がどうした!?」
二人は、ララに迫り寄り強めの口調で尋ねた。
「やめて! いや!」
ララは、泣きながら抵抗した。シュワルツも、どうしていいのかわからず、その場に立ちつくしていた。
「今は、とにかくここから出るのよ!」
ノーツは間に入って、ララから二人を離した。
「……そうだな」
ベラも冷静さを取り戻し、洞窟の先を見て話した。
「ここから出口までそう遠くない。急ごう」
ベラとシュワルツ、そしてシュワルツの頭の上にコリンが乗り、出口目指して走り始めた。ノーツは、しゃがんでいたララを立たせると、肩を支えながら足早に出口を目指した。

全員が洞窟の出口を、息を切らして走り出てきた。みんなが膝に手を当て、激しく呼吸しているのを見て、コリンはシュワルツの頭の上から見て指差して笑っていた。
「運動不足だよ!」
コリンの笑い声に、ララたちはコリンを見て、息を切らしながら睨んだ。
「ララ、大丈夫?」
ノーツは、大きくつばを飲み込みながら尋ねた。
「うん……、もう大丈夫……」
ララは、自分にしか聞こえない声から解放されて、安堵の表情で答えた。
「よかった……」
ノーツも安心して、雪の上に尻から落ちて座りこんだ。
「ここは?」
ララは、ひと呼吸おいてあたりを見渡した。
洞窟の出口を出ると、外は猛吹雪だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
 第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。  言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。  喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。    12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。 ==== ●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。  前作では、二人との出会い~同居を描いています。  順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。  ※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

処理中です...