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第一章 出会い 〜触れられた記憶〜
8話 出会い 〜ドギマギ〜
昼を過ぎてしばらく、受付前の空気は少し緩やかになっていた。
あやはモニターを見つめながらも、どこか集中しきれず、時折指先でポケットのハンカチをいじってしまう。
―――さっきの、彼……風間さん。
あの静かな目。少し低い声。
拾ってもらったハンカチが、今もポケットの中で、ほんのり体温を帯びているような気がした。
そんなとき、会議室の方から「コツ、コツ……」と、靴音がゆっくりと近づいてくる。
「……!」
一瞬で背筋が伸びる。体が先に反応していた。
角を曲がって、彼がまた、受付に戻ってきた。
午前中と同じ、落ち着いた足取り。
淡々とした表情。
でも、あやの前に立つと、ほんの少しだけ、口角が上がった。
「本日はありがとうございました」
あやは少しお辞儀しながら、わずかに震える声で返す。
「こちらこそ……あの、お疲れさまでした。
風間さん、お足元、お気をつけて……」
ほんの当たり障りのない会話。
それでも、彼の視線が一瞬あやの手元に向けられたことに、彼女は気づいた。
すると横から――
「おつかれさまでしたぁ~!」
と、まいの明るい声。
「また、いらっしゃいますか?
今日みたいなお仕事、よくあるんですか?」
少し驚いたように、彼はまいの方に視線を移す。
「……ええ、またお邪魔させていただく機会は、あると思います」
「よかった~。なんか、すごくスマートな方だって、社内でも話題になってましたよ♪」
まいの言葉に、彼は少しだけ照れたように口元を引き締めて、「恐縮です」と小さく笑った。
その隣で、交代のため先ほどから待機していたゆりもわざとらしく腕を組んでひとこと。
「今日みたいな方ばっかりだったら、毎日来客対応も楽しいのにね~。
ね?あやちゃん?」
「えっ……!?え、な、なにを……っ」
急に名前を振られて、あやは思わず変な声が出そうになる。
ゆりとまいが顔を見合わせてクスクス笑う。
「またお越しの際は、どうぞよろしくお願いいたします……っ」
精一杯冷静に言ったけど、声のトーンはほんの少し、さっきより高かった。
彼は、そんな様子を見ていたのか、すこしだけ視線を柔らかくして――
「では、失礼します」
と静かに頭を下げ、ドアの外へと歩いていった。
去っていく背中を、あやはそっと目で追いながら、胸の奥で、小さな何かが確かに芽吹いたのを感じていた。
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