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第二章 目覚め 〜名前を知らない熱〜
15話 再来訪
朝から、空気が違っていた。
出勤してすぐ、営業アシスタントの美緒が、受付に顔をのぞかせる。
「佐伯さん、今日の10時、またクリエイツ地所さん来るって。風間さんって方、前にも……」
「……あ、はい……知ってます」
落ち着いた声で返したつもりなのに、心の中では、喉が詰まりそうなほど跳ね上がっていた。
(来る……今日、また……)
スーツを、いつもより少しだけ深く整え直す。
鏡の前で髪の乱れを確認してから、あやはそっと息を吸い込んだ。
9:58。
エレベーターのドアが開く。
一歩ずつ、ゆっくりと歩いてくる男性。
周囲のざわめきが一瞬だけ遠くなって、あやの視線は、自然に彼へと吸い寄せられていた。
「……お世話になります」
その声。
聞き間違えるはずがない。――風間さん。
目が合った。ほんの3秒ほど。
でも彼の視線はまっすぐで、まるであやだけを見つめるように向けられていた。
その眼差しが、ふいに少しだけ緩んで――
ほんの一瞬、柔らかく笑った。
「……お疲れさまです」
(……あ……)
今度は、彼のほうから声をかけてきた。
あやは一瞬、言葉を失いかける。
「こ、こんにちは……またお越しいただいて……」
自分でも驚くほど小さな声で、でもどうにか言葉を返した。
風間さんは少しだけ身を寄せるようにして、あやの耳だけに届くような低い声で言った。
「先日は……急ぎすぎて、ちゃんとご挨拶できなかったので」
「……いえ、そんな……」
(や、やだ……近い……)
香水ではない。
スーツの繊維にほのかに残る、柔らかくあたたかい香り。
きつくないのに、男の人の匂いだって、はっきりわかってしまう。
「これ、担当の方にお渡しいただけますか?」
彼が手渡してきたのは、薄い書類と、もう一枚――封筒。
その表には、小さく書かれていた。
『佐伯様』
「……また、何かの折に」
そう言って、彼は目を細めた。
あやがうなずくより先に、彼は丁寧に一礼し、会議室へと向かっていった。
たった数分。
それなのに、全身に火照りが残っていた。
封筒を受け取った指先が、かすかに震えている。
……名前。
……わたしに。
(どうして……?
わたし……また夢、見ちゃうかも……)
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