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第五章 美咲の結婚式&二次会
42話 もう流されない
しおりを挟む料理を取ってきた大地が席へ戻るのを待って、みいなは小さく息をついた。
「……ちょっと、お手洗い行ってくるね」
人の流れに紛れるように会場の奥へ進み、化粧室で手を洗う。
鏡に映る自分は、思っていたより落ち着いた顔をしていた。
(……大丈夫。ちゃんと、楽しめてる)
そう思って蛇口を閉め、タオルで手を拭いて出口へ向かった、そのとき。
「「……あ」」
声が重なった。
廊下の角に立っていたのは、拓也だった。
さっきより少し酔いが回っているのか、ネクタイがわずかに緩んでいる。
「みいなちゃん……」
一瞬、言葉に詰まったあと、視線を逸らしながら続けた。
「なんか……ごめん」
「……ごめんって、何が?」
自分でも驚くくらい、声は落ち着いていた。
「彼女、いたこと……とか?」
拓也は一瞬だけ目を見開いて、それから苦笑する。
「あぁ……うん。そう」
みいなは肩の力を抜くように、ゆっくり息を吐いた。
「いいよ。別に……付き合ってたわけじゃないし」
その言葉に、拓也の表情が目に見えて緩んだ。
「そっか……よかった」
そして、少し身を乗り出す。
「じゃあさ……また、会ってくれる?」
その問いに、みいなは一拍置いた。
胸の奥に浮かんだのは、さっきステージで大地の名前が呼ばれた瞬間の、あの空気。
首を、静かに横に振る。
「……それは、無理」
「え……」
「ごめんね」
はっきりと言い切ってから、続けた。
「わたしね、もう……流されないから」
拓也は何か言いかけて、結局言葉を飲み込んだ。
「……そっか」
少しだけ間を置いて、探るように視線を向けてくる。
「今日、一緒に来てたやつか?
行くんだろ、温泉」
みいなは否定も肯定もせず、小さく肩をすくめた。
「……まぁ」
それから、視線をまっすぐ戻す。
「でも、それとは関係ないよ。
わたしが、ちゃんと選ぶの」
拓也は黙り込み、やがて小さく息を吐いた。
「……そっか」
みいなは一歩引いて、柔らかく微笑む。
「彼女と、幸せにね」
それだけ言って、会釈をして通り過ぎる。
背中にかかる視線を感じながらも、振り返らなかった。
(……終わった)
胸の奥にあった、引っかかりが、すっとほどけていく。
そのまま足取りを止めずに会場へ戻ると、ちょうどビンゴの番号が読み上げられていた。
(大地……)
遠くに見える彼の背中を見つけた瞬間、
理由もなく、少しだけ安心している自分に気づいて、みいなは小さく笑った。
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